ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

山程ある

文字の大きさ
97 / 106

翡翠(ひすい)

しおりを挟む
 ■□


 瑪瑙めのうは後ろに続くリュウガメ車へ顔を向けた。

 キャビンの後部から外を見ているため、幌にさえぎられた視界は狭く、周囲の様子がよく分からない。
 「敵襲」の声が上がったのは最後尾のリュウガメ車からだった。

 交易路の道幅自体は狭くないが、反対方向から来る商隊との行き違いを考えれば縦一列にならざるを得ない。

 商隊の編成は先頭から、リュウガメ車、モア鳥が牽く鳥車、リュウガメ車、リュウガメ車、リュウガメ車、リュウガメ車、という順になっている。
 一番速度が出る鳥車に乗っているのは商人ギルド長のサラクだ。彼は鳥車の他にもリュウガメ車を二台所有しており、積荷のほとんどはそちらに載せている。その他の行商人たちもそれぞれ自分のリュウガメ車に荷物と一緒に乗り込んでいる。

 瑪瑙が乗っているリュウガメ車は最後尾から三番目だ。「敵襲」の声を上げたのは一番後ろのリュウガメ車だった。

「敵、見える?」

 傍らに座っていた翡翠ひすいが訊いた。あどけない少女だがエルフなので実際の年齢は分からない。左右でそれぞれ三つ編みに纏めたほとんど銀に近いプラチナブロンドの髪を後ろにまわして一つに束ねている。服装は放射状に伸びる葉を模した植物文様の刺繍が大きく入った白い麻の長袖シャツと、一見するとスカートのように見える大きな襞を取ったゆったりとしたベージュのズボンといういで立ちだ。フィニス北東部あたりで信仰される精霊信仰アニミズムの神職の服装だ。

 彼女は精霊魔法を使う魔術師だ。
 今回の隊商行には、瑪瑙の雇った冒険者という形で同行していた。

 樫の木のスタッフに手を伸ばしてさえおらず、その顔には不安どころかどんな感情も浮かんでいない。
 護衛ならばすぐにでも外へ出て警戒するべき状況であるのだが、少女にまったくそのつもりはなさそうだ。

「ここからだと見えないな。声をあげたのは一番後ろの車だから、おそらく後方から敵が追いすがってきてるんだろうけど」

 毛ほども護衛の役を演じようとしない少女の態度に瑪瑙は苦笑しながら答えた。
 もちろん今は仮面など付けていない。商人アガトとしてこの隊商に参加をしているのだ。服装も一般的な商人のそれだった。

 アガトの表情を見て少女は口を開く。

「私も行った方がいい?」

「いや、別にいいかな。もしもの場合も瑠璃るり琥珀こはくが対応してくれるだろう」

「ラーズ、アンブレって呼べって言ったのはあなただよ」

「そうだったな、すまない」

 苦笑を深くしながら、瑪瑙は素直に謝る。
 ラーズこと瑠璃とアンブレこと琥珀の二人も護衛としてアガトの商隊に同行していた。今はそれぞれラクダに乗ってこの車の左右に付いている。

「もしもじゃない場合は?」

 翡翠――ジャドが訊く。

樹海の魔獣フォレスト・ベアーズに、弓のハンガク、さらには竜戦士ドラゴンウォーリアーまでいるんだ。もしもの場合になることはないだろうさ」

竜戦士ドラゴンウォーリアーというのは、あなたが会った、あの?」

「ああ、リッチを倒した彼さ」

「来てるんだ」

「うん。それ何度も言ったよ」

 さすがに苦笑ではなくため息が出た。
 アガトのその様子を見てもジャドは少し不思議そうな顔をしただけだった。

「その人は強いの?」

 あの一見するとひ弱そうな冒険者がリッチを倒した事はジャドにも伝えてある。
 だがリッチと対峙したことがないジャドには、そのことは強さの物差しにはならないようだ。

「リッチがやられた時、私が疾風の剣ゲイルアームズの面々を躱して脱出した話はしたよね」

「聞いた、と思う」

 ジャドは曖昧に頷く。
 アガトは構わずに話しを続けた。

「その時に竜戦士ドラゴンウォーリアーの彼だけは始末をしておくつもりだった。これまで気にも止めてなかった下級の冒険者がリッチを倒したんだ。予測のつかないことには早めに手を打っておくべきだと判断してね」

「それで?」

「失敗したよ。すれ違い様に頸動脈を斬るつもりだったんだけど、タイミングを外されたんだ」

 アガトは少しだけ右の手首を持ち上げて見せた。
 外から見えないが、チュニックの袖の中にはやいばが仕込まれており、アガトの操作によって出し入れが出来るようになっている。手首だけでなく、アガトの全身には常にいくつもの隠し武器が仕込まれている。

「反応できなかっただけじゃない?」

 ジャドの言葉にアガトは首を振る。

「他の二人の殺気は本物だった。なのに彼だけは剣も抜かなかったよ。こちらの意図を読んでたのだと思う」

「読んでたんなら剣を抜くよね」

「私が丸腰だったから、どんな手段がきても対応できるよう集中したのだと思う。もしも剣を抜いて踏み込んできていたら彼の命はなくなっていた。だけど彼は挙動を抑え、私の攻撃は空振りしたよ」

 アガトは空を斬った感触を思い出すかのように自分の腕に目を向けた。

「そんな強そうな人は見た覚えがないけど」

 ジャドがそのエメラルドグリーンの瞳をキャビンの後方へ向けた。
 外が騒がしくなってきていた。いよいよ敵が迫ってきているのかもしれない。
 だがそれには頓着せずアガトは話を続ける。

「冒険者ギルドで、巨星のビディーゴを子ども扱いしたらしい」

「巨星って……あのやたら大きなフレイルモーニングスターを使う人かな?」

 ジャドとラーズ、アンブレはペンディエンテの冒険者ギルドに所属している。ギルド館にも出入りしているため、冒険者たちについてもある程度のことは知っていた。物事に頓着しないジャドでも流石に名の売れている冒険者のことは認識していたようだ。
 ちなみに彼ら自身もかなりの手練れである。目立たないようにしているため三人ともが位階は五位に落ち着いているが、能力でいえば一位にいるルシッドと比べてもまったく遜色がない。

「ああ、その人だ。二位の冒険者だと聞いたな」

 冒険者ギルドに行くことがないアガトの情報源はラーズだ。そのラーズからジャドが話を聞いていないのが不思議だが、おそらくは聞いたが忘れたのだろう。

「それならちょっと楽しめるかもね」

 ジャドの切れ長の目が三日月のように細められた。

「念のため言っておくが、彼はまだ消去対象ではないからね」

 慌ててそう言ったアガトの耳に、幌の外から戦闘の喧騒が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...