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2章
2-⑬スピングフィール姉弟
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イゼイヴの街から急ぐこと二時間程度の距離――俺たちは依頼の集合場所に到着する。
「来たか。集まったのは君らで最後かもしれんな」
眼鏡をかけた中年の男が俺たちを迎える。
森の中、隠すように布を被せられた巨大な荷車の前に、十数人の冒険者が集まっている。少人数のパーティがそれぞれ固まっているところ見るとまとまりのない集団に思えるが、纏っている雰囲気は熟練者のそれだ。急遽、近隣の街にいた腕利きをかき集めたのだろう。
それ以前に俺は男の言葉に首をひねる。
「俺らで最後って……依頼は明日じゃなかったのか」
「時間はクロエから事前に聞いてたわ。依頼書の内容は嘘。他の連中も何かしらのやり方で集めたんでしょ」
リアナが視線を投げたそこには、先ほど絡んできた焦げ茶色の髪の二人組がいた。二人はこちらに気づくと手を挙げて近づいてくる。
「よぉ! やっぱお前らも参加するんだな! 俺はクリス。クリス・スピングフィールだ。よろしくな! こっちは――」
「セシリーだよ。わかると思うけど姉弟でやってる」
どちらも人好きのする顔で笑いかけてきた。俺よりも少しだけ年上に見える二人だが、その佇まいは余裕を感じさせている。それにしてもイケメンだ。羨ましい。
「ユーリ・コレットだ」
「リアナよ」
俺たちは交互に挨拶すると、クリスたちと握手を交わす。
「な、ユーリは格闘士か?」
「ああ。敵をぶつ切りするのは相棒に任せてるんだ」
冗談を言うと後ろから蹴りが飛んできたが、クリスは大口を開けて笑った。
「俺はこの通り槍士だ。で、姉貴が魔導士。俺が前に出て、姉貴が後ろからってやつさ」
クリスは背負った槍を親指で示すと、セシリーは分厚い魔導書を掲げる。
「俺たちはどっちが前とかはないんだ。強いていえばこいつの方がずっと強いから俺はあてにしないでくれ」
「おい、二等級だろ? しっかりしてくれよ。俺たち三等級の目標なんだからよ。……ま、すぐに追いつくけどな!」
そう言って気安く肩を叩かれるが邪気を感じない。人との距離を詰めるのが上手い男だ。
俺としては嫌いではないタイプだが、リアナは苦手らしい。さりげなく距離を取ったのが共有された感情でわかった。
クリスもそれに気づいたのか、俺に耳打ちしてくる。
「な、なぁ、おたくのお嬢さん、なんか俺のこと嫌い?」
「難しい年ごろなんだ。気にしないでくれ」
本当はめちゃくちゃ年上だけどな、と思いつつ、適当にごまかすのだった。
「では諸君、傾聴してもらってもいいかね」
厚みのある声が響く。先ほどのまとめ役と思われる男だ。
俺たちは会話もそこそこに、荷物の前に立つ男へ向き直った。
「まずは依頼内容の見せかけなど、諸君にはつまらんことに協力してもらい感謝する。私はこの地の領主フェアファクス家の執事を務めるオーウェン・ベレスフォードだ。この依頼はご当主であるレジナルド・ゼン・フェアファクス様からの直接の依頼であることを諸君らに伝えておく」
オーウェンが話し始めるとベテランの冒険者たちは自然と耳を傾けた。この執事、元は戦場に身を置いていたのだろう。冒険者たちを黙らせる気迫がある。
「おおよその予想はついていると思うが、諸君らの仕事は魔災連の拠点への襲撃、制圧だ。やつらは古代兵器を秘密裏に再生している。攻撃されるのはおそらくイゼイブとなるため、早急に撃滅することとなった」
古代兵器、と聞いて、誰かが息を飲む気配がする。
「待ちなよ。連中と戦うのはいいけどさ。古代兵器とやり合うのはちょっと勘弁してもらいたいねぇ」
言葉を置いたオーウェンに対し、前に出てきたのはセシリーだ。肘を抱えて渋い顔をしている。
そりゃそうだろう。大半の人間は魔装のような兵器と生身で戦える戦闘力など持っていない。無謀な戦いに身を投じるのは御免だろう。これがオーウェンのように主君に仕えるような立場なら別だが、ここにいるのは冒険者だ。
「いや、再生された古代兵器はすでに別の場所に運び込まれている。そこに対して、フェアファクス家を中心とした騎士隊が同時刻に強襲をかける手はずだ。諸君らが古代兵器を相手にする必要はない。万が一、魔装級の古代兵器が出てきた場合には私が相手をする」
そう言って、オーウェンは荷物に被せられた布の一部をめくる。そこには巨大な金属の手――魔装があった。
この男、騎士だったのか。
「私も諸君らと同じように命を懸ける故、信用してもらいたい」
オーウェンの説明に、セシリーは「巻き込まれなきゃいいんだけどさ」とぼやいた。その他の者からの質問はないようで、話は作戦の詳細へと移る。
「目的の拠点はここから西にある洞窟だ。古代兵器の部品が出入りできる程度の入口が確認されている。周辺には当然、見張りがいると思われるので、隠密行動の得意なものが先行、排除し次第、全員で突入する」
「はいはーい!」
その時、やたらと陽気な声が上がった。誰かと思えば、隣でリアナが飛び跳ねながら手を振っていた。
確かに背が低いのでこの中では埋もれているから仕方がないのだが、真面目な雰囲気をぶち壊しにしている気がする。割と目立つのでやめてほしい。
そんなリアナにも動じることなく、オーウェンは眼鏡を直して「なんだね?」と勧めた。
「中に無関係な人間がいる可能性はないの?」
「……今のところそういった話は聞いていない」
リアナの眉がピクっと動く。何かを疑っているようだ。だが、「あっそう」と言って話を終えた。
オーウェンは小さく息を吐くと、皆を顔を見回した。
「各自、装備を確認してくれ。薬や水、携帯食が足りなければこちらでも用意している。それでは時間まで待機」
この待遇の良さは、さすが領主の依頼というところか。
話を終えたオーウェンは集団から離れたところに歩いていく。
無駄話などせず、必要な情報のみを提供する――オーウェンは戦士としても、執事としても有能なのだろう。だが、俺は去り行くその顔に疲労感のようなものを感じたのだった。
◇ ◇ ◇
・ ・
◇ ◇ ◇
作戦の開始時刻まであと少し――俺とリアナは他の冒険者よりも先行して拠点に近づいていた。
なぜなら俺とリアナは皮鎧が装備の大半だ。金属製の鎧を身に着けている者は歩くだけでも音が鳴ってしまうが、俺たちならばその心配はない。
それに俺自身、格闘の足運びで足音を消すことにも長けている。リアナに至っては、やろうと思えば気配を完全に消すことができるだろう。
どうやっているのかは知らないが。
「ここの連中、ド素人じゃない。アイツとかなんで上見てんのかしら。竜でも飛んでる?」
隣でわざとらしく上を見るリアナは、俺の黒い外套を被っていた。リアナの銀髪は綺麗だが森の中ではやたらと目立つので、俺が被せたのだ。
「ここはすでに役割を終えている。そういうことなのだろう」
後ろから低い声がかかる。オーウェンだ。
俺たちが見張りを倒した後、他の冒険者たちへ指示を出すために同行していた。
「あの様子なら見つからずにどうにかできるな。よし――」
「ちょいタンマ」
立ち上がろうとした俺は襟を掴まれる。できればもう少し優しく扱ってほしいと思いつつ、リアナを見た。
「なんだよ……」
「いいから。――ねぇ、執事さん。本当にあの中に魔災連と無関係な人間はいないのよね」
薄ら笑いを浮かべたリアナに聞かれ、オーウェンは眼鏡を直す。
「何が言いたいのかね?」
「魔装があるならまどろっこしいことしてないで、中を蒸し焼きにでもしちゃえばいいじゃない。炎の魔法でも投げ込んでから入口を崩せばイチコロよ?」
やり方が害虫駆除のソレなんだよな……。
だが、同時に事実でもあると思った。入口が狭すぎるのならともかく、古代兵器の部品を出入りさせられるような広さがあるのならば、それこそ魔装による攻撃で吹き飛ばしてしまえばいい。
「……それでは魔災連の連中を取り逃がすかもしれん」
「もう役割は終わってるんでしょ? そんな拠点にいんのは下っ端くらいよ。逃がしたところでこの森じゃ獣の餌にでもなるんじゃない?」
オーウェンは口をつぐむ。眉間に皺を寄せて、ただひたすらにリアナを凝視した。
「やらないならアタシたちがやってもいいわよ。あの程度の洞窟、一撃で採石場にでも変えてやるわ」
リアナの言葉に白髪の混じった眉がわずかに上がる。ハッタリだと思っているのだろう。俺はオーウェンのためにも付け加える。
「おっさん。こいつがやれるっていうならマジでやれるぞ」
「じゃ、何も言わないからやっちゃうわね。報酬は二倍くらいでいいわよ」
リアナが剣を抜いて立ち上がろうとした、その時――。
「待て」
眼鏡の奥の目を光らせたオーウェンが、怒気を含んだ声でリアナを止めた。奥歯を食いしばって耐えるように目を閉じた後、ゆっくりと話し出す。
「……あそこには、古代兵器の整備を強制させられている技師たちがいる……――可能性がある」
「はぁ!?」
さっき無関係の人間はいないって言ったじゃねーか!
俺が睨みつけると、オーウェンは目を逸らすことなく続ける。
「ご当主のご命令だ。魔災連のやつら諸共、自らの意志でなくとも――連中に関わった者はすべて処分しろとのことだ」
「だから黙ってたのね。冒険者に市民を殺させるつもり?」
「貴様らだからこそ委ねたのだろう……! 自由の民である貴様らが無抵抗な技師をどうするかは貴様らの自由だ」
そういうことか、と俺は察した。オーウェンとしては表向きは当主の命令とやらを守らなければならない。だが、技師たちの命を見殺しにすることもできず、あえて具体的な話を避けたのだ。
たとえそれが非情な命令だったとしても、オーウェンは真っ向から逆らうことのできない男なのだろう。
「中間管理職のささやかな抵抗、ってやつ?」
「……意味を理解しかねる」
言葉の意味を理解できなくとも、皮肉を言われていることはわかっているのだろう。オーウェンは怒りを抑えるように唸った。
「はぁ、もっと上手く立ち回れなかったのかしらね。さて――」
呆れた様子のリアナは俺の肩を叩いた。俺はそこに違和感を感じて振り向く。
そして、「おい、今何かしたか?」と言おうとして――言えなかった。
というか口から音が出なかった。
「ユーリ、アンタの出番よ!」
丸投げすんのかーい!
と試しに叫んでみたが、やはり声は出なかったのだった。
「来たか。集まったのは君らで最後かもしれんな」
眼鏡をかけた中年の男が俺たちを迎える。
森の中、隠すように布を被せられた巨大な荷車の前に、十数人の冒険者が集まっている。少人数のパーティがそれぞれ固まっているところ見るとまとまりのない集団に思えるが、纏っている雰囲気は熟練者のそれだ。急遽、近隣の街にいた腕利きをかき集めたのだろう。
それ以前に俺は男の言葉に首をひねる。
「俺らで最後って……依頼は明日じゃなかったのか」
「時間はクロエから事前に聞いてたわ。依頼書の内容は嘘。他の連中も何かしらのやり方で集めたんでしょ」
リアナが視線を投げたそこには、先ほど絡んできた焦げ茶色の髪の二人組がいた。二人はこちらに気づくと手を挙げて近づいてくる。
「よぉ! やっぱお前らも参加するんだな! 俺はクリス。クリス・スピングフィールだ。よろしくな! こっちは――」
「セシリーだよ。わかると思うけど姉弟でやってる」
どちらも人好きのする顔で笑いかけてきた。俺よりも少しだけ年上に見える二人だが、その佇まいは余裕を感じさせている。それにしてもイケメンだ。羨ましい。
「ユーリ・コレットだ」
「リアナよ」
俺たちは交互に挨拶すると、クリスたちと握手を交わす。
「な、ユーリは格闘士か?」
「ああ。敵をぶつ切りするのは相棒に任せてるんだ」
冗談を言うと後ろから蹴りが飛んできたが、クリスは大口を開けて笑った。
「俺はこの通り槍士だ。で、姉貴が魔導士。俺が前に出て、姉貴が後ろからってやつさ」
クリスは背負った槍を親指で示すと、セシリーは分厚い魔導書を掲げる。
「俺たちはどっちが前とかはないんだ。強いていえばこいつの方がずっと強いから俺はあてにしないでくれ」
「おい、二等級だろ? しっかりしてくれよ。俺たち三等級の目標なんだからよ。……ま、すぐに追いつくけどな!」
そう言って気安く肩を叩かれるが邪気を感じない。人との距離を詰めるのが上手い男だ。
俺としては嫌いではないタイプだが、リアナは苦手らしい。さりげなく距離を取ったのが共有された感情でわかった。
クリスもそれに気づいたのか、俺に耳打ちしてくる。
「な、なぁ、おたくのお嬢さん、なんか俺のこと嫌い?」
「難しい年ごろなんだ。気にしないでくれ」
本当はめちゃくちゃ年上だけどな、と思いつつ、適当にごまかすのだった。
「では諸君、傾聴してもらってもいいかね」
厚みのある声が響く。先ほどのまとめ役と思われる男だ。
俺たちは会話もそこそこに、荷物の前に立つ男へ向き直った。
「まずは依頼内容の見せかけなど、諸君にはつまらんことに協力してもらい感謝する。私はこの地の領主フェアファクス家の執事を務めるオーウェン・ベレスフォードだ。この依頼はご当主であるレジナルド・ゼン・フェアファクス様からの直接の依頼であることを諸君らに伝えておく」
オーウェンが話し始めるとベテランの冒険者たちは自然と耳を傾けた。この執事、元は戦場に身を置いていたのだろう。冒険者たちを黙らせる気迫がある。
「おおよその予想はついていると思うが、諸君らの仕事は魔災連の拠点への襲撃、制圧だ。やつらは古代兵器を秘密裏に再生している。攻撃されるのはおそらくイゼイブとなるため、早急に撃滅することとなった」
古代兵器、と聞いて、誰かが息を飲む気配がする。
「待ちなよ。連中と戦うのはいいけどさ。古代兵器とやり合うのはちょっと勘弁してもらいたいねぇ」
言葉を置いたオーウェンに対し、前に出てきたのはセシリーだ。肘を抱えて渋い顔をしている。
そりゃそうだろう。大半の人間は魔装のような兵器と生身で戦える戦闘力など持っていない。無謀な戦いに身を投じるのは御免だろう。これがオーウェンのように主君に仕えるような立場なら別だが、ここにいるのは冒険者だ。
「いや、再生された古代兵器はすでに別の場所に運び込まれている。そこに対して、フェアファクス家を中心とした騎士隊が同時刻に強襲をかける手はずだ。諸君らが古代兵器を相手にする必要はない。万が一、魔装級の古代兵器が出てきた場合には私が相手をする」
そう言って、オーウェンは荷物に被せられた布の一部をめくる。そこには巨大な金属の手――魔装があった。
この男、騎士だったのか。
「私も諸君らと同じように命を懸ける故、信用してもらいたい」
オーウェンの説明に、セシリーは「巻き込まれなきゃいいんだけどさ」とぼやいた。その他の者からの質問はないようで、話は作戦の詳細へと移る。
「目的の拠点はここから西にある洞窟だ。古代兵器の部品が出入りできる程度の入口が確認されている。周辺には当然、見張りがいると思われるので、隠密行動の得意なものが先行、排除し次第、全員で突入する」
「はいはーい!」
その時、やたらと陽気な声が上がった。誰かと思えば、隣でリアナが飛び跳ねながら手を振っていた。
確かに背が低いのでこの中では埋もれているから仕方がないのだが、真面目な雰囲気をぶち壊しにしている気がする。割と目立つのでやめてほしい。
そんなリアナにも動じることなく、オーウェンは眼鏡を直して「なんだね?」と勧めた。
「中に無関係な人間がいる可能性はないの?」
「……今のところそういった話は聞いていない」
リアナの眉がピクっと動く。何かを疑っているようだ。だが、「あっそう」と言って話を終えた。
オーウェンは小さく息を吐くと、皆を顔を見回した。
「各自、装備を確認してくれ。薬や水、携帯食が足りなければこちらでも用意している。それでは時間まで待機」
この待遇の良さは、さすが領主の依頼というところか。
話を終えたオーウェンは集団から離れたところに歩いていく。
無駄話などせず、必要な情報のみを提供する――オーウェンは戦士としても、執事としても有能なのだろう。だが、俺は去り行くその顔に疲労感のようなものを感じたのだった。
◇ ◇ ◇
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◇ ◇ ◇
作戦の開始時刻まであと少し――俺とリアナは他の冒険者よりも先行して拠点に近づいていた。
なぜなら俺とリアナは皮鎧が装備の大半だ。金属製の鎧を身に着けている者は歩くだけでも音が鳴ってしまうが、俺たちならばその心配はない。
それに俺自身、格闘の足運びで足音を消すことにも長けている。リアナに至っては、やろうと思えば気配を完全に消すことができるだろう。
どうやっているのかは知らないが。
「ここの連中、ド素人じゃない。アイツとかなんで上見てんのかしら。竜でも飛んでる?」
隣でわざとらしく上を見るリアナは、俺の黒い外套を被っていた。リアナの銀髪は綺麗だが森の中ではやたらと目立つので、俺が被せたのだ。
「ここはすでに役割を終えている。そういうことなのだろう」
後ろから低い声がかかる。オーウェンだ。
俺たちが見張りを倒した後、他の冒険者たちへ指示を出すために同行していた。
「あの様子なら見つからずにどうにかできるな。よし――」
「ちょいタンマ」
立ち上がろうとした俺は襟を掴まれる。できればもう少し優しく扱ってほしいと思いつつ、リアナを見た。
「なんだよ……」
「いいから。――ねぇ、執事さん。本当にあの中に魔災連と無関係な人間はいないのよね」
薄ら笑いを浮かべたリアナに聞かれ、オーウェンは眼鏡を直す。
「何が言いたいのかね?」
「魔装があるならまどろっこしいことしてないで、中を蒸し焼きにでもしちゃえばいいじゃない。炎の魔法でも投げ込んでから入口を崩せばイチコロよ?」
やり方が害虫駆除のソレなんだよな……。
だが、同時に事実でもあると思った。入口が狭すぎるのならともかく、古代兵器の部品を出入りさせられるような広さがあるのならば、それこそ魔装による攻撃で吹き飛ばしてしまえばいい。
「……それでは魔災連の連中を取り逃がすかもしれん」
「もう役割は終わってるんでしょ? そんな拠点にいんのは下っ端くらいよ。逃がしたところでこの森じゃ獣の餌にでもなるんじゃない?」
オーウェンは口をつぐむ。眉間に皺を寄せて、ただひたすらにリアナを凝視した。
「やらないならアタシたちがやってもいいわよ。あの程度の洞窟、一撃で採石場にでも変えてやるわ」
リアナの言葉に白髪の混じった眉がわずかに上がる。ハッタリだと思っているのだろう。俺はオーウェンのためにも付け加える。
「おっさん。こいつがやれるっていうならマジでやれるぞ」
「じゃ、何も言わないからやっちゃうわね。報酬は二倍くらいでいいわよ」
リアナが剣を抜いて立ち上がろうとした、その時――。
「待て」
眼鏡の奥の目を光らせたオーウェンが、怒気を含んだ声でリアナを止めた。奥歯を食いしばって耐えるように目を閉じた後、ゆっくりと話し出す。
「……あそこには、古代兵器の整備を強制させられている技師たちがいる……――可能性がある」
「はぁ!?」
さっき無関係の人間はいないって言ったじゃねーか!
俺が睨みつけると、オーウェンは目を逸らすことなく続ける。
「ご当主のご命令だ。魔災連のやつら諸共、自らの意志でなくとも――連中に関わった者はすべて処分しろとのことだ」
「だから黙ってたのね。冒険者に市民を殺させるつもり?」
「貴様らだからこそ委ねたのだろう……! 自由の民である貴様らが無抵抗な技師をどうするかは貴様らの自由だ」
そういうことか、と俺は察した。オーウェンとしては表向きは当主の命令とやらを守らなければならない。だが、技師たちの命を見殺しにすることもできず、あえて具体的な話を避けたのだ。
たとえそれが非情な命令だったとしても、オーウェンは真っ向から逆らうことのできない男なのだろう。
「中間管理職のささやかな抵抗、ってやつ?」
「……意味を理解しかねる」
言葉の意味を理解できなくとも、皮肉を言われていることはわかっているのだろう。オーウェンは怒りを抑えるように唸った。
「はぁ、もっと上手く立ち回れなかったのかしらね。さて――」
呆れた様子のリアナは俺の肩を叩いた。俺はそこに違和感を感じて振り向く。
そして、「おい、今何かしたか?」と言おうとして――言えなかった。
というか口から音が出なかった。
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