教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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11.脅迫 2

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 期末テストを終えて、郁が担任を持つ三年生は志望する高校を決める時期に入った。一月の出願開始に向けて毎日個人面談を行い、このところ残業続きの忙しい日々が続く。
 そんなある日、郁が午後の空き時間に職員室の自分の机に戻ると、白い封筒が置かれていた。
 宛名には、学校名の下に『明科先生へ』と印刷されていて、裏に差出人の名前はない。卒業生からの手紙だと思い何の気なしに開けると、中には一枚だけ便箋が入っていた。半分に折り畳まれた紙を開くと、真ん中に一行だけ文章がある。

『生徒をフェロモンで誘惑するオメガは教師をやめろ』

 目に入った瞬間に、ざっと血の気が引いた。
 教職に就いている間に、オメガであることを揶揄されることは何度かあったが、こんなにも直接的な言葉で嫌悪を示されたことはなかった。八年前のあの事故が起こる前であれば、オメガに対する差別的な言葉にこれほど気持ちが沈むことはなかっただろう。きちんと薬を飲んで気をつけていれば、突発的なヒートを引き起こすことはないと、あの事故が起こる前ならば自信を持って言うことができた。けれど今は。あの事故を起こしてしまった自分は、そう言うことができない。この紙に書かれている通りの、生徒を誘惑した教師だ。

「明科先生」

 手紙を茫然として見つめていると、校長に呼ばれた。手招きされ職員室から続いている校長室に入ると、校長はドアを閉めて郁に白い封筒を差し出してきた。それは先程郁が開けたものと同じもので、宛名だけが校長あてになっていた。震える手でそれを受けとり、やはり一枚だけ入っていた便箋を開く。

『生徒とセックスした明科はやめさせろ』

 郁はその印刷された無機質な文章を見て、目を伏せた。
「これを送る人物に心当たりがありますか?」
「いえ……」
 所々白いものが混じる口髭を蓄えた校長は穏やかな人物で、生徒や教師からの信頼も厚い。簡単なミスやとるに足らない細事を見つけては強い口調で叱責する教頭とは正反対で、案件によっては直接校長に相談しにいく教師もいる。その校長が、堅い表情で郁に問う。
「最近生徒や保護者とトラブルになったことはありますか?」
「思いあたりません」

「では、ここに書かれている内容に心あたりは?」

 今まで訊かれなかったから、答えなかった。
 それでは不誠実で、嘘をついているも同然だったのかもしれない。八年前の出来事は、当時の校長、教頭、西条、それに室見の家族が知るのみで、内々に処理された。当時の校長と教頭は既に退職しているため、今や教職に就いて知っているのは西条のみだ。他に知るものはいない。けれど、他の誰にも知らせずに教師を続けていた自分は、周囲を欺いていたと捉えられても仕方がない。

「ここに書かれていることは、事実です……」

 郁は震える声を必死で抑えながら、八年前の出来事について告白した。
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