夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有

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第49話 代官 カール・ロッシュ(1)

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 その日の夜、魔術師ギルドの鑑定士の案内で、俺はユリアーナとロッテを伴ってこの地域の代官であるカール・ロッシュの屋敷を訪れていた。
 そう、ロッテに言い寄った挙句、誘拐まで企てた変態野郎のところだ。

「お待たせして申し訳ない。私がカール・ロッシュだ」

 太った中年オヤジを想像していたが、入ってきたのは二十代後半の好青年。
 歩く姿が颯爽としてさまになっている。

「ロッシュ様、ご無沙汰しております」

 鑑定士が即座に立ち上がって代官に深々と頭を下げた。
 俺たちも彼に続いて腰を浮かせたが、

「ああ、そのまま座っていてくれ」

 ロッシュが言葉と仕草で押しとどめた。
 椅子に腰を下ろしたロッシュに鑑定士が改めて挨拶をする。

「本日はお忙しい中お時間を頂き感謝申し上げます」

「そう畏まらないでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」

 権力者にありがちな高圧的な態度はなく、平民である鑑定士にも非常に気さくな対応をしている。
 正体を知らなければ騙されていたところだ。

 なによりも、ロッテを見ても顔色一つ変えずに挨拶を交わすあたり、メンタル面も相当に強そうだ。
 代官と二言三言、言葉を交わした鑑定士が俺を紹介する。

「こちらがお話し致しました、商人のシュラ・カンナギ殿でございます」

「初めまして、ロッシュ様。シュラ・カンナギです。隣に座っているのが妹のユリアーナ。その向こうが当商会で雇い入れたリーゼロッテです」

 ロッシュはユリアーナの美貌をひとしきり褒めると、『ところで』と視線をロッテに移した。

「リーゼロッテ嬢は従業員だろ? 何故同席を? いや、私としては美しいお嬢さんが同席してくれるのは嬉しいのだが、理由があるなら知りたいと思ってね」

「リーゼロッテはこのラタの街の孤児院にいたのですが、この度、当商会で雇い入れることとなりました。とは申しましても、未だ成人前のため形式上、私とユリアーナの兄妹として引き取らせて頂きました」

 違法にロッテを誘拐できないと悟ったロッシュの表情がわずかに歪んだ。
 誘拐が合法的かどうかは疑問が残るが、少なくとも俺の保護下にあるロッテを誘拐したら騎士団が出動できる。

 最悪はロッシュの雇用主である領主を動かされることになり兼ねない。
 そんな事態にならないまでも、騎士団に弱みを握られるのは面白くないだろう。

「なるほど、カンナギ殿の妹さんか。こんな可愛らしい妹さんが二人もいるとは、カンナギ殿が羨ましい」

「ユリアーナはもちろんですが、ロッテに巡り合ったことは、この上ない幸運だと思っております」

 勝ち誇った笑みを浮かべる傍ら、

「シュラさんったら~」

 ロッテが独り言を口走りながら、キャッキャ、ウフフと身をくねらせる。

 そんな彼女をチラチラと横目で見ながら、ロッシュが引きつった笑みを浮かべた。
 完全に余裕の笑みが消えた。

 ロッテを誘拐できなくなったことがよほど悔しいようだ。
 俺が勝利に浸っていると、ロッテ誘拐未遂の詳細を知っている鑑定士が慌てて話題を引き戻す。

「カンナギ殿はベルグナード王国からこられたのですが、将来的には我が国への移住も考えていらっしゃるそうです」

「ベルグナード王国か、随分と遠いところから来たんだな」

 いましがたまで見せていた引きつった笑みはもうない。
 その表情には余裕すら伺える。
 立ち直りが早いな。

「実家の影響力が及ばないところで商会を立ち上げたいと思いまして」

「お兄さんに邪魔されたくはない、というところか」

 代官が探るように俺を見た。

『事情は把握しているぞ』という顔である。

 こちらが用意した設定を『自らが探り出した』と思い込んでいるようだ。
 この代官、思った以上に扱い易いかもしれない。

 俺は内心ではほくそ笑みながらも、表面的には少し困った顔で鑑定を見る。
 すると鑑定士がバツの悪そうな顔で取り繕う。

「すみません。カンナギ殿のことをロッシュ様にご紹介するにあたり、その、隠しごとをするのはよくないと思いまして」

「彼を責めないでくれ。私が無理に聞いたんだ」

 代官が余裕の笑みで助け舟を出した。

「素性の知れない者と会うわけにもいかないでしょう。必要な情報収集だと承知しております」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 特に追及する様子はなさそうだ。
 五つほど離れた、ほとんど国交のない国を故郷として設定したのは正解だったようだな。

「実は本日お時間を頂いたのは――」

「目的は我が国での商会の立ち上げと、この地域での円滑な商売、というところだろ」

 俺の言葉を遮って言いきった。

 しかも事前に献上品の用意をしてあることは告げてあるにもかかわらず、そのことには一切触れていない。
 まるで俺たちが一方的にお願いに上がったような話の切り出しだな。

「それも目的の一つです」

「一つか。随分と欲張りだな」

「ご提供できるものも複数用意しております」

「ほう、聞こうか」

 三種類の能力を付与した長剣以外にも献上品があると思ったのか、まるで鑑定士が品定めをするかのように、俺を見るロッシュの眼差しが鋭くなった。

 さてと。
 先ずは俺がロッシュにとって利用価値のある人間だと理解させないとな。

「こちらが献上品でございます」

 長剣を恭しくテーブルの上に置いた。

 日本を代表するファンタジーRPGに登場する聖剣を参考にデザインしたので、見た目も十分に映える。

「これが……!」

 ロッシュは感嘆の声を上げると、食い入るように長剣を見つめた。
 彼が長剣に手を伸ばそうとした瞬間、それを阻むように魔術師ギルドの発行した鑑定書を彼に手渡す。

『国宝級』と言わしめたその性能を同席した魔術師ギルドの鑑定士が身振り手振りを交えて興奮気味に説明する。

「――――私も鑑定したときは驚きました。それこそその場で三度鑑定したほどです。この長剣には硬化と自己再生、さらに炎の魔法が付与されています」

 長剣を手にし、顔に喜色が浮かばせたロッシュに言う。

「お試しになられては如何ですか?」

「この場でか?」

 言葉とは裏腹に表情は躊躇《ちゅうちょ》していない。

「試し斬りは無理にしても、炎をまとわせるくらいは問題ございませんでしょう」

 ロッシュは俺の言葉に背を押されるようにして、部屋の中央へと歩を進める。
 無言で長剣を見つめる彼に、

「魔力を流すだけです。魔力さえあればどなたでも使えます」

 そう告げた瞬間、剣身《けんしん》が紅蓮《ぐれん》の炎をまとった。
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