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第27話 シスター・イーリス
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孤児院に到着すると、ロッテが戻ったことで院内は大騒ぎとなった。
よく考えたら騒ぎになって当然だ。
ただの失踪でも大ごとだが、権力者から付け狙われた挙句、誘拐未遂事件にまで発展した直後の失踪事件である。
真っ先に疑う相手はロリコン悪代官。
立場の弱い孤児院は、頼るところもなく絶望していたのだろう。
そこへ当の本人がお土産を抱えて戻ってきた。
真っ先にロッテに駆け寄った若い女性神官など、涙を流して彼女の無事を喜んでいた。
だが、それも束の間。
一分後には鬼の形相に豹変し、『お土産、お土産があるんですよー』と必死に話を逸らそうとするロッテを教会の奥へと引きずっていった。
次第に小さくなるロッテは俺とユリアーナに助けを求めていたが、シスターの気持ちを考えると手を差し伸べるのは躊躇われた。
ユリアーナに至っては、
『少しは思慮深くなると助かるわー』
と声が遠退いていくロッテに手を振りながらほほ笑んでいた。
叱られたくらいで思慮深くなるなら、ロッテはこの上なく思慮深い少女になっていたはずだ。
ロッテと入れ替わるように現れたのは、三十歳前後と思われる落ち着いた雰囲気の女性神官で、名前をシスター・イーリスという。
神聖教会の助祭であり、この孤児院の院長であると自己紹介された。
彼女の案内で院長室へ通され、ことの詳細を説明することとなった。
「――――襲われた行商人一行の皆さんはお気の毒ですが、襲撃が成功したことで盗賊も油断していたのでしょう。馬車の積荷の確認もせずに酒盛りをしていました」
騎士団へ報告した内容との食い違いがあると後々面倒なことになり兼ねないので、俺とユリアーナが不利になりそうなことを伏せて、できる限り本当のことを話した。
「そうですか……、積荷の中で眠っていたことが幸いしたのですか……」
院長が疲れた表情でうつむいた。
盗賊が襲撃してきたことすら気付かずに眠り続けていたことも伝えたが、院長は敢えてそのことには触れない。
院長室を沈黙が支配した。
気まずい。
「これも女神ユリアーナ様のご加護ですよ」
「そうですね。ユリアーナ様はとても寛大な女神様ですから」
院長の口から乾いた笑いが漏れた。
ユリアーナが寛大かどうかはさておき、ロッテが普段どんな態度で女神ユリアーナを信仰していたのか想像がつく。
横でユリアーナが『あんにゃろー』とつぶやいたが、俺も院長も聞こえなかった振りをした。
寛大さとは縁遠いことを改めて露呈させたユリアーナが本題を切りだす。
「それで、リーゼロッテさんを引き取らせて頂くお話ですけど」
「私どもとしは大変ありがたいお話ですが、本当にロッテでよろしいのでしょうか?」
心配そうに俺とユリアーナを見た。
「リーゼロッテさんがこちらの孤児院を脱走するに至った経緯は本人から聞いています」
ロッテが悪代官にロックオンされ、誘拐されかけたことを含め、すべてを承知の上でロッテを守るつもりであることを告げた。
院長が突然涙を浮かべる。
「カンナギ様、お心遣いに感謝申し上げます」
「それ以上、何も言う必要はありません」
少しの間、院長の咽び泣く声が静かに流れた。
落ち着いたところで院長が話を戻す。
「ところで、ロッテがお役に立ったと伺いましたが?」
「私も妹もこの国には疎く、リーゼロッテさんには多くのことを教えて頂き、とても感謝しております」
「あの、ロッテは本当にお役に立ちましたか?」
扉の外で子どもたちが聞き耳を立てているのに配慮して院長が声を潜めた。
とことん信用がないな、あいつ……。
よく考えたら騒ぎになって当然だ。
ただの失踪でも大ごとだが、権力者から付け狙われた挙句、誘拐未遂事件にまで発展した直後の失踪事件である。
真っ先に疑う相手はロリコン悪代官。
立場の弱い孤児院は、頼るところもなく絶望していたのだろう。
そこへ当の本人がお土産を抱えて戻ってきた。
真っ先にロッテに駆け寄った若い女性神官など、涙を流して彼女の無事を喜んでいた。
だが、それも束の間。
一分後には鬼の形相に豹変し、『お土産、お土産があるんですよー』と必死に話を逸らそうとするロッテを教会の奥へと引きずっていった。
次第に小さくなるロッテは俺とユリアーナに助けを求めていたが、シスターの気持ちを考えると手を差し伸べるのは躊躇われた。
ユリアーナに至っては、
『少しは思慮深くなると助かるわー』
と声が遠退いていくロッテに手を振りながらほほ笑んでいた。
叱られたくらいで思慮深くなるなら、ロッテはこの上なく思慮深い少女になっていたはずだ。
ロッテと入れ替わるように現れたのは、三十歳前後と思われる落ち着いた雰囲気の女性神官で、名前をシスター・イーリスという。
神聖教会の助祭であり、この孤児院の院長であると自己紹介された。
彼女の案内で院長室へ通され、ことの詳細を説明することとなった。
「――――襲われた行商人一行の皆さんはお気の毒ですが、襲撃が成功したことで盗賊も油断していたのでしょう。馬車の積荷の確認もせずに酒盛りをしていました」
騎士団へ報告した内容との食い違いがあると後々面倒なことになり兼ねないので、俺とユリアーナが不利になりそうなことを伏せて、できる限り本当のことを話した。
「そうですか……、積荷の中で眠っていたことが幸いしたのですか……」
院長が疲れた表情でうつむいた。
盗賊が襲撃してきたことすら気付かずに眠り続けていたことも伝えたが、院長は敢えてそのことには触れない。
院長室を沈黙が支配した。
気まずい。
「これも女神ユリアーナ様のご加護ですよ」
「そうですね。ユリアーナ様はとても寛大な女神様ですから」
院長の口から乾いた笑いが漏れた。
ユリアーナが寛大かどうかはさておき、ロッテが普段どんな態度で女神ユリアーナを信仰していたのか想像がつく。
横でユリアーナが『あんにゃろー』とつぶやいたが、俺も院長も聞こえなかった振りをした。
寛大さとは縁遠いことを改めて露呈させたユリアーナが本題を切りだす。
「それで、リーゼロッテさんを引き取らせて頂くお話ですけど」
「私どもとしは大変ありがたいお話ですが、本当にロッテでよろしいのでしょうか?」
心配そうに俺とユリアーナを見た。
「リーゼロッテさんがこちらの孤児院を脱走するに至った経緯は本人から聞いています」
ロッテが悪代官にロックオンされ、誘拐されかけたことを含め、すべてを承知の上でロッテを守るつもりであることを告げた。
院長が突然涙を浮かべる。
「カンナギ様、お心遣いに感謝申し上げます」
「それ以上、何も言う必要はありません」
少しの間、院長の咽び泣く声が静かに流れた。
落ち着いたところで院長が話を戻す。
「ところで、ロッテがお役に立ったと伺いましたが?」
「私も妹もこの国には疎く、リーゼロッテさんには多くのことを教えて頂き、とても感謝しております」
「あの、ロッテは本当にお役に立ちましたか?」
扉の外で子どもたちが聞き耳を立てているのに配慮して院長が声を潜めた。
とことん信用がないな、あいつ……。
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