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第11話 マネジメント技量
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出発間際に約一名に些細なトラブルが発生したものの、清香達を乗せた飛行機は無事那覇空港に着陸し、恭子が手配しておいた車に分乗して宿泊先のホテルへと向かった。
途中で昼食を済ませてホテルのロビーへと入ると、チェックイン開始直後で人だかりがしていた為、クロークに荷物を預けてラウンジでお茶を一杯飲もうと言う話になり、それぞれが空いているソファーに落ち着く。
「恭子さん、お昼のイタリアンレストラン、美味しかったわ」
「真澄さんにそう言って貰って良かったです。移動途中で食べられる場所を探したので……。せっかくなので、夜は郷土料理のお店を予約してますから、楽しみにしてて下さいね?」
「ありがとう。楽しみだわ」
「あ、じゃあ私はそろそろチェックインしてきます」
「宜しくね」
カウンターが空いてきたのを見た恭子が立ち上がり、真澄や近くに座っていた清人に会釈してその場を離れると、真澄は恭子とは反対側に座っていた清香に機嫌良く話しかけ始めた。その様子を眺めながら、聡は僅かに顔を引き攣らせる。
(全く……、何なんだ? 朝からの嫌がらせの数々は。兄さんからされるならともかく、真澄さんの気に障る様な事はしてないよな!?)
ここに来るまでに、清香が気が付かない様に実に巧妙にスーツケースの引換タグを破られたり、階段で足を引っかけられたり、隙を見て料理にタバスコをぶちまけられたりしている聡は、周囲から心底同情する視線を受けていた。
被った精神的疲労から無意識に真澄を睨んでいると、反対側から見返している清人に気が付き、思わずたじろぐ。睨み返されるかと身構えたのだが、何故か清人は聡から目を逸らし、窓の外に視線を向けた。
(……今朝から兄さんの行動パターンまで読めないのが不気味だ。てっきり真澄さんと一緒になって俺をいびり倒すと思ったのに、何なんだ? 一体)
そんな事を考えて本気で首を捻っていると、その内パンフレット片手に真澄が清人の方に身を乗り出し、尋ねる声が聞こえてきた。
「ここ随分娯楽施設があるのね。カラオケとかプールバーも有るみたいよ? 滞在中に行ってみない?」
「じゃあ夜のどこかで押さえましょうか」
「そうね。……でも残念。卓球台は無いみたい」
「真澄さん、卓球がしたいの?」
ここで驚いた様に口を挟んだ清香に、真澄が真面目な顔で頷く。
「だって温泉って言ったら卓球でしょう?」
「ここは確かに大浴場は有りますが、温泉じゃありませんよ?」
「そんな事分かってるわよ、気分よ気分。嫌ねぇ、デリカシーの無い人間ってこれだから……」
思わず口を挟んだものの、真澄から嫌味っぽく溜め息を吐かれた聡は、流石に顔を引き攣らせた。そこに割って入る様に、いつの間にか戻って来た恭子が真澄に告げる。
「真澄さんがそう言うだろうと思って、卓球台を用意しておきましたよ?」
「本当? 恭子さん。ホテル内に有ったの?」
思わず他の面々も恭子に目を向ける中、彼女が微笑しながら話を続けた。
「流石にホテルには無かったですが、地域の体育館から卓球台と一緒に備品も借り出して、押さえた会議室に五日間置かせて貰いましたから。いつでも好きな時に使えます」
「本当に? 嬉しい!」
満面の笑みを浮かべる真澄に清人以外の人間が唖然とする中、恭子の話は続いた。
「それで到着してから少しリラックスしたいかと思って、夕方まで館内のエステサロンに予約を入れておきましたが、どうですか?」
「行くわ! 清香ちゃんも行くわよね?」
「え? えっと、あの……」
嬉々として話に飛び付いた真澄に声をかけられて、当惑した清香が口ごもったが、恭子は満面の笑みで請け負った。
「勿論、私も含めて三人分予約を入れてますから、安心して下さい。それから……ホテルの西側に結構立派な日本庭園が有るんですけど、エステが終わってからそこでお茶でもしませんか?」
「日本庭園にテーブルを置くの?」
怪訝な顔をした真澄に、笑みを深くしながら恭子が首を振る。
「そうじゃなくて、野点です。私達がエステに行ってる間に、先生が準備してくださるそうですから」
「清人君、本当!?」
その話に食い付いて尋ねてきた真澄に、清人は笑って頷いた。
「ええ、真澄さんが希望するなら、夕方までに準備しておきますよ?」
「するわ! 久しぶりにゆっくり飲みたい!」
「じゃあそういう事で、他の皆さんは夕刻までは自由行動で。ロビーに六時半に集合して、食事に出掛けましょう」
手帳を開きながらそう淡々と説明する恭子を、色々な表情を浮かべながら全員が見守った。
「あと、明日は隣接するビーチに行くとして……、明日の夜から明後日にかけて天気が崩れる可能性が有るので、明後日はガラス工房の見学とショッピングの他に二・三立ち寄る所を考えてますから……。その次の日はクルージングですね。明良さんは一級小型船舶操縦士免許をお持ちですよね?」
「ああ、清人さんから話は聞いていたから任せて」
笑顔で手を振った明良に、恭子は笑顔で頷いて続けた。
「お願いします。船は予約済みですので。最終日の午前中は、館内でのんびりした方が良いですよね。プールも有りますから合間にこちらに入っても良いですし」
そこまで立て板に水の様に淀みなく話してから、恭子は手にしていた封筒から次々とカードキーを取り出した。
「……と言うことで、荷物は各自の部屋に既に運んで貰ってます。これが先生と聡さんの部屋の鍵ですので」
「ああ」
「はあ?」
キーを差し出されて、素っ気なく応じた清人に対し、聡は思わず声を荒げた。それを見て恭子と清人が、わざとらしく声をかける。
「どうかしましたか?」
「何か不満でも?」
「……いえ、何でもありません」
何とか笑顔を浮かべた聡から、すぐに二人は視線を外した。
「真澄さんと清香ちゃんは、私と同室ですね」
「改めて宜しくね」
「こちらこそ」
「恭子さん……、ツアコンができるわ……」
「ありがとう、清香ちゃん」
笑顔の真澄と呆然としている清香に一枚ずつキーを渡した恭子は、次に浩一と玲二に歩み寄った。
「こちらはご兄弟で一部屋ですね。宜しいですか?」
「ええ、勿論」
「構いません」
そして二人にキーを渡した後、一番窓側の席に陣取っていた三人に声をかけた。
「松原さんと正彦さん、明良さんは三人で二部屋を使って下さい。部屋割はご自分達で相談の上、お願いします」
「はあ?」
「どういうことかな」
「恭子さん、どうせなら俺も名前で読んで欲しいんだけど?」
友之の台詞はあっさり無視し、恭子は正彦と明良の疑問に答えた。
「一部屋はツインで、もう一部屋はダブルなんです。……因みに、今外出しようとしてる女子大生のグループは明後日まで、ラウンジの向こうでお茶を飲んでいる三人組のOLはその次の日までの滞在みたいですね」
「いつの間に……」
「どこから聞き込んできたのかな……」
「仕事早いね……」
三つのキーを手渡しながら、清香達に聞こえない様小声で告げてきた内容に、三人とも微妙な笑顔を見せる。そんな男達に向かって、恭子が再度付け加えた。
「あ、ここの館内のドラックストアは、結構品揃え良いみたいですよ? 先生に迷惑かけない様に、節度のある大人の行動をお願いしますね? 部屋が足りないなら、追加しますし」
真顔で申し出てきた恭子に対し、苦笑するしかできない三人。
「えっと、その時は宜しく」
「お世話になります」
「御苦労様です」
それに頷いてから恭子は清人の元に戻り、手帳の記載内容を確認して、白紙のページに何かを書き込んだかと思ったら、それをミシン目から切り離して清人に手渡した。
「それでは先生、取り敢えずこれが必要な分です。開けておいて下さい」
「分かった」
「じゃあ真澄さん、清香ちゃん、部屋に寄らずにこのまま行きましょうか」
「そうね」
「え、ええ? 真澄さん、恭子さん、ちょっと待って!」
真澄と恭子によって清香が連れ去られて行くのを、男達は苦笑して見送ってから、ゆっくりと腰を上げた。
「ぼちぼち俺達も行くか」
「そうだな。じゃあ清人さん、ここに六時半で」
「ああ、遅れるなよ?」
「分かってます」
そんな事を言い合いながら皆でエレベーターに乗り込み、押さえた部屋が全て同一フロアだったらしく揃って降り立ったものの、忽ち他の人間と別れてあるドアの前に清人と聡が二人で立った。流石にこの状況を予想していなかった聡の緊張が、一気に高まる。
(迂闊だったな、こうなる危険性はあった筈なのに。落ち着け、ここで必要以上に兄さんを怒らせるわけにはいかないんだ)
そんな事を考えて固まっていた聡を、ドアのロックを外して室内に一歩足を踏み入れた清人が、怪訝な顔で振り返って促した。
「何をしている。入らないのか?」
「あ、はい、失礼します」
そうしてビクつきながら室内に入った聡だったが、奥に入ってすぐ呆気に取られて立ち竦んだ。自分達のスーツケースに加え、ダンボール箱が十箱程も運び込まれていた為である。
「何ですか、この箱は?」
聡にしてみれば当然の疑問だったのだが、清人は手元のメモとダンボール箱の記載を照らし合わせながら、事も無げに告げた。
「何って、必要な物だから、予め送っておいた物だが?」
「四泊五日で、何がこんなに必要なんですか!?」
「色々だ……。あった、これだ」
思わず叫んだ聡を半ば無視しながら、清人は一つの箱を空いているスペースに引っ張り出し、封をしているガムテープを剥がした。そして蓋を開けて中身を確認し、思わずと言った感じでクスクスと小さく笑いだす。
「流石……、完璧だな」
その感嘆しきった声に、思わず興味をそそられた聡が箱の中身を覗き込んだが、それを認めた瞬間、聡が変な顔をした。
「一体何なんですか、これは?」
「だから必要な物だと言った。絶対お前より、彼女の方が使えるな」
そう言って緩衝材を取り出しつつ、満足そうな顔付きで中身を持ち上げた清人を見て、聡は些かプライドを傷つけられた様な感覚を覚えていた。
一方女三人は男性陣と別れた後、四方山話をしながらエステサロンに向かい、受付を済ませて控え室へと通された。絨毯敷きでアロマオイルの香りが微かに漂う過ごしやすい空間で、服を脱ぎながらふと傍らに目をむけた清香は、大人しくここに付いて来た事を激しく後悔して、ロッカーに両手を付いて項垂れる。
(うっ……、分かってはいたけど、真澄さんも恭子さんも、ナイスバディ……。こんな二人と一緒だと、私の貧相さが際立ってしょうがないわ……)
全裸になって店から渡された使い捨てのショーツに履き替え、薄いガウン状の物を羽織った真澄と恭子を清香がチラチラと横目で観察していると、着替えを終えた二人が手が止まっている清香を不思議そうに見やった。
「清香ちゃん?」
「どうかしたの? 固まっちゃって」
「あ、な、何でも無いです! ただちょっと……、二人のプロポーションに見とれてただけで!」
うっすらと目許を赤くしながらあわあわと動揺しつつ手を動かし始めた清香に、年長者二人は真顔で顔を見合わせてから苦笑した。
「あら、ありがとう。でもやっぱり肌のハリ、ツヤでは、若い子に負けると思うわよ?」
「そうですよね。清香ちゃん位の時期が一番新陳代謝が良くて、羨ましいわ」
「そんな事ないですから!」
「ところで清香ちゃん、今回はどんな水着を持って来たの?」
全裸に近い状態を、今度は逆に眺め回されながら唐突に質問され、清香は殆ど泣きそうになりながら答えた。
「ど、どんな水着って……、こ、紺色のワンピースですけど……」
「「はぁ?」」
ここでその発言を聞いた二人が、その顔に驚きを露わにして清香に詰め寄った。
「清香ちゃん! ピチピチの女子大生が、何枯れた事を言ってるの! 清人君がそんなのを選んだの?」
「まさかとは思うけど……、スクール水着とかじゃないわよね?」
「違います! 普通の水着です! だって聡さんが以前『自分だけ見る時は良いけど、他の人間が目にする所で露出が多い水着は駄目』って言ってて……。わ、私もあまり派手なのは似合わないと思うし……、あれ位が丁度良いかなって……」
段々小声になりつつ弁解がましく呟く清香を横目で見ながら、真澄と恭子は囁き合った。
「聞いた? 恭子さん。あいつ、とんだムッツリスケベだったみたいよ? 二人っきりの時には、マイクロビキニとか着せそうだわ」
「いくら可愛いからって、恋人の選択の幅を狭めるなんて、彼氏としての狭量さを暴露してますよね」
「ちょっと許せないわ」
「同感です。清香ちゃんにはもう少し、自信を付けさせてあげるべきです」
そんな風に意見の一致をみた二人は、揃って不気味な薄笑いを浮かべながら清香に向き直った。
「清香ちゃん、ここが終わっても清人君との待ち合わせ時間までは充分余裕があるから、一緒に水着を買いに行きましょう」
「え?」
戸惑った顔をした清香に、恭子が畳み掛ける。
「ここのショッピングモールのブティックって水着も取り扱っていて、各種取り揃えてるらしいわよ?」
「あ、あの……」
「良いのがあったら私も新調するわ。実は暫く海に行って無かったから、四年前に買った水着を持って来ちゃったのよね。……いっそのこと、清香ちゃんとお揃いにしようかしら?」
「あら、仲が良くて羨ましい」
「えっと……、その……」
(真澄さんとお揃いって……、そんな事をしたら、私の出る所が出てないのが余計に丸分かりじゃないの!?)
内心でそんな事を考えて冷や汗を流す清香の前で、すこぶる上機嫌な女二人の会話が続く。
「真澄さんなら、どんな水着を着ても似合いそうですね」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
「嫌だ、本心から言ってますよ?」
そうしてスタッフが呼びに来るまでコロコロと笑っていた二人を説得できる筈もなく、清香のブティック連行は確定した。
途中で昼食を済ませてホテルのロビーへと入ると、チェックイン開始直後で人だかりがしていた為、クロークに荷物を預けてラウンジでお茶を一杯飲もうと言う話になり、それぞれが空いているソファーに落ち着く。
「恭子さん、お昼のイタリアンレストラン、美味しかったわ」
「真澄さんにそう言って貰って良かったです。移動途中で食べられる場所を探したので……。せっかくなので、夜は郷土料理のお店を予約してますから、楽しみにしてて下さいね?」
「ありがとう。楽しみだわ」
「あ、じゃあ私はそろそろチェックインしてきます」
「宜しくね」
カウンターが空いてきたのを見た恭子が立ち上がり、真澄や近くに座っていた清人に会釈してその場を離れると、真澄は恭子とは反対側に座っていた清香に機嫌良く話しかけ始めた。その様子を眺めながら、聡は僅かに顔を引き攣らせる。
(全く……、何なんだ? 朝からの嫌がらせの数々は。兄さんからされるならともかく、真澄さんの気に障る様な事はしてないよな!?)
ここに来るまでに、清香が気が付かない様に実に巧妙にスーツケースの引換タグを破られたり、階段で足を引っかけられたり、隙を見て料理にタバスコをぶちまけられたりしている聡は、周囲から心底同情する視線を受けていた。
被った精神的疲労から無意識に真澄を睨んでいると、反対側から見返している清人に気が付き、思わずたじろぐ。睨み返されるかと身構えたのだが、何故か清人は聡から目を逸らし、窓の外に視線を向けた。
(……今朝から兄さんの行動パターンまで読めないのが不気味だ。てっきり真澄さんと一緒になって俺をいびり倒すと思ったのに、何なんだ? 一体)
そんな事を考えて本気で首を捻っていると、その内パンフレット片手に真澄が清人の方に身を乗り出し、尋ねる声が聞こえてきた。
「ここ随分娯楽施設があるのね。カラオケとかプールバーも有るみたいよ? 滞在中に行ってみない?」
「じゃあ夜のどこかで押さえましょうか」
「そうね。……でも残念。卓球台は無いみたい」
「真澄さん、卓球がしたいの?」
ここで驚いた様に口を挟んだ清香に、真澄が真面目な顔で頷く。
「だって温泉って言ったら卓球でしょう?」
「ここは確かに大浴場は有りますが、温泉じゃありませんよ?」
「そんな事分かってるわよ、気分よ気分。嫌ねぇ、デリカシーの無い人間ってこれだから……」
思わず口を挟んだものの、真澄から嫌味っぽく溜め息を吐かれた聡は、流石に顔を引き攣らせた。そこに割って入る様に、いつの間にか戻って来た恭子が真澄に告げる。
「真澄さんがそう言うだろうと思って、卓球台を用意しておきましたよ?」
「本当? 恭子さん。ホテル内に有ったの?」
思わず他の面々も恭子に目を向ける中、彼女が微笑しながら話を続けた。
「流石にホテルには無かったですが、地域の体育館から卓球台と一緒に備品も借り出して、押さえた会議室に五日間置かせて貰いましたから。いつでも好きな時に使えます」
「本当に? 嬉しい!」
満面の笑みを浮かべる真澄に清人以外の人間が唖然とする中、恭子の話は続いた。
「それで到着してから少しリラックスしたいかと思って、夕方まで館内のエステサロンに予約を入れておきましたが、どうですか?」
「行くわ! 清香ちゃんも行くわよね?」
「え? えっと、あの……」
嬉々として話に飛び付いた真澄に声をかけられて、当惑した清香が口ごもったが、恭子は満面の笑みで請け負った。
「勿論、私も含めて三人分予約を入れてますから、安心して下さい。それから……ホテルの西側に結構立派な日本庭園が有るんですけど、エステが終わってからそこでお茶でもしませんか?」
「日本庭園にテーブルを置くの?」
怪訝な顔をした真澄に、笑みを深くしながら恭子が首を振る。
「そうじゃなくて、野点です。私達がエステに行ってる間に、先生が準備してくださるそうですから」
「清人君、本当!?」
その話に食い付いて尋ねてきた真澄に、清人は笑って頷いた。
「ええ、真澄さんが希望するなら、夕方までに準備しておきますよ?」
「するわ! 久しぶりにゆっくり飲みたい!」
「じゃあそういう事で、他の皆さんは夕刻までは自由行動で。ロビーに六時半に集合して、食事に出掛けましょう」
手帳を開きながらそう淡々と説明する恭子を、色々な表情を浮かべながら全員が見守った。
「あと、明日は隣接するビーチに行くとして……、明日の夜から明後日にかけて天気が崩れる可能性が有るので、明後日はガラス工房の見学とショッピングの他に二・三立ち寄る所を考えてますから……。その次の日はクルージングですね。明良さんは一級小型船舶操縦士免許をお持ちですよね?」
「ああ、清人さんから話は聞いていたから任せて」
笑顔で手を振った明良に、恭子は笑顔で頷いて続けた。
「お願いします。船は予約済みですので。最終日の午前中は、館内でのんびりした方が良いですよね。プールも有りますから合間にこちらに入っても良いですし」
そこまで立て板に水の様に淀みなく話してから、恭子は手にしていた封筒から次々とカードキーを取り出した。
「……と言うことで、荷物は各自の部屋に既に運んで貰ってます。これが先生と聡さんの部屋の鍵ですので」
「ああ」
「はあ?」
キーを差し出されて、素っ気なく応じた清人に対し、聡は思わず声を荒げた。それを見て恭子と清人が、わざとらしく声をかける。
「どうかしましたか?」
「何か不満でも?」
「……いえ、何でもありません」
何とか笑顔を浮かべた聡から、すぐに二人は視線を外した。
「真澄さんと清香ちゃんは、私と同室ですね」
「改めて宜しくね」
「こちらこそ」
「恭子さん……、ツアコンができるわ……」
「ありがとう、清香ちゃん」
笑顔の真澄と呆然としている清香に一枚ずつキーを渡した恭子は、次に浩一と玲二に歩み寄った。
「こちらはご兄弟で一部屋ですね。宜しいですか?」
「ええ、勿論」
「構いません」
そして二人にキーを渡した後、一番窓側の席に陣取っていた三人に声をかけた。
「松原さんと正彦さん、明良さんは三人で二部屋を使って下さい。部屋割はご自分達で相談の上、お願いします」
「はあ?」
「どういうことかな」
「恭子さん、どうせなら俺も名前で読んで欲しいんだけど?」
友之の台詞はあっさり無視し、恭子は正彦と明良の疑問に答えた。
「一部屋はツインで、もう一部屋はダブルなんです。……因みに、今外出しようとしてる女子大生のグループは明後日まで、ラウンジの向こうでお茶を飲んでいる三人組のOLはその次の日までの滞在みたいですね」
「いつの間に……」
「どこから聞き込んできたのかな……」
「仕事早いね……」
三つのキーを手渡しながら、清香達に聞こえない様小声で告げてきた内容に、三人とも微妙な笑顔を見せる。そんな男達に向かって、恭子が再度付け加えた。
「あ、ここの館内のドラックストアは、結構品揃え良いみたいですよ? 先生に迷惑かけない様に、節度のある大人の行動をお願いしますね? 部屋が足りないなら、追加しますし」
真顔で申し出てきた恭子に対し、苦笑するしかできない三人。
「えっと、その時は宜しく」
「お世話になります」
「御苦労様です」
それに頷いてから恭子は清人の元に戻り、手帳の記載内容を確認して、白紙のページに何かを書き込んだかと思ったら、それをミシン目から切り離して清人に手渡した。
「それでは先生、取り敢えずこれが必要な分です。開けておいて下さい」
「分かった」
「じゃあ真澄さん、清香ちゃん、部屋に寄らずにこのまま行きましょうか」
「そうね」
「え、ええ? 真澄さん、恭子さん、ちょっと待って!」
真澄と恭子によって清香が連れ去られて行くのを、男達は苦笑して見送ってから、ゆっくりと腰を上げた。
「ぼちぼち俺達も行くか」
「そうだな。じゃあ清人さん、ここに六時半で」
「ああ、遅れるなよ?」
「分かってます」
そんな事を言い合いながら皆でエレベーターに乗り込み、押さえた部屋が全て同一フロアだったらしく揃って降り立ったものの、忽ち他の人間と別れてあるドアの前に清人と聡が二人で立った。流石にこの状況を予想していなかった聡の緊張が、一気に高まる。
(迂闊だったな、こうなる危険性はあった筈なのに。落ち着け、ここで必要以上に兄さんを怒らせるわけにはいかないんだ)
そんな事を考えて固まっていた聡を、ドアのロックを外して室内に一歩足を踏み入れた清人が、怪訝な顔で振り返って促した。
「何をしている。入らないのか?」
「あ、はい、失礼します」
そうしてビクつきながら室内に入った聡だったが、奥に入ってすぐ呆気に取られて立ち竦んだ。自分達のスーツケースに加え、ダンボール箱が十箱程も運び込まれていた為である。
「何ですか、この箱は?」
聡にしてみれば当然の疑問だったのだが、清人は手元のメモとダンボール箱の記載を照らし合わせながら、事も無げに告げた。
「何って、必要な物だから、予め送っておいた物だが?」
「四泊五日で、何がこんなに必要なんですか!?」
「色々だ……。あった、これだ」
思わず叫んだ聡を半ば無視しながら、清人は一つの箱を空いているスペースに引っ張り出し、封をしているガムテープを剥がした。そして蓋を開けて中身を確認し、思わずと言った感じでクスクスと小さく笑いだす。
「流石……、完璧だな」
その感嘆しきった声に、思わず興味をそそられた聡が箱の中身を覗き込んだが、それを認めた瞬間、聡が変な顔をした。
「一体何なんですか、これは?」
「だから必要な物だと言った。絶対お前より、彼女の方が使えるな」
そう言って緩衝材を取り出しつつ、満足そうな顔付きで中身を持ち上げた清人を見て、聡は些かプライドを傷つけられた様な感覚を覚えていた。
一方女三人は男性陣と別れた後、四方山話をしながらエステサロンに向かい、受付を済ませて控え室へと通された。絨毯敷きでアロマオイルの香りが微かに漂う過ごしやすい空間で、服を脱ぎながらふと傍らに目をむけた清香は、大人しくここに付いて来た事を激しく後悔して、ロッカーに両手を付いて項垂れる。
(うっ……、分かってはいたけど、真澄さんも恭子さんも、ナイスバディ……。こんな二人と一緒だと、私の貧相さが際立ってしょうがないわ……)
全裸になって店から渡された使い捨てのショーツに履き替え、薄いガウン状の物を羽織った真澄と恭子を清香がチラチラと横目で観察していると、着替えを終えた二人が手が止まっている清香を不思議そうに見やった。
「清香ちゃん?」
「どうかしたの? 固まっちゃって」
「あ、な、何でも無いです! ただちょっと……、二人のプロポーションに見とれてただけで!」
うっすらと目許を赤くしながらあわあわと動揺しつつ手を動かし始めた清香に、年長者二人は真顔で顔を見合わせてから苦笑した。
「あら、ありがとう。でもやっぱり肌のハリ、ツヤでは、若い子に負けると思うわよ?」
「そうですよね。清香ちゃん位の時期が一番新陳代謝が良くて、羨ましいわ」
「そんな事ないですから!」
「ところで清香ちゃん、今回はどんな水着を持って来たの?」
全裸に近い状態を、今度は逆に眺め回されながら唐突に質問され、清香は殆ど泣きそうになりながら答えた。
「ど、どんな水着って……、こ、紺色のワンピースですけど……」
「「はぁ?」」
ここでその発言を聞いた二人が、その顔に驚きを露わにして清香に詰め寄った。
「清香ちゃん! ピチピチの女子大生が、何枯れた事を言ってるの! 清人君がそんなのを選んだの?」
「まさかとは思うけど……、スクール水着とかじゃないわよね?」
「違います! 普通の水着です! だって聡さんが以前『自分だけ見る時は良いけど、他の人間が目にする所で露出が多い水着は駄目』って言ってて……。わ、私もあまり派手なのは似合わないと思うし……、あれ位が丁度良いかなって……」
段々小声になりつつ弁解がましく呟く清香を横目で見ながら、真澄と恭子は囁き合った。
「聞いた? 恭子さん。あいつ、とんだムッツリスケベだったみたいよ? 二人っきりの時には、マイクロビキニとか着せそうだわ」
「いくら可愛いからって、恋人の選択の幅を狭めるなんて、彼氏としての狭量さを暴露してますよね」
「ちょっと許せないわ」
「同感です。清香ちゃんにはもう少し、自信を付けさせてあげるべきです」
そんな風に意見の一致をみた二人は、揃って不気味な薄笑いを浮かべながら清香に向き直った。
「清香ちゃん、ここが終わっても清人君との待ち合わせ時間までは充分余裕があるから、一緒に水着を買いに行きましょう」
「え?」
戸惑った顔をした清香に、恭子が畳み掛ける。
「ここのショッピングモールのブティックって水着も取り扱っていて、各種取り揃えてるらしいわよ?」
「あ、あの……」
「良いのがあったら私も新調するわ。実は暫く海に行って無かったから、四年前に買った水着を持って来ちゃったのよね。……いっそのこと、清香ちゃんとお揃いにしようかしら?」
「あら、仲が良くて羨ましい」
「えっと……、その……」
(真澄さんとお揃いって……、そんな事をしたら、私の出る所が出てないのが余計に丸分かりじゃないの!?)
内心でそんな事を考えて冷や汗を流す清香の前で、すこぶる上機嫌な女二人の会話が続く。
「真澄さんなら、どんな水着を着ても似合いそうですね」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
「嫌だ、本心から言ってますよ?」
そうしてスタッフが呼びに来るまでコロコロと笑っていた二人を説得できる筈もなく、清香のブティック連行は確定した。
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