夢見る頃を過ぎても

篠原皐月

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番外編 結婚披露宴迷走曲~前門の姑

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 一月二日に柏木邸に親族が集まり、祝い膳が饗されたが、それには前年真澄と入籍した清人、及び総一郎の孫として公表された清香も交え、賑やかな宴となった。
 総一郎の誕生日祝の席と同様、上座の総一郎から見て右手には息子夫婦三組に修夫婦が座するのは暗黙の了解だったが、誰も何も言わなくても総一郎の左手側では真澄と清人の夫婦の次に浩一、さらにその次に清香が座った後は年齢順に自然に座り、和やかに会食が進んだ。
 そして膳が下げられ、皆で食後のお茶を飲み始めた所で、雄一郎が娘夫婦を促した。

「さて、それでは落ち着いたところで、真澄の方から報告があるので聞いてやってくれ。真澄?」
「え、えっと……、はい。実は、その……」
 声をかけられた真澄だったが、僅かに頬を染めて恥ずかしがっている間に、横に座る清人があっさりと報告してしまった。

「実は種馬としての期待に応えるべく頑張ってみましたら、早速子供が出来ました。予定日は今年の8月下旬なので、真澄の体調を鑑みて四月に挙式及び披露宴を開催しますので、是非ご出席下さい」
「た、種馬って……、清人!」
 清人の横で真澄は顔を真っ赤にして叫んだが、初耳の者達は一瞬ポカンとしてから揃って小さく噴き出した。

「あはははっ! 本当に凄いな~」
「種馬の面目躍如ですよね、清人さん」
「仕事早っ! どれだけ頑張ったんだよ」
「新年早々めでたいな~」
 盛大な冷やかしの声に真澄は俯いたまま一言も発しなかったが、清人は平然と座卓の上から湯飲み茶碗を取り上げ、静かに茶を飲んだ。そこで楽しげな玲子の声が割り込む。

「本当に安心したわ。それで真澄と清人さんの結婚披露宴を開催する目処が立ったから、これを引っ張り出してきたの。今から回すから、皆一部ずつ手にとって頂戴」
「はあ?」
「何ですか、これは?」
 唐突に玲子が座卓の下から取り出し、ホチキス止めしてある十枚前後のコピー用紙を、他の皆は困惑しながらも素直に一部ずつ手にとり、次々回していった。そして《佐竹家柏木家結婚披露宴内容決定稿》と表記してある一番上の用紙を捲りながら、玲子が説明を始める。

「これは真澄が高三、清人さんが高一の時に、香澄さんの声掛けで作ったものなのよ。『清人君が真澄ちゃんの事を好きだから、お嫁さんに頂戴』といきなり言われたのにはびっくりしたけど、『真澄で良かったら熨斗付けてあげるわ』と言ったら喜んでね」
「香澄さん……、当人が知らない所で一体何を……」
「お母様まで、何を悪乗りしてるんですか……」
 がっくりと項垂れた夫婦を気にする事無く、玲子は朗らかに話を続けた。

「清人さんの育ての親の、佐和子さんにも紹介されてね。真澄の事は見知っていたみたいで『真澄さんみたいな礼儀正しいお嬢さんが、清人君のお嫁さんになってくれたら嬉しい』と、とても喜んで貰ったのよ? だから『二人が結婚した暁には、是非とも親族席にお座り下さい』って意気投合したの」
「そうでしたか。そんな事一言も……」
「どうして本人抜きで、そんな話を進めてるんですか」
 些か感慨深く呟いた清人の声に、真澄の憮然とした声が重なる。しかし玲子はあっさりと言ってのけた。

「だってあなた達、互いに全然意思表示していなかったんですもの。下手に指摘したりからかったりしたら、拗れたり離れたりするかもしれないと思って、三人で秘密にしておく事にしたのよ。その代わり、結婚が本決まりになったら、これをプレゼントしてびっくりさせましょうねって盛り上がってね。ほら三人で誓約書も取り交わしたし」
 そう言って玲子がその場全員に向けて指し示した二枚目には、『佐竹清人、柏木真澄両名の結婚披露宴開催決定時にこれを進呈し、次項に続く内容に沿った事柄を円滑に進める為に、できる限りの助力をする事を誓います』等の文言の下に、三人の署名捺印があるのを見て、正直清人と真澄は(本当に、何をやっていたんだか……)と半ば呆れた。しかし玲子は更に用紙を捲りながら、どんどん話を進める。

「さあ、遠慮しないで皆も内容を確認して頂戴? 香澄さんが色々な結婚情報誌や週刊誌等から集めた情報の中から、佐和子さんと私が一緒になって、厳選した内容になっているのよ?」
 言われるままその場全員が用紙を捲り、書かれている内容に目を通し始めたが、さほど読み進めないうちに、何故か皆顔を強ばらせて無言になった。
 そして時折紙を捲る音の他は、上機嫌な玲子の声だけが室内に響き渡る。

「本当に、これを作っている時は楽しかったわ……。佐和子さんとも香澄さんとも年齢差はあったけど、そんな事を微塵も感じないで、同じ一つの事について激論を交わして……」
「…………」
「ついついお昼を食べるのも忘れて話し込んじゃって、幼稚園への清香ちゃんのお迎えを忘れて、慌ててお開きにしたことも何度かあったわね……」
「…………」
「推敲を重ねて、それが第十一稿だったかしら? 完成した時は、三人とも成し遂げた達成感で、胸が一杯になったわ」
「…………」
 感極まった様に軽く胸を押さえつつ玲子は語ったが、勿論それに応じる者は皆無だった。

「思っていた以上に長い時間がかかったけど、このプランがやっと日の目を見る事ができて、佐和子さんと香澄さんもきっと草葉の陰で喜んでいるわ。さあ、二人とも遠慮しないで、これに沿って披露宴をして頂戴ね?」
「…………」
 優雅に微笑む玲子の視線の先で、彼女の娘夫婦は手元の書類に視線を落としたまま、微動だにせず無言を貫いていた。しかし室内に不気味な沈黙が漂っている中、次第にそこかしこで囁き声が交わされ始める。

「……浩一さん、聞いても良いですか?」
「何だい? 清香ちゃん」
「ここの『ブーケトス』は分かるんですけど、一緒に書かれてある『ガータートス』って何ですか?」
 恐縮気味に小声で問いを発した清香に、隣に座っていた浩一は、僅かに言いにくそうに言葉を濁した。

「ああ、それは……、ブーケトスは未婚女性に向かって花嫁が投げるけど、ガータートスは未婚男性に向かって花婿がガーターベルトを投げるんだ」
「え? でも花婿は、ガーターベルトなんかしませんよね?」
 キョトンとした顔で疑問を投げ掛けてきた従妹から、微妙に視線を逸らしつつ、それでも浩一は律儀に答える。

「だから……、その……、列席者の前で、花婿が花嫁のドレスのスカートの中に入って、口で取ったガーターベルトを投げるって言うのが本式らしいんだけど……」
 そこまで聞いた清香は瞬時に顔を真っ赤にしつつ、精一杯声を抑えながらも、浩一の腕を掴んで詰め寄った。

「ななな中に入ってって、何ですか!? その衆人環視の中での、恥ずかしさの極致プレイはっ!!」
「いや、さすがにそこまで忠実にするのは珍しくて、大抵は花婿がドレスを捲って、手で取るって流れじゃないかと……」
「それでも脚を見られる可能性があるし、今まで脚に付けてた物を投げられるんですよ? 十分恥ずかしいですっ!」
 一応フォローしようとした浩一だったが、それは清香にとってあまり慰めにならない内容だった。そして末席から清香と浩一が何やら揉めているのを眺めつつ、玲二と明良が囁き合う。

「なぁ、『スモーク&ゴンドラで登場』とか『レーザー光線で愛のメッセージ投影』とか『ウェディングケーキが花嫁花婿のリアル八分の一スケール』とか『キャンドルサービスで大きな風船を熱して割ると、中から小さなハート型風船が飛び出して浮遊』とかその他諸々の派手で恥ずかしい演出って、今時やってる所あると思うか?」
 玲二のそんな素朴な疑問に、明良が本気で首を捻る。

「さぁ……、まあ、金積めばどうにでもなると思うけど、思いっきり時代に逆行してるよな」
「姉貴が高三の時って、バブル崩壊後間もなくだから、まだ派手婚の風潮が残ってたんだな……、気の毒に」
「今の世の中、地味婚全盛期だもんなぁ……。悪目立ちする事確実だ」
 頷き合った二人がしみじみと憐憫の眼差しで真澄と清人を見やったが、その時彼らの横では押し殺した笑い声が上がっていた。

「ぐはっ! わ、笑えるっ! おい、友之これ見ろよ!」
「どれもこれも笑えるから、何を指しているのか分からないんだが?」
「これだよ、これ! 披露宴で『二人の出会いと愛の軌跡再現ビデオ』とかは偶に聞くし見せられる事があるが、『二人の出会いの再現寸劇』だと。さすが玲子伯母さんと香澄叔母さん、ただ者じゃないな」
 腹を抱えて必死に笑いの発作と戦っていた正彦だったが、その項目に目を走らせた友之は、冷静に従兄弟に注意を促した。

「おい、腹を抱えて笑ってる場合か? よく見ろよ。お前と俺と浩一さん、それぞれの父親役でキャスティングされてるぞ?」
「げ! 嘘、マジかよ?」
「この場合、俺達は大勢の招待客の目の前で、三文芝居を演じさせられる羽目になる上、清吾叔父さん役の人間を殴る蹴る演技をしなきゃいけなくなるんだぞ? 本人の親父達諸共、会場中から白眼視される事確実だ」
「おいおい、勘弁してくれよ……」
 溜め息を吐いた友之の横で正彦が本気で頭を抱えると、その座卓を挟んで向かい側の席では、奈津美が用紙を捲りつつ感嘆混じりに修に囁いた。

「何か……、凄いわね、この衣装デザイン案。七種類って事は六回お色直しをするって事? それ以前に、単なるお色直しで済まないと言うか、何と言うか……」
「もうここまでくると、変装とか仮装の域だな。これなんてどこからどう見ても宝塚の世界だし。きっと伯母さん達、自分達の趣味丸出しで選んだに決まってる」
「全部に『香澄』のサインがあるって事は、香澄さんがこれらを描いたのよね?」
「香澄叔母さんに一般的常識はともかく、絵心が有った事だけは確認できたな……」
 呆れ果てた様に修が呟くと、ここで奈津美が当惑した表情で突っ込みを入れた。

「でも……、修さん? これとか、花嫁が男装してどうするの? しかも相手役は清香ちゃんになっているし。花婿はどこにいったの?」
「……俺に聞くな。玲子伯母さんに聞いてくれ」
 自分の周囲で、そんな穏やかならざる会話が交わされている間も、当事者二人は無表情で黙り込んでいたが、それを満足げに眺めていた玲子が、穏やかに声をかけた。

「うふふ、二人とも感動で言葉がでないみたいね。どう? 三人で選りすぐっただけあって、どれもこれも素敵でしょう?」
 その問いかけに、真澄は弾かれた様に顔を上げ、座卓に用紙を勢い良く叩き付けつつ実の母親を叱りつけた。

「呆れて言葉が出ないだけです!! 何なんですか、この非常識極まりない、かつ恥ずかしすぎる行為の数々はっ!?」
 しかし娘の非難などどこ吹く風で、玲子が飄々と言い返す。
「あら、結婚披露宴なんて招待客の皆様に、非日常の夢と幸せをお裾分けする場ではないのかしら?」
「非日常と非常識は全くの別物です! 清人! 黙ってないで、あなたも何か言いなさいよ!」
「……ああ」
 母親に怒声を浴びせている真澄に促され、清人は些か気まずそうに玲子に視線を向けた。

「玲子さん。このプランですが」
「あら水臭いわね、清人さん。『お義母さん』と呼んで頂戴?」
 ニコニコとそんな事を笑顔で促された清人は、ピクッと一瞬顔を引き攣らせ、次いで軽く息を吸って気持ちを落ち着かせてから、静かに話し出した。

「……あの、お義母さん」
「何かしら? 清人さん」
 その余裕の笑みにたじろぎつつも、清人は慎重に話し出した。

「その……、俺達二人の為に、三人で心を砕いて色々と考えて頂いたのは重々承知しておりますしありがたく思っておりますが、これを忠実に実行に移すには、色々と困難な事が見受けられますので……」
 しかし夫のその物言いが気に入らなかったらしく、真澄は片眉をピクリと上げて清人に向かって凄んだ。

「……清人? あなた何をグダグダ言ってるわけ? 『こんな事到底できるわけありません』と、ビシッと断れば良いでしょう!?」
「いや、しかしだな、ばあちゃんと香澄さんと一緒になってお義母さんが一生懸命考えてくれた物を、一蹴する訳には……。全くその通りにするのは無理でも、せっかくだから可能な所は受け入れていくべきじゃないのか?」
 必死の面持ちで清人が弁解したが、それを聞いた真澄はこめかみに青筋を浮かべ、他の者達は一斉に顔を青ざめさせた。

(うっ、マズい! 清人さんが隠れババコンでマザコンなのを忘れてた!)
(きっと実の母親と絶縁状態だった分、母親に類する女性には、とことん弱くて従順な人だったんだよな……)
(そうか……、清人さんの弱点って『母親』って言葉だったんだ)
(玲子伯母さん、それを分かっていて『お義母さんって呼んで?』なんて言って、清人さんにプレッシャーを……。清人さんに負けず劣らずの策士だ)
(嫁姑に挟まれた夫の悲哀なんて、清人さんには無縁と思ってたのに……)
(清人……、お前、育ての親の岡田さんや、一緒に過ごした香澄叔母さんに対してならともかく、姑である母さんにまで強い態度で出られないのはどうかと思うぞ?)
 そんな周囲の思惑と同様の事を考えたらしい真澄は、清人の方に向き直り、獰猛過ぎる笑顔を向けた。

「清人? 私とお母様と、どちらがより大事なのかしら?」
「それは勿論、真澄に決まってる」
 真顔で即答した清人だったが、その途端真澄が拳で座卓を力一杯叩きつつ絶叫した。

「だったら今すぐお母様に対して、綺麗さっぱり、断固として、全て断りなさい! もしそれができないなんてふざけた事を言うなら、今後の私の人生にあんたなんかこれっぽっちも必要無いから即離婚よっ!! 離婚用紙をマンションに送りつけてあげるわ。署名捺印して提出して、二度とその不愉快な面を見せないでっ!」
「ちょっ……、真澄、落ち着け! 幾ら何でもそれは」
 さすがに狼狽した清人が真澄を宥めようとすると、真澄が微笑みつつ穏やかな口調で確認を入れる。

「じゃあ、ぜ・ん・ぶ、きっっっぱり、断るのね?」
「それは……」
 しかし口ごもった清人を見て真澄は表情を消し、その場にすっくと立ち上がり、座ったままの清人に向かって吐き捨てた。

「子供の事は心配しないで。片親でも立派に育てあげてみせるから。それからさすがに可哀想だから、月に一回位は会わせてあげる。それでは沢渡先生に連絡しないといけない事ができましたので、私はこれで失礼します」
 最後は室内をぐるりと見回しながら宣言した真澄は、周囲が引き止める間もなく踵を返し、足音も荒く部屋を出て行った。

「おい、真澄!」
「姉さん、少し冷静に!」
「真澄さん!」
「あらあら、癇癪持ちで本当にしょうがないわねぇ……。あんな娘で申し訳ないけど、仲良くしてあげてね?」
 周囲が慌てて叫ぶ中、玲子が困った様な笑みを浮かべながら、朗らかに清人に声をかけた。対する清人は一瞬真澄を追いかけるかどうか迷った末、気合いを入れて姿勢を正しながら玲子に向き直った。

「……お義母さん」
「何かしら?」
「その……、これを全て実行に移すとなると、とても一般的な披露宴開催時間では、収まらないかと思います。加えて、真澄が安定期のうちに済ませるとなると、そんな直近に丸一日近く会場が押さえる真似はできないと思うのですが……」
「それは、まあ……、常識的に考えて、そうじゃろうなぁ……」
「規模から言って、一流ホテルの大宴会場を丸一日押さえるとなると、少なくとも一年前位から予約が必要だろうし」
 別方向から翻意を促そうと口を開いた清人に、流石に気の毒に思ったのか総一郎と雄一郎が一般的な話を持ち出して会話に加わる。しかし玲子は怯む事も困る事も無く、夫と舅に明るい笑顔を向けながら迫った。

「雄一郎さんとお義父様が、可愛い娘と孫娘の為に骨を折ってくださるなら、十分可能ですわよね?」
「ちょっと待て、玲子さん」
「だからそれは無理だと」
「二人ともそれ位の甲斐性はお持ちだから、見くびらないで頂戴。だからそんな心配は無用です。安心してね? 清人さん」
「………………」
 二人の抵抗の台詞を無視して清人に笑顔で請け負った玲子を見て、室内に再び沈黙が満ちた。

(うわぁ、玲子伯母さん容赦ねぇぇっ!)
(出来ない、なんて言おうものなら、一生死ぬまでネチネチと『甲斐性無し』と罵られそうだ)
(父さんもお祖父さんも黙り込んで、孤立無援になったな清人)
(どうするんだよ。下手すりゃ入籍して一月半経たずに離婚だぜ?)
 そんな静まり返った室内で、もう誰も頼りにならないと悟った清人は、思い詰めた表情で玲子に呼び掛けた。

「お義母さん……」
「はい、何ですか? 清人さん」
「俺達の結婚披露宴を盛り上げて、祝福したいというお義母さんの温かい心遣いは、十分理解しています。理解していますが……、何と言っても真澄は身重ですし、幾ら安定期と言えども、長時間拘束する事態になるのは、やはり回避すべきかと思いますので」
「本当にねぇ、手順を飛ばしたり、順序が逆になったりしたのは、どなたのせいかしら?」
 ここですかさず嫌味っぽく愚痴を零されたが、清人は下手な弁解をせず頭を下げる。

「……全面的に俺のせいです。誠に申し訳ありません」
「それに、もう少し段取り良く纏まってくれれば、香澄さんは無理だったとしても、佐和子さんには朗報をお聞かせできたかもしれないのに。きっと心残りでしたでしょうねぇ」
「……返す返す、自分の不甲斐なさを恥じるばかりです。平にご容赦下さい」
 ひたすら平身低頭で頭を下げる清人に、玲子が口調を改めて優しげに言い聞かせた。

「それに清人さん。幾ら婿入りしたと言っても、あなたはきちんと私達夫婦と養子縁組みしたんですから、真澄と立場は同等なのよ? 引くべき所は引くけど、押すべき所はきちんと『俺はこうするつもりだ』ときちんと言い聞かせて、納得させるべきだと思うのだけれど。そこの所はどう思っているのかしら?」
「それは……、確かにそうかもしれませんが……」
「それなら、あなたが何をすべきなのか、私が一々口に出さずともお分かりよね?」
「いえ、ですからそれは、誰がどう考えても無理があると……」
 必死で清人が抵抗していたが、そんな清人を置き去りにして、清人が交渉を始めた段階で浩一から目配せを受けていた他の者達はそろそろと立ち上がり、室内から静かに抜け出ていた。そして閉まった襖を眺めながら、不安顔の清香が浩一を見上げつつ問い掛ける。

「どうなっちゃうの? 浩一さん。まさか本当に別れたりしないよね?」
 それに溜め息を吐いて浩一がチラリと背後の襖に目を向けてから、清香を促して本棟に向かって歩き出した。

「まあ、清人が死ぬ気で何とかするだろうから大丈夫だよ。取り敢えず変な緊張をして喉が渇いたから、応接室でお茶を飲み直そうか」
「賛成」
「異議無し」
「あ~、正月早々胃が痛い」
「気にするな清香ちゃん、大丈夫だって」
「そうそう、真澄姉だってそのうち機嫌直して部屋から出て来るから、暫くは放っておいた方が良いよ」
「う、うん……」
 口々に宥められながら清香は移動し、極力和室内に残してきた人物達の事を考えない様にしてお茶を味わう事にした一同だったが、それなりに和やかに話をして寛いでいた一時間後、その和やかな空気を切り裂く事態が発生した。
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