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最期の死霊術
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「開門!」
ゼロの声に応じて巨大な門が現れた。
この世界には数多の宗教があるが、人の死後についての真理は全て同じである。
人は死ぬと2つの門を潜るということ。
1つ目は「狭間の門」。
生者の世界と死後の世界を隔離する門であり、死した者全てが最初にこの門を潜り、生と死の狭間の世界に入る。
生者の世界に未練がある者や自らの強い意思で留まる者はこの狭間の世界に留まる。
死霊術師が死霊を召喚する際に開くのがこの狭間の門であり、狭間の世界に留まっている者を召喚するが、その際に様々なアンデッドとして召喚されるのだ。
そして、生と死の狭間の世界の先には2つの門があり、死者はそのどちらかの門を潜る。
それが「輪廻の門」と「冥府の門」だ。
大半の死者は輪廻の門を潜り、天に昇って星となり、輪廻の輪の中に流れてゆき、次の命へと生まれ変わる。
そして、輪廻の門を潜れなかった汚れた魂は冥府の門へと引きずり込まれ、救われることのない冥府の底へと落ちてゆくのだ。
今、ゼロの術により現れたのは冥府の門である。
ゼロが行使している送魂落冥術は死霊術により強制的に冥府の門を開き、術師に狙われた者を生死に関わらずに冥府に落とす術だ。
生者を生きたまま冥府に引きずり込むこの術は死霊術の中でも特に禁忌とされている術であった。
アンデッドとゼロの魔力により捕縛されているゴッセルの背後に現れた冥府の門がゆっくりと開く。
門の中から青白い光が伸びてきてゼロに狙いをつけられたゴッセルに絡みつく。
それはまるで無数の亡者達の手のように、ゴッセルを門の内側に飲み込もうとしている。
門の中に落ちれば魔王であろうと現世に戻ることはできない。
「ぐぉおぉぉっ!」
ゴッセルは門から伸びる光やゼロ達の捕縛から逃れようと必死の足掻きを見せる。
「抵抗は止めなさい。死の安らぎを受け入れて冥府の底で眠りなさい」
ゼロが魔力の塊を叩き込み、ゴッセルの身体が僅かに門に引き寄せられる。
「余は魔王だ!死を受け入れるなどあり得ぬ!まして人間風情に殺されるなど!」
「今の私に貴方を殺すだけの力は残されていません。死霊術師の私にできるのは貴方を冥府の底に送り込むことだけです」
再びゼロは魔力の塊を叩き込む。
「させぬ!余に安らぎなど不要!」
ゴッセルは凄まじい抵抗を見せて足を踏み出す。
「余は魔王ゴッセル・ローヴだ!安らぎなどで余の心を満たすことはできぬ!破壊と支配のみが余の魂を満たすのだ!」
「受け入れなさい。そして眠るのです!」
門の中に送り込もうとするゼロと門から逃れようとするゴッセル、双方の力が拮抗していた。
その頃、ゼロの下に駆けつけようと地下墳墓を駆け抜けたレナ達はゼロが戦う最深部の手前まで到達していたが、そこで亡者達による足止めを受けていた。
「この先だ!早く突破するぞ」
戦鎚でアンデッド達を叩き潰しながらオックスが叫ぶ。
「頼むぜ!持ちこたえていてくれよ、ゼロ!」
ライズも剣を振るう。
リリス、イリーナ、イズ、リズ、コルツもそれぞれの力の限りに戦っているが、レナだけは戦いに参加することなくオックス達が切り開こうとしている道の先を見ていた。
ゼロの下に着き、魔王との戦いに参戦するとなればレナの強力な魔法が切り札になる。
そこでレナの魔力を温存するためにレナを守る陣形で戦っているのだ。
「最深部から激しい魔力の衝突を感じる。1つは禍々しくて強大な魔力、魔王のもの。もう1つはゼロ。まだ戦っているのね」
レナは走り出した。
「待ちなさいレナ!まだ活路が開いていない!」
リリスが止めるのも構わずに杖の仕込みレイピアを抜いて前線に踊り込むレナ。
「おいっ!待て、レナ!」
「副官殿!お退がりください!」
慌てたライズとコルツがレナに駆け寄ろうとするが、レナはお構いなしにレイピアを振るいながら一直線にゼロのいる場所に向かって走る。
それどころかイズとリズの兄妹までがレナに続いて走り出した。
「まったく!無茶をする!こうなったらみんな、強行突破だ!」
オックスは呆れながらも決断し、他の者も後に続いた。
ゼロは続けざまに魔力を撃ち込むが、拮抗していた力に傾きが生じ始める。
ゴッセルの力にゼロが押され始めたのだ。
「余を滅することなどできぬ!」
ジリジリと冥府の門から離れるゴッセル。
「させません!貴方を冥府に送ればもう1人の貴方も完全に倒すことができます。あちらで戦っている人達のため、そして、私達が守るべき人々のためにも!私は私の役目を、私にしかできない仕事を全うします!」
それでも押され続けるゼロ。
そんな中でゼロは静かに笑っていた。
(シーナさん、すみません、やはり風の都市には帰れそうにありません。オックスさん、リリスさん、ライズさん、イリーナさん、イズさん、リズさん、コルツさん・・・レオンさん、セイラさん、後を頼みます)
ゼロは納めていた剣に手をかける。
(マイルズさん、わが友、もう一度酒を酌み交わしたかったです。モースさん、貴方の剣と共に行きます。皆さん、ありがとうございました)
残された左手で剣を抜いたゼロはゴッセルに向かって走り出す。
「アルファ、オメガ、サーベル、スピア、シールド、そして皆、ここまでよく私に仕えてくれました!私が戻らなければ皆を解放します。各々が輪廻の門を潜りなさい!」
ゼロの宣言にアンデッド達は反応しない。
ひたすらにゴッセルを捕縛し続けてゼロの生還の道を切り開こうとしているのだ。
ゼロはゴッセルに取り付いてその身体に深々と剣を突き刺した。
「ぐぉおぉぉっ!あぁぁっ!」
ゴッセルの身体が一気に門に引き寄せられる。
それと共にゴッセルに取り付いたゼロにも門から伸びる光が絡みつき始めた。
「私が一緒に行ってあげます。さあ、逝きましょう!」
「やめろぉ!離せぇっ!」
ゴッセルは最後の抵抗を試みるが、ゼロは力を緩めない。突き刺した剣にしがみつき、ゼロ距離で光熱魔法を乱射する。
ゴッセルの左足が冥府の門に引き込まれた。
たまらずに倒れ込みながらも門から這い出そうとするゴッセルと取り付いたまま攻撃を止めないゼロ。
(レナさん・・・すみません)
その時、その場にレナを先頭に8人が飛び込んできた。
「ゼローッ!」
レナの叫び声が響いた。
ゼロの声に応じて巨大な門が現れた。
この世界には数多の宗教があるが、人の死後についての真理は全て同じである。
人は死ぬと2つの門を潜るということ。
1つ目は「狭間の門」。
生者の世界と死後の世界を隔離する門であり、死した者全てが最初にこの門を潜り、生と死の狭間の世界に入る。
生者の世界に未練がある者や自らの強い意思で留まる者はこの狭間の世界に留まる。
死霊術師が死霊を召喚する際に開くのがこの狭間の門であり、狭間の世界に留まっている者を召喚するが、その際に様々なアンデッドとして召喚されるのだ。
そして、生と死の狭間の世界の先には2つの門があり、死者はそのどちらかの門を潜る。
それが「輪廻の門」と「冥府の門」だ。
大半の死者は輪廻の門を潜り、天に昇って星となり、輪廻の輪の中に流れてゆき、次の命へと生まれ変わる。
そして、輪廻の門を潜れなかった汚れた魂は冥府の門へと引きずり込まれ、救われることのない冥府の底へと落ちてゆくのだ。
今、ゼロの術により現れたのは冥府の門である。
ゼロが行使している送魂落冥術は死霊術により強制的に冥府の門を開き、術師に狙われた者を生死に関わらずに冥府に落とす術だ。
生者を生きたまま冥府に引きずり込むこの術は死霊術の中でも特に禁忌とされている術であった。
アンデッドとゼロの魔力により捕縛されているゴッセルの背後に現れた冥府の門がゆっくりと開く。
門の中から青白い光が伸びてきてゼロに狙いをつけられたゴッセルに絡みつく。
それはまるで無数の亡者達の手のように、ゴッセルを門の内側に飲み込もうとしている。
門の中に落ちれば魔王であろうと現世に戻ることはできない。
「ぐぉおぉぉっ!」
ゴッセルは門から伸びる光やゼロ達の捕縛から逃れようと必死の足掻きを見せる。
「抵抗は止めなさい。死の安らぎを受け入れて冥府の底で眠りなさい」
ゼロが魔力の塊を叩き込み、ゴッセルの身体が僅かに門に引き寄せられる。
「余は魔王だ!死を受け入れるなどあり得ぬ!まして人間風情に殺されるなど!」
「今の私に貴方を殺すだけの力は残されていません。死霊術師の私にできるのは貴方を冥府の底に送り込むことだけです」
再びゼロは魔力の塊を叩き込む。
「させぬ!余に安らぎなど不要!」
ゴッセルは凄まじい抵抗を見せて足を踏み出す。
「余は魔王ゴッセル・ローヴだ!安らぎなどで余の心を満たすことはできぬ!破壊と支配のみが余の魂を満たすのだ!」
「受け入れなさい。そして眠るのです!」
門の中に送り込もうとするゼロと門から逃れようとするゴッセル、双方の力が拮抗していた。
その頃、ゼロの下に駆けつけようと地下墳墓を駆け抜けたレナ達はゼロが戦う最深部の手前まで到達していたが、そこで亡者達による足止めを受けていた。
「この先だ!早く突破するぞ」
戦鎚でアンデッド達を叩き潰しながらオックスが叫ぶ。
「頼むぜ!持ちこたえていてくれよ、ゼロ!」
ライズも剣を振るう。
リリス、イリーナ、イズ、リズ、コルツもそれぞれの力の限りに戦っているが、レナだけは戦いに参加することなくオックス達が切り開こうとしている道の先を見ていた。
ゼロの下に着き、魔王との戦いに参戦するとなればレナの強力な魔法が切り札になる。
そこでレナの魔力を温存するためにレナを守る陣形で戦っているのだ。
「最深部から激しい魔力の衝突を感じる。1つは禍々しくて強大な魔力、魔王のもの。もう1つはゼロ。まだ戦っているのね」
レナは走り出した。
「待ちなさいレナ!まだ活路が開いていない!」
リリスが止めるのも構わずに杖の仕込みレイピアを抜いて前線に踊り込むレナ。
「おいっ!待て、レナ!」
「副官殿!お退がりください!」
慌てたライズとコルツがレナに駆け寄ろうとするが、レナはお構いなしにレイピアを振るいながら一直線にゼロのいる場所に向かって走る。
それどころかイズとリズの兄妹までがレナに続いて走り出した。
「まったく!無茶をする!こうなったらみんな、強行突破だ!」
オックスは呆れながらも決断し、他の者も後に続いた。
ゼロは続けざまに魔力を撃ち込むが、拮抗していた力に傾きが生じ始める。
ゴッセルの力にゼロが押され始めたのだ。
「余を滅することなどできぬ!」
ジリジリと冥府の門から離れるゴッセル。
「させません!貴方を冥府に送ればもう1人の貴方も完全に倒すことができます。あちらで戦っている人達のため、そして、私達が守るべき人々のためにも!私は私の役目を、私にしかできない仕事を全うします!」
それでも押され続けるゼロ。
そんな中でゼロは静かに笑っていた。
(シーナさん、すみません、やはり風の都市には帰れそうにありません。オックスさん、リリスさん、ライズさん、イリーナさん、イズさん、リズさん、コルツさん・・・レオンさん、セイラさん、後を頼みます)
ゼロは納めていた剣に手をかける。
(マイルズさん、わが友、もう一度酒を酌み交わしたかったです。モースさん、貴方の剣と共に行きます。皆さん、ありがとうございました)
残された左手で剣を抜いたゼロはゴッセルに向かって走り出す。
「アルファ、オメガ、サーベル、スピア、シールド、そして皆、ここまでよく私に仕えてくれました!私が戻らなければ皆を解放します。各々が輪廻の門を潜りなさい!」
ゼロの宣言にアンデッド達は反応しない。
ひたすらにゴッセルを捕縛し続けてゼロの生還の道を切り開こうとしているのだ。
ゼロはゴッセルに取り付いてその身体に深々と剣を突き刺した。
「ぐぉおぉぉっ!あぁぁっ!」
ゴッセルの身体が一気に門に引き寄せられる。
それと共にゴッセルに取り付いたゼロにも門から伸びる光が絡みつき始めた。
「私が一緒に行ってあげます。さあ、逝きましょう!」
「やめろぉ!離せぇっ!」
ゴッセルは最後の抵抗を試みるが、ゼロは力を緩めない。突き刺した剣にしがみつき、ゼロ距離で光熱魔法を乱射する。
ゴッセルの左足が冥府の門に引き込まれた。
たまらずに倒れ込みながらも門から這い出そうとするゴッセルと取り付いたまま攻撃を止めないゼロ。
(レナさん・・・すみません)
その時、その場にレナを先頭に8人が飛び込んできた。
「ゼローッ!」
レナの叫び声が響いた。
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