25年の時を超えた異世界帰りの勇者、奇跡の【具現化】で夢現の境界で再び立ち上がる ⛔帰還勇者の夢現境界侵食戦線⛔

阿澄飛鳥

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第19話 追憶……私たちは追いつけない

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 取り戻して。受け入れて。キミの魂を、意志を、記憶を。
 キミが私の命を救ってくれたように、今度は私がキミの魂を救います。
 今はわからなくてもいい。何が正しいかなんて悩まなくていい。
 キミが過ごした月日は、かけがえのないもの。
 それを思い出せば、全てわかるようになるから……。

 
 …………………………
 ……………………
 ………………
 …………
 ……
 
 
 俺がクラウスたちと出会ってから、半年が経つ。
 その間に色んな街へ行って、色んな危機を乗り越えて、色んな冒険をした。

 そんなある日、クラウスに言われたことをうまく飲み込めず、俺は目を白黒させながら聞き返す。

「えっ……? えぇ? ごめん、クラウス、もう一回言って?」

 感じるのはバツの悪そうな雰囲気。
 普段なら様々な話題が飛び交う朝食の席のはずが、このときに限ってみんなは黙り込んでいた。
 
 聞き返されたクラウスはなんでもないことのように、いつも通り俺を見下ろして言う。
 
「あぁ、言ってやる。お前ぇは今日でこのパーティから抜けろ」

 抜けろ……?
 俺は思わず静かな食事処に響く声を上げた。
 
「なんで!? ぼくなにかした!? そんなこと、急に言われても困るよ!」
「急じゃねぇ。前から決めてたことなんだよ」
「それはクラウスがでしょ!? 酷いよ!」

 テーブルを叩きながら、一人称が素になるほど怒りのままに言葉をぶつけると、クラウスは舌打ちして目を逸らす。
 
「ガタガタ言うんじゃねぇ。とにかくお前ぇはクビなんだよ!」
「クラウス……」

 この半年で、俺は俺なりにこのパーティに馴染むことが出来ていた。
 始めは怒鳴られるばかりだったクラウスにも、こうして怒りをぶつけられるようにもなった。

 なのに、どうして……?

 すると、横からクラウスの頭を細い腕が小突く。
 ノエルだ。
 
「こら、なんでちゃんと説明しないの」
「……るせぇ」

 その口振りから、なにか理由があることは察したが、今まで知らされていなかったのは変わらない。
 俺はテーブルを囲む仲間たちを見ながら叫ぶ。
 
「ノエルは知ってたの!? みんなも!?」

 俺から見たみんなの反応は二通りだった。
 気まずそうに目を逸らすか、しっかりと俺の目を見返すか。

 しかし、俺の問いに否定する声は上がらない。
 
「……ええ。クラウスだけじゃない。みんなで決めたことなの」
「そんな……仲間だって思ってたのにっ……!」

 静かに言うノエルの言葉に、俺はめまいを覚える。
 心の奥がぎゅっと苦しくなって、誰に突き飛ばされたわけでもないのに、後ろによろめいた。
 俺は胸の痛みから逃れるために、その場から逃げようとすると――。
 
「待って、アキくん!」
 
「アキ!」
「アキ」
 
 ノエルの叫びと共に、俺の腰にナナルが組み付いて、腕はヴァルにがっしりと握られる。
 
 振り払うのは簡単だ。
 ナナルは体重が軽いし、ヴァルにだって力では負けない。
 俺はもうすでに、みんなと肩を並べられる冒険者になったのだから。
 
 けれど――だからこそ、仲間に怪我をさせることはできなかった。
 
 俺は何も言えずに、大人しく席に戻る。
 そうすることでヴァルは手を離してくれたが、ナナルは俺の服を握ったままだ。
 
 ノエルは俺が視線で話を促すと、ゆっくりと口を開いた。
 
「……私たち、この半年間ですごく変わった」

 胸に手を当てて、ノエルは呻くように言う。
 俺は俺が入る前の彼らを知らない。だから、その前後でどう変わったのかは知らないけれど、俺たちは半年前と比べてずっと強くなっているのは実感していた。
 
 最初はパーティで戦っていた敵を、個々で倒せる程度には強くなった。
 
 それこそ――。
 
「アキくんはあんまり興味なさそうだったけど、私たちはもう結構有名なパーティなんだ」

 ――俺一人が抜けても、十分に依頼をこなせるほどに。

 そうか、と俺は俯く。
 
 クラウスの気まぐれで拾われた俺だ。
 みんなと比べて、冒険者としての経験が圧倒的に足りない。
 ベテランのパーティの中にルーキーが混じっている状態は、この先のみんなにとってハンデでしかないのかもしれない。
 
 そうならば、俺は自分を納得させることができる。
 だって、俺はみんなが好きだから。

 むしろ、ここまで連れてきてくれたことに感謝すべきなのかもしれない。
 だったら、全部は言わなくていい。聞くだけ悲しくなってしまう。
 
 俺は顔を上げて、了承の言葉を告げようと――。
 
「それはね。全部アキくんのおかげなんだ」

 ――え?
 
「こんなにすぐ名前が広まるなんて、私たちも思ってなかった。……ううん、それだけじゃない。アキくんがいなきゃ、切り抜けられなかったことがいくつもあった。今の名声なんて、その副産物」
「そ、そんなこと……」
 
 俺は急に話がわからなくなった。
 これまでの危機は、みんなが力を合わせて戦った結果だ。
 勇者としての力を使っても倒せたかわからない敵に勝てたのは、みんなで戦っていたからだ。

 俺は困惑して周りを見ると、ヴァルを目が合った。
 
「事実だ。アキ」

 続けてナナルを見ると、彼女は深く頷く。

「アキがいなきゃ、アタシはここにいないよ」

 確かに戦闘中にナナルを守ることはあった。
 けれど、それはお互いさまだ。俺だってそうだ。

 クラウスが敵を引き付けてくれなきゃ。
 ノエルが傷を癒してくれなきゃ。
 ナナルが隙をついてかく乱してくれなきゃ。
 ヴァルが急所を射抜いてくれなきゃ。

 俺は今、ここにいない。
 
 けれど、ノエルは声を低くして続ける。
 
「それで思ったの。――私たちはアキくんに追いつけない」
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