48 / 76
第4章 え? あたしが夜伽! それだけは勘弁してください
10 陛下の寝室へ
しおりを挟む
その夜、御前付きの太監の案内によって、蓮花は赦鶯の住む慈桂宮に連れて行かれた。太監が無言で部屋の中に入るよう促す。
蓮花は緊張した面持ちで、陛下の居室に一歩足を踏み入れた。
瞬間、うわっと驚きの声をあげた。
「ひどい……これは本当にひどい。ひどすぎる!」
「何がひどいのだ?」
奥の間から現れた赦鶯陛下は、ひどいを連呼する蓮花を不快そうに見つめ眉根を寄せた。
「あーごきげん……」
慌てて礼をする蓮花に、赦鶯は軽く手を振る。
「楽にしろ、いまさらお前にかしこまられてもおかしな気分だ」
「いちおう形だけでもって思って」
立ちあがった蓮花は肩をすくめた。
こうやって皇帝陛下にため口をたたける妃は、おそらく蓮花くらいであろう。
長年の友である一颯とて、陛下にこんな軽々しい口はきかない。
もっとも、プライベートではどうだか知らないが。
相変わらずの蓮花の物怖じしない、悪く言えばふてぶてしい態度に、赦鶯はやれやれとため息をつく。
他の妃はみな、皇帝陛下に恐れを抱くか、気に入られ寵愛を得ようと媚びを売るかのどちらかなのに、蓮花はどちらでもない。
今まで周りにいなかったタイプだ。だからこそ、新鮮で彼女と話をしてみたいと赦鶯は思った。
「私の寵愛を得るということがどういうことか、理解してここへ来たと思っていいのか?」
赦鶯は蓮花に近寄った。手を伸ばし、蓮花の頬に触れようとする。しかし、蓮花は咄嗟に待ったをかけた。
「皇后さまが言ったでしょう。あたしは役に立つって」
一瞬、赦鶯は不可解な表情をする。
「伽のために来たのではないか?」
「伽? 勘違いしないで。そんなつもり、全然ないから」
蓮花はにっ、と笑った。
そう、数日前のことだ。
「皇后さま、あたし、決めました!」
突然の蓮花の決意に、皇后はきょとんとした顔をする。
穏やかな午後の一時、産まれてくる赤子の靴下に刺繍を縫う手をいったんとめた。
「あたし、皇后さまのお役に立ちたいです」
何を言い出すかと思えばそんなこと? と皇后はいつもの慈悲深い笑みを浮かべた。
「今だって、蓮花には助けられてもらっているわ」
「違います。あたし、陛下の気を引いて、景貴妃の元に通わせないようにしてみます」
皇后はやりかけの刺繍を卓に置いた。
「蓮花、言ってる意味が分かる? 私はあなたにそんなことを望んでいないのよ」
蓮花はいいえ、と首を振り、不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん伽はしません。陛下の寵愛を得るつもりなんて全然ないです。だけど、皇后さまが無事に出産するまでの間、陛下の気を引いてみせます。あたしなりのやり方で!」
任せて! と蓮花は自分の胸を叩いた。
そんな会話を皇后としたのだ。
蓮花は緊張した面持ちで、陛下の居室に一歩足を踏み入れた。
瞬間、うわっと驚きの声をあげた。
「ひどい……これは本当にひどい。ひどすぎる!」
「何がひどいのだ?」
奥の間から現れた赦鶯陛下は、ひどいを連呼する蓮花を不快そうに見つめ眉根を寄せた。
「あーごきげん……」
慌てて礼をする蓮花に、赦鶯は軽く手を振る。
「楽にしろ、いまさらお前にかしこまられてもおかしな気分だ」
「いちおう形だけでもって思って」
立ちあがった蓮花は肩をすくめた。
こうやって皇帝陛下にため口をたたける妃は、おそらく蓮花くらいであろう。
長年の友である一颯とて、陛下にこんな軽々しい口はきかない。
もっとも、プライベートではどうだか知らないが。
相変わらずの蓮花の物怖じしない、悪く言えばふてぶてしい態度に、赦鶯はやれやれとため息をつく。
他の妃はみな、皇帝陛下に恐れを抱くか、気に入られ寵愛を得ようと媚びを売るかのどちらかなのに、蓮花はどちらでもない。
今まで周りにいなかったタイプだ。だからこそ、新鮮で彼女と話をしてみたいと赦鶯は思った。
「私の寵愛を得るということがどういうことか、理解してここへ来たと思っていいのか?」
赦鶯は蓮花に近寄った。手を伸ばし、蓮花の頬に触れようとする。しかし、蓮花は咄嗟に待ったをかけた。
「皇后さまが言ったでしょう。あたしは役に立つって」
一瞬、赦鶯は不可解な表情をする。
「伽のために来たのではないか?」
「伽? 勘違いしないで。そんなつもり、全然ないから」
蓮花はにっ、と笑った。
そう、数日前のことだ。
「皇后さま、あたし、決めました!」
突然の蓮花の決意に、皇后はきょとんとした顔をする。
穏やかな午後の一時、産まれてくる赤子の靴下に刺繍を縫う手をいったんとめた。
「あたし、皇后さまのお役に立ちたいです」
何を言い出すかと思えばそんなこと? と皇后はいつもの慈悲深い笑みを浮かべた。
「今だって、蓮花には助けられてもらっているわ」
「違います。あたし、陛下の気を引いて、景貴妃の元に通わせないようにしてみます」
皇后はやりかけの刺繍を卓に置いた。
「蓮花、言ってる意味が分かる? 私はあなたにそんなことを望んでいないのよ」
蓮花はいいえ、と首を振り、不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん伽はしません。陛下の寵愛を得るつもりなんて全然ないです。だけど、皇后さまが無事に出産するまでの間、陛下の気を引いてみせます。あたしなりのやり方で!」
任せて! と蓮花は自分の胸を叩いた。
そんな会話を皇后としたのだ。
16
あなたにおすすめの小説
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる