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第24話 襲撃(1)
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幾つもの火矢が夜空を赤く染めて飛来する。
図南と紗良が火矢に気付くのとほぼ同時に騎士や神官たちから警告の声が上がった。
「敵襲!」
「敵は森の中だ!」
「盾だ! 盾を急げ!」
「大司教をお守りしろ!」
騎士や神官たちが声を張り上げながら慌ただしく走り回る。
火矢が緩やかな放物線を描きながら降下しだした。何本かの矢は確実に自分たちに向かっているのを見て取った図南が叫ぶ。
「紗良! 盾を出せ!」
オークから奪った盾をストレージから出すように指示し、自分自身も紗良を背後に庇いながら右手に剣を携え、左手で盾をかざす。
「身体強化! 感覚強化!」
図南がわざと声に出して身体強化と感覚強化を発動させる。すると、紗良も彼に倣《なら》って身体強化を発動させた。
(集中!)
自分に向かって突き進む矢がまるでスローモーションのように感じる。研ぎ澄まされた知覚が矢の軌道を読み取る。
最小限の斬撃で矢を防ぐ動きを瞬時に割りだすと、自分と紗良に命中する矢だけを狙って剣を一閃させた。
横に薙ぐ一振りで数本の矢が薙ぎ払われる。
さらに振り下ろす一撃で更に数本の矢を叩き落し、下から斬り上げた一撃で残る矢を弾き飛ばす。
次の瞬間、数本の矢が図南と紗良の身体を掠めるように地面に突き刺さる。
命中するはずだった二十本近い矢を一瞬で無力化した。
「紗良、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
快活な答えが即座に返ってきた。
剣の覚えなどない図南である。
一つ一つの動きは素人のそれだ。
だが、図南の一連の斬撃を目にした者は誰もが息を飲んだ。そのありえない剣の速度に二人を視界に捉えていた者たちが目を奪われた。
絶句する者たちをよそに火矢が降り注ぐ。
火矢は天幕を燃え上がらせ、不幸な騎士や神官たちを射抜いた。
そこかしこで炎が燃え上がり、悲鳴が夜空に木霊する。
悲鳴が上がるなか、
「敵が森から出てきたぞ!」
「応戦しろ!」
「落ち着け! 黒尽くめの連中だ!」
敵が姿を現したことを知らせる声が次々と轟いた。
「第二射です!」
悲鳴にも似た叫び声が更なる攻撃を辺りに知らせる。
火矢の数は第一射に比べて少なかったが、それが罠であることを図南が即座に知覚した。
(第二射の火矢は囮だ。目に見える火矢の数よりも多くの矢が暗闇に紛れていやがる!)
「火矢だけに気を取られるな! 普通の矢も混じっているぞ!」
図南の咄嗟の警告は戦闘の音にかき消される。
「だめか!」
だが、再び警告を発する余裕はなかった。
火矢に紛れて、矢じりから矢羽根まで真っ黒に塗られた矢が飛来する。それを先程と同様、瞬時に繰り出した複数回の斬撃で叩き落した。
紗良が怯えた表情で聞く。
「図南、どうする?」
「紗良は爺さんのところへ! 俺は森から出てきた敵を討つ!」
紗良の能力が暗闇での戦闘に不向きだと判断した図南は、最も安全と思われるフューラー大司教の側を離れないように告げた。
「図南は一緒じゃないの?」
「俺は襲撃者と討つ」
「無茶はしないって約束したでしょ」
「俺の能力は暗闇での戦闘に向いている」
暗闇であっても、強化された感覚が相手の位置や動きを正確に知覚する。強化された運動機能は相手が反応するよりも速くその刃を届かせる。
紗良もそれは理解していた。
それでも不安を口にしてしまう。
「敵の数が多いんでしょ」
「問題ない」
敵のスキルが未知数という恐怖はあったが、異世界人と比較しても異常に高いステータスとスキルあれば敵を蹂躙できる、という確信めいた思いがあった。
甲高い金属音の数が次第に増えていく。
騎士や神官たちと襲撃者たちとの間で本格的に近接戦闘が始まっていた。
戦闘の音が響き渡る中、聞き覚えのある声が図南と紗良の名を叫ぶ。
「トナン様! サラ様! ご無事でしたか!」
「ミュラー隊長」
「ミュラーさん」
図南と紗良が声の主の名を口にした。
「ここは危険です、お二人とも下がってください」
二人を戦力外とするミュラー隊長に図南が言う。
「俺と紗良は組織だった戦いは出来ません。誰の指揮下にも入らずに戦闘に参加しますが、大丈夫ですか?」
ミュラーが難色を示した。
二人が戦いに不慣れなのを分かっていたミュラーが、戦闘は自分たちに任せて安全なところに避難して欲しいと告げる。
「後方の天幕までお下がりください。我々がここで食い止めます」
「紗良、大司教を頼む!」
剣撃の音が次第に近付いてきているのを感じ取った図南が業を煮やして言い切ると、剣撃の最も多い方向へと駆けだした。
「トナン様!」
「無茶しないでね!」
ミュラーと紗良の声が急速に遠ざかる。
図南は走りながら周囲の戦闘状況を観察していた。
「狙いは神聖教会か!」
矢が撃ち込まれたのは神聖教会の天幕が集まっている辺りに集中していた。見える範囲で隊商や冒険者たちが野営するエリアに矢が射掛けられた痕跡はなかった。
続く黒ずくめの集団の襲撃もやはり神聖教会の天幕が集まるエリアである。
「随分と露骨じゃないか」
加速した図南は、すれ違いざまに三人の黒ずくめの襲撃者の両足を斬り飛ばしていた。
図南と紗良が火矢に気付くのとほぼ同時に騎士や神官たちから警告の声が上がった。
「敵襲!」
「敵は森の中だ!」
「盾だ! 盾を急げ!」
「大司教をお守りしろ!」
騎士や神官たちが声を張り上げながら慌ただしく走り回る。
火矢が緩やかな放物線を描きながら降下しだした。何本かの矢は確実に自分たちに向かっているのを見て取った図南が叫ぶ。
「紗良! 盾を出せ!」
オークから奪った盾をストレージから出すように指示し、自分自身も紗良を背後に庇いながら右手に剣を携え、左手で盾をかざす。
「身体強化! 感覚強化!」
図南がわざと声に出して身体強化と感覚強化を発動させる。すると、紗良も彼に倣《なら》って身体強化を発動させた。
(集中!)
自分に向かって突き進む矢がまるでスローモーションのように感じる。研ぎ澄まされた知覚が矢の軌道を読み取る。
最小限の斬撃で矢を防ぐ動きを瞬時に割りだすと、自分と紗良に命中する矢だけを狙って剣を一閃させた。
横に薙ぐ一振りで数本の矢が薙ぎ払われる。
さらに振り下ろす一撃で更に数本の矢を叩き落し、下から斬り上げた一撃で残る矢を弾き飛ばす。
次の瞬間、数本の矢が図南と紗良の身体を掠めるように地面に突き刺さる。
命中するはずだった二十本近い矢を一瞬で無力化した。
「紗良、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
快活な答えが即座に返ってきた。
剣の覚えなどない図南である。
一つ一つの動きは素人のそれだ。
だが、図南の一連の斬撃を目にした者は誰もが息を飲んだ。そのありえない剣の速度に二人を視界に捉えていた者たちが目を奪われた。
絶句する者たちをよそに火矢が降り注ぐ。
火矢は天幕を燃え上がらせ、不幸な騎士や神官たちを射抜いた。
そこかしこで炎が燃え上がり、悲鳴が夜空に木霊する。
悲鳴が上がるなか、
「敵が森から出てきたぞ!」
「応戦しろ!」
「落ち着け! 黒尽くめの連中だ!」
敵が姿を現したことを知らせる声が次々と轟いた。
「第二射です!」
悲鳴にも似た叫び声が更なる攻撃を辺りに知らせる。
火矢の数は第一射に比べて少なかったが、それが罠であることを図南が即座に知覚した。
(第二射の火矢は囮だ。目に見える火矢の数よりも多くの矢が暗闇に紛れていやがる!)
「火矢だけに気を取られるな! 普通の矢も混じっているぞ!」
図南の咄嗟の警告は戦闘の音にかき消される。
「だめか!」
だが、再び警告を発する余裕はなかった。
火矢に紛れて、矢じりから矢羽根まで真っ黒に塗られた矢が飛来する。それを先程と同様、瞬時に繰り出した複数回の斬撃で叩き落した。
紗良が怯えた表情で聞く。
「図南、どうする?」
「紗良は爺さんのところへ! 俺は森から出てきた敵を討つ!」
紗良の能力が暗闇での戦闘に不向きだと判断した図南は、最も安全と思われるフューラー大司教の側を離れないように告げた。
「図南は一緒じゃないの?」
「俺は襲撃者と討つ」
「無茶はしないって約束したでしょ」
「俺の能力は暗闇での戦闘に向いている」
暗闇であっても、強化された感覚が相手の位置や動きを正確に知覚する。強化された運動機能は相手が反応するよりも速くその刃を届かせる。
紗良もそれは理解していた。
それでも不安を口にしてしまう。
「敵の数が多いんでしょ」
「問題ない」
敵のスキルが未知数という恐怖はあったが、異世界人と比較しても異常に高いステータスとスキルあれば敵を蹂躙できる、という確信めいた思いがあった。
甲高い金属音の数が次第に増えていく。
騎士や神官たちと襲撃者たちとの間で本格的に近接戦闘が始まっていた。
戦闘の音が響き渡る中、聞き覚えのある声が図南と紗良の名を叫ぶ。
「トナン様! サラ様! ご無事でしたか!」
「ミュラー隊長」
「ミュラーさん」
図南と紗良が声の主の名を口にした。
「ここは危険です、お二人とも下がってください」
二人を戦力外とするミュラー隊長に図南が言う。
「俺と紗良は組織だった戦いは出来ません。誰の指揮下にも入らずに戦闘に参加しますが、大丈夫ですか?」
ミュラーが難色を示した。
二人が戦いに不慣れなのを分かっていたミュラーが、戦闘は自分たちに任せて安全なところに避難して欲しいと告げる。
「後方の天幕までお下がりください。我々がここで食い止めます」
「紗良、大司教を頼む!」
剣撃の音が次第に近付いてきているのを感じ取った図南が業を煮やして言い切ると、剣撃の最も多い方向へと駆けだした。
「トナン様!」
「無茶しないでね!」
ミュラーと紗良の声が急速に遠ざかる。
図南は走りながら周囲の戦闘状況を観察していた。
「狙いは神聖教会か!」
矢が撃ち込まれたのは神聖教会の天幕が集まっている辺りに集中していた。見える範囲で隊商や冒険者たちが野営するエリアに矢が射掛けられた痕跡はなかった。
続く黒ずくめの集団の襲撃もやはり神聖教会の天幕が集まるエリアである。
「随分と露骨じゃないか」
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