教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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6.謝罪 1

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 退院後三日は、処分保留のまま自宅待機が言い渡された。そして四日目にようやく学校に呼び出された。
 室見の両親と、校長、教頭が揃うなか、堅い表情で郁も校長室に入った。室見の両親の向かいに来る形になり、あわせる顔もなく足が震える。それでも、せめて誠意を示すべきだと思った。校長が口を開く前に、室見の両親の前で床に手と頭をつく。
「この度は、大切なご子息に対して教師としてあるまじき行為をしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「……顔を上げてください」
 落ち着いた低い男性の声に促されて、起き上がる。室見とはまた印象の違う、背の高いスーツ姿の紳士が、整った相貌を多少曇らせてこちらを見ていた。その隣には、タイトな濃紺のスーツを着こなした妙齢の美女が顔色を変えずにいた。一目でアルファの両親とわかる、美麗で明晰な人間という印象だった。改めて全員が席につくと、校長の謝罪の後に室見の父親が待ちかねたように口を開いた。

「すみませんが、時間もないので率直に申し上げます。今回の件については、一花の行動にも問題がありますので、穏便に済ませて頂きたいのが私たちの希望です」

「と、いいますと……?」
 校長が要領を得ず聞き返す。
「私たちはアルファとオメガのこうした事故の過去の判例を確認しましたが、オメガが抑制剤を飲んでいたにも関わらずフェロモンでアルファを誘ってしまった場合、両者が過失に問われません。それが片方の相手が未成年者であっても同じです。以前から抑制剤が効きにくいなどの症状があったにも関わらず治療していなかった場合などは別ですが、明科先生は当てはまらないと聞いています。ですから、どちらも被害届などは出さずに、一花の将来のためにも今回のことは無かったことにしていただきたいのです。とはいえ一花も明科先生も今後は生徒と担任教諭として学校生活を送ることはできないでしょうから、一花は私立中学に転校させます。明科先生はこちらの学校で引き続き先生をされたらよいのではないでしょうか」
「え、転校……ですか? そ、それは……一花くんにそこまでさせる必要はないのでは?」
 校長が慌てて室見の両親をなだめるが、彼らは顔色ひとつ変えずに続ける。
「一花にはこれから説明しますが、既に私の父親の伝手のある学校に手配していますし、たいした手間でもありませんので気になさらないでください。ただ……」
 父親が母親に目配せをした後、眉を寄せて郁の方を見た。
「一花はかなり明科先生を意識しています。明科先生が自分の運命なのだと言って聞きません」
「運……命……」
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