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第3章 思いがけない再会
11 責任重大の任務
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この場に現れたクレイの姿に、皆がほっとする。
アニタの怒りや、我がままを鎮め、押さえつけられるのは、この組織でクレイだけだからだ。
「僕の分もあるかな?」
「は、はい……」
ファンローゼは急いでクレイの分の食事をとりわけた。
「ありがとう、ファンローゼ」
クレイはにこりと笑い、差し出された料理を口にする。
「うん、おいしい!」
アニタは唇を噛みしめ、ファンローゼを横目で睨みつける。
「ありがとう。でも私……何も考えずにキッチンにある食材を使ったの。ごめんなさい」
小声で謝罪するファンローゼに、クレイは笑った。
「そんなこと、君が気にする必要なんてない。買い物なら僕が暇をみて明日行ってくる。お金も君が心配する必要はない。だから、そんな落ち込んだ顔はしないで」
クレイのその言葉で、ファンローゼがクレイにとって特別な存在だということが明白となった。だが、やはりおもしろくないのはアニタだ。
アニタはクレイの元に走り寄り、背後から抱きついた。
「ねえクレイ、今夜こそあたしの部屋に来てくれるわよね。昨夜はクレイがいなくて寂しかったわ」
クレイに抱きついた状態で、アニタは挑戦的な眼差しをファンローゼに放つ。
彼はあたしのもの。
あんたなんかに、渡したりはしないという目であった。
「アニタ」
肩にかけられたアニタの手を解こうとするクレイの手が虚空で止まった。一人の男が慌てた様子で部屋に飛び込んできたからだ。
「聞いてくれ! 情報をつかんだぞ!」
興奮した声を上げるその男の言葉に、いっせいに皆の顔に緊張が走った。
「来週の土曜日、あのくそ野郎の屋敷で娘の誕生日パーティーが開かれる。チャンスはその時だ!」
ざわりと周りがどよめきだった。
ファンローゼは不安な顔でクレイをそっと見る。それに気づいたクレイが、小さな声を落とす。
「驚かせてごめん」
「何があったの?」
ああ……とクレイは沈んだ顔でまぶたを落とす。
「実は、仲間の何人かが数日前、エスツェリア軍に捕まり連れ去られた。捕まった仲間は、エスツェリア軍特務部隊の本部に囚われていることまではつきとめた。ただ、どうやって屋敷に忍び込むか思案していて」
ファンローゼはこくりと喉を鳴らした。
この場にいる全員の視線がクレイにそそがれる。皆、クレイの指示を今か今かと待っているのだ。
「仲間を助けなければ」
クレイの一言に、全員が歓声をあげた。
「捕らえられた仲間は、エスツェリア軍特務部隊本部として使われている、大佐の屋敷の地下牢だ」
その屋敷は元々はエティカリア貴族の屋敷であったが、住人はすでに亡命し、現在、持ち主はいない。
そこを、エスツェリア軍が我が物のように使っているのだ。
クレイはさらに続ける。
「牢の鍵のありかはすでに確認してある。持っているのは大佐だ。大佐の自室、机の引き出しにある。あとは屋敷に乗り込み、鍵を手に入れ仲間を救出する」
仲間たちは深く頷く。
その忍び込む日が、先ほど情報を持ってきた男が言う、来週土曜日、大佐の娘の誕生日パーティーが開かれる日ということだ。
「問題は、誰が忍び込むかだ」
一瞬の沈黙が落ちた。
仲間を救い出せるかどうかは、その者のすべてにかかる。
いわば、責任重大な任務だ。
決して、失敗は許されない。
失敗すれば仲間はおろか、その者も捕らえられ最悪、殺される。
緊張した空気の中、おもむろにアニタが口を開いた。
「ねえ、その仕事にもっとも適した人物がいると思わない?」
「適した人物だと?」
皆が声を揃えて問う。
アニタはにやりと笑い、ファンローゼに指を突きつけた。
アニタの怒りや、我がままを鎮め、押さえつけられるのは、この組織でクレイだけだからだ。
「僕の分もあるかな?」
「は、はい……」
ファンローゼは急いでクレイの分の食事をとりわけた。
「ありがとう、ファンローゼ」
クレイはにこりと笑い、差し出された料理を口にする。
「うん、おいしい!」
アニタは唇を噛みしめ、ファンローゼを横目で睨みつける。
「ありがとう。でも私……何も考えずにキッチンにある食材を使ったの。ごめんなさい」
小声で謝罪するファンローゼに、クレイは笑った。
「そんなこと、君が気にする必要なんてない。買い物なら僕が暇をみて明日行ってくる。お金も君が心配する必要はない。だから、そんな落ち込んだ顔はしないで」
クレイのその言葉で、ファンローゼがクレイにとって特別な存在だということが明白となった。だが、やはりおもしろくないのはアニタだ。
アニタはクレイの元に走り寄り、背後から抱きついた。
「ねえクレイ、今夜こそあたしの部屋に来てくれるわよね。昨夜はクレイがいなくて寂しかったわ」
クレイに抱きついた状態で、アニタは挑戦的な眼差しをファンローゼに放つ。
彼はあたしのもの。
あんたなんかに、渡したりはしないという目であった。
「アニタ」
肩にかけられたアニタの手を解こうとするクレイの手が虚空で止まった。一人の男が慌てた様子で部屋に飛び込んできたからだ。
「聞いてくれ! 情報をつかんだぞ!」
興奮した声を上げるその男の言葉に、いっせいに皆の顔に緊張が走った。
「来週の土曜日、あのくそ野郎の屋敷で娘の誕生日パーティーが開かれる。チャンスはその時だ!」
ざわりと周りがどよめきだった。
ファンローゼは不安な顔でクレイをそっと見る。それに気づいたクレイが、小さな声を落とす。
「驚かせてごめん」
「何があったの?」
ああ……とクレイは沈んだ顔でまぶたを落とす。
「実は、仲間の何人かが数日前、エスツェリア軍に捕まり連れ去られた。捕まった仲間は、エスツェリア軍特務部隊の本部に囚われていることまではつきとめた。ただ、どうやって屋敷に忍び込むか思案していて」
ファンローゼはこくりと喉を鳴らした。
この場にいる全員の視線がクレイにそそがれる。皆、クレイの指示を今か今かと待っているのだ。
「仲間を助けなければ」
クレイの一言に、全員が歓声をあげた。
「捕らえられた仲間は、エスツェリア軍特務部隊本部として使われている、大佐の屋敷の地下牢だ」
その屋敷は元々はエティカリア貴族の屋敷であったが、住人はすでに亡命し、現在、持ち主はいない。
そこを、エスツェリア軍が我が物のように使っているのだ。
クレイはさらに続ける。
「牢の鍵のありかはすでに確認してある。持っているのは大佐だ。大佐の自室、机の引き出しにある。あとは屋敷に乗り込み、鍵を手に入れ仲間を救出する」
仲間たちは深く頷く。
その忍び込む日が、先ほど情報を持ってきた男が言う、来週土曜日、大佐の娘の誕生日パーティーが開かれる日ということだ。
「問題は、誰が忍び込むかだ」
一瞬の沈黙が落ちた。
仲間を救い出せるかどうかは、その者のすべてにかかる。
いわば、責任重大な任務だ。
決して、失敗は許されない。
失敗すれば仲間はおろか、その者も捕らえられ最悪、殺される。
緊張した空気の中、おもむろにアニタが口を開いた。
「ねえ、その仕事にもっとも適した人物がいると思わない?」
「適した人物だと?」
皆が声を揃えて問う。
アニタはにやりと笑い、ファンローゼに指を突きつけた。
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