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第7章 誰も私たちの知らない場所へ

1 伝えきれない思い

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 ロイが運転する車は、町から遠く離れた郊外の今は廃屋となった小屋に辿り着いた。
 コンツェットたちが小屋に入るのを見届け、ロイは何も言わず、去って行った。
「腕、大丈夫?」
 コンツェットに手を取られ、ファンローゼは首を横に振る。
「平気」
「擦り傷になっている」
 ファンローゼの細い手首に、縄で縛られた跡が赤く残っていた。
「痛そうだ……」
 擦れた痛みを逃すかのように、手首の内側にコンツェットは唇を寄せた。
 口づけをされた箇所から、じわりと熱が広がっていく。
「こんな目にあわせてごめん。俺がもっと……」
 それ以上言わないでと、ファンローゼはコンツェットを見上げ微笑む。
「助けに来てくれて、ありがとう」
 コンツェットの真剣な目に見つめられる。
 澄んだ青空を映したかのような瞳は、昔と変わらない。
「ファンローゼ、あの時の約束の続きだ。二人で遠い所へ行こう。そして、一緒に暮らそう」
 ファンローゼの目に涙が浮かぶ。
 コンツェットの腕の中で、ファンローゼは何度も頷いた。
「コンツェットと一緒なら、どこへだって行くわ」
 物音一つない静寂に包まれた部屋。
 窓から差し込む月明かりが二人を照らす。
 見つめ合う二人に、それ以上の言葉は必要なかった。
 ファンローゼの髪の一房を手に取り、コンツェットは口づける。そして、その唇がファンローゼのひたいに、まぶたに、頬に落ちた。
 まるでこわれ物を扱うような優しさであった。
 瞳を潤ませ、ファンローゼはコンツェットを見上げる。
 目の縁にたまったファンローゼの涙を、コンツェットは指先で拭う。
 まぶたを落とし、顔を傾けたコンツェットの唇がゆっくりと近づいてくる。
 ファンローゼは静かに目を閉じた。
 最初は触れあうだけの口づけ。それが、やがて深くなる。
 コンツェットの思いが、情熱が、唇からそそがれ、まるで離れていた三年の空白を埋めようと、何度も互いの存在を確かめ口づけを交わす。
 息をするのもままならないくらい長い口づけは、苦しいけれど甘くて、泣きたいくらい切なくて、胸が痛くて少し恐くて震えた。
 ファンローゼ……と、甘く囁く声が耳元に落ちる。
「愛しているよ。俺がどれだけファンローゼを愛しているか――」
 何度愛していると囁いても足りない。
 強く抱きしめても、肌を重ね激しく壊れるほど愛しても、思いのすべてを伝えきれないもどかしさに、コンツェットは眉根を引き締め震わせた。
 ようやく二人の思いが繋がった。
「コンツェット……」
 好き。
 愛してる。
 伝えたい言葉が切ない吐息に掻き消え、夜の静寂に溶けていく。
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