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没落貴族の葬送7
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ケットシーの群れを無傷で撃退したゼロ達だが、その表情に安堵はなかった。
「奴め、万が一に備えて戦力を温存したな」
「はい、敵も数で押し潰す勝負には出ましたが、こちらが秘策を抱えていることを警戒していたみたいですね。とりあえずは私達の勝利でしたが、こちらの手の内もバレました。次は楽には勝たせてもらえないでしょう」
ゼロは腕組みして周囲を見渡して考え込む。
確かにケットシーの群れを撃退したが、その中に昨夜の襲撃の際にいた魔法使いや弓使いはいなかった。
威力偵察にも投入するのだからそれ以上の魔法使いや弓使いが存在するはずだが、今宵の襲撃にはそれらの姿は無かった。
魔法使い等は貴重な戦力として敵が温存したと見て間違いないだろう。
考え込んでいたゼロはしばしの沈黙の後に不敵な表情を浮かべた。
レナは見慣れたゼロの表情に半ば呆れ顔で微笑む。
ゼロがこの表情を浮かべた時は何かを企んでいる時、そしてこの時のゼロの企みが失敗に終わったことがないことを知っている。
「こちらから仕掛けてみますか」
「どういうことだ?」
ゼロの提案にオックスが怪訝な顔だ。
「奴等が逃げる際にスペクターを追跡に出しました。奴等の本隊の場所を割り出しましたので、逆にこちらから襲撃してみましょう」
ゼロは周囲にいるアンデッドを見渡す。
「バンシー、オメガ」
「はい、主様」
「はっ!マスター!」
「私はスケルトンを率いて敵の襲撃に向かいます。バンシーとオメガは残って馬車の護衛について下さい。ジャック・オー・ランタンも残しますのでよろしく」
ゼロの命令にバンシーはカーテシーで、オメガは跪いて復命した。
続いてゼロはオックス達を見る。
「お聞きのとおりです。皆さんは今のうちに少しでも距離を稼いでください。私は明日の朝までには合流します」
レナが鋭い目でゼロの前に歩み出る。
「私は一緒に行くわよ」
しかし、ゼロは首を振った。
「いえ、牽制みたいなものですから私1人で十分です。それよりも、こちらの守りが減るのはよろしくないので残ってください。大丈夫です、無理はしません。敵を混乱させてその数を少し減らしたら戻ってきます」
ゼロの目を睨むように見ていたレナだが、ゼロの意図を理解したのか、それ以上は食い下がらなかった。
「・・・分かったわ。でも、無理しちゃダメよ」
「はい。私自身、最近はイザベラさん、ドラゴン・ゾンビ、プリシラさんと負けが込んでいましたからね。多少は取り返さないといけませんから」
ゼロは手を振りながら踵を返して歩き出した。
追跡に出たスペクターが示したのは襲撃を受けた場所から3時間ほど移動した森の中だった。
その森の中をスペクターの誘導に従ってゼロは1人で移動し、敏感なケットシーの警戒線ギリギリまで接近する。
残った敵の戦力は首領たる中級悪魔以下、下級悪魔が1体。
それに率いられるケットシーは魔法使いが3、弓使いが5、剣や槍を装備したものが先の襲撃の生き残りを含めて50弱。
「まだ十分な戦力ですね」
数は多くないが、中級悪魔に率いられたケットシー達をゼロとアンデッドだけの力で殲滅することは不可能ではないが困難の上、危険でもある。
更に、今回の一連の出来事についての本筋がゼロの読みどおりだとすれば、多少のリスクを覚悟の上でもう一度葬列に攻撃を仕掛けてもらう必要がある。
ゼロは敵の群れの直中にスケルトンロードに指揮されたスケルトンナイトとウォリアーを召喚して群れに一気にけしかけた。
自分達が攻める側だと勝手に錯覚し、襲撃を受けることなど想定していなかった群れはアンデッドによる突然の襲撃に大混乱に陥った。
奇襲により魔法使い1、弓使い2、その外のケットシーを5体仕留めるが、首領が直接指揮をする群れは直ぐに秩序を回復し、スケルトンの機動力の低さを見越されて距離を取られる。
その間にも樹の陰に隠れたゼロの光熱魔法により更に1体の弓使いを仕留めたが攻勢もここまでだった。
突然の奇襲に形勢が不利と見るやケットシーの群れは全速力で撤退してしまった。
ケットシーの速力にはスケルトンはもとよりゼロも追いつくことは出来ない。
ゼロもこれ以上の時間を葬列から離れているわけにもいかないのでスペクターの追跡を放つに留めて戻ることにして、夜明け前には葬列に合流した。
シーグル教総本山までは残り2日弱の距離だが、あと1日程進むと聖監察兵団や聖騎士団の警戒域に入る。
そうなればおいそれとは手を出してこれないので、敵に残された時間はあと1日。
今日中には間違い無く最後の勝負を仕掛けてくるはずだ。
「というわけで、敵の数は約50ですが、次は最後の襲撃と決めて全力で来るはずです。間違いなく敵の首領の悪魔も来ます。決して油断はできません」
ゼロは全員に今日1日が決着の日だと告げる。
「追跡に出てるスペクターからの情報によると、敵は態勢を立て直し、一定の距離を保ちながら我々を捕捉しています。敵の動きは把握しているから奇襲されることはありませんが、いつ勝負を仕掛けて来るか分かりません。今日は休憩は最小限にして先に進みましょう」
葬列は殆ど休憩も取らずに出発して道を急いだ。
こちらの手の内も明かしているので多数のアンデッドを召喚したままで進む。
馬車の前方にオックスとスケルトンロード2体、左右にはレナとリリスの他にジャック・オー・ランタン、馬車の後方にゼロとバンシーとオメガ。
更に馬車の周囲をスケルトンロードに指揮された大盾を構えたスケルトンナイトとウォリアーが守り、葬列の周囲をスペクターが警戒する。
ノリスの魂の浄化と安らぎが目的の葬列だが、その見た目はまるで地獄に誘う死霊達の列である。
そんな葬列を悪魔達は一定の距離を保って追ってくる。
ゼロが逆撃を加えるには遠すぎるが、敵からすれば一気に距離を詰められる微妙な距離を保ち、勝負の時を狙っている。
「夜までは待たないでしょう。となれば、我々の疲労が溜まる夕暮れころでしょうか」
ゼロは襲撃の時期を予測する。
「どちらにせよ、今日が正念場です」
呟きながらゼロは前をゆく馬車を睨んだ。
「奴め、万が一に備えて戦力を温存したな」
「はい、敵も数で押し潰す勝負には出ましたが、こちらが秘策を抱えていることを警戒していたみたいですね。とりあえずは私達の勝利でしたが、こちらの手の内もバレました。次は楽には勝たせてもらえないでしょう」
ゼロは腕組みして周囲を見渡して考え込む。
確かにケットシーの群れを撃退したが、その中に昨夜の襲撃の際にいた魔法使いや弓使いはいなかった。
威力偵察にも投入するのだからそれ以上の魔法使いや弓使いが存在するはずだが、今宵の襲撃にはそれらの姿は無かった。
魔法使い等は貴重な戦力として敵が温存したと見て間違いないだろう。
考え込んでいたゼロはしばしの沈黙の後に不敵な表情を浮かべた。
レナは見慣れたゼロの表情に半ば呆れ顔で微笑む。
ゼロがこの表情を浮かべた時は何かを企んでいる時、そしてこの時のゼロの企みが失敗に終わったことがないことを知っている。
「こちらから仕掛けてみますか」
「どういうことだ?」
ゼロの提案にオックスが怪訝な顔だ。
「奴等が逃げる際にスペクターを追跡に出しました。奴等の本隊の場所を割り出しましたので、逆にこちらから襲撃してみましょう」
ゼロは周囲にいるアンデッドを見渡す。
「バンシー、オメガ」
「はい、主様」
「はっ!マスター!」
「私はスケルトンを率いて敵の襲撃に向かいます。バンシーとオメガは残って馬車の護衛について下さい。ジャック・オー・ランタンも残しますのでよろしく」
ゼロの命令にバンシーはカーテシーで、オメガは跪いて復命した。
続いてゼロはオックス達を見る。
「お聞きのとおりです。皆さんは今のうちに少しでも距離を稼いでください。私は明日の朝までには合流します」
レナが鋭い目でゼロの前に歩み出る。
「私は一緒に行くわよ」
しかし、ゼロは首を振った。
「いえ、牽制みたいなものですから私1人で十分です。それよりも、こちらの守りが減るのはよろしくないので残ってください。大丈夫です、無理はしません。敵を混乱させてその数を少し減らしたら戻ってきます」
ゼロの目を睨むように見ていたレナだが、ゼロの意図を理解したのか、それ以上は食い下がらなかった。
「・・・分かったわ。でも、無理しちゃダメよ」
「はい。私自身、最近はイザベラさん、ドラゴン・ゾンビ、プリシラさんと負けが込んでいましたからね。多少は取り返さないといけませんから」
ゼロは手を振りながら踵を返して歩き出した。
追跡に出たスペクターが示したのは襲撃を受けた場所から3時間ほど移動した森の中だった。
その森の中をスペクターの誘導に従ってゼロは1人で移動し、敏感なケットシーの警戒線ギリギリまで接近する。
残った敵の戦力は首領たる中級悪魔以下、下級悪魔が1体。
それに率いられるケットシーは魔法使いが3、弓使いが5、剣や槍を装備したものが先の襲撃の生き残りを含めて50弱。
「まだ十分な戦力ですね」
数は多くないが、中級悪魔に率いられたケットシー達をゼロとアンデッドだけの力で殲滅することは不可能ではないが困難の上、危険でもある。
更に、今回の一連の出来事についての本筋がゼロの読みどおりだとすれば、多少のリスクを覚悟の上でもう一度葬列に攻撃を仕掛けてもらう必要がある。
ゼロは敵の群れの直中にスケルトンロードに指揮されたスケルトンナイトとウォリアーを召喚して群れに一気にけしかけた。
自分達が攻める側だと勝手に錯覚し、襲撃を受けることなど想定していなかった群れはアンデッドによる突然の襲撃に大混乱に陥った。
奇襲により魔法使い1、弓使い2、その外のケットシーを5体仕留めるが、首領が直接指揮をする群れは直ぐに秩序を回復し、スケルトンの機動力の低さを見越されて距離を取られる。
その間にも樹の陰に隠れたゼロの光熱魔法により更に1体の弓使いを仕留めたが攻勢もここまでだった。
突然の奇襲に形勢が不利と見るやケットシーの群れは全速力で撤退してしまった。
ケットシーの速力にはスケルトンはもとよりゼロも追いつくことは出来ない。
ゼロもこれ以上の時間を葬列から離れているわけにもいかないのでスペクターの追跡を放つに留めて戻ることにして、夜明け前には葬列に合流した。
シーグル教総本山までは残り2日弱の距離だが、あと1日程進むと聖監察兵団や聖騎士団の警戒域に入る。
そうなればおいそれとは手を出してこれないので、敵に残された時間はあと1日。
今日中には間違い無く最後の勝負を仕掛けてくるはずだ。
「というわけで、敵の数は約50ですが、次は最後の襲撃と決めて全力で来るはずです。間違いなく敵の首領の悪魔も来ます。決して油断はできません」
ゼロは全員に今日1日が決着の日だと告げる。
「追跡に出てるスペクターからの情報によると、敵は態勢を立て直し、一定の距離を保ちながら我々を捕捉しています。敵の動きは把握しているから奇襲されることはありませんが、いつ勝負を仕掛けて来るか分かりません。今日は休憩は最小限にして先に進みましょう」
葬列は殆ど休憩も取らずに出発して道を急いだ。
こちらの手の内も明かしているので多数のアンデッドを召喚したままで進む。
馬車の前方にオックスとスケルトンロード2体、左右にはレナとリリスの他にジャック・オー・ランタン、馬車の後方にゼロとバンシーとオメガ。
更に馬車の周囲をスケルトンロードに指揮された大盾を構えたスケルトンナイトとウォリアーが守り、葬列の周囲をスペクターが警戒する。
ノリスの魂の浄化と安らぎが目的の葬列だが、その見た目はまるで地獄に誘う死霊達の列である。
そんな葬列を悪魔達は一定の距離を保って追ってくる。
ゼロが逆撃を加えるには遠すぎるが、敵からすれば一気に距離を詰められる微妙な距離を保ち、勝負の時を狙っている。
「夜までは待たないでしょう。となれば、我々の疲労が溜まる夕暮れころでしょうか」
ゼロは襲撃の時期を予測する。
「どちらにせよ、今日が正念場です」
呟きながらゼロは前をゆく馬車を睨んだ。
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