教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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16.西条 7

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「……大丈夫か?」

 顔をあげると、西条の瞳が心配そうに揺れていた。自分はどんな顔をしているのだろう。咄嗟に返事ができなかった。
 再会して室見と一緒にいる間に、そういう想定をしなかったのは、室見がことあるごとに「愛してる」と告げてくれていたからだ。だから自分は安心していた。

「なんか、答えが出てそうな顔してるな」

 郁が頷くと、西条は穏やかな笑みを浮かべた。
「俺はベータだから、アルファとオメガの番になる感覚とかは本当の意味で理解してやることはできないけど、それも一つの恋愛の形なんじゃないかと思うよ。だってさ、その……身体の相性は重要だっていうしな。そもそも、好きでもない相手とはそんな気になれないし、気持ちよくなれないだろ。発情期とかは、別なのかもしれないけど」
「そう……なのかな……。でも、今、西条に言われてようやくわかった。きっと何をされても、室見のことを心の底から悪く思えない。それは番にされたせいかもしれないけど、今の俺にはもう、室見と別れるという選択肢はなくなってる」
 ……むしろ、もしも見捨てられたらと思うと、怖くてたまらないんだ……。
 西条は励ますように郁の背中を軽く叩いた。
「最初は無理矢理作られた関係だっただろうけど、今のお前たちは相性の良いカップルに見えるよ。ただ、室見はちょっと嫉妬深いから注意はしなきゃいけないけどな。室見が同居を解消しろって言ってきた時、殺されるかと思った位ヤバかったし」
「殺される……?」
 西条の物騒な物言いに郁は眉をひそめる。そういえば、長い間郁と同居していた西条のことについて、室見は冗談のようにそんな言い方をしていた。殺したいくらい憎い、と。
「大袈裟な言い方じゃないぜ? 八年も郁のそばに居たのが許せないって、一発殴らせろとでも言いたげだったけど、郁のために堪えたんだろうな。あと、坂井を俺に会わせたのも、たぶん室見だと思う」
「坂井には、偶然会ったんじゃなかったのか?」
「ああ。偶然、郁が出てってすぐのタイミングで、うちの近くを歩いてた坂井に会った。まあ、偶然な。おかげで未練がましく郁を追いかけなくて済んだ」
 つらい状況にいる人間をほうっておけない西条の性格を利用して、室見が坂井を西条のところに行くように仕向けた、と西条は思っているという。
「病院で坂井に会ったとき、室見は坂井のことを覚えていないような口ぶりだったけど……」
「そっか。ま、ただの俺の想像だから、これについてはあんまり気にしないでくれ。ただ、タイミングが良すぎるからそう思っただけだしな」
 さして気にした様子もなく、西条はニッと笑った。
「すこし心の整理ができた。ありがとう」
「また何かあったら、連絡してくれよ」
「……うん。ありがとう」
 別れ際に西条は気軽に連絡をするように言ってくれたが、連絡を取るのは難しいだろうと郁は思った。この瞬間にも、室見の不安げな表情が脳裏にちらついていた。室見のフェロモンの影響下に無い今、室見を不安にさせたくないという気持ちはまぎれもなく郁のものだった。
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