50 / 94
49.困惑のプレゼンテーション
しおりを挟む
「それじゃあ、淳。お父さんや美子姉さんに対して、淳が子供の父親としてどれだけ相応しいか、それから子供に対してどんな責任を負って、どう果たすつもりなのかを、きちんと示して欲しいんだけど。それで二人が満足したら、私と結婚しなくても淳を家族の一員と認めてくれると思うわ」
その提案に、淳は少し考えてから、冷静に確認を入れた。
「要するに、子供の父親としてのプレゼンみたいなものか」
「そう言う事ね」
「確かにその通りだな。それなら俺は、何をどう証明すれば良い?」
「それは淳が考えて」
「え?」
「そんな無茶苦茶な! 美実姉さん、無茶振り過ぎるわよ!! まず方法を考えて、それを認めて貰った上で、きちんと遂行しなくちゃいけないって事でしょう!?」
「だって、そんな事今まで考えていなかったから、自分でもどうすれば良いのか、良く分からないんだもの」
まさかの丸投げ状態に淳は呆然となったが、美幸は慌てて美実を非難した。それに美実が困った様に弁解していると、淳が押し殺した声で了承の返事をしてくる。
「……分かった」
「小早川さん!?」
慌てて美幸は淳に視線を向けたが、彼は淡々と話を進めた。
「条件を飲もう。まずは俺から、藤宮家と子供に対する誠意を示す方法を、提示すれば良いんだな?」
「ええ。それで美子姉さん達が納得したら、それをきちんとやり遂げるか、その計画とかを示して欲しいの」
「それじゃあ、期限は?」
「私の出産予定日までに、諸々をきちんと終わらせるって言うのは?」
「十分だ。美子さんにもそう伝えてくれ」
「そうするわ」
美実とすこぶる冷静に話を纏めた淳は、そこでテーブルに有った伝票を取り上げて立ち上がった。
「じゃあ、俺は先に行く。支払いはしていくから、二人はゆっくりしていってくれ」
「あ、あの……、御馳走様です」
かなり恐縮して頭を下げた美幸に軽く笑いかけて、淳はそのまま会計を済ませて店を出て行った。その間、静かに座っていた美実に、美幸が心配そうに囁く。
「美実姉さん。本当にあれで良かったの?」
それに美実は、小さく笑いながら頷いた。
「ええ。気まずい思いをさせちゃったわね。そのケーキセットは淳の奢りだけど、他に食べたい物があったら私が奢るわよ?」
「本当? それならもう一回、ケーキセットお願い」
「ええ。どれにする? 私も一緒に頼むわ」
そして緊迫感溢れる会談が終了した事で、それから二人はリラックスしてケーキを味わってから帰路に就いた。
その日の夜。台所の片付け等が終わった時間を見計らって、美実は美子夫婦の部屋のドアをノックした。
「美子姉さん、入っても良い?」
「ええ、構わないわよ?」
そして部屋に入ると、椅子に座って何やら話していたらしい義兄の姿を認めた美実は、慌てて頭を下げる。
「お義兄さん、お邪魔してすみません」
「気にしないで良いから。それより、美子に話があるんだろう? 俺は席を外そうか?」
「いえ、できればお義兄さんも一緒に、話を聞いて欲しいんです」
「そうなんだ。今は二人とも暇だし、遠慮無くどうぞ」
そして秀明が立ち上がり、座っていた椅子を勧められた美実は、恐縮しながらそれに座って美子と相対した。
「ええと……、それでは、ですね。美子姉さんから、未だに接触禁止令が出ているのは重々承知の上で、今日、ある所で淳と会って来たんですが……」
「あら、そう……」
ビクビクしながら話を切り出した美実だったが、美子は頭ごなしに叱り付けるわけでも無く、言葉少なに応じた。しかしそれで逆に不気味さを感じてしまった美実は、かなり萎縮しながら話を続ける。
「その……、一応、美幸も一緒に行ったので、和気藹々とした会話をしてきたわけでは無くて、寧ろ、どちらかと言えば、殺伐とした会話だったのでは無いかと……」
「御託は良いから、さっさと本題に入りなさい」
「はっ、はいっ!」
ピシッと命令され、美実は慌てて手短に淳とのやり取りを語って聞かせた。そして話し終えてから、恐る恐る美子の顔色を窺う。
「ええと……、以上です」
「良く分かったわ。あなた。小早川さんに了承したと伝えて頂戴」
「良いの?」
「良いのか?」
あっさりと了承した美子に、秀明は勿論、美実も意外に思って問い返したが、美子は無表情のまま素っ気なく言い放った。
「ええ。どんな内容を考えてくるか楽しみね。美実、話が済んだならもう良いわよ?」
「う、うん。失礼します」
まだ少し動揺しながら美実が部屋を出て行くと、秀明が溜め息を吐いて感想を述べた。
「これはまた……、美実ちゃんも随分面倒な課題を出したものだな」
「私に言わせれば、それ位当然よ」
「因みに、お前だったらどんな事をしたり、どんな内容を提示したら納得するんだ?」
「…………」
さり気なく秀明が問い掛けた途端、美子は夫を冷たい目で睨んだ。それを見た秀明が、苦笑いで応じる。
「ちょっと聞いてみただけだろう、そう睨むな。淳に情報を流すつもりも無いし」
「そういう事にしておいてあげるわ」
「本当に信用が無いな」
「今更な事を言わないで」
何かする事を思い出したらしく、若干不愉快そうな顔で立ち上がって歩き出した彼女の背中に、秀明が何気なく声をかけた。
「美子」
「何?」
「どんな内容を考えてやらせても、最後に不満だからと拒否すれば良いだけの話だとか、考えてはいないよな?」
「あなたじゃあるまいし、どんな性格破綻者よ。一応ちゃんと正当に評価はしてあげるわ」
「……そうか」
正直、どうだろうかと思った秀明だったが、ここでわざわざ口にしたら怒られるのは確実な為、無言で部屋を出て行く彼女を見送った。すると何やらスラックスを引っ張られているのが分かった秀明は、足元を見下ろしながら娘に声をかける。
「美樹、どうした?」
すると、父親のスラックスをくいくいと引いていた美樹は、その手を離して見上げながら尋ねてきた。
「あっちゃん、ぷち?」
その問いかけの意味が分からず、秀明は困惑顔で尋ね返す。
「美樹? 『ぷち』って何だ? 淳は小さくは無いぞ? 萎縮して小さくなったりもしていないし」
「がけっぷち」
「………………そうだな。色々な意味で崖っぷちで、踏ん張りどころだな」
娘の口から唐突に出て来た言葉を聞いて、秀明は一気に疲労感を覚え、深い溜め息を吐いたのだった。
その提案に、淳は少し考えてから、冷静に確認を入れた。
「要するに、子供の父親としてのプレゼンみたいなものか」
「そう言う事ね」
「確かにその通りだな。それなら俺は、何をどう証明すれば良い?」
「それは淳が考えて」
「え?」
「そんな無茶苦茶な! 美実姉さん、無茶振り過ぎるわよ!! まず方法を考えて、それを認めて貰った上で、きちんと遂行しなくちゃいけないって事でしょう!?」
「だって、そんな事今まで考えていなかったから、自分でもどうすれば良いのか、良く分からないんだもの」
まさかの丸投げ状態に淳は呆然となったが、美幸は慌てて美実を非難した。それに美実が困った様に弁解していると、淳が押し殺した声で了承の返事をしてくる。
「……分かった」
「小早川さん!?」
慌てて美幸は淳に視線を向けたが、彼は淡々と話を進めた。
「条件を飲もう。まずは俺から、藤宮家と子供に対する誠意を示す方法を、提示すれば良いんだな?」
「ええ。それで美子姉さん達が納得したら、それをきちんとやり遂げるか、その計画とかを示して欲しいの」
「それじゃあ、期限は?」
「私の出産予定日までに、諸々をきちんと終わらせるって言うのは?」
「十分だ。美子さんにもそう伝えてくれ」
「そうするわ」
美実とすこぶる冷静に話を纏めた淳は、そこでテーブルに有った伝票を取り上げて立ち上がった。
「じゃあ、俺は先に行く。支払いはしていくから、二人はゆっくりしていってくれ」
「あ、あの……、御馳走様です」
かなり恐縮して頭を下げた美幸に軽く笑いかけて、淳はそのまま会計を済ませて店を出て行った。その間、静かに座っていた美実に、美幸が心配そうに囁く。
「美実姉さん。本当にあれで良かったの?」
それに美実は、小さく笑いながら頷いた。
「ええ。気まずい思いをさせちゃったわね。そのケーキセットは淳の奢りだけど、他に食べたい物があったら私が奢るわよ?」
「本当? それならもう一回、ケーキセットお願い」
「ええ。どれにする? 私も一緒に頼むわ」
そして緊迫感溢れる会談が終了した事で、それから二人はリラックスしてケーキを味わってから帰路に就いた。
その日の夜。台所の片付け等が終わった時間を見計らって、美実は美子夫婦の部屋のドアをノックした。
「美子姉さん、入っても良い?」
「ええ、構わないわよ?」
そして部屋に入ると、椅子に座って何やら話していたらしい義兄の姿を認めた美実は、慌てて頭を下げる。
「お義兄さん、お邪魔してすみません」
「気にしないで良いから。それより、美子に話があるんだろう? 俺は席を外そうか?」
「いえ、できればお義兄さんも一緒に、話を聞いて欲しいんです」
「そうなんだ。今は二人とも暇だし、遠慮無くどうぞ」
そして秀明が立ち上がり、座っていた椅子を勧められた美実は、恐縮しながらそれに座って美子と相対した。
「ええと……、それでは、ですね。美子姉さんから、未だに接触禁止令が出ているのは重々承知の上で、今日、ある所で淳と会って来たんですが……」
「あら、そう……」
ビクビクしながら話を切り出した美実だったが、美子は頭ごなしに叱り付けるわけでも無く、言葉少なに応じた。しかしそれで逆に不気味さを感じてしまった美実は、かなり萎縮しながら話を続ける。
「その……、一応、美幸も一緒に行ったので、和気藹々とした会話をしてきたわけでは無くて、寧ろ、どちらかと言えば、殺伐とした会話だったのでは無いかと……」
「御託は良いから、さっさと本題に入りなさい」
「はっ、はいっ!」
ピシッと命令され、美実は慌てて手短に淳とのやり取りを語って聞かせた。そして話し終えてから、恐る恐る美子の顔色を窺う。
「ええと……、以上です」
「良く分かったわ。あなた。小早川さんに了承したと伝えて頂戴」
「良いの?」
「良いのか?」
あっさりと了承した美子に、秀明は勿論、美実も意外に思って問い返したが、美子は無表情のまま素っ気なく言い放った。
「ええ。どんな内容を考えてくるか楽しみね。美実、話が済んだならもう良いわよ?」
「う、うん。失礼します」
まだ少し動揺しながら美実が部屋を出て行くと、秀明が溜め息を吐いて感想を述べた。
「これはまた……、美実ちゃんも随分面倒な課題を出したものだな」
「私に言わせれば、それ位当然よ」
「因みに、お前だったらどんな事をしたり、どんな内容を提示したら納得するんだ?」
「…………」
さり気なく秀明が問い掛けた途端、美子は夫を冷たい目で睨んだ。それを見た秀明が、苦笑いで応じる。
「ちょっと聞いてみただけだろう、そう睨むな。淳に情報を流すつもりも無いし」
「そういう事にしておいてあげるわ」
「本当に信用が無いな」
「今更な事を言わないで」
何かする事を思い出したらしく、若干不愉快そうな顔で立ち上がって歩き出した彼女の背中に、秀明が何気なく声をかけた。
「美子」
「何?」
「どんな内容を考えてやらせても、最後に不満だからと拒否すれば良いだけの話だとか、考えてはいないよな?」
「あなたじゃあるまいし、どんな性格破綻者よ。一応ちゃんと正当に評価はしてあげるわ」
「……そうか」
正直、どうだろうかと思った秀明だったが、ここでわざわざ口にしたら怒られるのは確実な為、無言で部屋を出て行く彼女を見送った。すると何やらスラックスを引っ張られているのが分かった秀明は、足元を見下ろしながら娘に声をかける。
「美樹、どうした?」
すると、父親のスラックスをくいくいと引いていた美樹は、その手を離して見上げながら尋ねてきた。
「あっちゃん、ぷち?」
その問いかけの意味が分からず、秀明は困惑顔で尋ね返す。
「美樹? 『ぷち』って何だ? 淳は小さくは無いぞ? 萎縮して小さくなったりもしていないし」
「がけっぷち」
「………………そうだな。色々な意味で崖っぷちで、踏ん張りどころだな」
娘の口から唐突に出て来た言葉を聞いて、秀明は一気に疲労感を覚え、深い溜め息を吐いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる