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ジャンプ
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「あの程度なら我が」
「放っておこうよ」
野盗たちの方へ歩きだそうとする獣人をシルバーが制した。
「討伐したいなら、また別の日にしなよ」
「だが」
戸惑いの表情を浮かべながらもヤムトは足を止める。
「シルバーって、面倒くさがりだよな。やらずに済むことは極力やらずに済ませようとするフシがある」
「それがふつーじゃないの?
効率を考えられないなら、効率を考えて橋を落としたあの野盗たちより低レベルって事になっちゃうよ」
「確かにな。それに効率云々を言うなら、あいつらの駆除は討伐依頼が出てからの方が良いしな」
ギルドに野盗出現の報告だけでも入れておけば、そのうち依頼も出るだろう。
もちろん達成できる実力はオレにはないが、拘るのならばヤムトが自分のパーティとまたここに来ればいい。
「と、いうわけだから二人とも乗って」
シルバーの言葉に従って、オレはサドルに跨った。
少しの躊躇を見せながらもヤムトも荷台に跨る。
体が大きいので、大の大人が三輪車に乗っているようなおかしさがある。
これ前にいた世界ならおまわりさんに止められるやつだよな。
「じゃ、行くよ」
言うなりシルバーは発進した。急加速に身体の中身が置いていかれるような気持ち悪さを覚える。
「うおっ」
後ろで声が上がった。
「ヤムト、オレの腰に手を回してしがみつけ! 振り落とされるぞ!」
言うと、言葉通りに太い腕が回された。一瞬、圧死させられそうな錯覚に陥る。
二人乗りミスリルドラゴンでこんなに速度を出すのは初めてだが、バイクのタンデムの要領で大丈夫だろう。バイク乗ったことはないけど。
やや急な勾配だが、またたく間に速度を上げ、シルバーは疾風のように崖へと向かう。
包囲していた野盗は矢の一つも放てずにただ見送っている。
ジャンプ台から飛び出すように、シルバーは崖から宙へと身を踊らせた。
怖いとか怖くないとかを考える暇もなかった。何が何かも分からないうちに視界に空が広がっていた。空だ。空にいる。
思わず目をおろす。足の下には何もない。遠くに川。下半身から力が抜ける。パニックになりそうだ。
高いとこで下を見てはいけない。慌てて顔を上げ、まっすぐ前を見た。
シルバーが上昇から下降に移った。
対岸の崖。山地の向こうには平野。遠くの山々。地平線。
崖が迫る。今度は衝突の恐怖が湧き上がる。
悲鳴も上げられず目を閉じた。次の瞬間下からの衝撃が身体を走り抜けた。
だが驚きこそすれ、ダメージを受けるほどのものではなかった。
サスペンションも付いていないママチャリがどうやって着地の衝撃を殺したのかは知る由もない。とにかくオレたちは無事谷を飛び越えて反対側の岩場に着地していた。
「こいつは驚いた。まさか空を飛ぶ日がくるとは思わなかった」
後からヤムトの声がした。
驚いたってなんだよ。こっちは魂が抜けそうたぞ。ドキドキすらしねえ。ビビりすぎて心臓も心拍数上げるのを忘れてやがる。
「恐くなかった?」
シルバーが訊く。
「味わったことのない感覚だった。恐くはないがクセになりそうではある」
「ああ、そうだよな」
一応オレも相槌を打った。
ヤムトはなんだか嬉しそうだ。こいつは絶叫マシンを楽しめる部類の人間だ。
「おい、どうしたんだ!?」
シルバーが止らない。着地後そのまま走って山道を下り始めた。
「このまま二人とも乗せていくよ」
言うなりシルバーは更に速度を上げた。
木々や岩石の疎らな場所を抜け山道に入る。
ぐねぐねと曲がる山道をハイスピードで下りハンドルを連続して左右に切るので、オレとヤムトの体がぐらんぐらん揺らされる。
平野に出てようやく振り子地獄から解放された。
シルバーはここぞとばかりさらに加速した。草原だろうと荒れ地だろうと路面のコンディションはシルバーの走りに全く影響を与えないらしく、快適に走り抜ける。
何度か小川に行く手を阻まれもしたが、橋のない川は水面に顔を出した岩をぴょんぴょんと跳んで渡った。
「これは……。オレに付き合わせてて悪かったな」
ヤムトが言った。
確かに、ヤムトに合わせて並走していた時とは段違いの速さだった。
「良いって事だよ。のんびり行くのも楽しいしね」
そんなやり取りをしている間にも、遠くに見えていた山が間近に迫っていた。
「もう着くよ、カキプロル山」
「放っておこうよ」
野盗たちの方へ歩きだそうとする獣人をシルバーが制した。
「討伐したいなら、また別の日にしなよ」
「だが」
戸惑いの表情を浮かべながらもヤムトは足を止める。
「シルバーって、面倒くさがりだよな。やらずに済むことは極力やらずに済ませようとするフシがある」
「それがふつーじゃないの?
効率を考えられないなら、効率を考えて橋を落としたあの野盗たちより低レベルって事になっちゃうよ」
「確かにな。それに効率云々を言うなら、あいつらの駆除は討伐依頼が出てからの方が良いしな」
ギルドに野盗出現の報告だけでも入れておけば、そのうち依頼も出るだろう。
もちろん達成できる実力はオレにはないが、拘るのならばヤムトが自分のパーティとまたここに来ればいい。
「と、いうわけだから二人とも乗って」
シルバーの言葉に従って、オレはサドルに跨った。
少しの躊躇を見せながらもヤムトも荷台に跨る。
体が大きいので、大の大人が三輪車に乗っているようなおかしさがある。
これ前にいた世界ならおまわりさんに止められるやつだよな。
「じゃ、行くよ」
言うなりシルバーは発進した。急加速に身体の中身が置いていかれるような気持ち悪さを覚える。
「うおっ」
後ろで声が上がった。
「ヤムト、オレの腰に手を回してしがみつけ! 振り落とされるぞ!」
言うと、言葉通りに太い腕が回された。一瞬、圧死させられそうな錯覚に陥る。
二人乗りミスリルドラゴンでこんなに速度を出すのは初めてだが、バイクのタンデムの要領で大丈夫だろう。バイク乗ったことはないけど。
やや急な勾配だが、またたく間に速度を上げ、シルバーは疾風のように崖へと向かう。
包囲していた野盗は矢の一つも放てずにただ見送っている。
ジャンプ台から飛び出すように、シルバーは崖から宙へと身を踊らせた。
怖いとか怖くないとかを考える暇もなかった。何が何かも分からないうちに視界に空が広がっていた。空だ。空にいる。
思わず目をおろす。足の下には何もない。遠くに川。下半身から力が抜ける。パニックになりそうだ。
高いとこで下を見てはいけない。慌てて顔を上げ、まっすぐ前を見た。
シルバーが上昇から下降に移った。
対岸の崖。山地の向こうには平野。遠くの山々。地平線。
崖が迫る。今度は衝突の恐怖が湧き上がる。
悲鳴も上げられず目を閉じた。次の瞬間下からの衝撃が身体を走り抜けた。
だが驚きこそすれ、ダメージを受けるほどのものではなかった。
サスペンションも付いていないママチャリがどうやって着地の衝撃を殺したのかは知る由もない。とにかくオレたちは無事谷を飛び越えて反対側の岩場に着地していた。
「こいつは驚いた。まさか空を飛ぶ日がくるとは思わなかった」
後からヤムトの声がした。
驚いたってなんだよ。こっちは魂が抜けそうたぞ。ドキドキすらしねえ。ビビりすぎて心臓も心拍数上げるのを忘れてやがる。
「恐くなかった?」
シルバーが訊く。
「味わったことのない感覚だった。恐くはないがクセになりそうではある」
「ああ、そうだよな」
一応オレも相槌を打った。
ヤムトはなんだか嬉しそうだ。こいつは絶叫マシンを楽しめる部類の人間だ。
「おい、どうしたんだ!?」
シルバーが止らない。着地後そのまま走って山道を下り始めた。
「このまま二人とも乗せていくよ」
言うなりシルバーは更に速度を上げた。
木々や岩石の疎らな場所を抜け山道に入る。
ぐねぐねと曲がる山道をハイスピードで下りハンドルを連続して左右に切るので、オレとヤムトの体がぐらんぐらん揺らされる。
平野に出てようやく振り子地獄から解放された。
シルバーはここぞとばかりさらに加速した。草原だろうと荒れ地だろうと路面のコンディションはシルバーの走りに全く影響を与えないらしく、快適に走り抜ける。
何度か小川に行く手を阻まれもしたが、橋のない川は水面に顔を出した岩をぴょんぴょんと跳んで渡った。
「これは……。オレに付き合わせてて悪かったな」
ヤムトが言った。
確かに、ヤムトに合わせて並走していた時とは段違いの速さだった。
「良いって事だよ。のんびり行くのも楽しいしね」
そんなやり取りをしている間にも、遠くに見えていた山が間近に迫っていた。
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