教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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10.旅行 8

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 ゆっくり食事を済ませた後は、広縁に置かれたカウチに移動した。籐で編まれた一人がけのカウチを隣同士に並べて、部屋に備え付けてあった小型の電気式冷蔵セラーからワインや果実酒などを取り出して開けた。
「この果実酒ホームメイドっぽいね」
「そうだな。ブルーベリー酒、今度作ってみようかな」
「郁。もしかして、ブルーベリーの苗から育てる気じゃない?」
「よくわかったな。だめか?」
「いいよ。部屋余ってるし。でもいつかジャングルになりそう」
 今郁の家庭菜園は、ベランダと、そこから続くリビングまで広がっている。プランターの数は間もなく二桁になりそうだった。そこから緑が生い茂り、深い森のようになった部屋を想像して、二人で苦笑した。

「そういえば、郁は家族とはあまり連絡とってないね?」
 ワインを半分ほど開けた室見がぽつりと郁に訊いた。ああ、と郁は頷く。
「母が健在だけど、シアトルで新しい家族と暮らしているよ。時々メールで連絡を取ってる。身体が強くないから、日本にあまり帰って来れないんだ」
「お父さんは?」
「実の父親は高校生の時に病気で鬼籍に入ってる」
「そっか。さみしかった?」
 室見はカウチの座面に置かれた郁の手をぎゅっと握った。
「そうだな。父親が死ぬ時は怖くて……そのあとは、ずっとさみしかったかな」
 室見は身を乗り出して郁の唇の端にキスをした。
「俺のほうが先に生まれてたらな……」
 さみしい、と言った郁に同調して室見が切なげに眉を寄せる。
「でも、俺のほうが若いから、郁のこと看取ってあげられるかな。俺が死んだ後に郁が他のやつに取られたら嫌だから、それはよかったかも」
「死んだ後のことまで、考えてるのか?」
「うん。だって一生幸せに生きて欲しいから。郁を幸せにするのは俺がいいから」
「……っ」
 室見は手を握ったまま、じっと郁を見つめて熱っぽく言う。もうそれは、ほとんどプロポーズのようなものだと郁は感じた。
「ドキドキしてる?」
 片方の手を郁の胸にあてて、頬にちゅっ、とキスを落として室見は訊いた。胸に手を置かれたら、伝わってしまう。
「ただでさえ……する……のに……」
 熱が集まる顔の口元を手で隠して、郁はやっと答える。

「ベッドに行こうか」

 室見から淫欲の気配がして、すぐにじわりと肌があわたつ。自分の身体の素直な反応に戸惑ってしまう。
「……っ、夕方……したばかり……」

「またしたい。だめ……?」

 だめな理由など、到底思いつかなかった。
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