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没落貴族の葬送5
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残されたケットシー8体は混乱状態に陥っていた。
威力偵察ではあるが、隠密性と敏捷性に優れたケットシー10体で奇襲すれば邪魔者を排除して獲物を捕らえることもできると考えていた。
しかし、思わぬ攻撃を受けて指揮を取っていた魔法使いと遠距離攻撃を担う弓使いを失い、残された8体は攻撃続行か撤退かの判断に迷い動きを止めてしまう。
その隙を見逃してくれるほど彼等の敵は甘くなかった。
頭部を正確に狙って撃ち込まれる矢と直撃を受ければ身体ごと消し飛んでしまう強力な魔法攻撃を受けて更に2体が犠牲になった。
彼等とて野獣ではなく知恵のある魔物である。
この状況に陥っては逃げ出すことは困難極まりないことを理解した。
それでも偵察の務めは果たさなければならない。
彼等は決断した。
偵察の任を果たすため、1体を逃がすために他の者が犠牲になることを。
「空気が変わったな。奴等覚悟を決めやがった」
戦鎚を構えたオックスが闇を睨む。
リリスとレナも目標を探すが、奇襲をかけた時のように油断しているならばともかく、決死の覚悟を決めて闇に潜んだケットシーを捕捉することは難しい。
ゼロの背後には姿を隠したスペクターが控える。
「残りは6体、1体を逃がすために5体が捨て身で挑んでくる。流石に知能が高く、統率が取れてますね」
スペクターから情報を得た直後、馬車の前後、オックスとゼロに向かって剣を持つケットシーが飛びかかってきた。
オックスは戦鎚で攻撃を受け止めると即座にその鎚頭をケットシーに打ち込む。
その重い一撃を受けたケットシーは全身の骨を砕かれながら吹き飛ばされた。
一方のゼロはケットシーの攻撃を紙一重で躱すとその背後に向かって光熱魔法を放つ。
ゼロの放った光は時間差で攻撃を仕掛けようとしていた槍を持つケットシーの頭部を貫いた。
その間に身を翻してゼロに切りかかってきた剣を鎌で受け止めると分銅をケットシーの頭部に叩き込んだ。
鋭い分銅の直撃を受けたケットシーの頭蓋骨は粉砕されてその場に崩れ落ちる。
更に1体が樹の上から槍を構えてゼロ目掛けて飛び降りてきたが、その穂先がゼロに届く寸前にリリスとレナによる2方向からの攻撃を受け、力を失って地に落ちた。
「残りは2体です」
ゼロが発した時、闇の中から馬車の前方に飛び出してきた1体が背を向けて逃げ出した。
「そりゃあっ!」
オックスは逃げ出したケットシーの背中目掛けて重厚な戦鎚を投げつけた。
唸りを上げて飛んだ戦鎚は逃走する背中に直撃し、ケットシーはその場に倒れる。
「残りの1体は、逃げたか。分かりやすい陽動だ」
戦鎚を回収したオックスは周囲を見回す。
リリスとレナも魔物の気配を探るも、周囲に潜む気配はもう無かった。
「取り逃がしたわね」
リリスが矢を矢筒にしまいながらため息をついた。
「撃退はしたものの、偵察の目的は果たされてしまったわね」
リリスの言葉にレナも頷いた。
「確かに偵察の目的は果たされてしまいましたが、こちらの手の内は晒していませんからね。大した影響はないでしょう。尤も、無事に戻れればの話しですが」
そう話すゼロはどこか涼しげな表情だった。
生き残って戦場を離脱した生き残りのケットシーは闇に包まれた森の中を枝から枝へと駆け抜けた。
猫科の猛獣の身体能力を持つケットシーの瞬発力とスピードには人間の力では到底追いつくことはできない。
葬列からある程度離れた彼は立ち止まった。
首領には眷族であり、魔力での繋がりを持つ自分の視覚の情報は伝わっている筈だ。
馬車には護衛が4人おり、その全てが戦い慣れていること、ケットシー10体程度では歯が立たないことは伝わっただろうが、それはあくまでも自分が見た範囲での情報なので、詳細は首領の下に戻って直接報告する必要がある。
ここまで闇の中をケットシーの脚力の限界の速度で駆け抜けてきたのだ、人間やエルフ如きに追跡できる筈もない。
何事もなく首領の下に戻れるだろう・・・とこの時までは彼は思っていた。
ザシュッ!
突然の衝撃を受けて視線を落としたケットシーは自らの胸から血にまみれた腕が生えているのを見た。
更に、咄嗟に振り返ろうとしたその首を背後から掴まれる。
「ああ、振り返らないで結構ですよ。顔を見ていただく必要もありませんから。それに、貴方の意識・間も・く・・・」
未だに状況を理解できないケットシーの視界は暗く、狭くなり、背後に立つ者の声も徐々に遠くなり、やがて、その意識も途切れた。
群れの首領の命令を最後まで果たそうとしたケットシーの命は潰え、その場に崩れ落ちた。
「首領の下まで泳がせてもよかったのですが、貴方も大した情報も伝えられなかったでしょう。ならばその手間を省いてあげましたよ」
オメガは腕に付いた血を払いながら足下に倒れるケットシーの死体を見下ろした。
「さて、私もマスターの下に戻らなければ」
ケットシーの死体をそのままにしてオメガは霧になって姿を消した。
ケットシーの群れの首領である悪魔は可愛い眷族を10体も失った怒りに震えていた。
魔物として生き長らえて力をつけて悪魔になったのが数十年前、下級悪魔ながら眷族を増やし、欲望の限りを尽くしていたところに若い騎士とその仲間により倒され、封印された。
彼を封印した碑は祠の中に収められ、彼を封印した騎士により厳重に閉ざされた。
しかし、彼の欲望と恨みは潰えることなく、封印の中で復活の機会をひたすら待ち続けた。
魔力を吸い取られ、邪悪なる魂が削られる封印の中で自分を封印した人間に対する恨みを魔力に変え、底の抜けた水瓶に水滴を垂らすように、数十年の時を要して自らの眷族に向けてたった1つの命令を伝えるだけの魔力を蓄積した。
彼の下した命令は1つ、厳重に管理された封印の祠の中にある碑を破壊すること。
その命令だけで十分、彼の眷族は知恵のあるケットシーである。
あとは眷族達が自分で判断して命令を実行してくれる。
そして彼の眷族はあらゆる計略を駆使して祠への侵入に成功し、そこにあった彼を封印する碑を破壊した。
自由を取り戻した彼は直ぐには行動に移らなかった。
闇に紛れ、力を蓄えて眷族を増やし、中級の力を持つ悪魔へと成長した。
眷族の数も増え、その中には下級悪魔に成長した者もいる。
機は熟したと判断した彼は騎士への復讐を企み、行動を開始した。
彼の恨みは彼を封印した者を殺すだけでは晴らせない。
一族郎党を皆殺しにしてその魂を刈り取り、自らの眷族として使役することを企んだ。
彼を封印した若い騎士は時を経て年老いた貴族になっており、2度に渡る襲撃でまんまとその老貴族の命を仕留めることに成功したが、思わぬ邪魔が入り貴族の唯一の一族である幼い孫の命を奪えなかったばかりか、命を奪った老貴族の魂を刈り取ることも叶わなかった。
それでも彼は諦めず、老貴族の葬列を虎視眈々と狙っていた。
敵の戦力を測ろうと威力偵察を試みたが失敗し、10体の眷族を失った。
眷族の視覚情報を基に得られた敵の戦力は手練れの冒険者が4人、馬車の中には孫を護衛する憎くき女が潜んでいる筈だ。
つまり、敵の数は5人だ。
眷族を倒されて怒りに震えていたが、彼にはまだ数多くの眷族がいる。
その数は下級悪魔が3体にケットシーの群れが百体は下らない。
虎の子の魔法使いや弓使いもまだ数多くいる。
いくら手練れの冒険者であろうと連携の取れた群れで一気に押し潰せば負ける筈がない。
彼は明日の夜を勝負の時と決めた。
この時、勝利を確信していた彼は復讐を遂げて更に力を増して彼の王国を築き上げることを夢見ていた。
威力偵察ではあるが、隠密性と敏捷性に優れたケットシー10体で奇襲すれば邪魔者を排除して獲物を捕らえることもできると考えていた。
しかし、思わぬ攻撃を受けて指揮を取っていた魔法使いと遠距離攻撃を担う弓使いを失い、残された8体は攻撃続行か撤退かの判断に迷い動きを止めてしまう。
その隙を見逃してくれるほど彼等の敵は甘くなかった。
頭部を正確に狙って撃ち込まれる矢と直撃を受ければ身体ごと消し飛んでしまう強力な魔法攻撃を受けて更に2体が犠牲になった。
彼等とて野獣ではなく知恵のある魔物である。
この状況に陥っては逃げ出すことは困難極まりないことを理解した。
それでも偵察の務めは果たさなければならない。
彼等は決断した。
偵察の任を果たすため、1体を逃がすために他の者が犠牲になることを。
「空気が変わったな。奴等覚悟を決めやがった」
戦鎚を構えたオックスが闇を睨む。
リリスとレナも目標を探すが、奇襲をかけた時のように油断しているならばともかく、決死の覚悟を決めて闇に潜んだケットシーを捕捉することは難しい。
ゼロの背後には姿を隠したスペクターが控える。
「残りは6体、1体を逃がすために5体が捨て身で挑んでくる。流石に知能が高く、統率が取れてますね」
スペクターから情報を得た直後、馬車の前後、オックスとゼロに向かって剣を持つケットシーが飛びかかってきた。
オックスは戦鎚で攻撃を受け止めると即座にその鎚頭をケットシーに打ち込む。
その重い一撃を受けたケットシーは全身の骨を砕かれながら吹き飛ばされた。
一方のゼロはケットシーの攻撃を紙一重で躱すとその背後に向かって光熱魔法を放つ。
ゼロの放った光は時間差で攻撃を仕掛けようとしていた槍を持つケットシーの頭部を貫いた。
その間に身を翻してゼロに切りかかってきた剣を鎌で受け止めると分銅をケットシーの頭部に叩き込んだ。
鋭い分銅の直撃を受けたケットシーの頭蓋骨は粉砕されてその場に崩れ落ちる。
更に1体が樹の上から槍を構えてゼロ目掛けて飛び降りてきたが、その穂先がゼロに届く寸前にリリスとレナによる2方向からの攻撃を受け、力を失って地に落ちた。
「残りは2体です」
ゼロが発した時、闇の中から馬車の前方に飛び出してきた1体が背を向けて逃げ出した。
「そりゃあっ!」
オックスは逃げ出したケットシーの背中目掛けて重厚な戦鎚を投げつけた。
唸りを上げて飛んだ戦鎚は逃走する背中に直撃し、ケットシーはその場に倒れる。
「残りの1体は、逃げたか。分かりやすい陽動だ」
戦鎚を回収したオックスは周囲を見回す。
リリスとレナも魔物の気配を探るも、周囲に潜む気配はもう無かった。
「取り逃がしたわね」
リリスが矢を矢筒にしまいながらため息をついた。
「撃退はしたものの、偵察の目的は果たされてしまったわね」
リリスの言葉にレナも頷いた。
「確かに偵察の目的は果たされてしまいましたが、こちらの手の内は晒していませんからね。大した影響はないでしょう。尤も、無事に戻れればの話しですが」
そう話すゼロはどこか涼しげな表情だった。
生き残って戦場を離脱した生き残りのケットシーは闇に包まれた森の中を枝から枝へと駆け抜けた。
猫科の猛獣の身体能力を持つケットシーの瞬発力とスピードには人間の力では到底追いつくことはできない。
葬列からある程度離れた彼は立ち止まった。
首領には眷族であり、魔力での繋がりを持つ自分の視覚の情報は伝わっている筈だ。
馬車には護衛が4人おり、その全てが戦い慣れていること、ケットシー10体程度では歯が立たないことは伝わっただろうが、それはあくまでも自分が見た範囲での情報なので、詳細は首領の下に戻って直接報告する必要がある。
ここまで闇の中をケットシーの脚力の限界の速度で駆け抜けてきたのだ、人間やエルフ如きに追跡できる筈もない。
何事もなく首領の下に戻れるだろう・・・とこの時までは彼は思っていた。
ザシュッ!
突然の衝撃を受けて視線を落としたケットシーは自らの胸から血にまみれた腕が生えているのを見た。
更に、咄嗟に振り返ろうとしたその首を背後から掴まれる。
「ああ、振り返らないで結構ですよ。顔を見ていただく必要もありませんから。それに、貴方の意識・間も・く・・・」
未だに状況を理解できないケットシーの視界は暗く、狭くなり、背後に立つ者の声も徐々に遠くなり、やがて、その意識も途切れた。
群れの首領の命令を最後まで果たそうとしたケットシーの命は潰え、その場に崩れ落ちた。
「首領の下まで泳がせてもよかったのですが、貴方も大した情報も伝えられなかったでしょう。ならばその手間を省いてあげましたよ」
オメガは腕に付いた血を払いながら足下に倒れるケットシーの死体を見下ろした。
「さて、私もマスターの下に戻らなければ」
ケットシーの死体をそのままにしてオメガは霧になって姿を消した。
ケットシーの群れの首領である悪魔は可愛い眷族を10体も失った怒りに震えていた。
魔物として生き長らえて力をつけて悪魔になったのが数十年前、下級悪魔ながら眷族を増やし、欲望の限りを尽くしていたところに若い騎士とその仲間により倒され、封印された。
彼を封印した碑は祠の中に収められ、彼を封印した騎士により厳重に閉ざされた。
しかし、彼の欲望と恨みは潰えることなく、封印の中で復活の機会をひたすら待ち続けた。
魔力を吸い取られ、邪悪なる魂が削られる封印の中で自分を封印した人間に対する恨みを魔力に変え、底の抜けた水瓶に水滴を垂らすように、数十年の時を要して自らの眷族に向けてたった1つの命令を伝えるだけの魔力を蓄積した。
彼の下した命令は1つ、厳重に管理された封印の祠の中にある碑を破壊すること。
その命令だけで十分、彼の眷族は知恵のあるケットシーである。
あとは眷族達が自分で判断して命令を実行してくれる。
そして彼の眷族はあらゆる計略を駆使して祠への侵入に成功し、そこにあった彼を封印する碑を破壊した。
自由を取り戻した彼は直ぐには行動に移らなかった。
闇に紛れ、力を蓄えて眷族を増やし、中級の力を持つ悪魔へと成長した。
眷族の数も増え、その中には下級悪魔に成長した者もいる。
機は熟したと判断した彼は騎士への復讐を企み、行動を開始した。
彼の恨みは彼を封印した者を殺すだけでは晴らせない。
一族郎党を皆殺しにしてその魂を刈り取り、自らの眷族として使役することを企んだ。
彼を封印した若い騎士は時を経て年老いた貴族になっており、2度に渡る襲撃でまんまとその老貴族の命を仕留めることに成功したが、思わぬ邪魔が入り貴族の唯一の一族である幼い孫の命を奪えなかったばかりか、命を奪った老貴族の魂を刈り取ることも叶わなかった。
それでも彼は諦めず、老貴族の葬列を虎視眈々と狙っていた。
敵の戦力を測ろうと威力偵察を試みたが失敗し、10体の眷族を失った。
眷族の視覚情報を基に得られた敵の戦力は手練れの冒険者が4人、馬車の中には孫を護衛する憎くき女が潜んでいる筈だ。
つまり、敵の数は5人だ。
眷族を倒されて怒りに震えていたが、彼にはまだ数多くの眷族がいる。
その数は下級悪魔が3体にケットシーの群れが百体は下らない。
虎の子の魔法使いや弓使いもまだ数多くいる。
いくら手練れの冒険者であろうと連携の取れた群れで一気に押し潰せば負ける筈がない。
彼は明日の夜を勝負の時と決めた。
この時、勝利を確信していた彼は復讐を遂げて更に力を増して彼の王国を築き上げることを夢見ていた。
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