裏腹なリアリスト

篠原皐月

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51.再びお悩み相談室

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 一方、藤宮家の一部であまりの不憫さに同情されていた淳は、美実との会談後、思考の迷路に嵌り込んでしまっていた。
(美実にはああ言ったものの……、具体的に何をどう証明したり行動すれば良いのか、なかなか判断が付かない)
 その日も、仕事の合間に悶々と考え出した淳は、傍から見ると相当切羽詰った表情をしていた。

(安定した暮らしと言う面から、家族で暮らせる間取りの物件の購入でも良いかと思ったが、この前聞いた美実の希望に合わせても、一々聞かないと希望の物を把握できないのかと嫌味を言われたり、自分の考えは無いのかと難癖を付けられそうだし)
 そこでがっくりと項垂れた淳は、何気なく係争中の事案の資料を目に入れ、更に迷走気味の思案を巡らせる。

(堅実な職業に就いているから、経済的に心配は無いって事を前面に出して、これまでにどんな事案をどんな風に処理してきたかを説明するか? でもそれならいっその事、事務所所属では無くて、独立も視野に入れるべきだろうか?)
 そんな事を淳が悶々と考えていると、いきなり肩を掴まれながら声をかけられた。

「小早川」
「何ですか? 森口さん」
 ゆっくりと顔を上げて振り仰いだ淳を、森口が厳しい表情で見下ろしてくる。
「今晩、付き合え。言っておくが、お前に拒否権は無い」
「……分かりました」
 先輩からの明らかな命令口調に対し、とても反論する気力は無かった淳は力無く頷き、その日の仕事を終えるなり、職場の近くの居酒屋に連行された。

「それで? お前が事務所内で、先週から辛気臭過ぎる百面相をしている理由を、聞かせて貰いたいんだが。おそらく……、と言うか、確実に振られた元交際相手に関する事だろうが」
 テーブルに落ち着くなり断定口調で切り込んで来た森口に、淳は顔を引き攣らせながら控え目に反論した。

「『振られた』とか、『元交際相手』とか、容赦が無さ過ぎます。美実にはこの前ちゃんと、惚れてるとは言われました」
「現実を直視しろ。惚れてても突き放されてるんだから、余計にタチが悪いんだろうが。さあ、洗いざらい吐け」
「……分かりました」
 バッサリ切り捨てられて早速心を折られた淳は、この間の事情を洗いざらい説明した。話しているうちに淳は徐々に気持ちが落ち着いて来たが、逆に森口は難しい顔付きになって頭を抱えてしまう。

「それはまた……、随分漠然とした話だな。逆に色々考えられるから、お前にとっては不利じゃないのか?」
「そうなんです。先程も言った様に色々考えても、美子さんが悉く難癖を付けてきそうで」
 しみじみと淳が述べた事を聞いて、森口は思わず口を滑らせた。

「姉妹揃ってキツいな。悪い事は言わないから、この際すっぱり諦めるってのは」
「冗談でもそういう事を口にするのは止めて下さい」
 途端に鋭い視線を向けられた森口は、本気で肝を冷やす羽目になった。

「……悪かった。俺も少し考えてみる。だからくれぐれも自棄を起こすなよ?」
「分かっています。ありがとうございます」
 それからは森口に愚痴を聞いて貰い、慰められながら酒を飲んで、幾らか気が楽になって自宅に帰り着いた淳だったが、帰宅早々不愉快な事態に遭遇した。

「何だ? この封筒は」
 淳宛てに届いた差出人が無記名の白い封筒をポストから回収した淳は、思わず顔を顰めた。取り敢えず部屋まで持って行ってから、封を切って中身を取り出してみた淳は、目に入った代物を見て盛大に顔を顰める。

「陰で嘲笑ってやがるな、あいつ」
 それは和真と美実が一緒にゲイバーに出かけた時の隠し撮り写真の束で、二人が仲良さ気に歩いていたり、笑い合っている所を一応一通り眺めていた淳は、最後に二人がキスしている写真を目にした途端、それを勢い良く握り潰した。

「あの野郎……」
 呻き声を漏らして歯軋りした淳だったが、スマホの着信音が鳴り響いた為、何とか気持ちを落ち着かせてそれをポケットから取り出した。そしてディスプレイに浮かび上がった発信者名を見て、意外そうに呟く。
「美野ちゃん?」
 しかし疑問に思ったのは一瞬で、淳はすぐにいつもの声で応答した。

「はい、小早川です。美野ちゃんだよね? どうかしたのかな?」
「夜分すみません、小早川さん。ちょっとお話がありまして」
「構わないよ。何かな?」
「できれば電話で無くて、直にお話ししたい事があるんです」
 これまで以上に恐縮気味に告げてくる美野に、淳は慎重に尋ねてみた。

「美実に関する事だよね?」
「はい。あの……、例の条件の話を聞いたんですが……」
 そこで美野が幾分戸惑う様に言葉を区切った為、淳は完全に怒りを消し去り、素早く算段を立てた。

「分かった。確かに話が長くなりそうだし、頭をすっきりして聞いた方が良さそうだ。今日はちょっと飲んでいるし、少し頭に血が上っている状態だから、明日か明後日の夕方はどうかな?」
「それならその時間帯に特に用事は無いので、私が小早川さんの事務所の近くまで出向きます。それならお仕事の途中でも抜けやすいでしょうし。明日の日中にでも、都合の良い時間帯を教えて貰えませんか?」
 願っても無い申し出をされて、淳は心から感謝しながら言葉を返した。

「そうしてくれると助かるよ。悪いね」
「いえ、それでは今日の所は失礼します」
「ああ、明日メールで連絡するから」
 そうして通話を終わらせた淳は、少しでも頭を冷やすべく、無言のまま入浴の支度を始めた。
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