18 / 108
6.謝罪 2
しおりを挟む
「一花と明科先生が運命の番なのかは、本人同士でしか確認のしようがありません。一花はあれから気持ちが昂っているのか、明科先生とすぐにでも結婚をしたいなどと言っています。番となった場合はご存知の通り法定基準年齢に達していなくても結婚することはできますが……」
言い淀んだ父親に代わって、母親が郁に聞いた。
「明科先生は、一花を運命の番だと思われますか?」
冷たい表情の母親に射るような視線を送られて、郁は冷や汗をかいて答える。
「……すみません……。私は今、とてもそんなことを考えられない心境です。こんな……教師として一花さんやご両親はもちろん、他の生徒や保護者の方、先生方に対しても不信感を抱かせるような行動をしてしまい、申し訳ない、としか……今はそれしか考えられません」
「そうですか。それを聞けて安心しました。もしも運命であれば周囲がどうこう言えるものではありませんから。一花には多方面から将来つがう相手のお話も頂いておりますので」
その一度の話し合いで、あっけないほどにこの件はほぼカタがついてしまった。
両親の話通り、室見はその後一度も学校を訪れることなく転校した。
郁の処分については、室見の両親の意向も踏まえた上で決定された。内容が内容だけに懲戒処分は免れないと覚悟していたが、なぜか校長からの口頭注意のみで、郁は異動もさせられなかった。学校でこのことを知るのは役職者の一部と西条だけだった。郁が救急車で運ばれるのを見た生徒はいるものの理由は体調不良で押し通し、噂になることもなかった。他の生徒には室見の転校は家庭の事情と説明するように両親から申しつかっていたためそう説明した。急で不自然な転校であったが、時間が経つとやがて誰も不審を口にしなくなった。
言い淀んだ父親に代わって、母親が郁に聞いた。
「明科先生は、一花を運命の番だと思われますか?」
冷たい表情の母親に射るような視線を送られて、郁は冷や汗をかいて答える。
「……すみません……。私は今、とてもそんなことを考えられない心境です。こんな……教師として一花さんやご両親はもちろん、他の生徒や保護者の方、先生方に対しても不信感を抱かせるような行動をしてしまい、申し訳ない、としか……今はそれしか考えられません」
「そうですか。それを聞けて安心しました。もしも運命であれば周囲がどうこう言えるものではありませんから。一花には多方面から将来つがう相手のお話も頂いておりますので」
その一度の話し合いで、あっけないほどにこの件はほぼカタがついてしまった。
両親の話通り、室見はその後一度も学校を訪れることなく転校した。
郁の処分については、室見の両親の意向も踏まえた上で決定された。内容が内容だけに懲戒処分は免れないと覚悟していたが、なぜか校長からの口頭注意のみで、郁は異動もさせられなかった。学校でこのことを知るのは役職者の一部と西条だけだった。郁が救急車で運ばれるのを見た生徒はいるものの理由は体調不良で押し通し、噂になることもなかった。他の生徒には室見の転校は家庭の事情と説明するように両親から申しつかっていたためそう説明した。急で不自然な転校であったが、時間が経つとやがて誰も不審を口にしなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
さよならの向こう側
yondo
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH(2月以降再販予定)
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる