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11.脅迫 1
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十一月下旬、郁は来年四月からの休職について上司に相談して届出を出すことにした。本格的にヒート不全の治療を受けるために、かかりつけの病院で紹介状を書いてもらい、室見が以前から相談していたという医師のいる病院へ行った。室見の希望もあり、一緒に最初の受診をした。
「ヒート不全は個人差が大きく、治療は何種類かの方法を試していく形になります。まず、番がいる場合は相手と定期的な性交渉をすることが第一段階になります」
「通常その方法でどのくらいでヒートが来るようになりますか?」
室見が初老の医師に訊く。医師は電子カルテに郁と室見から聞き取った情報を入力しながら答えた。
「個人差がとても大きく一概には言えませんが……平均すると三ヶ月ですね。ただ、性交した翌日に来る人もいれば毎日しても一年来ない人もいるので、この平均値は参考程度です」
室見は嘆息して少し肩を落とした。一緒に暮らしはじめてからは、ほとんど毎日行為をしている。ちょうど三ヶ月は経っていて、室見は落胆したのだろう。申し訳ない気持ちで見ると、郁のせいじゃない、と室見は首を振った。
「次に第二段階の治療法として、発情誘発剤を使います。強制的にヒートを引き起こして身体に思い出させるやり方です。この方法では、慣れるまで突発的なヒートを繰り返す可能性もあるので、学校や仕事などは長期間休んで治療を受けることを勧めています。明科さんは来年四月から休職する予定とのことなので、それまでは第一段階の方法を続けながら様子を見ましょう」
室見と顔を見合わせて頷く。ヒート不全症の診断書を書いてもらって、診察室を後にした。
会計を済ませて駐車場に行く道すがら、教え子に声をかけられた。
「明科先生……?」
振り向くと、黒のトレーナーにジーンズ姿の細長い男がたっていた。遠慮がちな声と、長めの黒髪が目にかかっている様子から記憶を辿り、誰かを思い出す。
「坂井か。久しぶりだな。今どうしてるんだ?」
「あ……えと……だ、大学……」
「進学したのか。もしかして、獣医を目指してるのか?」
「う……うん……。あ。はい……」
「そうか。生物部でとても熱心だったものな。きっと良い獣医さんになるだろう。応援してるよ」
「あ……はい……。が、がんばります」
坂井は胸の前で両手をもじもじとさせた後、郁の後ろを見てぎくりと身体を硬直させた。
「郁いこう」
後ろにいた室見が坂井に一瞬だけ視線を送り、郁の肩を自分の胸に向かって引き寄せる。
「あ……じゃあな、坂井」
「さ、さようなら……」
抱き寄せられた形のまま車に向かって歩き出した郁は、はたと室見を見上げる。
「坂井は室見と同級生じゃなかったか?」
「そう? 覚えてないや」
興味なさげに返事をすると、室見は抱いていた肩を一度ぎゅっとして「郁しか見えてなかったから」と呟いて額に唇を寄せた。
十一月下旬、郁は来年四月からの休職について上司に相談して届出を出すことにした。本格的にヒート不全の治療を受けるために、かかりつけの病院で紹介状を書いてもらい、室見が以前から相談していたという医師のいる病院へ行った。室見の希望もあり、一緒に最初の受診をした。
「ヒート不全は個人差が大きく、治療は何種類かの方法を試していく形になります。まず、番がいる場合は相手と定期的な性交渉をすることが第一段階になります」
「通常その方法でどのくらいでヒートが来るようになりますか?」
室見が初老の医師に訊く。医師は電子カルテに郁と室見から聞き取った情報を入力しながら答えた。
「個人差がとても大きく一概には言えませんが……平均すると三ヶ月ですね。ただ、性交した翌日に来る人もいれば毎日しても一年来ない人もいるので、この平均値は参考程度です」
室見は嘆息して少し肩を落とした。一緒に暮らしはじめてからは、ほとんど毎日行為をしている。ちょうど三ヶ月は経っていて、室見は落胆したのだろう。申し訳ない気持ちで見ると、郁のせいじゃない、と室見は首を振った。
「次に第二段階の治療法として、発情誘発剤を使います。強制的にヒートを引き起こして身体に思い出させるやり方です。この方法では、慣れるまで突発的なヒートを繰り返す可能性もあるので、学校や仕事などは長期間休んで治療を受けることを勧めています。明科さんは来年四月から休職する予定とのことなので、それまでは第一段階の方法を続けながら様子を見ましょう」
室見と顔を見合わせて頷く。ヒート不全症の診断書を書いてもらって、診察室を後にした。
会計を済ませて駐車場に行く道すがら、教え子に声をかけられた。
「明科先生……?」
振り向くと、黒のトレーナーにジーンズ姿の細長い男がたっていた。遠慮がちな声と、長めの黒髪が目にかかっている様子から記憶を辿り、誰かを思い出す。
「坂井か。久しぶりだな。今どうしてるんだ?」
「あ……えと……だ、大学……」
「進学したのか。もしかして、獣医を目指してるのか?」
「う……うん……。あ。はい……」
「そうか。生物部でとても熱心だったものな。きっと良い獣医さんになるだろう。応援してるよ」
「あ……はい……。が、がんばります」
坂井は胸の前で両手をもじもじとさせた後、郁の後ろを見てぎくりと身体を硬直させた。
「郁いこう」
後ろにいた室見が坂井に一瞬だけ視線を送り、郁の肩を自分の胸に向かって引き寄せる。
「あ……じゃあな、坂井」
「さ、さようなら……」
抱き寄せられた形のまま車に向かって歩き出した郁は、はたと室見を見上げる。
「坂井は室見と同級生じゃなかったか?」
「そう? 覚えてないや」
興味なさげに返事をすると、室見は抱いていた肩を一度ぎゅっとして「郁しか見えてなかったから」と呟いて額に唇を寄せた。
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