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27.姉妹の密談
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「ごめんね、美実。何が気に入らなかったのか、なかなか安曇が泣き止まなくて。オムツを変えて授乳させて、やっと寝付いた所で康太が帰って来たから、挨拶を口実に割り込んでみたんだけど……」
「何か、一足遅かったって感じだよな。すげぇ、揉めてた感じだったし」
「康太は黙ってて!」
「……決裂」
「え?」
ボソッと呟いた美実に慌てて視線を戻した美恵の前で、美実はボロボロと泣き始めた。
「あ、淳のお母さん……、本気で、うぇっ……、怒らせっ……、ふえぇぇっ!」
「ああ、何か無茶苦茶怒ってたよな。あのおばさんとお義姉さん、一体どんな言い合いしてたんだ?」
「うくっ、……うぇぇっ!」
「康太! いいからあんたは、ちょっと黙ってて!」
悉く余計なコメントを口にする夫を叱り付けてから、美恵は半ば呆れながら指摘してみた。
「だけど美実。あんたはどうして泣いてるのよ」
「ぅえ?」
「だって小早川さんと別れるって決めたんだから、その両親から愛想尽かされようが貶されようが、痛くも痒くも無いんじゃない? 泣く必要だって無いわよ」
「それはっ……」
「家族の心証を悪くしたら、小早川さんから本当に愛想を尽かされそうで、嫌なんでしょ? 本当に素直じゃ無いんだから」
「そ……、そんなんじゃないしっ!」
涙声で盛大に言い返した美実だったが、美恵は(バレバレよねぇ)と生温かい視線を妹に向けた。
「はいはい。そういう事にしておきましょうね。全く、底抜けの馬鹿なんだから」
「ふぇっ、ば、馬鹿じゃないっ……、もんっ! うえぇぇ――っ!」
そうして自分に抱き付いて、盛大に泣き出した美実の背中を軽く叩いて宥めながら、美恵は遠い目をしてしまった。
「はぁ……。もう、どうしたものかしらね」
「取り敢えず、落ち着くまでそうしてるしか無いんじゃないか?」
「それはそうだけど。他人事だと思って……」
すこぶる冷静に口を挟んできた康太を、美恵が軽く睨む。暫くそのまま美実を好きなだけ泣かせていると、バタバタと廊下を走る音がしたと思ったら、勢い良く襖が引き開けられて美野が姿を現した。
「美実姉さん! 美恵姉さんも居る!? あ、谷垣さん、お帰りなさい! 大変なの!?」
「ちょっと落ち着きなさい、美野。どうしたの。今度は何?」
これ以上の揉め事は勘弁してほしいと、心底うんざりしながら美恵が問いかけると、美野に付いて来た美樹が両手をバタバタさせ、如何にも慌てている様子で言い出した。
「ママ、え~んなの!」
「は?」
「それが! 美子姉さんが、自分の部屋で泣きながら電話してて!」
「はい!?」
「あの美子姉さんが泣いてる!?」
「どうしよう? どうしたら良いの?」
これまでに遭遇した事の無い事態に、おろおろと狼狽えている二人を見て、美恵は舌打ちしながら立ち上がった。
「だから美野、落ち着きなさい。取り敢えず様子を見に行くから」
「あ、私も!」
予想外の事を聞かされてすっかり涙が引っ込んだ美実も同様で、その場全員が一塊になって二階へと足を進めた。そして美子と秀明用の私室を指差した美野が、声を潜めて説明する。
「この中で話してるから」
「ええ。静かにね」
「分かってる」
そして慎重にドアを開けて隙間を作った美野は、無言で姉達を手招きした。
「……だからっ、……あ、あんな事っ、……ふぅっ、言われ……って」
そこでドアに張り付く様にして、背中を向けて座っている美子の嗚咽まじりの声に、姉妹揃って耳を傾ける。
「それはっ……、た、確かに……、大っぴら、にっ……、ほ、褒められない、かもっ……。で、でもっ……。あ……、あの子なり、にっ……、必死にっ……、考えっ……。徹夜とかっ……、何度も、書き直しとかっ……。私……、恥ずかしいとか、本当に、思った事無い……。そっ、それなのにっ……。く、悔しいぃぃーっ!! しっ、しかも! あの女……。汚らわしいとか、うちの事も、恥知らずのっ……、成金……。い、言いたい放題っ……。や、やっぱり……、一回位、蹴りたおっ……」
そこまで聞いて溜め息を吐いた美恵は、無言で元通りドアを閉めた。
「多分、あの電話の相手って義兄さんよね……」
「美子姉さんが、あんな風に悔し泣きしてる所なんて、初めて見た……。普段だって、泣き顔なんか他人に見せた事無いのに……」
「そうなのか?」
呆然としながら口にした美野に、付き合いの短い康太が不思議そうに応じる。ここで美恵が全員に身振り手振りでドアから離れる様に指示し、十分距離を取ってから真顔で言い聞かせた。
「いいこと? あのプライドの高い姉さんの事だから、義兄さんに電話で泣きついた所を見られたと知っただけでも嫌がるから、絶対見た事を言っちゃ駄目よ? 見なかったし聞かなかった事にしなさい。康太も。分かったわね?」
「勿論よ」
「分かりました」
「俺は構わないけど、美樹ちゃんはどうすんだ?」
当然の如く康太が問い質した為、美恵はしゃがみ込んで美樹に尋ねてみた。
「美樹ちゃん? 何も見てないよね?」
「うん。ママ、え~ん、みない!」
「……無理じゃねぇ?」
ぶんぶんと必死に首を振った美樹を見て、康太は首を傾げ、美恵の顔が僅かに引き攣る。それを見た美野はしゃがみ込み、考えながら美樹に言い聞かせた。
「ええ~っとね、美樹ちゃん。今日は、お客さんが来て、お茶を飲んで、帰ったの。それだけよ? おじいちゃんや美幸叔母さんに『何があった?』って聞かれたら、それだけ言えば良いの。それが事実だからね? 嘘じゃないから。はい、言ってみましょう。今日は何があったかしら?」
若干強張った笑顔で美野が念を押してみると、美樹は少し考えながら口にした。
「え~っと、え~~っとね? ……おきゃくで、おちゃで、さよーなら」
「はい、その通り。もう一回言ってみましょうか?」
「おきゃくで、おちゃで、さよーなら!」
「良くできました! うん。これで心配要らないわ。これだけ言っていれば良いからね。またケーキを買って来てあげる」
「うん!」
自信満々に断言した美樹を見て、美野は笑顔で太鼓判を押した。そんな二人をもの凄く疑わしげに、美恵が見やる。
「……本当に?」
「大丈夫。信用して?」
「分かった。あんたを信じるから。じゃあ取り敢えず後片付けとか、色々済ませましょうか」
「そうね」
そして全員気を取り直してぞろぞろと移動を始めると、美実は背後のドアを何とも言えない表情で一度振り向いてから、姉達の後を追った。
「何か、一足遅かったって感じだよな。すげぇ、揉めてた感じだったし」
「康太は黙ってて!」
「……決裂」
「え?」
ボソッと呟いた美実に慌てて視線を戻した美恵の前で、美実はボロボロと泣き始めた。
「あ、淳のお母さん……、本気で、うぇっ……、怒らせっ……、ふえぇぇっ!」
「ああ、何か無茶苦茶怒ってたよな。あのおばさんとお義姉さん、一体どんな言い合いしてたんだ?」
「うくっ、……うぇぇっ!」
「康太! いいからあんたは、ちょっと黙ってて!」
悉く余計なコメントを口にする夫を叱り付けてから、美恵は半ば呆れながら指摘してみた。
「だけど美実。あんたはどうして泣いてるのよ」
「ぅえ?」
「だって小早川さんと別れるって決めたんだから、その両親から愛想尽かされようが貶されようが、痛くも痒くも無いんじゃない? 泣く必要だって無いわよ」
「それはっ……」
「家族の心証を悪くしたら、小早川さんから本当に愛想を尽かされそうで、嫌なんでしょ? 本当に素直じゃ無いんだから」
「そ……、そんなんじゃないしっ!」
涙声で盛大に言い返した美実だったが、美恵は(バレバレよねぇ)と生温かい視線を妹に向けた。
「はいはい。そういう事にしておきましょうね。全く、底抜けの馬鹿なんだから」
「ふぇっ、ば、馬鹿じゃないっ……、もんっ! うえぇぇ――っ!」
そうして自分に抱き付いて、盛大に泣き出した美実の背中を軽く叩いて宥めながら、美恵は遠い目をしてしまった。
「はぁ……。もう、どうしたものかしらね」
「取り敢えず、落ち着くまでそうしてるしか無いんじゃないか?」
「それはそうだけど。他人事だと思って……」
すこぶる冷静に口を挟んできた康太を、美恵が軽く睨む。暫くそのまま美実を好きなだけ泣かせていると、バタバタと廊下を走る音がしたと思ったら、勢い良く襖が引き開けられて美野が姿を現した。
「美実姉さん! 美恵姉さんも居る!? あ、谷垣さん、お帰りなさい! 大変なの!?」
「ちょっと落ち着きなさい、美野。どうしたの。今度は何?」
これ以上の揉め事は勘弁してほしいと、心底うんざりしながら美恵が問いかけると、美野に付いて来た美樹が両手をバタバタさせ、如何にも慌てている様子で言い出した。
「ママ、え~んなの!」
「は?」
「それが! 美子姉さんが、自分の部屋で泣きながら電話してて!」
「はい!?」
「あの美子姉さんが泣いてる!?」
「どうしよう? どうしたら良いの?」
これまでに遭遇した事の無い事態に、おろおろと狼狽えている二人を見て、美恵は舌打ちしながら立ち上がった。
「だから美野、落ち着きなさい。取り敢えず様子を見に行くから」
「あ、私も!」
予想外の事を聞かされてすっかり涙が引っ込んだ美実も同様で、その場全員が一塊になって二階へと足を進めた。そして美子と秀明用の私室を指差した美野が、声を潜めて説明する。
「この中で話してるから」
「ええ。静かにね」
「分かってる」
そして慎重にドアを開けて隙間を作った美野は、無言で姉達を手招きした。
「……だからっ、……あ、あんな事っ、……ふぅっ、言われ……って」
そこでドアに張り付く様にして、背中を向けて座っている美子の嗚咽まじりの声に、姉妹揃って耳を傾ける。
「それはっ……、た、確かに……、大っぴら、にっ……、ほ、褒められない、かもっ……。で、でもっ……。あ……、あの子なり、にっ……、必死にっ……、考えっ……。徹夜とかっ……、何度も、書き直しとかっ……。私……、恥ずかしいとか、本当に、思った事無い……。そっ、それなのにっ……。く、悔しいぃぃーっ!! しっ、しかも! あの女……。汚らわしいとか、うちの事も、恥知らずのっ……、成金……。い、言いたい放題っ……。や、やっぱり……、一回位、蹴りたおっ……」
そこまで聞いて溜め息を吐いた美恵は、無言で元通りドアを閉めた。
「多分、あの電話の相手って義兄さんよね……」
「美子姉さんが、あんな風に悔し泣きしてる所なんて、初めて見た……。普段だって、泣き顔なんか他人に見せた事無いのに……」
「そうなのか?」
呆然としながら口にした美野に、付き合いの短い康太が不思議そうに応じる。ここで美恵が全員に身振り手振りでドアから離れる様に指示し、十分距離を取ってから真顔で言い聞かせた。
「いいこと? あのプライドの高い姉さんの事だから、義兄さんに電話で泣きついた所を見られたと知っただけでも嫌がるから、絶対見た事を言っちゃ駄目よ? 見なかったし聞かなかった事にしなさい。康太も。分かったわね?」
「勿論よ」
「分かりました」
「俺は構わないけど、美樹ちゃんはどうすんだ?」
当然の如く康太が問い質した為、美恵はしゃがみ込んで美樹に尋ねてみた。
「美樹ちゃん? 何も見てないよね?」
「うん。ママ、え~ん、みない!」
「……無理じゃねぇ?」
ぶんぶんと必死に首を振った美樹を見て、康太は首を傾げ、美恵の顔が僅かに引き攣る。それを見た美野はしゃがみ込み、考えながら美樹に言い聞かせた。
「ええ~っとね、美樹ちゃん。今日は、お客さんが来て、お茶を飲んで、帰ったの。それだけよ? おじいちゃんや美幸叔母さんに『何があった?』って聞かれたら、それだけ言えば良いの。それが事実だからね? 嘘じゃないから。はい、言ってみましょう。今日は何があったかしら?」
若干強張った笑顔で美野が念を押してみると、美樹は少し考えながら口にした。
「え~っと、え~~っとね? ……おきゃくで、おちゃで、さよーなら」
「はい、その通り。もう一回言ってみましょうか?」
「おきゃくで、おちゃで、さよーなら!」
「良くできました! うん。これで心配要らないわ。これだけ言っていれば良いからね。またケーキを買って来てあげる」
「うん!」
自信満々に断言した美樹を見て、美野は笑顔で太鼓判を押した。そんな二人をもの凄く疑わしげに、美恵が見やる。
「……本当に?」
「大丈夫。信用して?」
「分かった。あんたを信じるから。じゃあ取り敢えず後片付けとか、色々済ませましょうか」
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