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59.心遣い
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大晦日の昼過ぎ。美子は自らが腕を振るう他に、妹達にも細かく指示して作らせていた大量のお節料理を作り終え、年始客に出す時に使う漆器や茶器などの準備も完璧に済ませて、台所で周囲を見回しながら満足そうに感想を述べた。
「さて、これでお正月を迎える準備は、全部整ったわね。清々しく新年を迎えられそうだわ」
「そうね……」
「うん」
「はい」
「清々しく、ねぇ……」
晴れやかな笑顔の美子とは異なり、彼女の妹達は幾つもの重箱を眺めながら微妙な顔付きをしていた。中でも物言いたげな顔で呟いた美幸に向かって、美子が少々面白く無さそうに問いかける。
「何? 美幸。何か言いたい事でもあるの?」
「いえいえ、何でもありません!」
「そう? それじゃあ皆でお茶にしましょう」
慌てて美幸が手を振ると、美子はそれ以上踏み込んで来なかった為、美幸は勿論他の三人も、密かに安堵の溜め息を吐いた。
そして一仕事終え、姉妹揃って和やかにお茶を飲んでから解散となった為、美実は自室に戻ろうとしたが、前方を歩いている義兄の姿を認めて、幾分迷いながら声をかけた。
「あの、お義兄さん」
「美実ちゃん、どうかした?」
すぐに足を止めて振り返った秀明に、彼女は口ごもりながら尋ねる。
「その……、ちょっと、聞きたい事があるんですけど……」
「何だい?」
「淳が年末年始、どうするつもりなのか、お義兄さんは聞いてませんか?」
「淳? どうするって言うのは?」
ちょっと面白そうな表情になって、詳細を尋ねてきた秀明に、美実は俯き加減になって呟く。
「その……、淳は年末年始、毎年真面目に実家に帰っていましたけど、今年は私の事で色々揉めましたし、例年通りなのかと……」
最後は聞き取りにくい小声で言ってきた義妹を、秀明は面白そうに見下ろした。
「知りたい?」
「……できれば」
「分かった。美子には内緒で聞いてみる。すぐ済ませるから、ちょっと待っていてくれ」
「お願いします」
そう言うと、秀明は早速その場でスラックスのポケットからスマホを取り出し、淳に電話をかけ始めた。
「やあ、淳。今暇か? 固定電話の方にかけたから、マンションに居るのは分かっているが……、ところでお前、年末年始の予定は?」
若干からかう感じの口調で始まった会話は、大した用事も無かった為、すぐに終了した。
「そうか、分かった。それじゃあな」
そうして通話を終わらせてから、秀明は元通りスマホをしまいながら美実に報告する。
「あいつは今年は帰省せずに、ずっとマンションに居るそうだよ」
「あ……、そ、そうですか……。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた彼女に向かって、秀明は益々面白そうな顔つきで話しかけた。
「どういたしまして。それで美実ちゃんは、他に何か言う事が無いのかな?」
「え? 他に何かって……」
「今は休暇中だし可愛い義妹のお願いなら、宅配便の真似事位、幾らでもしてあげるよ?」
当惑しながら尋ね返した美実だったが、秀明から笑顔で言われた内容に、嬉しそうに声を上げた。
「良いんですか!?」
「勿論。但し、美子には内緒だよ?」
「はい、分かってます! 今、準備してきます!」
「それじゃあ俺は美子に見つからない様に、客間で待っているから」
「はい!」
パタパタと走り去った美実を見送ってから、秀明は自分の背後にチラッと目線を向けて呟く。
「相変わらず、揃いも揃って可愛いな。俺の義妹達は」
そして前方に視線を戻した秀明は、笑いを堪えながら客間へと歩いて行った。
それから二十分程して、客間で所在なげに座り込んでいた秀明の所に、風呂敷包みと紙袋を提げた美実がやってきた。
「お義兄さん、お待たせしました。これを持って行って貰いたいんです」
そう言って差し出された物を見下ろしながら、秀明が頷く。
「分かった。中身はお節料理だね? 家にこのサイズの重箱があったなんて、知らなかったよ」
「色々な大きさの物を、取り揃えてますから」
「淳が泣いて喜ぶな。美実ちゃん、あいつに変わって礼を言うよ」
紙袋に風呂敷包みを入れながら秀明が微笑むと、美実が気まずそうに弁解する。
「そんな……。改まってお礼を言われる程の事じゃ……。だってお母さんと険悪になって、実家に帰れなくなったのは、元はと言えば私のせいですし……」
「あいつはそんな事、一々気にする様な奴じゃ無いけどな。じゃあ確かに預かったから」
「すみません、こんな事をお義兄さんにお願いしてしまって」
申し訳無さそうに頭を下げた美実を見て秀明は楽しそうに笑い、何故か視線を彼女から、誰も居ない入口の襖に向けた。
「気にしなくて良いよ。美実ちゃん達は特別だから。宅配便をする事位、わけないさ。……ところで、そろそろ集荷の締切時間ですが、他にご依頼の品物はございませんか?」
「え? 他にって……」
からかうような口調で、人影の無い襖に目を向けた義兄の視線を追い、美実もそちらに顔を向けると、スラリと襖が引き開けられて、彼女の姉妹がぞろぞろと現れた。
「本当に性格悪いわね。気が付いていたなら、さっさと言ってよ。じゃあこれ、宜しく」
「あのっ! 荷物になりますが、お願いします!」
「お義兄さん、私のは小さいし軽いけど、今の小早川さんに一番必要な物だから、しっかり届けて下さいね?」
「ああ、任せて」
美恵と美野からは形状が異なる風呂敷包みを、美幸からは封筒を差し出された秀明は、全く動じずにそれらを受け取ったが、完全に予想外だった美実は目を丸くした。
「ちょっと! 皆、何で?」
「だって幾ら何でも、小早川さんが不憫過ぎるもの。家にあったお歳暮の横流しだけど、言わなきゃ分からないしね」
「美実姉さんがお義兄さんにお願いしてるのを聞いて、急いで準備したの」
「私のは郵送しようかと思ったけど、手渡しの方が良いだろうし。秀明義兄さん。美子姉さんにバレた時は、防波堤、宜しくお願いします」
そこで揃って真剣に頭を下げた三人を見て、秀明は鷹揚に笑いながら頷いた。
「勿論。じゃあ早速行って来るよ。美子に行き先を聞かれたら、美恵ちゃんが適当に誤魔化しておいてくれ」
「私?」
「美恵ちゃん以外は無理だから」
「……了解。行ってらっしゃい」
指名を受けて一瞬怪訝な顔になった美恵だったが、秀明に指摘されて(確かにこの子達には姉さんを煙に巻くなんて芸当、できないわね)と納得して頷く。そして秀明は義妹達に見送られて、こっそりと藤宮邸を抜け出した。
「さて、これでお正月を迎える準備は、全部整ったわね。清々しく新年を迎えられそうだわ」
「そうね……」
「うん」
「はい」
「清々しく、ねぇ……」
晴れやかな笑顔の美子とは異なり、彼女の妹達は幾つもの重箱を眺めながら微妙な顔付きをしていた。中でも物言いたげな顔で呟いた美幸に向かって、美子が少々面白く無さそうに問いかける。
「何? 美幸。何か言いたい事でもあるの?」
「いえいえ、何でもありません!」
「そう? それじゃあ皆でお茶にしましょう」
慌てて美幸が手を振ると、美子はそれ以上踏み込んで来なかった為、美幸は勿論他の三人も、密かに安堵の溜め息を吐いた。
そして一仕事終え、姉妹揃って和やかにお茶を飲んでから解散となった為、美実は自室に戻ろうとしたが、前方を歩いている義兄の姿を認めて、幾分迷いながら声をかけた。
「あの、お義兄さん」
「美実ちゃん、どうかした?」
すぐに足を止めて振り返った秀明に、彼女は口ごもりながら尋ねる。
「その……、ちょっと、聞きたい事があるんですけど……」
「何だい?」
「淳が年末年始、どうするつもりなのか、お義兄さんは聞いてませんか?」
「淳? どうするって言うのは?」
ちょっと面白そうな表情になって、詳細を尋ねてきた秀明に、美実は俯き加減になって呟く。
「その……、淳は年末年始、毎年真面目に実家に帰っていましたけど、今年は私の事で色々揉めましたし、例年通りなのかと……」
最後は聞き取りにくい小声で言ってきた義妹を、秀明は面白そうに見下ろした。
「知りたい?」
「……できれば」
「分かった。美子には内緒で聞いてみる。すぐ済ませるから、ちょっと待っていてくれ」
「お願いします」
そう言うと、秀明は早速その場でスラックスのポケットからスマホを取り出し、淳に電話をかけ始めた。
「やあ、淳。今暇か? 固定電話の方にかけたから、マンションに居るのは分かっているが……、ところでお前、年末年始の予定は?」
若干からかう感じの口調で始まった会話は、大した用事も無かった為、すぐに終了した。
「そうか、分かった。それじゃあな」
そうして通話を終わらせてから、秀明は元通りスマホをしまいながら美実に報告する。
「あいつは今年は帰省せずに、ずっとマンションに居るそうだよ」
「あ……、そ、そうですか……。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた彼女に向かって、秀明は益々面白そうな顔つきで話しかけた。
「どういたしまして。それで美実ちゃんは、他に何か言う事が無いのかな?」
「え? 他に何かって……」
「今は休暇中だし可愛い義妹のお願いなら、宅配便の真似事位、幾らでもしてあげるよ?」
当惑しながら尋ね返した美実だったが、秀明から笑顔で言われた内容に、嬉しそうに声を上げた。
「良いんですか!?」
「勿論。但し、美子には内緒だよ?」
「はい、分かってます! 今、準備してきます!」
「それじゃあ俺は美子に見つからない様に、客間で待っているから」
「はい!」
パタパタと走り去った美実を見送ってから、秀明は自分の背後にチラッと目線を向けて呟く。
「相変わらず、揃いも揃って可愛いな。俺の義妹達は」
そして前方に視線を戻した秀明は、笑いを堪えながら客間へと歩いて行った。
それから二十分程して、客間で所在なげに座り込んでいた秀明の所に、風呂敷包みと紙袋を提げた美実がやってきた。
「お義兄さん、お待たせしました。これを持って行って貰いたいんです」
そう言って差し出された物を見下ろしながら、秀明が頷く。
「分かった。中身はお節料理だね? 家にこのサイズの重箱があったなんて、知らなかったよ」
「色々な大きさの物を、取り揃えてますから」
「淳が泣いて喜ぶな。美実ちゃん、あいつに変わって礼を言うよ」
紙袋に風呂敷包みを入れながら秀明が微笑むと、美実が気まずそうに弁解する。
「そんな……。改まってお礼を言われる程の事じゃ……。だってお母さんと険悪になって、実家に帰れなくなったのは、元はと言えば私のせいですし……」
「あいつはそんな事、一々気にする様な奴じゃ無いけどな。じゃあ確かに預かったから」
「すみません、こんな事をお義兄さんにお願いしてしまって」
申し訳無さそうに頭を下げた美実を見て秀明は楽しそうに笑い、何故か視線を彼女から、誰も居ない入口の襖に向けた。
「気にしなくて良いよ。美実ちゃん達は特別だから。宅配便をする事位、わけないさ。……ところで、そろそろ集荷の締切時間ですが、他にご依頼の品物はございませんか?」
「え? 他にって……」
からかうような口調で、人影の無い襖に目を向けた義兄の視線を追い、美実もそちらに顔を向けると、スラリと襖が引き開けられて、彼女の姉妹がぞろぞろと現れた。
「本当に性格悪いわね。気が付いていたなら、さっさと言ってよ。じゃあこれ、宜しく」
「あのっ! 荷物になりますが、お願いします!」
「お義兄さん、私のは小さいし軽いけど、今の小早川さんに一番必要な物だから、しっかり届けて下さいね?」
「ああ、任せて」
美恵と美野からは形状が異なる風呂敷包みを、美幸からは封筒を差し出された秀明は、全く動じずにそれらを受け取ったが、完全に予想外だった美実は目を丸くした。
「ちょっと! 皆、何で?」
「だって幾ら何でも、小早川さんが不憫過ぎるもの。家にあったお歳暮の横流しだけど、言わなきゃ分からないしね」
「美実姉さんがお義兄さんにお願いしてるのを聞いて、急いで準備したの」
「私のは郵送しようかと思ったけど、手渡しの方が良いだろうし。秀明義兄さん。美子姉さんにバレた時は、防波堤、宜しくお願いします」
そこで揃って真剣に頭を下げた三人を見て、秀明は鷹揚に笑いながら頷いた。
「勿論。じゃあ早速行って来るよ。美子に行き先を聞かれたら、美恵ちゃんが適当に誤魔化しておいてくれ」
「私?」
「美恵ちゃん以外は無理だから」
「……了解。行ってらっしゃい」
指名を受けて一瞬怪訝な顔になった美恵だったが、秀明に指摘されて(確かにこの子達には姉さんを煙に巻くなんて芸当、できないわね)と納得して頷く。そして秀明は義妹達に見送られて、こっそりと藤宮邸を抜け出した。
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