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真夜中の尋ね人2

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✳︎

 ルナの現在のサイズに合わせて大きめに設られていたとはいえ、やはり二人横たわると少々狭かった。
 しかし、巨体を横向きにしているルナのお陰でリリーノも何とか同衾出来た。

 壁を向いてすうすうぷぴーと寝息を立て始めたルナの横で、リリーノは今までの清楚な雰囲気とは打って変わった邪悪な笑みを浮かべた。
 ムクリと起き上がり正体を現したリリーノには、にょき、にょきと赤い髪の間から二本のツノと、尾てい骨からは黒く先の尖った尻尾が生えていた。

 フフ。所詮は人間。
 この男、よっぽどの馬鹿だな。
 妖しの森の入り口に居を構えるとは、モンスターに喰えと言っているようなもの。
 現に淫魔わたしを家に易々と招き入れて、警戒心の欠片もない。
 まあ、こちらにとってみれば好都合だが。
 私はもう三日食べてないから加減ができる自信がない。私に精気を吸われすぎて最悪この人間は死ぬかもしれないがこんな所に住んでいるのが悪いのだ。

「お前の精気、頂くぞ」

 人里離れた家で一人でいる人間の男だ。さぞや濃い精気を溜め込んで……。
 リリーノが垂れそうになる涎を堪えながらルナの身体に襲いかかろうと弛んだ肉を妖しい手つきで触る。
 しかし。

「……?」
「ぷぴー、ぷー、ぷーっ」
「……???」

 鼻から奇怪な音を立てて寝入っているルナからは、精気の素とも言える雄の欲望を全く感じられなかった。

 な、なんなのだコイツ!?
 まるで欲がない?!

「むにゃー、ねこねこもふもふー……」

 寝ぼけたルナが、幸せそうな顔で寝言を言う。声だけは女のようだが見た目はでっぷりと太ったおっさんだった。頭頂部は禿げ上がり、頬や顎や首や腹には余計な脂肪しか付いていない。どこをどう見てもちょっと太った普通のおっさんなのに、なぜか無垢で幸せそうなオーラが滲み出ていた。ルナの背景には漫画で言うところのほんわりした点描と花が見え、キラキラと輝いていた。その放たれているオーラを浴びると心がほっこりと暖かくなる。

 きゅん。

 リリーノが咄嗟にベッドから飛び出してのけぞる。

 きゅん?! て、何だ?!
 な、なんで私が魅了されてる?!

 人間に惹かれた淫魔の末路は、DEATHあるのみと繰り返し淫魔学校で教えられている。
 こんなおっさんにときめくことなど何かの間違いに違いない。

 が。

「ぷぴー……ぐすーっぷぴー」
 変な寝息を立てるたびに、ぷるんぷるんと震える顎の肉に、リリーノの視線は釘付けだった。
 筋繊維の欠片も含まれていなさそうな、なんて柔らかそうな肉質。
 これは……そう、幼い頃飼っていたペットのグリフォンの太腿と似ている……。あの子は鷲獅子の癖に食べては寝てを繰り返して、よく翼の生えた野ブタと間違えられていた。
 魅惑の顎肉に釣られて手を伸ばしそうになった自分の行動にハッとして、リリーノは自分の両頬をパンパンっと手のひらで叩き我に返った。

「おいっ起きろっ!」

 こんなおっさんに惑わされるなど心外とばかりにリリーノはルナを叩き起こそうと腹肉を平手でスパンスパンする。

「ぷーっ、むにゃ……?」

「起きろっ! 私を犯せ!! ケダモノのように乱暴に貪り犯せっ!!」

 通常の淫魔らしからぬ作法だが、これ以上人間のおっさんなどに惑わされる訳にはいかない。

「んん~??」

「早く起きて私を犯せ!」

「むにゃ……お、おか……? おかか食わせ? もしかして、お腹が空いてるんですね。それなら、ほら」

「!?」

 ルナはリリーノの手を取ると、自分の三段腹へと導いた。

「ルナのお腹、柔らかいでしょう。ハムハムしても、いいですよ?」

 こ、こいつ、寝ぼけてる?!

 眼鏡を外したルナの目は3の形になっていて、開いているのか閉じているのか判らなかった。

「はい、どうぞ」

「んぶっ!?」

 ルナに更に手を引かれ、リリーノは三段腹の丘に顔をぶつけた。しかし、その肌触りはしっとりとして柔らかく、少しも痛くなかった。
 リリーノは戸惑いながらも、目の前の贅肉に唇を付けた。上と下の唇を開き、ぷるんぷるんのお肉を挟んでみる。

 はむ、はむ……。

 ………………やぁらかい……。

 ほぅわ~という顔になったリリーノは、一瞬でおっさんに落ちてしまった。


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