59 / 106
慎重
しおりを挟む
ヨールはとても神官とは思えない行儀の悪さでサンドイッチをほおばった。
「うめえ」
もぐもぐくちゃくちゃと咀嚼しながら言う。
「たしかに美味いな。あと二つ三つは欲しいところだ」
一瞬でサンドイッチを平らげてしまったヤムトが言った。
「それだけしか持ってきてねえよ。日帰りだっていうから他に食料もなにも持ってきてないし」
オレの荷物はナップザックひとつだけだった。
冒険者として最低限必要なあれやこれやの道具は持ってきているが、食い物はこのサンドイッチだけを無理やり詰めてきたのだ。異次元収納などという便利なスキルを持っていない身としては致し方ないところ。
「ルシッド、どうだ?」
作った身としては感想を聞きたくなる。
オレが水を向けるとルシッドも「美味いな」と短く返した。
「あまり好きじゃないわね」
こちらが聞くよりも先にレミックはそう言った。どこか挑むような口調だ。
「辛いのが好きじゃないの」
「ぜんぶ食べてるじゃないか。残してくれても良かったんだぜ」
「今から森に入って、次はいつ食べられるか分からないんだもの」
「とか言うわりには、何も食べ物用意してきてないじゃないか」
オレが言うと、ヤムトが振り返って、目線で鳥車を示した。
御者が手を挙げてモア鳥に牧草を与えていた。
オレたちがいつ戻って来られるか分からないため、鳥車はこの場所で待機する手はずになっていた。
万が一野盗に見つかるような事態になれば、その時は全力で逃げるように言い含めてある。
「食糧は鳥車に積んである。干し肉と硬いパンだけだが、量はそれなりに用意した」
「ここに戻ってさえくれば食えるわけか。それは安心だな」
戻って来られないような事態になっていたら、その時はもう食糧云々いってる場合ではないだろう。
しかし今回の野盗討伐に関して、オレはまったく心配をしていなかった。なにしろペンディエンテの冒険者ギルドで一番の実力と実績を持ったパーティーなのだ。
オレにも役割こそ振られているが、実際の戦闘になったらヤムトとルシッドの二人だけでカタがつくのではないかと思っていた。
「行こうか。できれば日のあるうちにアジトを見つけたい」
ルシッドが言った。
シルバーとここに来た時は呼びもしないのに、野盗が寄ってきたのであまり深く考えていなかったのだが、討伐を目的とするのならば、アジトを見つけて先手を打つほうがいいに決まっている。
「でもどうやって隠れてるところを見つけるんだ? 誘い出したほうが手っ取り早くないか?」
「もちろん見つけられなかった場合は誘い出す。だがそれだと不意打ちされるリスクもあるうえに、敵の数が掴めなくなってしまう」
たしかにそうだ。
前に見たのは五人そこそこだったが、あれで全員だとは限らないのだ。全体の何割ぐらいなのかも分からない。
「オレの神聖魔法で見つける」
ヨールは首をコキコキと鳴らして続ける。
「生命力を感知する魔法があるんだ。効果範囲が広くはないから、どのみち歩き回らないといけないけどな」
「なるほど。藪や洞窟に頭を突っ込んで探すことを考えれば、魔法があればずいぶんと安全だな」
ヨールの言葉で思い出したが、シルバーには広範囲にわたって効果のある探索スキルがあったな。
今さらながらあれはかなりチートな能力だったんだ。
ヨールを挟むように左右にヤムトとルシッドが並び、オレとレミックはその後ろについた形で森を進んだ。
以前にも来たことがあり、勝手の分からない道ではない。ルシッドたちにとってはなおのことだろう。
それでも野盗の気配を探りながらオレたちは慎重に進んだ。
鳥の声。風に撫でられた木の葉のざわめき。下生えの茂みをなにか小さな生き物が揺らせる音。
無言で澄ませていた耳に、やがてせせらぎの音が聴こえてきた。谷が近い。落とされていた吊り橋までもそう距離はないはずだ。
「谷のほうへ行ってみるか?」
音量を絞った声でオレが訊いた。
「いや、吊り橋や谷沿いは野盗が目を光らせているはずだ。迂闊に出てこちらの姿をさらすのは避けたい。
一度道を逸れて、このあたりを探してみよう」
ルシッドは囁くように答えた。
人に突然ケンカをふっかけてくるキャラには似合わず、行動方針は慎重なようだ。
「分かった」
リーダーであるルシッドの意思決定はパーティにとって絶対なのだろう。ヤムトとヨール、レミックはコメントすらなしにルシッドに従った。
道を逸れるといっても藪漕ぎなどをして音を出すわけにはいかない。かなり大回りにはなるが木立の疎らなところを選んで進んだ。
時々ヨールが立ち止まっては魔法を使ってあたりの様子を窺う。
そうしてしばらく付近を探索したが、野盗はおろかその気配も見つけられなかった。
「やはり谷のほうか」
ルシッドが言った。
「やはりと思うんなら最初から谷に行けばよかったじゃないのか」
オレが言うと、ルシッドは不思議そうな顔をした。
「無防備な背中から襲われる可能性もあるといっただろう。先に可能な限りその可能性を潰しておくのが当然じゃないか?」
まったくの正論だ。
さっさと敵を見つけたかっただけのオレは言葉に詰まった。
嫌なやつだという思いは変わらないが、こいつがギルドでナンバーワンのパーティのリーダーだということには納得がいった。ただ強いだけではなく、パーティメンバーの命を大事にしているのだ。
「野盗の野営地はいくつかある滝のうちのどこかじゃないかとは話をしてたんだ」
ヤムトが言った。
「岩壁が複雑に入り組んでいて外からは見えづらい。場所によっては滝の裏に空間ができている所もある。
なにより滝の音が気配を隠してくれるからな」
オレは頷く。
以前鉱石採集に来た時にもいくつか滝を見た。入り組んだ岸壁の間を流れる川は細く、どの滝もさほどの高さはなかった。しかし滝壺の周囲の岸辺には少し開けた場所があり、野営地とするには都合が良さそうだった。
「行くんなら早くしないと日が落ちるぞ」
オレがそう言うとルシッドはまたもや首を横に振った。
「滝を探索するのは暗くなってからだ」
「うめえ」
もぐもぐくちゃくちゃと咀嚼しながら言う。
「たしかに美味いな。あと二つ三つは欲しいところだ」
一瞬でサンドイッチを平らげてしまったヤムトが言った。
「それだけしか持ってきてねえよ。日帰りだっていうから他に食料もなにも持ってきてないし」
オレの荷物はナップザックひとつだけだった。
冒険者として最低限必要なあれやこれやの道具は持ってきているが、食い物はこのサンドイッチだけを無理やり詰めてきたのだ。異次元収納などという便利なスキルを持っていない身としては致し方ないところ。
「ルシッド、どうだ?」
作った身としては感想を聞きたくなる。
オレが水を向けるとルシッドも「美味いな」と短く返した。
「あまり好きじゃないわね」
こちらが聞くよりも先にレミックはそう言った。どこか挑むような口調だ。
「辛いのが好きじゃないの」
「ぜんぶ食べてるじゃないか。残してくれても良かったんだぜ」
「今から森に入って、次はいつ食べられるか分からないんだもの」
「とか言うわりには、何も食べ物用意してきてないじゃないか」
オレが言うと、ヤムトが振り返って、目線で鳥車を示した。
御者が手を挙げてモア鳥に牧草を与えていた。
オレたちがいつ戻って来られるか分からないため、鳥車はこの場所で待機する手はずになっていた。
万が一野盗に見つかるような事態になれば、その時は全力で逃げるように言い含めてある。
「食糧は鳥車に積んである。干し肉と硬いパンだけだが、量はそれなりに用意した」
「ここに戻ってさえくれば食えるわけか。それは安心だな」
戻って来られないような事態になっていたら、その時はもう食糧云々いってる場合ではないだろう。
しかし今回の野盗討伐に関して、オレはまったく心配をしていなかった。なにしろペンディエンテの冒険者ギルドで一番の実力と実績を持ったパーティーなのだ。
オレにも役割こそ振られているが、実際の戦闘になったらヤムトとルシッドの二人だけでカタがつくのではないかと思っていた。
「行こうか。できれば日のあるうちにアジトを見つけたい」
ルシッドが言った。
シルバーとここに来た時は呼びもしないのに、野盗が寄ってきたのであまり深く考えていなかったのだが、討伐を目的とするのならば、アジトを見つけて先手を打つほうがいいに決まっている。
「でもどうやって隠れてるところを見つけるんだ? 誘い出したほうが手っ取り早くないか?」
「もちろん見つけられなかった場合は誘い出す。だがそれだと不意打ちされるリスクもあるうえに、敵の数が掴めなくなってしまう」
たしかにそうだ。
前に見たのは五人そこそこだったが、あれで全員だとは限らないのだ。全体の何割ぐらいなのかも分からない。
「オレの神聖魔法で見つける」
ヨールは首をコキコキと鳴らして続ける。
「生命力を感知する魔法があるんだ。効果範囲が広くはないから、どのみち歩き回らないといけないけどな」
「なるほど。藪や洞窟に頭を突っ込んで探すことを考えれば、魔法があればずいぶんと安全だな」
ヨールの言葉で思い出したが、シルバーには広範囲にわたって効果のある探索スキルがあったな。
今さらながらあれはかなりチートな能力だったんだ。
ヨールを挟むように左右にヤムトとルシッドが並び、オレとレミックはその後ろについた形で森を進んだ。
以前にも来たことがあり、勝手の分からない道ではない。ルシッドたちにとってはなおのことだろう。
それでも野盗の気配を探りながらオレたちは慎重に進んだ。
鳥の声。風に撫でられた木の葉のざわめき。下生えの茂みをなにか小さな生き物が揺らせる音。
無言で澄ませていた耳に、やがてせせらぎの音が聴こえてきた。谷が近い。落とされていた吊り橋までもそう距離はないはずだ。
「谷のほうへ行ってみるか?」
音量を絞った声でオレが訊いた。
「いや、吊り橋や谷沿いは野盗が目を光らせているはずだ。迂闊に出てこちらの姿をさらすのは避けたい。
一度道を逸れて、このあたりを探してみよう」
ルシッドは囁くように答えた。
人に突然ケンカをふっかけてくるキャラには似合わず、行動方針は慎重なようだ。
「分かった」
リーダーであるルシッドの意思決定はパーティにとって絶対なのだろう。ヤムトとヨール、レミックはコメントすらなしにルシッドに従った。
道を逸れるといっても藪漕ぎなどをして音を出すわけにはいかない。かなり大回りにはなるが木立の疎らなところを選んで進んだ。
時々ヨールが立ち止まっては魔法を使ってあたりの様子を窺う。
そうしてしばらく付近を探索したが、野盗はおろかその気配も見つけられなかった。
「やはり谷のほうか」
ルシッドが言った。
「やはりと思うんなら最初から谷に行けばよかったじゃないのか」
オレが言うと、ルシッドは不思議そうな顔をした。
「無防備な背中から襲われる可能性もあるといっただろう。先に可能な限りその可能性を潰しておくのが当然じゃないか?」
まったくの正論だ。
さっさと敵を見つけたかっただけのオレは言葉に詰まった。
嫌なやつだという思いは変わらないが、こいつがギルドでナンバーワンのパーティのリーダーだということには納得がいった。ただ強いだけではなく、パーティメンバーの命を大事にしているのだ。
「野盗の野営地はいくつかある滝のうちのどこかじゃないかとは話をしてたんだ」
ヤムトが言った。
「岩壁が複雑に入り組んでいて外からは見えづらい。場所によっては滝の裏に空間ができている所もある。
なにより滝の音が気配を隠してくれるからな」
オレは頷く。
以前鉱石採集に来た時にもいくつか滝を見た。入り組んだ岸壁の間を流れる川は細く、どの滝もさほどの高さはなかった。しかし滝壺の周囲の岸辺には少し開けた場所があり、野営地とするには都合が良さそうだった。
「行くんなら早くしないと日が落ちるぞ」
オレがそう言うとルシッドはまたもや首を横に振った。
「滝を探索するのは暗くなってからだ」
0
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる