ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

山程ある

文字の大きさ
4 / 106

盗難

しおりを挟む
 盗んだヤツが逃げ続けているなら、探しに行く方向を間違えれば二度と追いつけなくなる。ここは勘頼みしかないのか。

「シルバー、犯人はどっちに行った?」

 いつもの癖で愛車に話しかける。もちろん本気で答えを求めているわけではない。
 だけどその時、チャリオッツのハンドルががくんと回転した。

 デバッグを乗せてバランスを取っていたので、その重みがなくなったために動いたのだろう。だけどシルバーチャリオッツ号が何かを訴えかけたような気がして、その顔(ライトとかカゴの付いてるあたり)が向いたのと同じ方を見た。
 車道を挟んでコンビニの向かい側にからあげ屋があった。商品を受け渡すカウンターだけ、テイクアウト専門の小さな店だ。そのカウンターの向こう側では高校生ぐらいの茶髪の女の子がお客さんに対応していた。

「そうか、もしかしてデバッグが盗まれた所を見ているかもしれないな」

 ふつうに考えれば、接客をしている時に通りの反対側なんか見てないだろうけど、ここはダメ元だ。
 車が来ていないのを確認してからシルバーチャリオッツ号を押して小走りで道路を渡る。

「あの、すいません」

「いらっしゃいませ」

 笑顔もなにもないままそう言われたが、それはそれで客ではないことに引け目を感じなくて良い。

「あそこに自転車駐めてたんですけど、誰かがデバ……配達用のバッグを持って行ったのを見ませんでしたか?」

 そう訊くと、店員はきょとんとした顔をした。なにを言われてるのかなかなか理解できないのだろう。

「コンビニ入って出てきたら、置いてたバッグがなくなってて」

「えーっと、つまり、バッグ盗まれたんすか?」

「そうなんです。黒くて四角くて大きなバッグなんです。白と緑のアルファベットでディーバーウーズって入ってるバッグなんですけど」

「お兄さん、ディーバーの人なんだ。でもごめん、ずっとお客さん来てたからうちは何も見てないよ」

 愛想こそ良くはならなかったが、店員の女の子は意外と丁寧に対応してくれた。
 だけど得られるものはなかった。となると、後は勘で見当を付けて追いかけるしかない。

「あら、私見たわよ」

 横からそう声を掛けてくれたのは、五十代ぐらいのおばさんだった。
 手にこのからあげ屋の小さなビニール袋を提げている。買い物帰りにからあげを買いに寄ったって感じだ。

「本当ですか!?」

「ええ、あの銀色の自転車よね? からあげ頼んで、待ってる間に何となく通りの方見てたら誰かが自転車に置いてあった箱みたいなの持ってってたわよ。あれ配達用のバッグなのね」

「どんなヤツでした? どっちに行きました?」

 勢い込んでそう聞く。
 おばさんは通りの先を指さした。

「同じようなバッグを背負って自転車に乗った人だったわ。だから盗んだようには見えなくて、お仲間の人のバッグを持っていってるようにしか思わなかったの。あっちの方へすごい勢いで走っていったわよ」


「ありがとうございます!」


 お礼の言葉もそこそこに、シルバーチャリオッツ号に走って戻った。
 犯人が自転車なら、逃げた方向が分かっても追いつけるかどうか分からない。というか追いつけない可能性の方が高い。向こうだって逃げているわけだし。それでも追いかけないワケにはいかない。
 ペダルの上で立ち上がると、全力中の全力でペダルを踏み込んだ。

 車道の左端でオレとシルバーチャリオッツ号は一陣の風になっていた。
 前を走っていた原付を追い越す。我ながらかなりの速度か出ている。
 相手はバッグを二つ持っているのだから、もしかすると追いつけるかもしれない。

「いた!」

 まだかなり遠くだが、背中に二つのデバッグを引っ掛けたヤツが自転車──たぶんクロスバイクを漕いでいる。

 デバッグはかなりデカい。普通にひとつだけ背負っても背中から頭にかけての全部が隠れるほどだ。
 それが二つなのだからかなり不恰好だ。
 そして心なしか、自転車の進みもヨロヨロしている気がする。

「シルバー、追いつけるぞ!」

 愛車に声をかけると、腹筋に力を込めてさらに強くペダルを踏み込んだ。
 先に見える信号機はタイミングの良いことにすべて青だ。ぐんぐんと距離が詰まっていく。
 その時相手が振り返って後を確認した。遠目にも分かるほどにギクリとした。まさかオレが追いかけてきてるとは考えもしてなかったようだ。

 そしてオレは確信した。 
 もしかするとそうかも知れないとの考えはあったが、根拠もなく疑うのも流石に悪いかと思い、その予想は自分の中でも伏せていた。

 オレのデバッグを盗んだのは、ワックの前でシルバーチャリオッツ号の前輪を蹴りやがったあの野郎だった。

「待ちやがれ!」

 叫んでオレはさらにスピードを上げた。
 当然向こうもペースを上げているが、それでもジワジワと距離は縮まる。

 相手が交差点を渡った。
 時間にして数秒後にオレもその交差点に差し掛かる。
 信号は青が点滅しているがまだまだ渡れる。なんの問題もない。もう追いつく。

 その時、窃盗野郎がオレのバッグを放り投げた。

 交差する道路、オレたちからすると左側の方へ。
 デバッグは数度跳ねて路上に転がった。
 オレはバッグに釣られて、思わずにハンドルを左へと切っていた。

 猛スピードで車体も倒さずに急ハンドル──もし一瞬でも考えれば、どうなるのかは分かったはずだ。
 だけどこの時のオレはその一瞬すら考えることははなく反射的にそうしていた。

 結果は激しい転倒。
      
 たぶん頭とか肩とかから地面にダイブしたはずだ。その痛みはなんとなく覚えている。

 最悪の最悪に運が悪かったのはその直後だ。

 反対車線を走っていたワゴン車が、信号が変わるギリギリ、あるいは変わった直後に交差点を猛スピードで右折してきた。
 どうやらシルバーチャリオッツ号と絡まり合う形で転倒しているオレは見えなかったらしい。

 迫ってきたバンパーがシルバーチャリオッツ号の後輪をへし曲げるのは見た。


 それから次はオレの腰の辺りの骨が砕かれた気がする。


 痛みは感じなかったのが救いだ。



 痛みを感じる前の即死だったんだろう。







 ……そう、こうしてオレの25年に渡るなんの変哲も面白みもない人生は幕を下ろしたのだった。


 一度でいいから可愛い女の子と付き合ってみたりしたかったな。

 一度でいいから海原雄山が行くような高級料亭で食べてみたかったな。

 一度でいいからフランスの三ツ星レストランで食事がしたかったな。

 一度でいいから中国の満漢全席を食べたかったな。

 一度でいいからタイで宮廷料理を食べたかったな。

 一度でいいからベトナムの生春巻きとか台湾の小籠包とか韓国の参鶏湯とかイタリアの生ハムとかスペインのパエリアとかロシアのピロシキとかハワイのロコモコとかイギリスのフィッシュアンドチップスとかインドのカレーとか、あと色々、その国の本場のやつが食べてみたかったな。

 走馬灯ってのは回らなかったが、果たされなかった欲望だけがぐるぐるとオレの意識の中で回っていた。

 というか、我ながら食べることばっかりじゃないか。

 それからふわっと意識が闇に霧散したような感覚がきて




 完全な無が訪れた。




 と思ったんだけど、気が付いてみると、こっちの世界に……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...