52 / 94
51.再びお悩み相談室
しおりを挟む
一方、藤宮家の一部であまりの不憫さに同情されていた淳は、美実との会談後、思考の迷路に嵌り込んでしまっていた。
(美実にはああ言ったものの……、具体的に何をどう証明したり行動すれば良いのか、なかなか判断が付かない)
その日も、仕事の合間に悶々と考え出した淳は、傍から見ると相当切羽詰った表情をしていた。
(安定した暮らしと言う面から、家族で暮らせる間取りの物件の購入でも良いかと思ったが、この前聞いた美実の希望に合わせても、一々聞かないと希望の物を把握できないのかと嫌味を言われたり、自分の考えは無いのかと難癖を付けられそうだし)
そこでがっくりと項垂れた淳は、何気なく係争中の事案の資料を目に入れ、更に迷走気味の思案を巡らせる。
(堅実な職業に就いているから、経済的に心配は無いって事を前面に出して、これまでにどんな事案をどんな風に処理してきたかを説明するか? でもそれならいっその事、事務所所属では無くて、独立も視野に入れるべきだろうか?)
そんな事を淳が悶々と考えていると、いきなり肩を掴まれながら声をかけられた。
「小早川」
「何ですか? 森口さん」
ゆっくりと顔を上げて振り仰いだ淳を、森口が厳しい表情で見下ろしてくる。
「今晩、付き合え。言っておくが、お前に拒否権は無い」
「……分かりました」
先輩からの明らかな命令口調に対し、とても反論する気力は無かった淳は力無く頷き、その日の仕事を終えるなり、職場の近くの居酒屋に連行された。
「それで? お前が事務所内で、先週から辛気臭過ぎる百面相をしている理由を、聞かせて貰いたいんだが。おそらく……、と言うか、確実に振られた元交際相手に関する事だろうが」
テーブルに落ち着くなり断定口調で切り込んで来た森口に、淳は顔を引き攣らせながら控え目に反論した。
「『振られた』とか、『元交際相手』とか、容赦が無さ過ぎます。美実にはこの前ちゃんと、惚れてるとは言われました」
「現実を直視しろ。惚れてても突き放されてるんだから、余計にタチが悪いんだろうが。さあ、洗いざらい吐け」
「……分かりました」
バッサリ切り捨てられて早速心を折られた淳は、この間の事情を洗いざらい説明した。話しているうちに淳は徐々に気持ちが落ち着いて来たが、逆に森口は難しい顔付きになって頭を抱えてしまう。
「それはまた……、随分漠然とした話だな。逆に色々考えられるから、お前にとっては不利じゃないのか?」
「そうなんです。先程も言った様に色々考えても、美子さんが悉く難癖を付けてきそうで」
しみじみと淳が述べた事を聞いて、森口は思わず口を滑らせた。
「姉妹揃ってキツいな。悪い事は言わないから、この際すっぱり諦めるってのは」
「冗談でもそういう事を口にするのは止めて下さい」
途端に鋭い視線を向けられた森口は、本気で肝を冷やす羽目になった。
「……悪かった。俺も少し考えてみる。だからくれぐれも自棄を起こすなよ?」
「分かっています。ありがとうございます」
それからは森口に愚痴を聞いて貰い、慰められながら酒を飲んで、幾らか気が楽になって自宅に帰り着いた淳だったが、帰宅早々不愉快な事態に遭遇した。
「何だ? この封筒は」
淳宛てに届いた差出人が無記名の白い封筒をポストから回収した淳は、思わず顔を顰めた。取り敢えず部屋まで持って行ってから、封を切って中身を取り出してみた淳は、目に入った代物を見て盛大に顔を顰める。
「陰で嘲笑ってやがるな、あいつ」
それは和真と美実が一緒にゲイバーに出かけた時の隠し撮り写真の束で、二人が仲良さ気に歩いていたり、笑い合っている所を一応一通り眺めていた淳は、最後に二人がキスしている写真を目にした途端、それを勢い良く握り潰した。
「あの野郎……」
呻き声を漏らして歯軋りした淳だったが、スマホの着信音が鳴り響いた為、何とか気持ちを落ち着かせてそれをポケットから取り出した。そしてディスプレイに浮かび上がった発信者名を見て、意外そうに呟く。
「美野ちゃん?」
しかし疑問に思ったのは一瞬で、淳はすぐにいつもの声で応答した。
「はい、小早川です。美野ちゃんだよね? どうかしたのかな?」
「夜分すみません、小早川さん。ちょっとお話がありまして」
「構わないよ。何かな?」
「できれば電話で無くて、直にお話ししたい事があるんです」
これまで以上に恐縮気味に告げてくる美野に、淳は慎重に尋ねてみた。
「美実に関する事だよね?」
「はい。あの……、例の条件の話を聞いたんですが……」
そこで美野が幾分戸惑う様に言葉を区切った為、淳は完全に怒りを消し去り、素早く算段を立てた。
「分かった。確かに話が長くなりそうだし、頭をすっきりして聞いた方が良さそうだ。今日はちょっと飲んでいるし、少し頭に血が上っている状態だから、明日か明後日の夕方はどうかな?」
「それならその時間帯に特に用事は無いので、私が小早川さんの事務所の近くまで出向きます。それならお仕事の途中でも抜けやすいでしょうし。明日の日中にでも、都合の良い時間帯を教えて貰えませんか?」
願っても無い申し出をされて、淳は心から感謝しながら言葉を返した。
「そうしてくれると助かるよ。悪いね」
「いえ、それでは今日の所は失礼します」
「ああ、明日メールで連絡するから」
そうして通話を終わらせた淳は、少しでも頭を冷やすべく、無言のまま入浴の支度を始めた。
(美実にはああ言ったものの……、具体的に何をどう証明したり行動すれば良いのか、なかなか判断が付かない)
その日も、仕事の合間に悶々と考え出した淳は、傍から見ると相当切羽詰った表情をしていた。
(安定した暮らしと言う面から、家族で暮らせる間取りの物件の購入でも良いかと思ったが、この前聞いた美実の希望に合わせても、一々聞かないと希望の物を把握できないのかと嫌味を言われたり、自分の考えは無いのかと難癖を付けられそうだし)
そこでがっくりと項垂れた淳は、何気なく係争中の事案の資料を目に入れ、更に迷走気味の思案を巡らせる。
(堅実な職業に就いているから、経済的に心配は無いって事を前面に出して、これまでにどんな事案をどんな風に処理してきたかを説明するか? でもそれならいっその事、事務所所属では無くて、独立も視野に入れるべきだろうか?)
そんな事を淳が悶々と考えていると、いきなり肩を掴まれながら声をかけられた。
「小早川」
「何ですか? 森口さん」
ゆっくりと顔を上げて振り仰いだ淳を、森口が厳しい表情で見下ろしてくる。
「今晩、付き合え。言っておくが、お前に拒否権は無い」
「……分かりました」
先輩からの明らかな命令口調に対し、とても反論する気力は無かった淳は力無く頷き、その日の仕事を終えるなり、職場の近くの居酒屋に連行された。
「それで? お前が事務所内で、先週から辛気臭過ぎる百面相をしている理由を、聞かせて貰いたいんだが。おそらく……、と言うか、確実に振られた元交際相手に関する事だろうが」
テーブルに落ち着くなり断定口調で切り込んで来た森口に、淳は顔を引き攣らせながら控え目に反論した。
「『振られた』とか、『元交際相手』とか、容赦が無さ過ぎます。美実にはこの前ちゃんと、惚れてるとは言われました」
「現実を直視しろ。惚れてても突き放されてるんだから、余計にタチが悪いんだろうが。さあ、洗いざらい吐け」
「……分かりました」
バッサリ切り捨てられて早速心を折られた淳は、この間の事情を洗いざらい説明した。話しているうちに淳は徐々に気持ちが落ち着いて来たが、逆に森口は難しい顔付きになって頭を抱えてしまう。
「それはまた……、随分漠然とした話だな。逆に色々考えられるから、お前にとっては不利じゃないのか?」
「そうなんです。先程も言った様に色々考えても、美子さんが悉く難癖を付けてきそうで」
しみじみと淳が述べた事を聞いて、森口は思わず口を滑らせた。
「姉妹揃ってキツいな。悪い事は言わないから、この際すっぱり諦めるってのは」
「冗談でもそういう事を口にするのは止めて下さい」
途端に鋭い視線を向けられた森口は、本気で肝を冷やす羽目になった。
「……悪かった。俺も少し考えてみる。だからくれぐれも自棄を起こすなよ?」
「分かっています。ありがとうございます」
それからは森口に愚痴を聞いて貰い、慰められながら酒を飲んで、幾らか気が楽になって自宅に帰り着いた淳だったが、帰宅早々不愉快な事態に遭遇した。
「何だ? この封筒は」
淳宛てに届いた差出人が無記名の白い封筒をポストから回収した淳は、思わず顔を顰めた。取り敢えず部屋まで持って行ってから、封を切って中身を取り出してみた淳は、目に入った代物を見て盛大に顔を顰める。
「陰で嘲笑ってやがるな、あいつ」
それは和真と美実が一緒にゲイバーに出かけた時の隠し撮り写真の束で、二人が仲良さ気に歩いていたり、笑い合っている所を一応一通り眺めていた淳は、最後に二人がキスしている写真を目にした途端、それを勢い良く握り潰した。
「あの野郎……」
呻き声を漏らして歯軋りした淳だったが、スマホの着信音が鳴り響いた為、何とか気持ちを落ち着かせてそれをポケットから取り出した。そしてディスプレイに浮かび上がった発信者名を見て、意外そうに呟く。
「美野ちゃん?」
しかし疑問に思ったのは一瞬で、淳はすぐにいつもの声で応答した。
「はい、小早川です。美野ちゃんだよね? どうかしたのかな?」
「夜分すみません、小早川さん。ちょっとお話がありまして」
「構わないよ。何かな?」
「できれば電話で無くて、直にお話ししたい事があるんです」
これまで以上に恐縮気味に告げてくる美野に、淳は慎重に尋ねてみた。
「美実に関する事だよね?」
「はい。あの……、例の条件の話を聞いたんですが……」
そこで美野が幾分戸惑う様に言葉を区切った為、淳は完全に怒りを消し去り、素早く算段を立てた。
「分かった。確かに話が長くなりそうだし、頭をすっきりして聞いた方が良さそうだ。今日はちょっと飲んでいるし、少し頭に血が上っている状態だから、明日か明後日の夕方はどうかな?」
「それならその時間帯に特に用事は無いので、私が小早川さんの事務所の近くまで出向きます。それならお仕事の途中でも抜けやすいでしょうし。明日の日中にでも、都合の良い時間帯を教えて貰えませんか?」
願っても無い申し出をされて、淳は心から感謝しながら言葉を返した。
「そうしてくれると助かるよ。悪いね」
「いえ、それでは今日の所は失礼します」
「ああ、明日メールで連絡するから」
そうして通話を終わらせた淳は、少しでも頭を冷やすべく、無言のまま入浴の支度を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる