クラス転移したら俺だけ五年後の世界転生させられた件

ACSO

文字の大きさ
46 / 51

第45話:撃破

しおりを挟む
 鉱竜の口と俺との距離はもはやゼロに等しく、俺に回避の術は残されていない。
 大きく開かれた顎は俺を捉えるや否やガチンと閉まる。しかし、咀嚼することなく丸呑みしてくれたおかげで、無駄な魔力を使わずに済んだ。

「……おえっ、くっさ! ――っ!?」

 まず得た感想が、胃液に溶かされた食べ物の臭いだったのだが、ジュッと皮膚を焼く痛みが襲いかかった。
 咄嗟に防御魔法を張るが、なかなか強い酸性らしく、ジュウジュウと防御魔法が音を立てており、長くは保たなそうであるし、一刻も早く外へ出ないとサニャクルシアとここで再会してしまうかもしれない。
 それだけは避けたいところだ。

「さて、どうするか」

 とは言ったが、ここで大技を使うことはできない。
 対象との距離が近すぎて自分の魔法にじぶんが巻き込まれるなんて事態が起こるためだ。
 だが、外殻、正確には皮膚に纏う鉱石が非常に硬いため、半端な魔法では抜けない。

「風刃」

 ……訂正、体内すらも、鉱石並みに硬いみたいだ。
 並みのモンスター程度なら真っ二つにする威力の風の刃は、人でいう食堂あたりを深く切れ込みを入れたくらいに止められる。
 ――が、臓器は硬い硬い外皮より敏感なはずだ。
 ちょうど、食道を通って胃まで来たところだ。
 何本もの、刀身に穴が空いた氷剣を作り出し、思い切り胃の壁に刺し込んだ。
 剣は、ある程度刺さったところで中折れしてしまったが、なかに空いた穴のおかげで胃液が体内に流出していく。
 流石に堪えたのか、鉱竜の呻き声が振動となって俺まで届き、その瞬間には込み上げてきた残りの胃液によって、俺は食道を逆行していた。

「ギ、ギュエエエッ……」

「う、うわぁ……」

 予想外に多量の胃液と共に吐き出された俺は、外の新鮮な空気に少しだけ感動を覚えた。
 しかし、振り向けばすぐそばにサニャクルシアがいたことから、鉱竜がサニャクルシアを捕食する気は満々だったことが窺えた。

「うぅ、ん……」

 サニャクルシアは顔をしかめ、苦しそうに唸る。
 まだ意識は戻っていないようだが、声が聞けただけでも安心感が違う。

「……お前は、絶対に許さないから」

 大切な友達をこんな目に遭わせたやつには、慈悲の念すら湧かない。
 俺の本気を以って、葬ってやる。

いかずち

 鉱竜の頭上一キロ程上空に、ばちばちと電気が迸る暗雲が出現する。
 明らかに異常な雲に、鉱竜も身の危険を感じたのか雲から距離を取ろうとするが、泥沼となった地面によって自由に動けない。

「ギャァァアアアッ!」

 怒りの咆哮か、焦りの悲鳴かは理解し得ない。
 しかし、それが最後の声になるのは確かだ。

「落ちろ」

 落雷。
 その衝撃音は、静電気が発するような音ではなく、建物が倒壊したような、ドォンッというものだった。
 そしてすぐ、鉱竜の巨体が力なく地面に倒れ伏した。

「ふぅ……」

 俺自身も疲れていたようで、無意識のうちにため息が漏れる。

「んんっ……いたっ」

 サニャクルシアも目を覚ましたらしい。

「サニャ、大丈夫?」

「う、うん……えへへ、ゆ、油断しちゃった……」

 そう言って、申し訳なさそうに笑うサニャクルシア。
 だが、悪いのは俺の方だ。
 俺が油断しなければ、サニャクルシアは怪我をせずに済んだはずだ。

「いや、俺が気を抜いちゃったから……」

「そ、それなら、私だって……」

 あぁ、だめだ。このままじゃ終わらないやつだ。

「……じゃあ、お互い様ってことで」

「そ、そうだね」

 落とし所は見つけられたものの、なんだか気まずい雰囲気になってしまった。
 だが、まあ二人とも無事で済んだのならそれでいい。

「歩ける? 無理ならおんぶして帰るよ」

 死して尚、力強い存在感を放つ鉱竜を見つめる。
 その背中には鉱石は存在していたが、ところどころ黒く変色していたり、煙を上げているものも見られた。
 鉱竜を武具の素材にするのは厳しそうに思え、少し残念な気持ちになる。

「う、うん……そ、それよりシアン君、ふ、服……」

「ふぇ?」

 自身の体を見遣ると、まるでなにかに溶かされたようなボロさになっており、かろうじて繋がっているだけだった。

「あ……」

 なにがとは言わないが、それは露出しており、サニャクルシアはもうこちはを向いてはいなかった。

「くぅっ……」

 精神年齢は思春期を超えているので、子どもに裸を見られてもなにも感じないはずなのだが……とても恥ずかしい。
 隠すべきところを隠すため、とりあえずしゃがみ込んでサニャクルシアに背中を向けたとき。

「子ども!? おーい! 君たち大丈夫か?」

 街の方角から、魔族の大人たちが呼びかけてきた。
 大人たちは頑丈、とはいえない防具だったが、身体はそれなりに鍛えてあり、戦いに関するなにかに携わっていることが窺えた。

「ってこいつは……あの落雷に焼かれたのか」

「案外、このガキたちがやったのかもよ? ……バカでかい落雷があったから、洞窟から出てきた鉱竜を探すのを中断して来てみたら。俺が倒して名をあげようと思ってたのによ」

「鉱竜がどれだけ強いと思ってるんだ。俺たちだって追っ払うのが精一杯だぞ」

 どうやら、彼らは俺たちが倒したということを全く疑っていないようだ。
 あの雷を子供が作り出せると考える方がどうかしていると俺も思うが。
 しかし、このままでは鉱竜の素材は彼らに奪われることになるだろう。それは、俺の苦労が報われないし、獲物を横取りされた気がしていやだ。
 とはいえ、素直に俺がやったとも言えない。たとえそう言ってもそうやすやすとは信じてくれないだろう。
 諦めるしかないか……。
 さっさと鍛冶屋に素材を届けようと心に折り合いをつけたとき、鉱竜をじっと見ていた女がぽつりと呟いた。

「……この鉱竜が纏っている魔力と、そこの男の子の魔力が似ている気がするんだけど」

「ははっ、そんなわけ」

「男の子の恰好、なにかに溶かされたようにボロボロじゃない。……君、一度鉱竜に食べられたんじゃないの?」

 女は、俺を見つめて問いを投げかけた。
 果たして、ここで頷くべきなのか。嘘をつくべきなのか。

「……うん」

「なっ!」

「まじか……」

 男衆から驚愕の声が漏れる。
 俺のよく知る魔物なら、ある程度の嘘を押し通せるのだが、ここは異国の地、そして異国の魔物だ。
 鉱竜について、俺よりよく知っているであろう相手に嘘をつき通せる自信がない。

「そう……。ねえジャック、こんなになった鉱竜の体内にいたら、この子も感電すると思わない?」

「たしかに」

 最初に俺に声をかけたジャックと呼ばれる人物は、女の言葉に頷く。
 やった犯人割り出してもメリットないだろ……?

「なのに、感電した様子はない。なら、この子が鉱竜を屠ったと考えるのが道理じゃない?」

「いやー、そりゃあねえだろ」

「バカは黙ってて」

「……はいよ」

 男は女に勝てないと言ったところか。このままでは俺がやったことになってしまう。
 がきんちょがこいつを倒したなんて噂が広まれば、悪目立ちしかする予感しかしないのだ。
 天災がやったってことで済ましてくれ。

「俺やってないよー」

「……たしか、男、子供、優秀。この三つの条件を満たす子を、魔王様は探してらっしゃったよな?」

 なんだそれ?

「あぁ、それ聞いたことあんな。そう思われるガキを連れてっただけで褒賞も出るって」

「「「連れて行こう」」」

 おい。

「や、ちょ、なに勝手に決めてるの? いやだよ」

 サニャクルシアとここで離れ離れになるのもまずいが、俺がショタコン説のある魔王に貢物として貢納されるのはもっとまずい。あ、順序逆だ。

「断ってもいいわよ。その代わり、君のこと、鉱竜を倒した麒麟児って言いふらすけどね」

 最低だこいつ。それが五歳児にする仕打ちかっ!?

「そうなったら、噂を聞きつけた親衛隊とかが捕まえにきて……過程は違えど結果は同じね」

 めんどくせえ……。
 こっちは強敵を相手したあとで疲れているというのに、変な脅しかけやがって。

「犯罪じゃないの、それ?」

「魔王様の依頼だからねー」

 ここで物理的にボコボコにしても、逆恨みされて魔王にチクられるかもしれない。
 ……どうしようもないじゃん。
 とはいえ、武具も作ってもらわないといけない。

「俺にも用があるから、そのあとなら付き合ってあげるよ……」

 どうせ、魔王城には行くんだからいいか。
 なかば投げやりな思考で俺は、彼女の脅しを呑んだのだった。

「あ、もちろんその鉱竜は俺がもらうからね」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

処理中です...