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第31話 大司教からの提案
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食事を終えた図南と紗良がフューラー大司教の天幕を訪れていた。
天幕に入るなり、図南が切り出す。
「お話しがあるとうかがいました」
「昨夜の治療のことが噂になっているようですが、そのことについてでしょうか?」
紗良は図南の噂については敢えて触れずに聞いた。
「サラお嬢ちゃんの予想した通りじゃよ。トナン君が襲撃者を撃退した戦いぶりと二人が治療をしたことが噂になっておる」
図南も昨夜の戦闘行為が噂になるだろうことは予想していた。
それでも、改めて面と向かって言われると、もう少し思慮深くあるべきだった、と少なからず後悔の念が湧き上がる。
だが、やってしまったことは仕方がない、と腹を括ることにした。
「それで、今後、俺たちはどのように対処したらいいでしょうか?」
「先ずは確認じゃ。二人とも神聖教会に籍を置き、ワシに協力してくれると言うことで間違いないな?」
「そのつもりです」
「はい」
同時に答えた。
「いま、この野営地にあるうわさが広がっている――――」
フューラー大司教は図南と紗良の二人が、自分の孫ではないか。孫でないにしても何らかの血縁関係にあるのは間違いないだろう。
そんな噂が広がっていることを語った。
「――――二人とも、知っていたかね?」
「いいえ、全く知りませんでした」
とは紗良。
「チラっとは知っていました」
図南は明け方近くに拓光から聞かされていた。
一瞬、図南を見た紗良がフューラー大司教に頭を下げる。
「大司教にはご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ございません。即座にあらぬ噂を否定するようにいたします」
「いやいや、否定する必要はない」
驚いた図南と紗良が大司教を真っすぐに見つめる。
二人の反応に楽しそうな笑みを浮かべたフューラー大司教が、『ワシはこの噂を利用しようと思っておる』、と企みを得意げに語り始めた。
「二人ともワシの遠縁の親戚ということにする。そうすることで余計な噂話が広がり、あらぬ誤解を受けることもなくなる」
「遠い親戚、と言うことにしても問題ないのですか?」
「隠し孫などと噂されるよりは余程問題にならんよ」
図南の質問に即答した。
その答えに図南と紗良が苦笑いを浮かべながらも納得してうなずく。
「さて、話の続きだが……、君たち二人は私が他人の振りをして呼び寄せたことにする。目的はカッセル市の神殿長となる私の右腕とするためじゃ」
カッセル市の神殿長に就任するとは言っても、神殿長補佐や副神殿長は対立派閥に所属しており何かと施策の邪魔をすることは目に見えていた。
そこで信用のおける血縁のなかでも、特に優秀な若者を側に置くというのは、実にありそうな設定である。
「それなら納得です」
感心する紗良の傍らで図南が聞く。
「それで、俺を神聖騎士団へ。紗良を神官にすると言うことですか?」
「少し違うな」
「違う?」
図南が意外そうに聞き返したが、フューラー大司教は図南の疑問には答えずに説明を始めた。
「サラお嬢ちゃんには三級神官となり司教の役職についてもらう」
「先日教えて頂いた階級をあたしが間違って憶えていなければ、司教ってもの凄く偉いし、もの凄い権限を持っていませんか?」
若干、顔を引きつらせた紗良が聞くが、
「何、大したことはない。ワシを助けるのに必要な権限しか持っておらんよ」
答えになっていない答えが返ってきた。
「詳しい話は後で聞くとして、俺の方はどうなるんですか?」
「トナン君も三級神官となり司教の役職についてもらう。ただし、神聖騎士団の部隊長も兼任してもらうことになる」
内心で『なるほど』と納得する図南の様子を見たフューラー大司教が続ける。
「神殿における神聖騎士団の最高位は騎士団長で本来は四級神官である司祭が務める」
「騎士よりも神官の方が力を持っている、と言ったのはそう言うことなのか……」
「その理解で正しい」
図南の独り言にフューラー大司教が首肯しながら言った。
「それだと、命令系統だけでなく人間関係にも軋轢《あつれき》が生じたり、歪が生じたりしませんか?」
「歓迎しようじゃないか」
カッセル市の神聖騎士団の組織を崩壊させるが狙いだと言外に語った。
『やっぱりそうか』と図南が納得するが、紗良は納得しなかった。
「それだと図南の負担が大きくなります。だいたい私たちは国ではまだ子どもです。大人相手に人間関係の再構築なんて無理です」
紗良の勢いにフューラー大司教が目を丸くするが、図南は落ち着いた様子で紗良に言う。
「面白そうじゃないか」
「図南!」
「そういう大人の駆け引きってやつ? 俺は憧れていたんだよね」
紗良を心配させないようにと図南が精一杯おどけてみせた。そしてフューラー大司教には鋭い視線を向ける。
「失敗しそうになったり、問題が起きたりしたら助けてくれるんだろ?」
「約束しよう」
フューラー大司教が力強言葉と共に右手を差し出した。図南はその手を取ると、
「取引成立だ。紗良もそれでいいだろ?」
紗良に同意を求める。
「司教の仕事を実際にやってみるまでは仮契約です」
今度は紗良がフューラー大司教に鋭い視線を向けた。
天幕に入るなり、図南が切り出す。
「お話しがあるとうかがいました」
「昨夜の治療のことが噂になっているようですが、そのことについてでしょうか?」
紗良は図南の噂については敢えて触れずに聞いた。
「サラお嬢ちゃんの予想した通りじゃよ。トナン君が襲撃者を撃退した戦いぶりと二人が治療をしたことが噂になっておる」
図南も昨夜の戦闘行為が噂になるだろうことは予想していた。
それでも、改めて面と向かって言われると、もう少し思慮深くあるべきだった、と少なからず後悔の念が湧き上がる。
だが、やってしまったことは仕方がない、と腹を括ることにした。
「それで、今後、俺たちはどのように対処したらいいでしょうか?」
「先ずは確認じゃ。二人とも神聖教会に籍を置き、ワシに協力してくれると言うことで間違いないな?」
「そのつもりです」
「はい」
同時に答えた。
「いま、この野営地にあるうわさが広がっている――――」
フューラー大司教は図南と紗良の二人が、自分の孫ではないか。孫でないにしても何らかの血縁関係にあるのは間違いないだろう。
そんな噂が広がっていることを語った。
「――――二人とも、知っていたかね?」
「いいえ、全く知りませんでした」
とは紗良。
「チラっとは知っていました」
図南は明け方近くに拓光から聞かされていた。
一瞬、図南を見た紗良がフューラー大司教に頭を下げる。
「大司教にはご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ございません。即座にあらぬ噂を否定するようにいたします」
「いやいや、否定する必要はない」
驚いた図南と紗良が大司教を真っすぐに見つめる。
二人の反応に楽しそうな笑みを浮かべたフューラー大司教が、『ワシはこの噂を利用しようと思っておる』、と企みを得意げに語り始めた。
「二人ともワシの遠縁の親戚ということにする。そうすることで余計な噂話が広がり、あらぬ誤解を受けることもなくなる」
「遠い親戚、と言うことにしても問題ないのですか?」
「隠し孫などと噂されるよりは余程問題にならんよ」
図南の質問に即答した。
その答えに図南と紗良が苦笑いを浮かべながらも納得してうなずく。
「さて、話の続きだが……、君たち二人は私が他人の振りをして呼び寄せたことにする。目的はカッセル市の神殿長となる私の右腕とするためじゃ」
カッセル市の神殿長に就任するとは言っても、神殿長補佐や副神殿長は対立派閥に所属しており何かと施策の邪魔をすることは目に見えていた。
そこで信用のおける血縁のなかでも、特に優秀な若者を側に置くというのは、実にありそうな設定である。
「それなら納得です」
感心する紗良の傍らで図南が聞く。
「それで、俺を神聖騎士団へ。紗良を神官にすると言うことですか?」
「少し違うな」
「違う?」
図南が意外そうに聞き返したが、フューラー大司教は図南の疑問には答えずに説明を始めた。
「サラお嬢ちゃんには三級神官となり司教の役職についてもらう」
「先日教えて頂いた階級をあたしが間違って憶えていなければ、司教ってもの凄く偉いし、もの凄い権限を持っていませんか?」
若干、顔を引きつらせた紗良が聞くが、
「何、大したことはない。ワシを助けるのに必要な権限しか持っておらんよ」
答えになっていない答えが返ってきた。
「詳しい話は後で聞くとして、俺の方はどうなるんですか?」
「トナン君も三級神官となり司教の役職についてもらう。ただし、神聖騎士団の部隊長も兼任してもらうことになる」
内心で『なるほど』と納得する図南の様子を見たフューラー大司教が続ける。
「神殿における神聖騎士団の最高位は騎士団長で本来は四級神官である司祭が務める」
「騎士よりも神官の方が力を持っている、と言ったのはそう言うことなのか……」
「その理解で正しい」
図南の独り言にフューラー大司教が首肯しながら言った。
「それだと、命令系統だけでなく人間関係にも軋轢《あつれき》が生じたり、歪が生じたりしませんか?」
「歓迎しようじゃないか」
カッセル市の神聖騎士団の組織を崩壊させるが狙いだと言外に語った。
『やっぱりそうか』と図南が納得するが、紗良は納得しなかった。
「それだと図南の負担が大きくなります。だいたい私たちは国ではまだ子どもです。大人相手に人間関係の再構築なんて無理です」
紗良の勢いにフューラー大司教が目を丸くするが、図南は落ち着いた様子で紗良に言う。
「面白そうじゃないか」
「図南!」
「そういう大人の駆け引きってやつ? 俺は憧れていたんだよね」
紗良を心配させないようにと図南が精一杯おどけてみせた。そしてフューラー大司教には鋭い視線を向ける。
「失敗しそうになったり、問題が起きたりしたら助けてくれるんだろ?」
「約束しよう」
フューラー大司教が力強言葉と共に右手を差し出した。図南はその手を取ると、
「取引成立だ。紗良もそれでいいだろ?」
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