192 / 196
冥府の底へ
しおりを挟む
レナ達が最深部に駆け込むと同時にジャック・オー・ランタンやスペクター達が入れ違いに外に飛び出してレナ達の後を追ってきた亡者達と戦い始めた。
そこでレナ達が目の当たりにしたのは巨大で不気味な門が口を開き、その中から伸びた青白い光に捉えられた異形の化け物が引きずり込まれつつある状況だった。
周囲を包囲するようにゼロのアンデッドが立っている。
引きずり込まれそうになっている化け物が魔王ゴッセルであることは間違いなく、その背後に開く門が何であるのかは分からないが、その門の先が危険であることは直感的に分かる。
きっとあの門の中に引きずり込まれたら二度と戻ってこられないだろう。
そのゴッセルに剣を突き立ててしがみついたゼロが光熱魔法を乱射しているが、ゼロの身体にまで青白い光が絡んでいる。
「ゼローッ!」
レナは叫ぶと共にゼロを援護すべくレイピアの柄をゴッセルに向けて魔法の狙いを定める。
「待て!奴とゼロが近すぎる!」
オックスが慌ててレナを止める。
「ゼロはあの門の向こうにあの化け物を放り込もうとしているらしい。俺にはよく分からんが、ゼロがあれだけ必死な様子から見てもあの門の向こうはヤバい。お前の魔法を撃ち込むとゼロごと押し込んでしまうぞ!」
オックスは皆を見た。
「覚悟はいいな!皆で突っ込んで奴を門の向こうに叩き込んでゼロを引きずり戻すぞ!」
ライズが笑う。
「ゼロだけに良いところを持っていかせるか!」
イズが双剣を構える。
「ゼロ様はシルバーエルフの恩人であり私の友だ!」
コルツが槍を手に前に出る。
「竜人の誇りにかけて!小官の槍にて連隊長をお救いしてみせる」
リリスとイリーナが弓に矢を番える。
「私の矢の一撃で魔王を仕留める」
「ゼロが居なくなるとライズが寂しがるからね。まだまだゼロには付き合ってもらわなくちゃ」
リズは弓を捨てて短剣を抜いた。
「ゼロ様は私がお救いします!」
全員が足を踏み出そうとした瞬間。
「来るなっ!来てはいけない!」
鋭いゼロの声が響き渡った。
「この門の先は冥府の底だ!落ちれば最後、皆で力を合わせればどうにかなるというものではない!誰も近づくな!」
普段とまるで違うゼロの勢いに気圧されて足を止めてしまう。
「私はもう駄目だ!この怪我ではどちらにせよ助かる見込みも少ない。ならば魔王を道連れに門の向こうに行きます。これは死霊術師の私の仕事です。誰にも邪魔はさせません!」
ライズが叫ぶ。
「ふざけるなよゼロ!お前だけを犠牲になんかできるか!こうなったら死なば諸共だ!」
イリーナが制止するのも構わずに今にも駆け出しそうだ。
「それこそ無駄死にですよ。ここまでくれば私の力だけでも魔王を冥府に送れます」
現にゴッセルの体は半分以上が門に引きずり込まれている。
かくいうゼロも片方の足首は門の中だ。
「何度も言いますが、この先に落ちたら私の力では戻ることはできません。生きたまま冥府の底を彷徨うのみです。皆で力を合わせればなんて通用しません。それに、皆さんはこの戦いの後にも為すべきことがあるはずです」
必死に抵抗するゴッセルも胸元から右肩まで引き込まれ、左腕だけで石の床を掻いている。
ゼロは皆を見回して笑った。
「みんな、ありがとうございました。後を頼みます」
直後、ゼロは最後の魔力をゴッセルの頭部に叩き込んだ。
「認めぬ!余は魔王ゴッセル・ローヴなるぞー・・・っ」
最後の叫びを残してゴッセルは門の向こう側に消えた。
ゼロの片足も完全に引き込まれている。
ゼロはゴッセルの身体から抜き払った剣を床に突き刺して抵抗するが、それが無駄な足掻きであることは自分が一番分かっている。
しかし、だからといって諦める理由にはならない。
足掻いて足掻いて手を尽くし、その結果を受け入れるのだ。
そんな抵抗をあざ笑うかのように、ゼロの身体はじりじりと引き込まれ、もう片足も膝から下は門の中にある。
「1人では行かせないって言っているでしょうっ!」
皆が足を止める中、レナが走り出した。
「いつもいつも貴方は私を置いて行く!もう許さないからっ!」
皆が止める間もなくゼロに駆け寄ったレナはゼロにしがみついた。
「離れなさい!貴女まで巻き込んでしまう!」
「行かせない!絶対に1人では行かせない!逝っては駄目よ!生きなさいっ!」
しがみつくレナを振りほどこうとするゼロと、ゼロを逃すまいとしがみつくレナ。
ゼロの下半身は門の中だ。
「私はもう駄目です。離れなさい!」
「嫌っ!絶対に離さない!ゼロが行くならば私も一緒に行ってあげる。絶対に1人では行かせない」
ゼロの首にしがみつくレナ。
「私を置いて行っては駄目っ!」
「私はレナさんを道連れにするわけにはいきません!貴女には生きていて欲しいのです!」
ゼロの言葉に微笑みながら瞳に涙を浮かべてゼロを見つめるレナ。
「・・・ゼロ、好きよ・・・」
ゼロの首にしがみつきながらゼロに口づけをするレナ。
ゼロも黙って受け入れる。
「一緒に行ってあげる」
強くゼロに抱きつくレナ。
ゼロもレナの背に手を回す。
「レナさん、今私は人を愛する気持ちの一端を理解したような気がします。その気持ちが私に僅かな力を取り戻してくれました・・・」
レナの目を見て微笑むゼロを見てレナの顔がこわばった。
「ゼロ、駄目よ。馬鹿な考えはやめ・・・クッ!!」
レナの言葉が終わる前にゼロが僅かに回復した魔力の全てをレナに打ち込んでレナをオックス達の方にはじき飛ばした。
「ゼロッ!」
即座に立ち上がり再び駆け寄ろうとするレナ。
しかし、ゼロの身体は門の中に引きずり込まれ、門が閉じ始める。
「レナさん、最後まですみません。・・・ありがとうございました・・・」
言い残したゼロは闇の中に落ちていき、冥府の門が閉じられた。
「ゼロ、ダメッ!行ってはダメッ!」
門にすがりつき、レイピアを差し込んでこじ開けようとする。
オックス達も門に駆け寄ってレナに加勢するが、堅く閉ざされた門はびくともせず、やがて音もなくその姿を消した。
門が消え、静寂に包まれたその場に残されていたのは、ゼロが最後まで諦めなかった証し、石の床に突き刺したゼロの剣。
それはまるで墓標のようだった。
「ゼローッ!!いやぁーっ!」
静寂の中、レナの悲鳴にも似た叫びが響き渡った。
そこでレナ達が目の当たりにしたのは巨大で不気味な門が口を開き、その中から伸びた青白い光に捉えられた異形の化け物が引きずり込まれつつある状況だった。
周囲を包囲するようにゼロのアンデッドが立っている。
引きずり込まれそうになっている化け物が魔王ゴッセルであることは間違いなく、その背後に開く門が何であるのかは分からないが、その門の先が危険であることは直感的に分かる。
きっとあの門の中に引きずり込まれたら二度と戻ってこられないだろう。
そのゴッセルに剣を突き立ててしがみついたゼロが光熱魔法を乱射しているが、ゼロの身体にまで青白い光が絡んでいる。
「ゼローッ!」
レナは叫ぶと共にゼロを援護すべくレイピアの柄をゴッセルに向けて魔法の狙いを定める。
「待て!奴とゼロが近すぎる!」
オックスが慌ててレナを止める。
「ゼロはあの門の向こうにあの化け物を放り込もうとしているらしい。俺にはよく分からんが、ゼロがあれだけ必死な様子から見てもあの門の向こうはヤバい。お前の魔法を撃ち込むとゼロごと押し込んでしまうぞ!」
オックスは皆を見た。
「覚悟はいいな!皆で突っ込んで奴を門の向こうに叩き込んでゼロを引きずり戻すぞ!」
ライズが笑う。
「ゼロだけに良いところを持っていかせるか!」
イズが双剣を構える。
「ゼロ様はシルバーエルフの恩人であり私の友だ!」
コルツが槍を手に前に出る。
「竜人の誇りにかけて!小官の槍にて連隊長をお救いしてみせる」
リリスとイリーナが弓に矢を番える。
「私の矢の一撃で魔王を仕留める」
「ゼロが居なくなるとライズが寂しがるからね。まだまだゼロには付き合ってもらわなくちゃ」
リズは弓を捨てて短剣を抜いた。
「ゼロ様は私がお救いします!」
全員が足を踏み出そうとした瞬間。
「来るなっ!来てはいけない!」
鋭いゼロの声が響き渡った。
「この門の先は冥府の底だ!落ちれば最後、皆で力を合わせればどうにかなるというものではない!誰も近づくな!」
普段とまるで違うゼロの勢いに気圧されて足を止めてしまう。
「私はもう駄目だ!この怪我ではどちらにせよ助かる見込みも少ない。ならば魔王を道連れに門の向こうに行きます。これは死霊術師の私の仕事です。誰にも邪魔はさせません!」
ライズが叫ぶ。
「ふざけるなよゼロ!お前だけを犠牲になんかできるか!こうなったら死なば諸共だ!」
イリーナが制止するのも構わずに今にも駆け出しそうだ。
「それこそ無駄死にですよ。ここまでくれば私の力だけでも魔王を冥府に送れます」
現にゴッセルの体は半分以上が門に引きずり込まれている。
かくいうゼロも片方の足首は門の中だ。
「何度も言いますが、この先に落ちたら私の力では戻ることはできません。生きたまま冥府の底を彷徨うのみです。皆で力を合わせればなんて通用しません。それに、皆さんはこの戦いの後にも為すべきことがあるはずです」
必死に抵抗するゴッセルも胸元から右肩まで引き込まれ、左腕だけで石の床を掻いている。
ゼロは皆を見回して笑った。
「みんな、ありがとうございました。後を頼みます」
直後、ゼロは最後の魔力をゴッセルの頭部に叩き込んだ。
「認めぬ!余は魔王ゴッセル・ローヴなるぞー・・・っ」
最後の叫びを残してゴッセルは門の向こう側に消えた。
ゼロの片足も完全に引き込まれている。
ゼロはゴッセルの身体から抜き払った剣を床に突き刺して抵抗するが、それが無駄な足掻きであることは自分が一番分かっている。
しかし、だからといって諦める理由にはならない。
足掻いて足掻いて手を尽くし、その結果を受け入れるのだ。
そんな抵抗をあざ笑うかのように、ゼロの身体はじりじりと引き込まれ、もう片足も膝から下は門の中にある。
「1人では行かせないって言っているでしょうっ!」
皆が足を止める中、レナが走り出した。
「いつもいつも貴方は私を置いて行く!もう許さないからっ!」
皆が止める間もなくゼロに駆け寄ったレナはゼロにしがみついた。
「離れなさい!貴女まで巻き込んでしまう!」
「行かせない!絶対に1人では行かせない!逝っては駄目よ!生きなさいっ!」
しがみつくレナを振りほどこうとするゼロと、ゼロを逃すまいとしがみつくレナ。
ゼロの下半身は門の中だ。
「私はもう駄目です。離れなさい!」
「嫌っ!絶対に離さない!ゼロが行くならば私も一緒に行ってあげる。絶対に1人では行かせない」
ゼロの首にしがみつくレナ。
「私を置いて行っては駄目っ!」
「私はレナさんを道連れにするわけにはいきません!貴女には生きていて欲しいのです!」
ゼロの言葉に微笑みながら瞳に涙を浮かべてゼロを見つめるレナ。
「・・・ゼロ、好きよ・・・」
ゼロの首にしがみつきながらゼロに口づけをするレナ。
ゼロも黙って受け入れる。
「一緒に行ってあげる」
強くゼロに抱きつくレナ。
ゼロもレナの背に手を回す。
「レナさん、今私は人を愛する気持ちの一端を理解したような気がします。その気持ちが私に僅かな力を取り戻してくれました・・・」
レナの目を見て微笑むゼロを見てレナの顔がこわばった。
「ゼロ、駄目よ。馬鹿な考えはやめ・・・クッ!!」
レナの言葉が終わる前にゼロが僅かに回復した魔力の全てをレナに打ち込んでレナをオックス達の方にはじき飛ばした。
「ゼロッ!」
即座に立ち上がり再び駆け寄ろうとするレナ。
しかし、ゼロの身体は門の中に引きずり込まれ、門が閉じ始める。
「レナさん、最後まですみません。・・・ありがとうございました・・・」
言い残したゼロは闇の中に落ちていき、冥府の門が閉じられた。
「ゼロ、ダメッ!行ってはダメッ!」
門にすがりつき、レイピアを差し込んでこじ開けようとする。
オックス達も門に駆け寄ってレナに加勢するが、堅く閉ざされた門はびくともせず、やがて音もなくその姿を消した。
門が消え、静寂に包まれたその場に残されていたのは、ゼロが最後まで諦めなかった証し、石の床に突き刺したゼロの剣。
それはまるで墓標のようだった。
「ゼローッ!!いやぁーっ!」
静寂の中、レナの悲鳴にも似た叫びが響き渡った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
284
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる