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(23)理不尽すぎる体質
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「分かっているなら、ちゃんと教えてくれても良いわよね!? 口に出しては言わなかったけど、こっちは頭がおかしくなったのかと、散々悩んだのよ!?」
「だが、初回の時に正直に『実はさっき異世界に行っていたんだ』と言ったら、素直に納得していたか?」
訴えたものの大真面目に反論された天輝は、そこで少し考えてから正直に思ったところを述べた。
「……お兄ちゃんの頭がおかしくなったのかと思って、診て貰う病院を探したかも」
「そうだろうな。下手に怖がらせて日常生活に支障が出ても困るし、取り敢えず対策を取った上で、当面様子を見ることにしたんだ。さっき父さんが言ったが、召喚可能な時期は限られる。この何ヵ月かをしのげば、あと二、三十年は大丈夫な筈なんだ」
「対策って……、もしかしなくても、ガラス割りから始まった一連の“あれ”?」
「そう。“あれ”だ」
「それじゃあ……、お母さんも伸也も知ってたんだ……。人間不審になりそう……」
これまで知らないまま対策グッズを持たされていたと分かった天輝は、力なく項垂れた。そんな娘の様子を見た和枝が、申し訳なさそうに声をかけてくる。
「天輝、それに関しては、本当に悪かったわ。でも真知子が『こんな特異体質なんか要らない!』って、当時落ち込んで大荒れだったし。天輝に詳細を知らせなくても事態を回避できれば、それに越したことはないと思っていたのよ」
その台詞に天輝は反応し、顔を上げて尋ねた。
「『当時』って……、前回の召喚時期のターゲットは、真知子お母さんだったの?」
「そうなのよ。私も真知子と一緒に、二回召喚されちゃったし」
「はいぃ!? 真知子お母さんと一緒にお母さんまで召喚されちゃったって、どういう事!?」
実母に加えて育ての母まで巻き込まれていたという新事実に、天輝は度肝を抜かれたが、対する和枝は冷静に話を続けた。
「それがね? 当時、賢人さんと私は、同じ大学に在学していて付き合っていたの。だけど真知子も同様でね? 再従兄妹って紹介されたけど、頻繁に『真知子の所に行ってくる』と、約束をドタキャンされるのよ。ちょっと許せないと思わない?」
「ええと……、確かに再従兄妹なんて殆ど他人に等しい親戚に邪魔をされたら、怒るかもしれない……」
どういう話の流れになるのか見当もつかないまま、天輝が第三者の立場で慎重に感想を述べると、和枝の話は予想外の方向に転がった。
「それで私、本人に突撃したのよ。若かったわね~」
「突撃って?」
「真知子を人気のない所に呼び出して、『他人の男に手を出してんじゃないわよ』って恫喝したのよ。そうしたら真知子は真っ青になって『賢人さんは、単に私を心配してくれているだけですから!』と必死に弁解したんだけど、その最中に召喚されちゃってね。至近距離にいた私も同様。もらい事故ならぬ、もらい召喚?」
「お母さん……、それ、笑い事じゃないと思う……」
苦笑している和枝を見て、天輝はがっくりと肩を落とした。しかし和枝は構わずに話を続ける。
「だけど、笑い事にでもしないとやってられないわよ。私は何が起こったのか全く分からなくて固まっていたけど、真知子は狼狽しまくって『和枝さんを巻き込むなんて、絶対賢人さんに怒られる! どうしよう!? 和枝さんは私が守るから、絶対に離れないでね!!』と泣き叫びながら、周囲にいた男達を有無を言わさずちぎっては投げちぎっては投げ……。本当にあの時の真知子の技の切れ味は、素人の私が見ても凄かったわ。思わず拍手しながら傍観しちゃったもの」
当時を思い出しているのか、どこか遠い目をしながらしみじみと語る和枝に、天輝は怪訝な顔で尋ねた。
「あの……、お母さん? 母さんが投げたって、何?」
それを聞いた和枝と賢人が、揃って意外そうな顔になる。
「あら? 天輝は真知子が柔道の有段者って、知らなかったの?」
「真知子は小さい頃から霊力《カーズ》が桁外れに強く感じられていたからな。どう見ても親戚中で最強だったし、懸念した親が護身のために柔道を習わせていたんだ。それがめきめき上達して」
「天輝と海晴にも何か習わせたかったみたいだけど、真知子が『二人とも武道関係には興味が無くて』と言っていたわね」
「へ、へぇ? そうだったんだ……。知らなかった。そういえば確かに、幼少期に海晴と一緒に、何かの入門体験をしたような記憶がうっすらと……」
顔を強張らせた天輝は、不鮮明な記憶を辿りながらぶつぶつと呟いた。
「そして真知子が大暴れしているところに、賢人さんと庸介さんが異世界転移してきて、そこの召喚陣を破壊すると同時にこの世界に私達を連れ帰ってくれたわけ。そして平謝りの真知子と賢人さんから詳細を説明されてから、私が真知子に張り付いて警戒していたから、もう一回巻き込まれたんだけどね。賢人さんが準備した物と真知子と協力して、無事に帰還したから」
「……お疲れ様。無事で良かったね。でもお父さんと庸介叔父さんが異世界転移してってどういう事? その異世界とは召喚陣で行き来するわけじゃないの?」
面識のある、賢人の弟の庸介の名前まで出てきて面食らいながらも、天輝は新たな疑問を口にした。それに悠真が冷静に答える。
「さっき話した霊力《カーズ》運用の種類の中に、《異界転移》の項目があっただろう? これは各世界内での瞬間移動と、異世界間での移動が可能な能力のことだ。庸介叔父さんはこの《転移》能力が一番強くて、あとは人物や物品の場所の特定ができる《探査察知》が少々使える程度だったからな」
その説明の後を、賢人と和枝が溜め息まじりに引き取る。
「カナさんは色々使えたらしいが、子孫は代を重ねる毎に使える能力が限られたり、そもそも霊力を保持しなくなっているからね。私が把握している能力保持者は、私自身の他は悠真と伸也。弟の庸介とその息子の誠、私の従兄弟二人しかいない」
「真知子もね……、霊力は強大だったらしいけど、あまり使えなかったみたいだし」
そこまで聞いた天輝は、思わず呻き声を漏らした。
「そんな自分が望んでいない、自然に身に付いている力で問答無用で召喚されるなんて、理不尽すぎる……。こんな体質に生んでくれた母さんに、恨み言の一つも言いたい気分だわ……。あ! ちょっと待って! そうなると大変!! 私とは双子なんだし、海晴も同じように召喚されているんじゃない!?」
そこで唐突に双子の妹の危険性に気がついた天輝は慌てて問い質したが、賢人と悠真は微妙な顔つきのまま揃って首を振った。
「だが、初回の時に正直に『実はさっき異世界に行っていたんだ』と言ったら、素直に納得していたか?」
訴えたものの大真面目に反論された天輝は、そこで少し考えてから正直に思ったところを述べた。
「……お兄ちゃんの頭がおかしくなったのかと思って、診て貰う病院を探したかも」
「そうだろうな。下手に怖がらせて日常生活に支障が出ても困るし、取り敢えず対策を取った上で、当面様子を見ることにしたんだ。さっき父さんが言ったが、召喚可能な時期は限られる。この何ヵ月かをしのげば、あと二、三十年は大丈夫な筈なんだ」
「対策って……、もしかしなくても、ガラス割りから始まった一連の“あれ”?」
「そう。“あれ”だ」
「それじゃあ……、お母さんも伸也も知ってたんだ……。人間不審になりそう……」
これまで知らないまま対策グッズを持たされていたと分かった天輝は、力なく項垂れた。そんな娘の様子を見た和枝が、申し訳なさそうに声をかけてくる。
「天輝、それに関しては、本当に悪かったわ。でも真知子が『こんな特異体質なんか要らない!』って、当時落ち込んで大荒れだったし。天輝に詳細を知らせなくても事態を回避できれば、それに越したことはないと思っていたのよ」
その台詞に天輝は反応し、顔を上げて尋ねた。
「『当時』って……、前回の召喚時期のターゲットは、真知子お母さんだったの?」
「そうなのよ。私も真知子と一緒に、二回召喚されちゃったし」
「はいぃ!? 真知子お母さんと一緒にお母さんまで召喚されちゃったって、どういう事!?」
実母に加えて育ての母まで巻き込まれていたという新事実に、天輝は度肝を抜かれたが、対する和枝は冷静に話を続けた。
「それがね? 当時、賢人さんと私は、同じ大学に在学していて付き合っていたの。だけど真知子も同様でね? 再従兄妹って紹介されたけど、頻繁に『真知子の所に行ってくる』と、約束をドタキャンされるのよ。ちょっと許せないと思わない?」
「ええと……、確かに再従兄妹なんて殆ど他人に等しい親戚に邪魔をされたら、怒るかもしれない……」
どういう話の流れになるのか見当もつかないまま、天輝が第三者の立場で慎重に感想を述べると、和枝の話は予想外の方向に転がった。
「それで私、本人に突撃したのよ。若かったわね~」
「突撃って?」
「真知子を人気のない所に呼び出して、『他人の男に手を出してんじゃないわよ』って恫喝したのよ。そうしたら真知子は真っ青になって『賢人さんは、単に私を心配してくれているだけですから!』と必死に弁解したんだけど、その最中に召喚されちゃってね。至近距離にいた私も同様。もらい事故ならぬ、もらい召喚?」
「お母さん……、それ、笑い事じゃないと思う……」
苦笑している和枝を見て、天輝はがっくりと肩を落とした。しかし和枝は構わずに話を続ける。
「だけど、笑い事にでもしないとやってられないわよ。私は何が起こったのか全く分からなくて固まっていたけど、真知子は狼狽しまくって『和枝さんを巻き込むなんて、絶対賢人さんに怒られる! どうしよう!? 和枝さんは私が守るから、絶対に離れないでね!!』と泣き叫びながら、周囲にいた男達を有無を言わさずちぎっては投げちぎっては投げ……。本当にあの時の真知子の技の切れ味は、素人の私が見ても凄かったわ。思わず拍手しながら傍観しちゃったもの」
当時を思い出しているのか、どこか遠い目をしながらしみじみと語る和枝に、天輝は怪訝な顔で尋ねた。
「あの……、お母さん? 母さんが投げたって、何?」
それを聞いた和枝と賢人が、揃って意外そうな顔になる。
「あら? 天輝は真知子が柔道の有段者って、知らなかったの?」
「真知子は小さい頃から霊力《カーズ》が桁外れに強く感じられていたからな。どう見ても親戚中で最強だったし、懸念した親が護身のために柔道を習わせていたんだ。それがめきめき上達して」
「天輝と海晴にも何か習わせたかったみたいだけど、真知子が『二人とも武道関係には興味が無くて』と言っていたわね」
「へ、へぇ? そうだったんだ……。知らなかった。そういえば確かに、幼少期に海晴と一緒に、何かの入門体験をしたような記憶がうっすらと……」
顔を強張らせた天輝は、不鮮明な記憶を辿りながらぶつぶつと呟いた。
「そして真知子が大暴れしているところに、賢人さんと庸介さんが異世界転移してきて、そこの召喚陣を破壊すると同時にこの世界に私達を連れ帰ってくれたわけ。そして平謝りの真知子と賢人さんから詳細を説明されてから、私が真知子に張り付いて警戒していたから、もう一回巻き込まれたんだけどね。賢人さんが準備した物と真知子と協力して、無事に帰還したから」
「……お疲れ様。無事で良かったね。でもお父さんと庸介叔父さんが異世界転移してってどういう事? その異世界とは召喚陣で行き来するわけじゃないの?」
面識のある、賢人の弟の庸介の名前まで出てきて面食らいながらも、天輝は新たな疑問を口にした。それに悠真が冷静に答える。
「さっき話した霊力《カーズ》運用の種類の中に、《異界転移》の項目があっただろう? これは各世界内での瞬間移動と、異世界間での移動が可能な能力のことだ。庸介叔父さんはこの《転移》能力が一番強くて、あとは人物や物品の場所の特定ができる《探査察知》が少々使える程度だったからな」
その説明の後を、賢人と和枝が溜め息まじりに引き取る。
「カナさんは色々使えたらしいが、子孫は代を重ねる毎に使える能力が限られたり、そもそも霊力を保持しなくなっているからね。私が把握している能力保持者は、私自身の他は悠真と伸也。弟の庸介とその息子の誠、私の従兄弟二人しかいない」
「真知子もね……、霊力は強大だったらしいけど、あまり使えなかったみたいだし」
そこまで聞いた天輝は、思わず呻き声を漏らした。
「そんな自分が望んでいない、自然に身に付いている力で問答無用で召喚されるなんて、理不尽すぎる……。こんな体質に生んでくれた母さんに、恨み言の一つも言いたい気分だわ……。あ! ちょっと待って! そうなると大変!! 私とは双子なんだし、海晴も同じように召喚されているんじゃない!?」
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