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決戦!2つの死闘5

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 ゼロとアンデッドはゴッセルに対して真っ向から勝負を挑んだ。
 オメガ、サーベル、スピア、デュラハンが四方から攻撃、ジャック・オー・ランタンが火炎魔法と大鎌による変幻自在な攻撃を加え、スペクターが衝撃魔法で援護する。
 それらの攻撃に加えて一瞬の隙を見逃さずにゼロが剣で斬り掛かり、アルファとシールドがゼロを守る。
 
 ゼロの剣はゴッセルに傷を負わせることはできるが、力を解放したゴッセルには針で刺した程度の痛痒しか与えることができない。
 それどころか、ゴッセルが反撃の腕を振るう度に前線のアンデッドが弾き飛ばされ、叩き潰されて、その都度にゼロは再召喚を強いられている。
 力を解放したゴッセルを相手に猛攻撃を加えているように見えるが、消耗しているのはゼロ達の方であった。

 ゼロは後退して高出力の光熱魔法を放ち、ゴッセルに叩き込んだ。
 一条の光がゴッセルの胸を貫くが、胸に穿たれた風穴は瞬く間に閉じられ、ゴッセルにダメージを与えるには至らない。

「・・・貴様の力はそんなものか?余の思い違いであったようだ」

 ゴッセルがゼロに向けて手を翳すと、その手先に巨大な火球が発生する。
 その火球を撃たせまいとオメガが飛び掛かるが、ゴッセルはそんなことを意に介さずにゼロに狙いをつけた。

「受けてみせよ!」

 オメガを吹き飛ばしたゴッセルの手から火球が放たれた。
 ゼロを守ろうとしたアンデッド達が炎に飲み込まれて焼き尽くされる。
 アルファがゼロの周囲に氷壁を作り出すが一瞬で砕かれる。
 ゼロは火球に向けて剣を振り抜いた。

「グッ!」

 ゼロの剣により火球は両断されたが、それでも消滅する直前には炎がゼロに取り付き、右肩から腕にかけた広範囲に酷い火傷を負った。
 アルファがゼロの腕を氷で包むが、ゼロの右腕は焼けただれてしまい、剣を握ることができなくなる。

 更にその隙を突いてゴッセルの長い爪がゼロを捉え、仮面に覆われていない右顔面を切り裂いた。
 顔面から血を吹き出してたまらずに膝をついたゼロに追い討ちをかけるようにゴッセルの拳が振り下ろされた。

「主様!」
「マスター!」

 拳に叩き潰される寸前、オメガとアルファがゼロに飛びかかり後方に飛び退いた。

 オメガとアルファに助けられて間一髪、危機を逃れたゼロだが、そのダメージは深刻だ。
 左手1本で剣を構えるが、立っているのもやっと、意識を保っているのが不思議な程である。
 それでも焼き尽くされたアンデッドを再召喚して態勢を整える。

「風向きが怪しくなってきましたね・・・。正直言って手詰まりです」

 直ぐにでも倒れそうになりながらも冷静に状況を把握して打てる手段を模索する。

(とはいえ、手立てが1つだけ残っていますね・・・)

 迷っている暇はない、持ち札が1枚しか残っていないならば、そのカードを切るしかないのだ。

(レナさん達を連れてこなくて正解でした)

 ゼロは決断した。
 ゴッセルに向けて最大出力で光熱魔法を放つ。
 通常の光熱魔法を遥かに上回る威力の光がゴッセルの肩口を吹き飛ばすが、直ぐに再生が始まる。

「無駄だ、貴様のような者が余を倒そうなど思い上がりも甚だしい」

 最早ゼロの剣や魔法ではゴッセルを倒すことは敵わない。
 そんなことはゼロ自身が一番分かっている。
 最後の光熱魔法も効果が期待できないことも分かっている。
 それでも、ゼロは僅かな時間を稼ぐために、残された最後の手段のために、そして、ゴッセルを葬り去るために貴重な魔力を使って最後の魔法を行使した。
 もうゼロに残されているのは最後の勝負のための僅かな魔力と気力のみ。
 その最後の気力を振り絞る。

「オメガ、アルファ、サーベル、スピア、シールド!配置につきなさい。他の者は援護です。皆、最後まで付き合ってもらいますよ」

 ゼロの思惑を察知したオメガ達は即座に行動に移る。
 
「マスターのお心のままに!共に往かせてもらいます!」
「主様、私はどこまでも、いつまでもお側におります」

 5体のアンデッドはゼロとゴッセルを取り囲むように散開した。
 ゼロは自らの血を周囲に撒き散らし、精神を集中し、古代魔法用語による詠唱を始めた。
 ゼロを中心に撒き散らされたゼロの血液が魔法陣を描き始める。

「・・・・・・・」

 今、ゼロが行使しようとしているのは反魂蘇生術と並ぶもう一つの死霊術の極み。

「・・・送魂落冥術。・・・封縛!」

 ゼロを中心に周囲に散開している5体のアンデッドの魔力がリンクして包囲の中にいるゴッセルを魔力で捕縛した。

「小癪な!これしきの魔力で!・・・馬鹿な!余が、魔王たる余が動くことができぬだと?」

 ゴッセルは捕縛から逃れようとするが、リンクした5体の上位アンデッドの魔力が使役者であるゼロを介して増幅して縛りつけているため魔王であろうともおいそれととは逃れられない。

「・・・死霊術師ゼロの名において冥府の底に一対の肉体と魂を送らんとする・・開門!」

 反魂蘇生術と相反する死霊術、生者を生きたまま冥界に送り込み、冥府の底に落とす送魂落冥術だ。
 ネクロマンサーゼロの最期の死霊術が始まった。

 もう一つの戦い、英雄レオンとゴッセルの戦いも終局を迎えつつあった。
 ゴッセルの剣撃を受けきれずにジリジリと後退するレオン。
 次々と撃ち込まれる炎撃、雷撃魔法にセイラ達の守りも押し潰されて今やレオンを含めた全員が狭い守りの空間の中に身を寄せ合ってひたすらにゴッセルの攻撃に耐えていた。

 レオンは英雄としての覚悟を決めた。

「イザベラさん、アランさん。俺が吶喊して隙を作ります。その間に皆を離脱させてください」

 レオンは槍先をゴッセルに向けた。

「バカなことはお止めなさい!」
「諦めて離脱するならば俺とイザベラが隙を作ってやるぞ」

 しかし、レオンは首を振った。

「これは英雄たる俺の役目です。それに、魔王に通用するのは俺の槍だけです」

 レオンは足を踏み出した。

「英雄レオンさんが残るならば聖女の私も残ります」
「セイラが逃げないならば護衛士の私も逃げるわけにはいかないわね」

 セイラとアイリアの声に続いてレオンの仲間達も声を上げる。

「レオン!貴方だけを残してはいかないわ。貴方が突っ込むならば私も行く!拳でも蹴りでも一矢報いてやらなければ気が済まないわ」

 武闘僧侶のルシアがレオンに並ぶ。

「相変わらず考えなしのバカだな。俺も残っていざという時の策を考えてやるよ」

 カイルは呆れ顔だ。

「私も残る。まあ、いざとなれば私は一目散に逃げるけどね」

 マッキがおどけてみせる。
 レオンだけでない、この場にいる8人全員が英雄だった。
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