85 / 106
もぬけの殻
しおりを挟む
「なんだコレ!?」
我ながら間の抜けた声が出た。ないのだ。リッチの家財道具一式全てが。
無意味に豪華な装飾が施された重い木の扉を押し開けて入った部屋はがらんどうだった。
部屋といっても一つの空間ではない。大広間のような広い空間から続く細い道に、扉こそ嵌っていないがそこに面する幾つかの部屋があった。通路の奥にはさらに半階分ほどの高さを上る階段があり、その上にも通路と幾つかの部屋があった。ここだけでひとつの屋敷のようだ。
そしてその屋敷の中には何一つ物が残されていなかったのだ。
いや、完全に家具が残っていないわけではない。人が生活するために掘削によって造られた部屋なのだろう。壁や地面の岩肌から削り出して造られた机や寝台はそのままだ。いわゆる作り付けの家具だ。って、当たり前だ。こんなのは洞窟の一部だ。
皆で手分けをして全ての部屋をひと通り調べたが、持ち去れる物は食器から布製品に至るまで何一つ残されていなかった。
「やはりもぬけの殻だな」
ヤムトが感心したように言った。
「一体どういうことだ?」
リッチはここに住んでいたのではないのか。
アンデッドになったからと、生活用品の何もかもを処分したのだろうか。
いくらストイックな生活を送るにしても魔術の研究に関するものぐらいは置いておきそうなものだが、オレが調べた限りでは書棚らしい棚も倉庫に使っていたと思しき部屋も全てが空っぽだった。
「どこかに隠し部屋でもあるのかしら」
レミックが岩肌を削って造られた棚に手を触れながらいう。
棚はつるりとしており、離れたところからみてもとても滑らかに整えられていることが分かる。
「いや、絶対とはいえないが、我が調べた限りではおそらくそんな空間はなさそうだ」
ヤムトがそう応じた。それからオレの方を見て言葉を付け加えた。
「ヨールには叶わぬが、我も一応は罠や仕掛けを見破る術の心得はあるのだ」
オレは頷いた。
ヨールやヤムトのようなレンジャー的な技能はまったくないが、オレも棚の最下段や光の届いていない部屋の隅など、色々な場所を調べてはみたのだ。もちろん何も発見できなかった。
ふと見ると、ルシッドが壁の上方を見上げていた。そこにはトヨケの店の作業部屋にあった物に似たガラス瓶が等間隔で吊り下がっていた。魔石を利用した照明器具だ。ガラス瓶からはどこか緑掛かった独特の明かりが落ちている。
部屋が明るかったことにオレは今さら気付いた。
照明があるのを当たり前に思っていたのだが、魔石照明だってけっこう高価なアイテムだ。しかもランタンの火を併用せずにそれだけでこの明るさを維持するなんて、オレたち一般人からするとちょっと考えられない贅沢さなのだ。腐っても貴人サマってところか。アンデッドだけに。
とりあえずあれだけでも収穫には違いない。
レミックが「さっきの仮面の男かしら」と誰にいうでもなく呟いた。
その声には明らかに怒りが含まれていた。
「そうとしか考えられん。リッチが負けるとふんだ時点で回収を始めたんだろう」
ルシッドの言葉からは、感情の動きは読み取れない。油揚げをかっさらわれて悔しくないはずはないが、少なくとも怒りに打ち震えたりはしていない。
「あ、そうか、異次元収納か!」
唐突にそれに思い当たった。
シルバーが使っていた超便利スキルだ。
仮面の男はここにあった物すべてを異次元収納に入れ、それから何食わぬ顔で部屋から出てきたのだ。
異次元収納は使う人間の能力次第で容量はまちまちだとシルバーがいっていた気がする。ここにあった家財道具一式をパクッていったのなら、仮面の男の異次元収納にはかなりの容量があることになりそうだ。まあシルバーなんてロック鳥まるごとを入れてやがったが。
何にしても急激に腹が立ってきた。
オレたちのことを悪辣非道呼ばわりしていたくせに、あいつこそが火事場泥棒だったのだ。
いや、リッチの協力者をしておきながら、リッチがやられそうになっても手助けもせずに、財産を根こそぎパクりやがったのだから、なんかもっとすごい悪いヤツだ。なんて言葉が相応しいのかは思いつかないが、とにかく悪党だ。
「ふむ、照明だけが残っているのは回収作業に明かりが必要だったからか」
ヤムトが得心したように言った。こいつだけは全く悔しさを感じていなさそうに見える。
「関心してる場合じゃないでしょヤムト。あいつを許すつもりはないんじゃなかったの!?」
レミックが声を荒げた。
女性が荒ぶっているのが何となく苦手なオレは、心持ちレミックから離れる。今はヤムトに噛みついているがいつ飛び火してくるか分からない。
「そ、そうだぞヤムト。騎士団にはチクらないとか言っておきながら、あいつこそ泥棒だったんだぞ」
別にビビったわけではないが、やんわりとレミックに追従しておく。
自分自身の怒りがすでに薄まっていることに気が付いていた。
「当然許すつもりはない。次に会った時にはきっちりとカタを付けるつもりだ」
「だけど、きっともう見つけらんないだろ」
言いながら、最終的に手も足も出ず逃がしたのは自分だったことを思い出したが、そこは気にしない。
「いや、ヤツの臭いは覚えた。我が必ず探し出してみせよう」
我ながら間の抜けた声が出た。ないのだ。リッチの家財道具一式全てが。
無意味に豪華な装飾が施された重い木の扉を押し開けて入った部屋はがらんどうだった。
部屋といっても一つの空間ではない。大広間のような広い空間から続く細い道に、扉こそ嵌っていないがそこに面する幾つかの部屋があった。通路の奥にはさらに半階分ほどの高さを上る階段があり、その上にも通路と幾つかの部屋があった。ここだけでひとつの屋敷のようだ。
そしてその屋敷の中には何一つ物が残されていなかったのだ。
いや、完全に家具が残っていないわけではない。人が生活するために掘削によって造られた部屋なのだろう。壁や地面の岩肌から削り出して造られた机や寝台はそのままだ。いわゆる作り付けの家具だ。って、当たり前だ。こんなのは洞窟の一部だ。
皆で手分けをして全ての部屋をひと通り調べたが、持ち去れる物は食器から布製品に至るまで何一つ残されていなかった。
「やはりもぬけの殻だな」
ヤムトが感心したように言った。
「一体どういうことだ?」
リッチはここに住んでいたのではないのか。
アンデッドになったからと、生活用品の何もかもを処分したのだろうか。
いくらストイックな生活を送るにしても魔術の研究に関するものぐらいは置いておきそうなものだが、オレが調べた限りでは書棚らしい棚も倉庫に使っていたと思しき部屋も全てが空っぽだった。
「どこかに隠し部屋でもあるのかしら」
レミックが岩肌を削って造られた棚に手を触れながらいう。
棚はつるりとしており、離れたところからみてもとても滑らかに整えられていることが分かる。
「いや、絶対とはいえないが、我が調べた限りではおそらくそんな空間はなさそうだ」
ヤムトがそう応じた。それからオレの方を見て言葉を付け加えた。
「ヨールには叶わぬが、我も一応は罠や仕掛けを見破る術の心得はあるのだ」
オレは頷いた。
ヨールやヤムトのようなレンジャー的な技能はまったくないが、オレも棚の最下段や光の届いていない部屋の隅など、色々な場所を調べてはみたのだ。もちろん何も発見できなかった。
ふと見ると、ルシッドが壁の上方を見上げていた。そこにはトヨケの店の作業部屋にあった物に似たガラス瓶が等間隔で吊り下がっていた。魔石を利用した照明器具だ。ガラス瓶からはどこか緑掛かった独特の明かりが落ちている。
部屋が明るかったことにオレは今さら気付いた。
照明があるのを当たり前に思っていたのだが、魔石照明だってけっこう高価なアイテムだ。しかもランタンの火を併用せずにそれだけでこの明るさを維持するなんて、オレたち一般人からするとちょっと考えられない贅沢さなのだ。腐っても貴人サマってところか。アンデッドだけに。
とりあえずあれだけでも収穫には違いない。
レミックが「さっきの仮面の男かしら」と誰にいうでもなく呟いた。
その声には明らかに怒りが含まれていた。
「そうとしか考えられん。リッチが負けるとふんだ時点で回収を始めたんだろう」
ルシッドの言葉からは、感情の動きは読み取れない。油揚げをかっさらわれて悔しくないはずはないが、少なくとも怒りに打ち震えたりはしていない。
「あ、そうか、異次元収納か!」
唐突にそれに思い当たった。
シルバーが使っていた超便利スキルだ。
仮面の男はここにあった物すべてを異次元収納に入れ、それから何食わぬ顔で部屋から出てきたのだ。
異次元収納は使う人間の能力次第で容量はまちまちだとシルバーがいっていた気がする。ここにあった家財道具一式をパクッていったのなら、仮面の男の異次元収納にはかなりの容量があることになりそうだ。まあシルバーなんてロック鳥まるごとを入れてやがったが。
何にしても急激に腹が立ってきた。
オレたちのことを悪辣非道呼ばわりしていたくせに、あいつこそが火事場泥棒だったのだ。
いや、リッチの協力者をしておきながら、リッチがやられそうになっても手助けもせずに、財産を根こそぎパクりやがったのだから、なんかもっとすごい悪いヤツだ。なんて言葉が相応しいのかは思いつかないが、とにかく悪党だ。
「ふむ、照明だけが残っているのは回収作業に明かりが必要だったからか」
ヤムトが得心したように言った。こいつだけは全く悔しさを感じていなさそうに見える。
「関心してる場合じゃないでしょヤムト。あいつを許すつもりはないんじゃなかったの!?」
レミックが声を荒げた。
女性が荒ぶっているのが何となく苦手なオレは、心持ちレミックから離れる。今はヤムトに噛みついているがいつ飛び火してくるか分からない。
「そ、そうだぞヤムト。騎士団にはチクらないとか言っておきながら、あいつこそ泥棒だったんだぞ」
別にビビったわけではないが、やんわりとレミックに追従しておく。
自分自身の怒りがすでに薄まっていることに気が付いていた。
「当然許すつもりはない。次に会った時にはきっちりとカタを付けるつもりだ」
「だけど、きっともう見つけらんないだろ」
言いながら、最終的に手も足も出ず逃がしたのは自分だったことを思い出したが、そこは気にしない。
「いや、ヤツの臭いは覚えた。我が必ず探し出してみせよう」
0
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる