25 / 108
9.疎通 4
しおりを挟む
*
シャワーを浴びてリビングに戻ると、室見はやや大ぶりのふたつのグラスに赤褐色のワインを注いで待っていた。
「すこしだけ。いい?」
断る理由もなく、郁は頷いて室見の隣に座った。ついさっき濃厚に睦みあったばかりのソファの上で、室見は素直な郁の頬にキスをして抱き締めてから、グラスを差し出す。
「これからいっぱい、郁といろんなところに出かけて、同じものを見て生きていきたいと思ってる。ずっと、一緒に」
グラスに刻まれた切子に光が反射して、郁は目を細めた。
室見の告白は切実で誠実で、胸に迫る。真剣な顔で言われて、鼓動が速まった。
「まだ郁が“俺のために”受け入れてくれている間は、プロポーズはしないよ。でも、俺がずっとこんな風に思って待ってることは知ってて欲しい」
郁はやっとの思いで頷く。心臓の音をうるさいくらいに感じていた。心より先に、身体は完全に室見に開いていた。
「結婚したら、俺たちの子供も欲しいと思ってる。郁はどう?」
「結婚……。子供、か……」
室見と結婚し、子供をもうける……。現実味がなくて、何と答えたら良いのかわからず口ごもる。けれど、身体は先程室見を迎え入れた場所が浅ましくも悦びにきゅんと収縮した。恥ずかしさで俯く。しかし室見はそれを好意的に捉えてくれたようで、郁の肩を優しく抱き寄せる。
「ごめん。まだ俺を受け入れるので精一杯だよね。でも、想像だけでもしておいて。郁が射精できるようになったら俺が産んでもいい。郁が欲しいと思ってないなら、作らなくてもいい。しばらくは二人の時間を過ごしたいとは、思ってる。子供のことは、将来の話。俺はこういう希望って伝えておくだけだから」
「……わかった」
室見がそこまで考えているとは思わず、郁は純粋に驚いた。目の前の青年は、本当に教え子だった生徒だろうかと思ってしまう。まだ迷い揺れている自分とは大違いだ。
「あとね、郁にお願いがあるんだ」
郁がグラスに口をつけて嚥下したのを見てから、室見は切り出した。アルコールでいくらか酔った顔で郁は室見を見る。
「ヒートのことだけど……、郁の身体のためにもしばらく休職して治療に専念できないかな」
「休職……? 仕事を?」
「八年もヒートが周期的に来てないのは、やっぱりすごく身体に負担がかかってる筈だって知り合いの医者も言ってたし、心配なんだ」
病気治療のために休職できる制度は確かにある。ヒート不全症と診断書に書いてもらい、提出すれば取得するのは可能だろう。しかし、自分は今中学三年生の担任であり、年度途中の九月からいきなり休職するのは難しい。もし休職するにしても、来年四月からで職場と相談することになるだろう。
今までヒートが来なかったことについては抑制剤を処方してもらっている病院で相談して、経過観察を続けてはいた。本格的に治療を希望するなら紹介状を書くと言われて、そのままにしている。しかし今、室見に結婚や子供のことを考えていると言われて、治療は必須だと思えた。
「……考えておくよ」
返事を聞いた室見は今にも閉じてしまいそうな郁の瞼に、愛しそうにキスを落とした。
シャワーを浴びてリビングに戻ると、室見はやや大ぶりのふたつのグラスに赤褐色のワインを注いで待っていた。
「すこしだけ。いい?」
断る理由もなく、郁は頷いて室見の隣に座った。ついさっき濃厚に睦みあったばかりのソファの上で、室見は素直な郁の頬にキスをして抱き締めてから、グラスを差し出す。
「これからいっぱい、郁といろんなところに出かけて、同じものを見て生きていきたいと思ってる。ずっと、一緒に」
グラスに刻まれた切子に光が反射して、郁は目を細めた。
室見の告白は切実で誠実で、胸に迫る。真剣な顔で言われて、鼓動が速まった。
「まだ郁が“俺のために”受け入れてくれている間は、プロポーズはしないよ。でも、俺がずっとこんな風に思って待ってることは知ってて欲しい」
郁はやっとの思いで頷く。心臓の音をうるさいくらいに感じていた。心より先に、身体は完全に室見に開いていた。
「結婚したら、俺たちの子供も欲しいと思ってる。郁はどう?」
「結婚……。子供、か……」
室見と結婚し、子供をもうける……。現実味がなくて、何と答えたら良いのかわからず口ごもる。けれど、身体は先程室見を迎え入れた場所が浅ましくも悦びにきゅんと収縮した。恥ずかしさで俯く。しかし室見はそれを好意的に捉えてくれたようで、郁の肩を優しく抱き寄せる。
「ごめん。まだ俺を受け入れるので精一杯だよね。でも、想像だけでもしておいて。郁が射精できるようになったら俺が産んでもいい。郁が欲しいと思ってないなら、作らなくてもいい。しばらくは二人の時間を過ごしたいとは、思ってる。子供のことは、将来の話。俺はこういう希望って伝えておくだけだから」
「……わかった」
室見がそこまで考えているとは思わず、郁は純粋に驚いた。目の前の青年は、本当に教え子だった生徒だろうかと思ってしまう。まだ迷い揺れている自分とは大違いだ。
「あとね、郁にお願いがあるんだ」
郁がグラスに口をつけて嚥下したのを見てから、室見は切り出した。アルコールでいくらか酔った顔で郁は室見を見る。
「ヒートのことだけど……、郁の身体のためにもしばらく休職して治療に専念できないかな」
「休職……? 仕事を?」
「八年もヒートが周期的に来てないのは、やっぱりすごく身体に負担がかかってる筈だって知り合いの医者も言ってたし、心配なんだ」
病気治療のために休職できる制度は確かにある。ヒート不全症と診断書に書いてもらい、提出すれば取得するのは可能だろう。しかし、自分は今中学三年生の担任であり、年度途中の九月からいきなり休職するのは難しい。もし休職するにしても、来年四月からで職場と相談することになるだろう。
今までヒートが来なかったことについては抑制剤を処方してもらっている病院で相談して、経過観察を続けてはいた。本格的に治療を希望するなら紹介状を書くと言われて、そのままにしている。しかし今、室見に結婚や子供のことを考えていると言われて、治療は必須だと思えた。
「……考えておくよ」
返事を聞いた室見は今にも閉じてしまいそうな郁の瞼に、愛しそうにキスを落とした。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
恭介&圭吾シリーズ
芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
愛のない婚約者は愛のある番になれますか?
水無瀬 蒼
BL
Ωの天谷千景には親の決めた宮村陸というαの婚約者がいる。
千景は子供の頃から憧れているが、陸にはその気持ちはない。
それどころか陸には千景以外に心の決めたβの恋人がいる。
しかし、恋人と約束をしていた日に交通事故で恋人を失ってしまう。
そんな絶望の中、千景と陸は結婚するがーー
2025.3.19〜6.30
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる