教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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12.嫉妬 2

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 後ろからまわされた室見の手が、寝間着にしているTシャツの裾から入り込み脇腹を撫で上げる。そのまま上に向かう手のひらを、郁はやめるようにとそっと押さえつける。
「今日は個人面談もあるし休めない……何か急用か?」
「……ごめんね、郁。休んだ方がいい……から」
「どうした? 昨日相談したこと、心配してくれてるのか? 校長はとりあえず様子を見ようと言ってくれているから……」

「そんなつらい目に合わされて、郁が傷付けられるなんて俺が耐えられない。……いや、ちがう……ちがうんだ。俺が限界なんだよ。本当はもっと、ゆっくり……待つつもりだったのに……」

 無理なんだ。耐えられない。ごめんね。

 郁の首筋付近に顔を埋めて、室見は声を絞り出すように言った。苦しげな様子に、胸が痛くなる。またおまえを苦しめているのは、俺なのかと室見に向かい合って顔を見る。しかし室見の表情は既に氷のように冷たいものに変わっていた。

「郁を迎えに行ったときに一緒にいた男……郁に色目使ってた」

「え……?」

 昨日迎えに来てくれた時に、駐車場まで一緒に来た同僚のことかと、思い至る。特別親しいわけではなく、ちょうど退勤時間が同じだったために同時に出てきただけだった。
「たまたま帰りが同じになった同僚だよ。色目なんてあり得ない」
「郁が鈍いのを利用して、馴れ馴れしく……」
「俺のことをそんな目で見てるのは室見くらいだ」
 室見は幼い子供が駄々をこねるように首を振る。

「病院の駐車場で会ったやつだって中学の時、郁に好意を持ってたやつだよ。郁は気づいてなかっただろ? あいつ確かアルファだった」

「……坂井のことか?」

 前髪が長く俯きがちのため、目がほとんど隠れていた長身の男を思い出す。あの坂井が自分に好意を持っていた……?
 室見がそういうからには親しみや尊敬の念とは違う好意を指しているのだろうが、知らなかった。あの頃は室見からのアプローチをどうするかで精一杯で、周りが見えていなかったかもしれない。しかし、坂井からそんな素振りを少しも感じたことはなく、室見の思い過ごしではないかとも思える。
 室見は郁の頬を大事そうに撫でて話を続ける。
「あいつらだけじゃない。適合率の話を前にしたよね。俺と郁の適合率は九十八パーセントで、検査機関によると奇跡的な数値だといわれたけれど、いつか、郁と適合率百パーセントのアルファが現れるかもしれない。そうしたら郁は俺から離れてく。二パーセント足りないだけで、また郁を失ったらと思うと……怖くてしょうがなくなる……」
 頬を撫でる手のひらが、そのままうなじにおりてくる。八年前に噛まれた痕が薄く残るそこを、冷たい親指が辿る。

「室見……もう俺は、おまえの番に……なっているじゃないか……」

 適合率など関係なく、自分たちは既に結婚と同義かそれ以上の強い結びつきがある。望んでそうなったかは別として、それは取り消しようのない事実だ。八年間接触することができなかったが、再会後は良い関係を育んできていた。そうではなかったか。
 しかし、室見は強く首を振る。
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