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10.旅行 7
しおりを挟む食事をしながらクスリと笑った郁に、室見がどうしたの、と優しく訊ねる。
「修学旅行だったら、この時間に起きてる生徒がいたらお説教だ」
「え。中学生の消灯ってこの時間? 早くない?」
「アクティブな生徒が多いから、早く寝かせないと」
アクティブ、という含みを持たせた前向きな表現に室見もつられて笑う。
「郁のお説教、受けたかったな……」
「室見はアクティブというより、真面目で隙がない感じだったな。頭が良いから、教師に怒られないようにうまくやれるタイプだろう」
「今だったら、郁に怒られるためにわざと隙をつくるかな……うーん」
首を捻る室見を不思議に思って見つめると、「プレイに取り入れようかな」などと少し不穏な言葉が聞こえた気がして、郁は慌てて話題を変えた。
「そういえば、室見が好きなものってなんだ?」
「俺? 俺は郁が好きなものがだいたい好き」
「生き物が好きじゃなかったか?」
「んー。まあ好きといえば好きかな。でも、中学生の時は、完全に郁目的で生物部に入ったよ。ウーパールーパーに名前付けて飼ってる郁がかわいくて参ったなー」
中一から水泳部に入っていた室見は、中二で郁が赴任してくると生物部に掛け持ちで入りたいと入部届を持参した。掛け持ちで部活をするという前例がなかったので断ったのだか、室見は「前例がないだけで、禁止ではないですよね」と強引にどちらの部活にも顔を出して両立してしまった。掛け持ちできないなら水泳部をやめることをほのめかし、既に複数の大会で入賞する選手だった室見にやめられるのは困ると水泳部顧問はおおいに焦らされたようだった。
「生物や化学に興味があるようだったから、製薬会社は合っているんだろうと思っていたよ」
「会社はもう、親があれだからね。俺に決定権はほぼないよ。子供の頃からあの会社を継ぐための教育されてるし、あえて他の道に進もうと思えるようなこともないし……唯一俺が親に反抗したことといえば郁のことくらい」
「そうか……」
本来素直で真面目な室見を変えてしまったのは自分だ。ご両親もきっと戸惑っただろう。そして室見自身にも、あの時はとてもつらい思いをさせて……。
「いいよ郁。今郁が俺を愛してるってわかってくれれば。郁の立場上、あの時はああするしかなかったって、俺だって一応わかってる。ただ、感情的には納得できないというか……。立場とかなによりも優先して、俺を求めて欲しかったんだよね」
「ごめん……」
郁の呟きに室見は首を振る。
「郁を追い詰めてしまって、ごめん。こうして俺と一緒に過ごしてるのにヒートがすぐに来ないのも……。俺が性急すぎるんだってわかってるんだけど……どうしても焦る気持ちがあって」
「室見……」
苦しげな表情を作った室見を見て胸が締め付けられる。いつも余裕を纏っているような室見の心を乱しているのは自分だ。傷つけてしまった彼を少しでも癒すことができるなら、やはり自分は何でもするべきだと思う。
「前に話していた、休職してヒートの治療をすることは来年の四月からで考えてる」
「考えてくれてありがとう。そっか、年度の途中から休むのは難しいんだね……」
「担任を持っているからな」
室見はいくらか表情を緩めて、うんと頷いた。
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