教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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17.潜心 1

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 現在、抑制剤の種類は三十種類ほどもある。抑制効果の強さによって六段階に分類されていて、郁が新しく処方されたものは上から二番目の『とても強い』の分類に入る薬だった。今までは『とても強い』の二段階下の『中程度』の分類のものを使用していたので、一気にレベルが上げられたことになる。一日一錠、朝食後の服用と、抑制効果が感じられない場合に追加で一錠飲むことができる。強い抑制効果をもつ薬は、副作用も起こりやすい。薬局で説明された主な副作用の症状は、心臓への負担、倦怠感、発熱、吐き気、不安感、悪夢などだ。飲みはじめてすぐに身体の怠さや微熱などの症状が現れて教壇に立つのがつらかったが、いつ起こるともしれないヒートを抑えるために耐えるしかなかった。副作用の中でも、不安感や悪夢は特に郁を悩ませた。

 室見を好きになりたい。でも室見は裏切る。酷いことをしないでほしい。嫌いになりたくない。嫌いになることはできない。室見を愛したい。

 職場に復帰してからも、ふとしたときに室見との関係について考えてばかりになった。室見と別れたくないと思っていることに気づけたものの、一方で薬を盛られて番にされたことへの怒りもわいてくる。室見を愛したいという気持ちは、番にさえされなければ無かったのかもしれないと疑ってしまう。けれど、いくら疑っても受け入れるしかない。身体も心も、室見のものでいたいと願っていた。それはおそらく、番関係の解消でもしなければ変えられない。そして、番関係を解消したいとは思えないのだから、室見を愛するしか道はない。
 そんな堂々巡りの気持ちをどう伝えたら良いかわからず、室見にはなかなか連絡をできずにいた。

 そんな中、校長と郁宛てに再び嫌がらせの手紙が学校に届いた。
 今回は校長宛ても郁宛ても同じ内容で、最初に送られてきたものに淫乱や淫奔など郁を貶める言葉が追記されていた。

「あれから、室見さんとは手紙について話しましたか?」
 校長は穏やかな口調で、手紙から目線をあげた郁に聞いた。
「いえ……すみません。まだ話ができていません……」
「今のところは危害を加えるような内容ではないので、引き続き様子見でも良いかと思われますが……。今後内容がエスカレートすることも考えられますから、なるべく早めに話し合いをしてくださいね」
「はい……。ご迷惑をおかけしてすみません」

 校長室を出て廊下を早足で進み、ひとけのない職員更衣室に入ってドアを後ろ手に閉めた。
 校長は完全に室見を疑っている。手紙を送ったのは室見ではないと、すぐに否定することができなかった。室見への疑いを晴らさなければいけないのに。もしも、と思ってしまう。自分を貶める手紙を送る犯人がもしも……。
 疑いたくなど、ないのに。
 誰もいないそこで、郁はうずくまって泣いた。
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