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死の乙女
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「で、腰抜けでもいいって言ってるのって、ツルの事だよな」
出し抜けに言われて、思わず噛んでる途中の干し肉を呑み込んでしまった。喉に詰まり慌てて水を流し込む。
「ど、どうしてそう思うんだ?」
「あたしらの前で本人が公言してるからな。カズは前の方が良かったって。だからトヨケも分かってるぞ」
「え」
それはマズい、誤解される。いや、オレが言ったのはもちろんツルのことだから誤解じゃないんだけど。
「ツルは思ったことそのまま口に出しちまうクセがあるから、トヨケもそこらへんは分かってるけど、お前がツルに気があるとは思っただろうな」
「ご、誤解だって」
それは間違いなく誤解だ。たしかにツルは可愛いし美しいし可憐だし妖精みたいだけど、オレが好きなのは間違いなくトヨケで、そりゃ今日のことはやっちまったなとは思うけど、あれもそもそもはトヨケがあんな優男に愛想良くしてるからで……。
「ちょっと待て、ストップ! お前心の声全部口に出してるぞ」
ハンガクに肩を揺らされて我に返った。
「え、どこから?」
「たしかにツルは可愛いし、から口に出してたな」
「げ」
恥ずかしくてもう声も出せない。オレはトヨケが作ってくれた乾燥バナナをポリポリと噛る。
「トヨケのことが好きなのは分かったけど、それじゃツルのことを誤解されても仕方ないぞ。前も言ったと思うけど、もうちょっとビッとしてらんねえのか?」
「はい、すいません」
「それになんかムカつくな。トヨケとツルばっか褒めやがって目の前にいるあたしの事は褒めねえのかよ」
「もちろんハンガクさんもお美しいっす」
マジで。ハンガクも見た目だけなら間違いなくかなりの美女だ。
「言わされてる感しかないな」
「そんな事ないけど、女の子を褒めるなんて慣れてないからな」
「ほう、トヨケとツルの事はミューズだの妖精だのと言ってるのにか」
「そんな事を口走ってましたか」
「ほれ、あたしの事も讃えてみろ」
「えーっと、死の乙女とか?」
死の乙女は戦いを守護する精霊だ。
精霊魔法を行使する際に召喚されるのだが、能力とは別にその容姿についても語られる事が多い。
そもそも女性の形をとる精霊は水の乙女や風の乙女などを見てもわかるように非現実なほどに容姿端麗だ。
死の乙女は美しさは他の精霊同様なのだが、もう少し個性が見られるというか実在的というかよりリアルなのだ。
従って強くて美しい女性を例える際の常套句ともいえる精霊だ。
正直なところをいえば、肌の色も濃くキリッとした美人のハンガクにはクレオパトラとかそういったオリエンタルな感じの美女を例えにしたいところだ。だけどこちらの世界の知識が乏しいオレには死の乙女ぐらいが精一杯だ。
「死の乙女だあ? ……まあ悪くねえな」
「それなら良かった」
なんだかハンガクがヤンキーとかレディースのお姐さんに見えてきた。敬語使わないでいるのにも努力が必要だ。
「じゃあ、その死の乙女が迫ってきたらどうだ?」
ドンッと肩に衝撃を受けた。
ヤンキー姐さんは手が出るのも早い。
いや、殴られたわけじゃなかった。横並びに座っていたハンガクが肩からぶつかってきたんだ。
咄嗟のことで堪えきれずに体勢を崩す。倒れまいと後ろに手を突いたところで、ぶつかってきたハンガク自身も倒れてきて堪えきれずに共倒れになった。
「いってー、何するんだ」
本当は別に痛くない。
突然下敷きにされたのでびっくりしたので思わず声が出たのだ。
だけど次の瞬間にオレはもっとびっくりすることになった。
ハンガクの顔が仰向けになったオレの目の前に、吐息もかかるほどの近さにあった。
「だから死の乙女がキスを迫ってきたらどうするんだよ?」
囁くようにハンガクが言った。
驚きすぎて声も出ない。
頭が真っ白だ。これって何だ? 何が起きてるんだ?
ハンガクがオレの目を覗き込む。ハンガクの目は楽しそうにやや細められている。
「それでもトヨケの方が良いって言うのか?」
声には笑みが含まれていたが、ふざけているような調子ではない。どちらかというと包み込むような優しさを感じる。
ああ、これはあれだ。押し倒されてるんだ。キスを迫られてるんだ。超美人から。
こんなこと前世と今世を合わせても初めての経験だ。そもそも迫られるのとか関係なくキス自体したことがない。
キスしてみたいっす──そう言おうと思うのだけどパニックと緊張のせいで声が出ない。
そこにすっと唇が降りてきた。抵抗する暇もなく、いや抵抗しようなんて気も起きてなかったのだが、ハンガクの唇がオレの唇に重ねられた。
上唇の先が触れたところでハンガクは顔を少し傾けた。
そしてゆっくりと唇を押し付ける。
柔らかい。唇ってこんなに柔らかかったのか。
触れ合わせたままの唇をハンガクは少しだけ開いた。釣られてオレの唇も同じだけ開く。
ハンガクの舌がそろりと差し出され、入ってきた。
冷たくてつるりとしてるなと思った。
出し抜けに言われて、思わず噛んでる途中の干し肉を呑み込んでしまった。喉に詰まり慌てて水を流し込む。
「ど、どうしてそう思うんだ?」
「あたしらの前で本人が公言してるからな。カズは前の方が良かったって。だからトヨケも分かってるぞ」
「え」
それはマズい、誤解される。いや、オレが言ったのはもちろんツルのことだから誤解じゃないんだけど。
「ツルは思ったことそのまま口に出しちまうクセがあるから、トヨケもそこらへんは分かってるけど、お前がツルに気があるとは思っただろうな」
「ご、誤解だって」
それは間違いなく誤解だ。たしかにツルは可愛いし美しいし可憐だし妖精みたいだけど、オレが好きなのは間違いなくトヨケで、そりゃ今日のことはやっちまったなとは思うけど、あれもそもそもはトヨケがあんな優男に愛想良くしてるからで……。
「ちょっと待て、ストップ! お前心の声全部口に出してるぞ」
ハンガクに肩を揺らされて我に返った。
「え、どこから?」
「たしかにツルは可愛いし、から口に出してたな」
「げ」
恥ずかしくてもう声も出せない。オレはトヨケが作ってくれた乾燥バナナをポリポリと噛る。
「トヨケのことが好きなのは分かったけど、それじゃツルのことを誤解されても仕方ないぞ。前も言ったと思うけど、もうちょっとビッとしてらんねえのか?」
「はい、すいません」
「それになんかムカつくな。トヨケとツルばっか褒めやがって目の前にいるあたしの事は褒めねえのかよ」
「もちろんハンガクさんもお美しいっす」
マジで。ハンガクも見た目だけなら間違いなくかなりの美女だ。
「言わされてる感しかないな」
「そんな事ないけど、女の子を褒めるなんて慣れてないからな」
「ほう、トヨケとツルの事はミューズだの妖精だのと言ってるのにか」
「そんな事を口走ってましたか」
「ほれ、あたしの事も讃えてみろ」
「えーっと、死の乙女とか?」
死の乙女は戦いを守護する精霊だ。
精霊魔法を行使する際に召喚されるのだが、能力とは別にその容姿についても語られる事が多い。
そもそも女性の形をとる精霊は水の乙女や風の乙女などを見てもわかるように非現実なほどに容姿端麗だ。
死の乙女は美しさは他の精霊同様なのだが、もう少し個性が見られるというか実在的というかよりリアルなのだ。
従って強くて美しい女性を例える際の常套句ともいえる精霊だ。
正直なところをいえば、肌の色も濃くキリッとした美人のハンガクにはクレオパトラとかそういったオリエンタルな感じの美女を例えにしたいところだ。だけどこちらの世界の知識が乏しいオレには死の乙女ぐらいが精一杯だ。
「死の乙女だあ? ……まあ悪くねえな」
「それなら良かった」
なんだかハンガクがヤンキーとかレディースのお姐さんに見えてきた。敬語使わないでいるのにも努力が必要だ。
「じゃあ、その死の乙女が迫ってきたらどうだ?」
ドンッと肩に衝撃を受けた。
ヤンキー姐さんは手が出るのも早い。
いや、殴られたわけじゃなかった。横並びに座っていたハンガクが肩からぶつかってきたんだ。
咄嗟のことで堪えきれずに体勢を崩す。倒れまいと後ろに手を突いたところで、ぶつかってきたハンガク自身も倒れてきて堪えきれずに共倒れになった。
「いってー、何するんだ」
本当は別に痛くない。
突然下敷きにされたのでびっくりしたので思わず声が出たのだ。
だけど次の瞬間にオレはもっとびっくりすることになった。
ハンガクの顔が仰向けになったオレの目の前に、吐息もかかるほどの近さにあった。
「だから死の乙女がキスを迫ってきたらどうするんだよ?」
囁くようにハンガクが言った。
驚きすぎて声も出ない。
頭が真っ白だ。これって何だ? 何が起きてるんだ?
ハンガクがオレの目を覗き込む。ハンガクの目は楽しそうにやや細められている。
「それでもトヨケの方が良いって言うのか?」
声には笑みが含まれていたが、ふざけているような調子ではない。どちらかというと包み込むような優しさを感じる。
ああ、これはあれだ。押し倒されてるんだ。キスを迫られてるんだ。超美人から。
こんなこと前世と今世を合わせても初めての経験だ。そもそも迫られるのとか関係なくキス自体したことがない。
キスしてみたいっす──そう言おうと思うのだけどパニックと緊張のせいで声が出ない。
そこにすっと唇が降りてきた。抵抗する暇もなく、いや抵抗しようなんて気も起きてなかったのだが、ハンガクの唇がオレの唇に重ねられた。
上唇の先が触れたところでハンガクは顔を少し傾けた。
そしてゆっくりと唇を押し付ける。
柔らかい。唇ってこんなに柔らかかったのか。
触れ合わせたままの唇をハンガクは少しだけ開いた。釣られてオレの唇も同じだけ開く。
ハンガクの舌がそろりと差し出され、入ってきた。
冷たくてつるりとしてるなと思った。
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