32 / 53
第32話 それぞれの道(1)
しおりを挟む
神聖教会と隊商との合同の馬車隊が、カッセル市まであと数時間のところで昼食のための休息をしていた。
皆から少し離れたところでイノシシの肉にかぶり付く、図南と紗良、拓光の三人。
「――――俺と紗良はフューラー大司教の遠縁の親戚と言うことで通すことになる」
フューラー大司教が自身の補佐役として神聖魔法が使える血縁者を呼び寄せた。それが図南と紗良である、という設定を語った。
「OK。口裏を合わせるようにするよ」
「すまない、助かる」
「不知火さんにはお願いばかりして、本当に申し訳ありません」
図南は自分たちの地位や役職についても説明をした。
「――――あくまでも仮契約と言う前提だが、紗良は三級神官として司教の職に就く。俺も紗良と同じく三級神官だが、司教と神聖騎士団を兼任することになった」
神聖教会における三級神官が上位の地位にあり、職務は神聖魔法を使った治療や文字の読み書きを教える小学校の教師のようなことをするのだと説明した。
そして、神聖騎士団は都市や周辺地域の治安を維持する組織であり、日本における警察、検事、裁判所を合わせたような権限を持った組織だと告げた。
「それってヤバくね?」
「俺もそう思うよ」
「権限が集中し過ぎてますよね」
拓光に図南と紗良が同意する。
「俺の理解が間違ってなければ、図南はその権限が集中した組織の実務部隊の長《おさ》?」
「形式上だけど、そうなるな」
「よくOKしたな。俺なら怖くて逃げだしてるところだ」
「お前の感覚は正しいと思うよ」
図南自身、悩んだ末の決断なのだと言い切った。
承諾した理由が紗良を守るために必要だと判断したから、などとは口が裂けても言えない。
「まあ、お前が納得しているならそれでいいんだ」
「ここで一つ提案がある」
「助祭以上の中級神官になるには神聖魔法が使える必要があるが、下級神官で構わないなら神聖教会に入ることができる」
実際に多くの下級神官やそれ以前の見習い神官の方が人数も多い。
黙って聞いている拓光に、図南は紗良に話を続ける。
「もう一つ、神聖騎士団なら神聖魔法が使えなくても助祭になることが可能だ。必要なのは治安を守るための力と意思」
図南の視線を拓光が真っすぐに見返して言う。
「俺を神聖騎士団に誘っているのか?」
「無理にとは言わない。俺を助けてもらえると嬉しい」
図南の言葉は本音だった。
同時に、神聖教会に居場所を作ることが、拓光にとって良かれと思っての提案でもある。
「事前に何の相談もせずに色々なことを決めてしまったのは申し訳なく思います。今回の提案も勝手なことを言っているのを十分に理解しています」
神妙な面持ちの図南と紗良に拓光が笑顔で応じる。
「それを聞いて俺も安心したよ」
「じゃあ!」
だが、拓光からは期待した答えは返ってこなかった。
「うーん。実はさ、俺も色々と勝手に決めちゃってんだ、これが――――」
テレジア、ニーナ母娘としばらく行動を共にする約束をしてしまったことを告げる。カッセル市では先に到着しているニーナの父が店を開店したばかりだった。
立ち上げの間、その店を手伝う約束をしているのだと言う。
「――――それに、俺のスキルは生産職だからさ」
「分かった」
図南と拓光が同時に口元を綻ばせた。
皆から少し離れたところでイノシシの肉にかぶり付く、図南と紗良、拓光の三人。
「――――俺と紗良はフューラー大司教の遠縁の親戚と言うことで通すことになる」
フューラー大司教が自身の補佐役として神聖魔法が使える血縁者を呼び寄せた。それが図南と紗良である、という設定を語った。
「OK。口裏を合わせるようにするよ」
「すまない、助かる」
「不知火さんにはお願いばかりして、本当に申し訳ありません」
図南は自分たちの地位や役職についても説明をした。
「――――あくまでも仮契約と言う前提だが、紗良は三級神官として司教の職に就く。俺も紗良と同じく三級神官だが、司教と神聖騎士団を兼任することになった」
神聖教会における三級神官が上位の地位にあり、職務は神聖魔法を使った治療や文字の読み書きを教える小学校の教師のようなことをするのだと説明した。
そして、神聖騎士団は都市や周辺地域の治安を維持する組織であり、日本における警察、検事、裁判所を合わせたような権限を持った組織だと告げた。
「それってヤバくね?」
「俺もそう思うよ」
「権限が集中し過ぎてますよね」
拓光に図南と紗良が同意する。
「俺の理解が間違ってなければ、図南はその権限が集中した組織の実務部隊の長《おさ》?」
「形式上だけど、そうなるな」
「よくOKしたな。俺なら怖くて逃げだしてるところだ」
「お前の感覚は正しいと思うよ」
図南自身、悩んだ末の決断なのだと言い切った。
承諾した理由が紗良を守るために必要だと判断したから、などとは口が裂けても言えない。
「まあ、お前が納得しているならそれでいいんだ」
「ここで一つ提案がある」
「助祭以上の中級神官になるには神聖魔法が使える必要があるが、下級神官で構わないなら神聖教会に入ることができる」
実際に多くの下級神官やそれ以前の見習い神官の方が人数も多い。
黙って聞いている拓光に、図南は紗良に話を続ける。
「もう一つ、神聖騎士団なら神聖魔法が使えなくても助祭になることが可能だ。必要なのは治安を守るための力と意思」
図南の視線を拓光が真っすぐに見返して言う。
「俺を神聖騎士団に誘っているのか?」
「無理にとは言わない。俺を助けてもらえると嬉しい」
図南の言葉は本音だった。
同時に、神聖教会に居場所を作ることが、拓光にとって良かれと思っての提案でもある。
「事前に何の相談もせずに色々なことを決めてしまったのは申し訳なく思います。今回の提案も勝手なことを言っているのを十分に理解しています」
神妙な面持ちの図南と紗良に拓光が笑顔で応じる。
「それを聞いて俺も安心したよ」
「じゃあ!」
だが、拓光からは期待した答えは返ってこなかった。
「うーん。実はさ、俺も色々と勝手に決めちゃってんだ、これが――――」
テレジア、ニーナ母娘としばらく行動を共にする約束をしてしまったことを告げる。カッセル市では先に到着しているニーナの父が店を開店したばかりだった。
立ち上げの間、その店を手伝う約束をしているのだと言う。
「――――それに、俺のスキルは生産職だからさ」
「分かった」
図南と拓光が同時に口元を綻ばせた。
47
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる