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エピローグーそして時は流れてー 4
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先週、俺は失恋をした。
バレー部キャプテンの先輩に告白したところ、見事に撃沈してしまった。クールな先輩はアルファで、滅茶苦茶人気者だ。オメガの俺は、先輩を見かけるたびにドキドキしていたので、これって運命かも、なんて思っていたけれど、どうやら違ったらしい。あっさり振られてしまった。けれども、俺は先輩を目で追うのを今だに止められない。
「俺の執着癖は、チカじーちゃんの血引いてるからかなあ」
屋上の広い庭に続く縁側で、俺はいーじーちゃんに失恋の話を聞いてもらっていた。
「執着、というほどのことじゃないだろう。先週振られたばかりなんだ、普通じゃないか」
いーじーちゃんは庭で鉢の植物の植え替えをしながら、俺の話に相づちをうってくれる。
「はあ~。運命だと思ったんだけどな~。俺、適合検査で運命の番探してもらおうかな」
「……それも、一つの手かもしれないが……。あんまり運命にこだわらなくても良いんじゃないか」
「えー、でもさ、せっかくオメガに産まれたし、やっぱ運命って憧れるよ」
いーじーちゃんが休憩のために軍手を外して縁側に来てくれた。俺は急須のお茶を湯のみに注いで差し出す。
「運命にこだわる年頃か。ああ、そうか。季春は中学二年生なんだな」
お茶をこくこく飲んだいーじーちゃんは、湯のみを縁側に置くと俺をぎゅっと抱き締めた。
「ちょっ……と、まずいって、チカじーちゃんに見られたら……」
まだ帰ってこない時間だとは思うが、あのチカじーちゃんのことだからどっかにカメラを仕込んでいるとも限らない。俺はキョロキョロあたりを見回して、いーじーちゃんの手を引っ張った。いーじーちゃんて、こういうとこある。突然感極まるのか、家族をハグする。んで、チカじーちゃんに怒られるんだ。いーじーちゃんじゃなくて、抱き締められた家族が。青くなった俺に構わず、いーじーちゃんは、ふふ、と笑って腕を離すと、今度は俺の前髪を上げておでこを出した。そしてまじまじと俺の顔を見つめる。
「なに?」
「一花そっくりだ」
俺のおでこ、光ってんの? ってくらい眩しそうな顔。いーじーちゃん、俺じゃなくて、俺を通してチカじーちゃん見てるんだ。チカじーちゃんもアレだけど、いーじーちゃんも大概だよなあ。
じとーっと見ていると、いーじーちゃんははっとして、気恥ずかしそうに顔を背けてぽんぽんと頭を撫でて解放してくれた。
「俺、子供産むのは怖いから、産んでくれる相手がいいな」
「ずいぶん気が早いな」
いーじーちゃんがお茶っ葉を替えて、ポットのお湯を急須に注いで新しくお茶を入れてくれた。俺はそれをずずっと啜る。
「いやだってさ、なんかオメガってだけで産む側に見られるじゃん」
「世間的にはそういう傾向はあるかもな。でも……」
「いーじーちゃんだって、六人も子供産まされてんじゃん」
先週、俺は失恋をした。
バレー部キャプテンの先輩に告白したところ、見事に撃沈してしまった。クールな先輩はアルファで、滅茶苦茶人気者だ。オメガの俺は、先輩を見かけるたびにドキドキしていたので、これって運命かも、なんて思っていたけれど、どうやら違ったらしい。あっさり振られてしまった。けれども、俺は先輩を目で追うのを今だに止められない。
「俺の執着癖は、チカじーちゃんの血引いてるからかなあ」
屋上の広い庭に続く縁側で、俺はいーじーちゃんに失恋の話を聞いてもらっていた。
「執着、というほどのことじゃないだろう。先週振られたばかりなんだ、普通じゃないか」
いーじーちゃんは庭で鉢の植物の植え替えをしながら、俺の話に相づちをうってくれる。
「はあ~。運命だと思ったんだけどな~。俺、適合検査で運命の番探してもらおうかな」
「……それも、一つの手かもしれないが……。あんまり運命にこだわらなくても良いんじゃないか」
「えー、でもさ、せっかくオメガに産まれたし、やっぱ運命って憧れるよ」
いーじーちゃんが休憩のために軍手を外して縁側に来てくれた。俺は急須のお茶を湯のみに注いで差し出す。
「運命にこだわる年頃か。ああ、そうか。季春は中学二年生なんだな」
お茶をこくこく飲んだいーじーちゃんは、湯のみを縁側に置くと俺をぎゅっと抱き締めた。
「ちょっ……と、まずいって、チカじーちゃんに見られたら……」
まだ帰ってこない時間だとは思うが、あのチカじーちゃんのことだからどっかにカメラを仕込んでいるとも限らない。俺はキョロキョロあたりを見回して、いーじーちゃんの手を引っ張った。いーじーちゃんて、こういうとこある。突然感極まるのか、家族をハグする。んで、チカじーちゃんに怒られるんだ。いーじーちゃんじゃなくて、抱き締められた家族が。青くなった俺に構わず、いーじーちゃんは、ふふ、と笑って腕を離すと、今度は俺の前髪を上げておでこを出した。そしてまじまじと俺の顔を見つめる。
「なに?」
「一花そっくりだ」
俺のおでこ、光ってんの? ってくらい眩しそうな顔。いーじーちゃん、俺じゃなくて、俺を通してチカじーちゃん見てるんだ。チカじーちゃんもアレだけど、いーじーちゃんも大概だよなあ。
じとーっと見ていると、いーじーちゃんははっとして、気恥ずかしそうに顔を背けてぽんぽんと頭を撫でて解放してくれた。
「俺、子供産むのは怖いから、産んでくれる相手がいいな」
「ずいぶん気が早いな」
いーじーちゃんがお茶っ葉を替えて、ポットのお湯を急須に注いで新しくお茶を入れてくれた。俺はそれをずずっと啜る。
「いやだってさ、なんかオメガってだけで産む側に見られるじゃん」
「世間的にはそういう傾向はあるかもな。でも……」
「いーじーちゃんだって、六人も子供産まされてんじゃん」
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