64 / 106
リーダーの判断
しおりを挟む
確認作業はすぐに終わった。
レミックが全ての繁みに水の礫を飛ばしたが他の敵は潜んでいなかった。
「あの繁みだけだったようだな」
「あなたやっぱり何かのスキルを使ってるんじゃないの?」
「いや、ほんとにただの山勘だよ」
ルシッドとヨールを肩に担いだヤムトも、草木の密集する繁みに退却していた。
合図を送り合ったわけではないが、向こうもこちらの位置を把握していたようで、森の中をぐるりと回ってオレたちが身を潜めている場所を目指しているようだ。
「一度引くべきだな」
オレは言った。
「繁みに見張りまで配置して襲撃に備え、武器も揃えている。あれはただの野盗の群れじゃない。訓練された組織だ」
「その方がいいわね」
「崖を登る魔法なんてないよな?」
「ええ、ないわ」
やはり下りる魔法はあっても上がる魔法はないのだ。
レミックの落下制御で降りた崖を見上げる。とても登れそうにない。
「どうやって戻るつもりだったんだ? ロッククライミングなんてできねえぞ、オレ」
そこまで言ってオレは気付いた。
「ああ、そうか。野盗が使っている登り口がどこかにあるはずだよな」
「そんなものを使うのは、敵に撃ってくれといってるようなものだ」
背後から不機嫌そうな声がした。
「ルシッド、大丈夫だった?」
レミックが飛びつかんばかりの勢いでルシッドの元に駆け寄る。
「問題ない」
「ヤムトとヨールは矢で射られてたよな」
オレが言うと、ルシッドはアゴを動かして自分の横を示した。
ヨールが呪文を唱えながらふくらはぎに刺さった矢に手を添えていた。
傷口がほのかに白く発光しているのは回復魔法が発動している証拠だろう。
矢が刺さった場合、安易に抜くことでかえって重症化することもあると聞く。
しかし回復魔法を使える術者がいる場合は別だ。魔法をかけつつ瞬時に矢を引き抜くことで、重症化を防げるうえに痛みもほとんど感じないらしい。
それでもオレなら自分で矢を抜く度胸なんてとてもないが。
矢が抜かれる際、オレは目を背けたが治療は一瞬で済んだらしい。すぐに軽快な動作でヨールは獣人の背側にまわった。矢の刺さったとおぼしき箇所を手で探る。
「かすり傷だな」
ヤムトは軽傷だったらしい。その剛毛と筋肉に阻まれて矢は皮膚に深く刺さることができなかったようだ。軽い手付きでヨールが抜く。
「だけど毒が塗られている可能性もある。治癒と解毒の魔法をかけておくよ」
傷口に手をかざしてヨールは再び呪文を唱えた。
「で、どうやって上にあがるつもりだったんだ?」
ヤムトの傷口に魔法の光が染み込んでいくのを横目に見ながら、改めてルシッドに訊いた。
「上がる必要はない。退却時には川を下ればいい。レミックは浮力を得られる魔法が使える」
ルシッドが言うとレミックも頷いている。
予めそういう作戦だったのだろう。これもまたオレにだけ知らされていなかったらしい。別にいいんだが。
「なるほど、その手があったか。ん?」
ルシッドの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「退却時はって、退却するんだよな?」
「いいや、しない。
今退却をするとやつらを取り逃がすことになる。今回のことでさらに防備を固められれば、次はものすごく大掛かりな準備と人数が必要になる」
「今だってやつらは十分に防備を固めてるし、オレたちの戦力じゃ攻めきれないって」
無表情で何を考えているか分からない剣士を、オレは初めて怖いと思った。
勝算のあるなしや、安全かどうかで考えているんじゃない。ただミッション達成のための効率だけをみて作戦を決めているのだ。
頭がおかしい。いや、なんちゃって冒険者のオレには理解できないだけで、冒険者というのはみんなこうなのだろうか。
救いを求めるようにオレはヤムトを見た。ああ見えてあいつは常識人だ。
だがヤムトはルシッドの言葉に深く頷いている。自身の肉体に絶対的な自信を誇る獣人だからどんな無茶な作戦でも無茶と思わないのだろう。
レミックはダメだ。さっきはオレの退却した方がいいという意見に同意したが、ルシッドが言うことなら何でもうんうんと受け入れてしまう。
二人がそういう関係なのはレミックの表情を見ていて気付いてしまった。ふだんなら死ぬほど羨ましいし、絶対に許せなくて何らかの嫌がらせをするところだが、今はそんなことをいっている場合じゃない。
「よ、ヨールはどう思う?」
最後の頼みの綱だ。
身体が小さくて力も弱いヨールならばこんな無茶な判断にノーと言ってくれるかもしれない。
「ん? オレ?」
名前を呼ばれたことが意外だったのか、ヨールはぽかんとした顔でオレを見返した。
それから肩をすくめてこう答えた。
「そんなのリーダーの判断に任せるに決まってるだろ?」
オレは天を仰いだ。
もうダメだ。こいつらみんな狂信者だ。ルシッドを教祖としたカルト集団みたいなもんだ。
レミックが全ての繁みに水の礫を飛ばしたが他の敵は潜んでいなかった。
「あの繁みだけだったようだな」
「あなたやっぱり何かのスキルを使ってるんじゃないの?」
「いや、ほんとにただの山勘だよ」
ルシッドとヨールを肩に担いだヤムトも、草木の密集する繁みに退却していた。
合図を送り合ったわけではないが、向こうもこちらの位置を把握していたようで、森の中をぐるりと回ってオレたちが身を潜めている場所を目指しているようだ。
「一度引くべきだな」
オレは言った。
「繁みに見張りまで配置して襲撃に備え、武器も揃えている。あれはただの野盗の群れじゃない。訓練された組織だ」
「その方がいいわね」
「崖を登る魔法なんてないよな?」
「ええ、ないわ」
やはり下りる魔法はあっても上がる魔法はないのだ。
レミックの落下制御で降りた崖を見上げる。とても登れそうにない。
「どうやって戻るつもりだったんだ? ロッククライミングなんてできねえぞ、オレ」
そこまで言ってオレは気付いた。
「ああ、そうか。野盗が使っている登り口がどこかにあるはずだよな」
「そんなものを使うのは、敵に撃ってくれといってるようなものだ」
背後から不機嫌そうな声がした。
「ルシッド、大丈夫だった?」
レミックが飛びつかんばかりの勢いでルシッドの元に駆け寄る。
「問題ない」
「ヤムトとヨールは矢で射られてたよな」
オレが言うと、ルシッドはアゴを動かして自分の横を示した。
ヨールが呪文を唱えながらふくらはぎに刺さった矢に手を添えていた。
傷口がほのかに白く発光しているのは回復魔法が発動している証拠だろう。
矢が刺さった場合、安易に抜くことでかえって重症化することもあると聞く。
しかし回復魔法を使える術者がいる場合は別だ。魔法をかけつつ瞬時に矢を引き抜くことで、重症化を防げるうえに痛みもほとんど感じないらしい。
それでもオレなら自分で矢を抜く度胸なんてとてもないが。
矢が抜かれる際、オレは目を背けたが治療は一瞬で済んだらしい。すぐに軽快な動作でヨールは獣人の背側にまわった。矢の刺さったとおぼしき箇所を手で探る。
「かすり傷だな」
ヤムトは軽傷だったらしい。その剛毛と筋肉に阻まれて矢は皮膚に深く刺さることができなかったようだ。軽い手付きでヨールが抜く。
「だけど毒が塗られている可能性もある。治癒と解毒の魔法をかけておくよ」
傷口に手をかざしてヨールは再び呪文を唱えた。
「で、どうやって上にあがるつもりだったんだ?」
ヤムトの傷口に魔法の光が染み込んでいくのを横目に見ながら、改めてルシッドに訊いた。
「上がる必要はない。退却時には川を下ればいい。レミックは浮力を得られる魔法が使える」
ルシッドが言うとレミックも頷いている。
予めそういう作戦だったのだろう。これもまたオレにだけ知らされていなかったらしい。別にいいんだが。
「なるほど、その手があったか。ん?」
ルシッドの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「退却時はって、退却するんだよな?」
「いいや、しない。
今退却をするとやつらを取り逃がすことになる。今回のことでさらに防備を固められれば、次はものすごく大掛かりな準備と人数が必要になる」
「今だってやつらは十分に防備を固めてるし、オレたちの戦力じゃ攻めきれないって」
無表情で何を考えているか分からない剣士を、オレは初めて怖いと思った。
勝算のあるなしや、安全かどうかで考えているんじゃない。ただミッション達成のための効率だけをみて作戦を決めているのだ。
頭がおかしい。いや、なんちゃって冒険者のオレには理解できないだけで、冒険者というのはみんなこうなのだろうか。
救いを求めるようにオレはヤムトを見た。ああ見えてあいつは常識人だ。
だがヤムトはルシッドの言葉に深く頷いている。自身の肉体に絶対的な自信を誇る獣人だからどんな無茶な作戦でも無茶と思わないのだろう。
レミックはダメだ。さっきはオレの退却した方がいいという意見に同意したが、ルシッドが言うことなら何でもうんうんと受け入れてしまう。
二人がそういう関係なのはレミックの表情を見ていて気付いてしまった。ふだんなら死ぬほど羨ましいし、絶対に許せなくて何らかの嫌がらせをするところだが、今はそんなことをいっている場合じゃない。
「よ、ヨールはどう思う?」
最後の頼みの綱だ。
身体が小さくて力も弱いヨールならばこんな無茶な判断にノーと言ってくれるかもしれない。
「ん? オレ?」
名前を呼ばれたことが意外だったのか、ヨールはぽかんとした顔でオレを見返した。
それから肩をすくめてこう答えた。
「そんなのリーダーの判断に任せるに決まってるだろ?」
オレは天を仰いだ。
もうダメだ。こいつらみんな狂信者だ。ルシッドを教祖としたカルト集団みたいなもんだ。
0
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる