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第4章 雪山編
6 ちゃんとお世話をするから
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それはまさに、旅立ちの朝にふさわしい晴天日より。
冷たく澄んだ空気が、雲一つない青空をよりいっそう鮮明な青に映えさせた。
お世話になったマイヤーさんに涙の別れを告げ、久々に四人での旅の再開である。
いや、ここで一行に新たな仲間が加わった。
「貴様、本気でそれを連れていく気か?」
エーファの厳しい視線がイェンの頭にそそがれる。
「何? マイヤーさんにはちゃんと了承とったけど。文句でもあんの?」
「そういう意味ではない」
イェンの頭の上には一羽の鮮やかな色彩の鶏が当たり前のように乗っかっている。
まるでここが、自分の居場所だというように。
冠羽から背にかけて見事な黄金色。
腹部は紅色、尾羽は青地に金で、腕の長さほどもある長い尾が特徴的であった。
マイヤーさんの家のニワトリ小屋にいたのだが、ニワトリではなくキジに近い気がする。
ちなみに性別は雄だ。
ふざけるな、と言いたいところだが、どうも鶏の方がイェンに懐いて離れないのだ。
試しにイェンの頭から引きはがそうとすると、激しく攻撃してくるから迂闊に手が出せない。
「主に似て、どうしようもなく我が儘な鶏ではないか? 鶏なのに」
イヴンはもうイェンの好きにさせてあげて、とあきらめ半分であった。
「ちゃんと自分でお世話するって言ってるし……」
「ねえ、だったら、その子に名前をつけてあげたらどうかしら?」
「女ってのは何でもすぐ名前をつけたがる。よし、今日からおまえはイャンだ」
「コケー」
イェンの頭の上で嬉しそうに鶏が羽をばたつかせ、エーファはびくりと肩を跳ねる。
「なぜ、ニワトリの鳴き声なのだ」
「ニワトリ小屋にいたからじゃね?」
「だめよ、イャンだなんて、そんなまぎらわしい名前をつけて」
「コケーコココッ」
「よーしよしよしよし、いい子だ。いっぱい卵を産めよ」
「雄なのでしょう?」
と、リプリーが突っ込むが、イェンは聞いていない。
頭に手を伸ばし、奇妙な鶏をなでているイェンを、エーファは気味の悪いものを見る目つきで片目を細める。
いや、その目はどこか憐れむ目つきだ。
「ふん、イェンにイャン、いいではないか。しょせん、こいつの頭の中身もトリなみ」
「だめよ。絶対まぎらわしいわ。せめて、ヤンにしてちょうだい」
という、リプリーたってのお願いで、鶏の名前はヤンと名づけられた。
「コケーコケー!」
「こんな軽い調子でイヴンの名前もつけたのかと思うと……」
リプリーはちらりと、険しい顔でマイヤーさんから貰った雪山の地図と睨めっこをするイヴンに同情の目を向けるのであった。
「好きにしろ。もう何も言わん。行くぞ」
と、エーファが先頭をきって歩き出したその時。
「あれ? ねえ、見てイヴン!」
リプリーが驚いた声を上げ、イヴンの袖口を引っ張った。
「雪桜の花が咲いているわ!」
「え?」
リプリーの声に、地図から視線を上げたイヴンは、木を見上げ目を丸くする。
ひょろりとした枝に白い花。
これから精一杯花を咲かせようとしている蕾もあった。
「ほんとだ花が咲いてる! どうして? てっきり、枯れたと思っていたのに」
「可愛い花」
「うん、僕、初めて見たよ!」
はしゃぐイヴンとリプリーを肩越しに振り返り、イェンは静かな笑みを浮かべる。
「可憐な花だな。心が癒やされるようだ」
エーファも目を細め、雪桜の花を眺めている。
しばしの間、三人は言葉も忘れ、無言で雪桜の木を眺めていた。
「名残惜しいがそろそろ行こう。あまりゆっくりもしていられない」
「そうね」
「そうだね」
エーファにうながされ、イヴンとリプリーは歩き出す。
ふわりと風が吹く。
歩き出したイェンの頬を、純白の花びらがかすめていった。
──ありがとう。
まるでそう言っているようで。
差しだした手のひらに落ちた花びらの一片。
イェンは手を口元に持っていき、花びらに息を吹きかける。
すると、地上から雪が吹き上がり、花びらとともに青空へと舞い上がっていく。
「うわーきれい。桜吹雪みたい!」
「舞い上がる雪が、満開の花を咲かせているみたいだ!」
きらきらと空へと舞った雪が桜の枝に付着し、イヴンの言葉通り満開の花を咲かせているようであった。
「うむ、美しいな」
三人は再び足を止めて振り返り、目の前に広がる美しい光景に見とれていた。
冷たく澄んだ空気が、雲一つない青空をよりいっそう鮮明な青に映えさせた。
お世話になったマイヤーさんに涙の別れを告げ、久々に四人での旅の再開である。
いや、ここで一行に新たな仲間が加わった。
「貴様、本気でそれを連れていく気か?」
エーファの厳しい視線がイェンの頭にそそがれる。
「何? マイヤーさんにはちゃんと了承とったけど。文句でもあんの?」
「そういう意味ではない」
イェンの頭の上には一羽の鮮やかな色彩の鶏が当たり前のように乗っかっている。
まるでここが、自分の居場所だというように。
冠羽から背にかけて見事な黄金色。
腹部は紅色、尾羽は青地に金で、腕の長さほどもある長い尾が特徴的であった。
マイヤーさんの家のニワトリ小屋にいたのだが、ニワトリではなくキジに近い気がする。
ちなみに性別は雄だ。
ふざけるな、と言いたいところだが、どうも鶏の方がイェンに懐いて離れないのだ。
試しにイェンの頭から引きはがそうとすると、激しく攻撃してくるから迂闊に手が出せない。
「主に似て、どうしようもなく我が儘な鶏ではないか? 鶏なのに」
イヴンはもうイェンの好きにさせてあげて、とあきらめ半分であった。
「ちゃんと自分でお世話するって言ってるし……」
「ねえ、だったら、その子に名前をつけてあげたらどうかしら?」
「女ってのは何でもすぐ名前をつけたがる。よし、今日からおまえはイャンだ」
「コケー」
イェンの頭の上で嬉しそうに鶏が羽をばたつかせ、エーファはびくりと肩を跳ねる。
「なぜ、ニワトリの鳴き声なのだ」
「ニワトリ小屋にいたからじゃね?」
「だめよ、イャンだなんて、そんなまぎらわしい名前をつけて」
「コケーコココッ」
「よーしよしよしよし、いい子だ。いっぱい卵を産めよ」
「雄なのでしょう?」
と、リプリーが突っ込むが、イェンは聞いていない。
頭に手を伸ばし、奇妙な鶏をなでているイェンを、エーファは気味の悪いものを見る目つきで片目を細める。
いや、その目はどこか憐れむ目つきだ。
「ふん、イェンにイャン、いいではないか。しょせん、こいつの頭の中身もトリなみ」
「だめよ。絶対まぎらわしいわ。せめて、ヤンにしてちょうだい」
という、リプリーたってのお願いで、鶏の名前はヤンと名づけられた。
「コケーコケー!」
「こんな軽い調子でイヴンの名前もつけたのかと思うと……」
リプリーはちらりと、険しい顔でマイヤーさんから貰った雪山の地図と睨めっこをするイヴンに同情の目を向けるのであった。
「好きにしろ。もう何も言わん。行くぞ」
と、エーファが先頭をきって歩き出したその時。
「あれ? ねえ、見てイヴン!」
リプリーが驚いた声を上げ、イヴンの袖口を引っ張った。
「雪桜の花が咲いているわ!」
「え?」
リプリーの声に、地図から視線を上げたイヴンは、木を見上げ目を丸くする。
ひょろりとした枝に白い花。
これから精一杯花を咲かせようとしている蕾もあった。
「ほんとだ花が咲いてる! どうして? てっきり、枯れたと思っていたのに」
「可愛い花」
「うん、僕、初めて見たよ!」
はしゃぐイヴンとリプリーを肩越しに振り返り、イェンは静かな笑みを浮かべる。
「可憐な花だな。心が癒やされるようだ」
エーファも目を細め、雪桜の花を眺めている。
しばしの間、三人は言葉も忘れ、無言で雪桜の木を眺めていた。
「名残惜しいがそろそろ行こう。あまりゆっくりもしていられない」
「そうね」
「そうだね」
エーファにうながされ、イヴンとリプリーは歩き出す。
ふわりと風が吹く。
歩き出したイェンの頬を、純白の花びらがかすめていった。
──ありがとう。
まるでそう言っているようで。
差しだした手のひらに落ちた花びらの一片。
イェンは手を口元に持っていき、花びらに息を吹きかける。
すると、地上から雪が吹き上がり、花びらとともに青空へと舞い上がっていく。
「うわーきれい。桜吹雪みたい!」
「舞い上がる雪が、満開の花を咲かせているみたいだ!」
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「うむ、美しいな」
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