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トヨケの実力
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魔物の中には、抜きん出て力が強かったり道具を使えるほどに頭が良かったりと、同属内の一般的な個体とは格の違うヤツが現れる事がある。
生物学的にみれば亜種や突然変異体ということになるのかもしれない。そしてオレたち冒険者もそいつらを別モノとして別の呼び名をつけたりする。
戦略的に、とても同じ種の魔物として扱えないからだ。
身体の大きさや装備品など、ある程度は外見的に判断する材料もあるのだが、実際に戦ってその強さを体感しつつ戦闘中に判断することも多い。
それもその冒険者の経験知で決めるのだから、学術的分類とはほど遠いけっこう大雑把な分類法だ。
オークなら、オーク、ハイオーク、オークキングといった風に分けられるが、それらの境界は曖昧だ。
今の場合、矢で倒れた素っ裸の個体をオーク、襤褸であっても何かを身に纏って防御力を上げている個体をハイオークとして良さそうだ。
さらには魔法の攻撃にも耐えた群れのボスっぽいあいつは見た感じからしてかなり強そうだし、ハンガクの言うとおりオークキングとすることにはオレも異存はない。
「つっても、キングにも色々だしなあ」
あれはかなり強そうだ。
腰帯に何本か武器を提げていることから見ても知能も高いに違いない。
なんにしてもオレには一人でオークキングと戦えるだけの力はない。
直接戦闘も強いらしいハンガクと一緒に戦えば不安はないのだけど、そのハンガクがオレの実力について誤解している現状だとオレ一人で戦わせられることになりそうな気がする。
怒りに満ちた目でこちらを睨むと、オークキングは駆け出した。手に戦鎚を持ってはいるが、ほぼ四つん這いに近い前傾姿勢だ。砂埃が舞い上がる。かなり速い。完全に野生動物の疾走だ。
ハンガクが流れるような動作で矢を放った。
砂埃で標的がほとんど見えない状態ながら、矢は真っ直ぐにオークキングへと飛んだ。
だが砂の煙幕に紛れ、弾かれた矢の影だけが見えた。防具に弾かれたらしい。オークキングの疾走は止まる気配がない。
「角度が悪いな」
ハンガクは特に慌てた風もない。予想していたのかもしれない。そして続ける。
「そろそろ戦士が出て止めないと、リュウガメに攻撃でもされたら厄介だぞ」
ああ、これはオレに行けと言ってるワケだよな。
一緒に行こうぜ、などとは言えないよなあ。
流石にオレが勝てそうにないと見たら助けてくれるだろう。自分にいいきかせてのろのろと踏み出した。
だがオレよりも先にリュウガメの向こう側から飛び出した影がある。
トヨケだ。
メンバーが三人だけのハンガクのパーティは戦闘メインの依頼はあまり受けないし、もし受ける場合は戦士職の冒険者を臨時雇いする。
だが戦士職がいないのに接近戦が避けられない状況になれば、遠距離担当のハンガクと回復役のトヨケが直接戦闘も受け持つことになるらしい。
で、あくまで噂なのだが、トヨケは戦士としてもかなりの腕前らしいのだ。
トヨケだけを行かせるのは流石にダサすぎる。
いつまでもカッコつけているわけにはいかないし、どこかでオレが強いという誤解は解かなければならないが、トヨケに軽蔑されたくはない。
仕方なく、でも全力で、オレは走り出す。
出来ればトヨケより先に接敵して、程々にやられてトヨケに助けてもらうのがいいだろう。
幻滅されることは間違いないが、少なくとも卑怯者や腰抜けとは思われない、はず。
だけど、先に飛び出したことを差し引いてもトヨケの脚の方が圧倒的に速かった。
瞬く間に、突進してくるオークキングに接敵する。
トヨケに気付いたオークキングは速度を緩めた。
手にしていた戦鎚を掲げて迎え討つ姿勢を見せる。
動きに余裕が感じられる。自身の半分にも満たない小さな人間などいかようにも弾き飛ばせると思ったのだろう。
衝突の瞬間、トヨケはスライディングの動きで身を沈めて滑った。
オークキングが振るった戦鎚の一撃を左下からすり抜ける。
立ち上がり様にメイスを薙ぎ払う。
小さなモーションの攻撃だったが、オークキングの右ふくらはぎを捉えた。
自分の脇を滑り抜けた敵に向き直ろうとしたオークキングは、かくんと右膝を落とた。
片膝をついた姿勢で首だけを捻りトヨケを見る。それから自分の足へと目を落とす。凶悪な顔に怒りよりも混乱が浮かんでいた。何が起きたのか理解できていない風だ。
トヨケは休む間を与えない。
両手で握ったメイスを振り上げながら、体勢の整わないオークキングに突撃する。
立とうとして再び膝をつくオークキング。右足に力が入らないらしい。
慌てて戦鎚を迫りくるトヨケへとと叩き付ける。
トヨケの小さなメイスとオークキングのゴツい鉄槌。ぶつかり合いの結果は明白だ。
だがぶつからない。
寸前でトヨケは身体全部で攻撃に急制動を掛けた。フェイントだ。
オークキングの戦鎚が虚しく空を切る。
それを握る手を狙って、トヨケはメイスを振り下ろした。
いくら小さくともトヨケのメイスも金属製だ。
体重を乗せた一撃は狙い違わずオークキングの手の甲を砕いた。
武器を取り落としたオークキングは背を向けて逃れる素振りを見せる。
だが右足にダメージを負っている状態では、瞬時に立ち上がることができない。
トヨケはメイスを振り下ろして容赦なく左足の踵を砕いた。
生物学的にみれば亜種や突然変異体ということになるのかもしれない。そしてオレたち冒険者もそいつらを別モノとして別の呼び名をつけたりする。
戦略的に、とても同じ種の魔物として扱えないからだ。
身体の大きさや装備品など、ある程度は外見的に判断する材料もあるのだが、実際に戦ってその強さを体感しつつ戦闘中に判断することも多い。
それもその冒険者の経験知で決めるのだから、学術的分類とはほど遠いけっこう大雑把な分類法だ。
オークなら、オーク、ハイオーク、オークキングといった風に分けられるが、それらの境界は曖昧だ。
今の場合、矢で倒れた素っ裸の個体をオーク、襤褸であっても何かを身に纏って防御力を上げている個体をハイオークとして良さそうだ。
さらには魔法の攻撃にも耐えた群れのボスっぽいあいつは見た感じからしてかなり強そうだし、ハンガクの言うとおりオークキングとすることにはオレも異存はない。
「つっても、キングにも色々だしなあ」
あれはかなり強そうだ。
腰帯に何本か武器を提げていることから見ても知能も高いに違いない。
なんにしてもオレには一人でオークキングと戦えるだけの力はない。
直接戦闘も強いらしいハンガクと一緒に戦えば不安はないのだけど、そのハンガクがオレの実力について誤解している現状だとオレ一人で戦わせられることになりそうな気がする。
怒りに満ちた目でこちらを睨むと、オークキングは駆け出した。手に戦鎚を持ってはいるが、ほぼ四つん這いに近い前傾姿勢だ。砂埃が舞い上がる。かなり速い。完全に野生動物の疾走だ。
ハンガクが流れるような動作で矢を放った。
砂埃で標的がほとんど見えない状態ながら、矢は真っ直ぐにオークキングへと飛んだ。
だが砂の煙幕に紛れ、弾かれた矢の影だけが見えた。防具に弾かれたらしい。オークキングの疾走は止まる気配がない。
「角度が悪いな」
ハンガクは特に慌てた風もない。予想していたのかもしれない。そして続ける。
「そろそろ戦士が出て止めないと、リュウガメに攻撃でもされたら厄介だぞ」
ああ、これはオレに行けと言ってるワケだよな。
一緒に行こうぜ、などとは言えないよなあ。
流石にオレが勝てそうにないと見たら助けてくれるだろう。自分にいいきかせてのろのろと踏み出した。
だがオレよりも先にリュウガメの向こう側から飛び出した影がある。
トヨケだ。
メンバーが三人だけのハンガクのパーティは戦闘メインの依頼はあまり受けないし、もし受ける場合は戦士職の冒険者を臨時雇いする。
だが戦士職がいないのに接近戦が避けられない状況になれば、遠距離担当のハンガクと回復役のトヨケが直接戦闘も受け持つことになるらしい。
で、あくまで噂なのだが、トヨケは戦士としてもかなりの腕前らしいのだ。
トヨケだけを行かせるのは流石にダサすぎる。
いつまでもカッコつけているわけにはいかないし、どこかでオレが強いという誤解は解かなければならないが、トヨケに軽蔑されたくはない。
仕方なく、でも全力で、オレは走り出す。
出来ればトヨケより先に接敵して、程々にやられてトヨケに助けてもらうのがいいだろう。
幻滅されることは間違いないが、少なくとも卑怯者や腰抜けとは思われない、はず。
だけど、先に飛び出したことを差し引いてもトヨケの脚の方が圧倒的に速かった。
瞬く間に、突進してくるオークキングに接敵する。
トヨケに気付いたオークキングは速度を緩めた。
手にしていた戦鎚を掲げて迎え討つ姿勢を見せる。
動きに余裕が感じられる。自身の半分にも満たない小さな人間などいかようにも弾き飛ばせると思ったのだろう。
衝突の瞬間、トヨケはスライディングの動きで身を沈めて滑った。
オークキングが振るった戦鎚の一撃を左下からすり抜ける。
立ち上がり様にメイスを薙ぎ払う。
小さなモーションの攻撃だったが、オークキングの右ふくらはぎを捉えた。
自分の脇を滑り抜けた敵に向き直ろうとしたオークキングは、かくんと右膝を落とた。
片膝をついた姿勢で首だけを捻りトヨケを見る。それから自分の足へと目を落とす。凶悪な顔に怒りよりも混乱が浮かんでいた。何が起きたのか理解できていない風だ。
トヨケは休む間を与えない。
両手で握ったメイスを振り上げながら、体勢の整わないオークキングに突撃する。
立とうとして再び膝をつくオークキング。右足に力が入らないらしい。
慌てて戦鎚を迫りくるトヨケへとと叩き付ける。
トヨケの小さなメイスとオークキングのゴツい鉄槌。ぶつかり合いの結果は明白だ。
だがぶつからない。
寸前でトヨケは身体全部で攻撃に急制動を掛けた。フェイントだ。
オークキングの戦鎚が虚しく空を切る。
それを握る手を狙って、トヨケはメイスを振り下ろした。
いくら小さくともトヨケのメイスも金属製だ。
体重を乗せた一撃は狙い違わずオークキングの手の甲を砕いた。
武器を取り落としたオークキングは背を向けて逃れる素振りを見せる。
だが右足にダメージを負っている状態では、瞬時に立ち上がることができない。
トヨケはメイスを振り下ろして容赦なく左足の踵を砕いた。
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