25年の時を超えた異世界帰りの勇者、奇跡の【具現化】で夢現の境界で再び立ち上がる ⛔帰還勇者の夢現境界侵食戦線⛔

阿澄飛鳥

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第36話 偽物がいるのか?

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「すげぇ……」
 
 巨大な死神がその背骨を断たれてくずおれるのを見て、隊員の誰かが漏らすのを槇原は聞く。
 作戦区域に到着した時点で、すでに小型境獣のほとんどは瀕死の状態だった。
 
 それを1匹ずつ確実に仕留め終わった時には、大型境獣とアキとの戦闘は終わっていた。
 
「CP、現状の現乖侵食度数は?」
『急低下しています。状況を把握中ですが、おそらくすでに……』
 
 戦闘開始から十分も経っていない。
 
 これまで未確認だった大型境獣を瞬殺したアキの存在に、槇原は複雑な気持ちを抱く。
 彼のおかげで救われた命は多いだろう。しかし、正規の軍隊である自分たちが即応に遅れたこと、そして、まだ15歳の少年に勝手に動かれてしまったことは恥だ。
 
 それでもアキを責める気持ちはない。そうさせてしまったのは自分たち大人の責任だからだ。
 
 槇原はどす黒く変色しつつある死神の体を避けて、アキの下へと走る。
 すると、彼は手の中で小さな宝玉を転がして、そして指で割り砕くところだった。途端、アキは何かの衝撃を受けたようにのけぞり、膝をつく。
 
 槇原は駆け寄って自分の纏っていたポンチョを彼の背中にかけた。
 
「……槇原さん?」
「そうよ。また勝手なことして。司令部に行くように通達されてたでしょ」
「見てるだけじゃ退屈だと思ってな。それに――」
「それに?」
 
 アキは一瞬、躊躇するような表情を見せる。
 
「この魔物はたぶん、俺宛ての手紙のようなものだ」
 
 槇原はその言葉に首を捻った。だが、その意味を問う前に、予想外の人物から答えが返ってくる。
 
「せいか~い。君を倒すために送ったんだけど、やっぱり無理だったみたいなんな~」
 
 槇原は咄嗟に声の方向に銃を向けた。
 たとえその声が少女の声だったとしても、槇原にはわかる。
 
 瞬時に歪な存在の気配を感じ取ったからだ。
 
「またお前か」
 
 そこにいたのは現代兵器で全身を完全武装した女子高生だった。
 
 横に立つアキがいつのまにかに現れた剣を持って前へと出る。
 その様子は普段とは違い、口調を始めとしてどこか達観したような雰囲気を醸し出していた。
 
 戦闘の際だけ変化するアキに槇原は戸惑いつつも、インカムに向かって小声で報告する。
 
「CP。コードネーム【ジョーカー】と接触。指示を乞う」
 
 すると、予想に反してオペレーターではなく、大木から直接指示があった。
 
『槇原、【ジョーカー】との単独戦闘は危険だ。そこはアキくんに任せろ』
「……了解」
 
 齢15の少年に矢面に立たせることに、槇原は唇を噛む。だがアキはそれが当然とでもいうように剣を構えた。
 
「それで、次はお前か?」
「いいね。やってやんよ」
 
 少女は持っている小銃のチャージングハンドルを引く。
 
「槇原さん。離れてくれ」
 
 言われなくとも、と返す前に傍にいたアキが消えた。と、同時に空中で凄まじい激突音が鳴り響き、軽い衝撃波を身に受ける。
 槇原は素早く後退し、障害物に伏せた後、インカムに向かって叫ぶのだった。
 
『CP、ブレイズとジョーカーが交戦を開始した!』


  ◇   ◇   ◇

 
 ――初撃は予想通り防がれた。

 アキは高速で移動しながら相手を観察する。
【B】の使っている武器は外見は現代兵器のようだが、違う。
 
 あれは恐らく【B】自身の能力か、または魔法で生み出された武器だ。でなければただの鉄で出来た銃などでアキの剣を受け止めることはできない。
 
 それに加え――。
 
「はっはっは! 当たらん!」
 
 ――小銃の弾丸の威力は槇原たちの使うそれを優に超えている。
 
 それは1発で地面のアスファルトに大穴を開ける威力があった。
 いくらアキといえど、直撃すれば傷を負うだろう。
 
 公園の木々の間をジグザグに走って弾丸を避け、離された距離を詰める。
 
「しかし【ジョーカー】とは。洒落た名前を使ってもらったな」
「アタシも気に入った!」
「それはなによりだ」
 
 言いながら、アキはこの公園の中でも太い幹を持つ木に手をかけ、急激にターンして地面を蹴った。
 
 一気に【B】へと肉薄してその首に剣を振るう。だが、【B】は大胆に体を反らしてその一撃を避けた。

 回避の途中でも片手で小銃を発砲し、近距離から射出された弾丸をアキは【無銘】で弾きざるを得ない。
 しかし、いつの間にかに顕現させていた【青翠】を後ろ手から大きく薙ぐと、【B】の背後に土の壁が現れる。
 
「おわ?」
 
 そのままバック転で距離を取ろうとした【B】は壁に追い詰められる。
 
 アキは一瞬だけ動きの止まった【B】へと突撃し、膝蹴りをかました。
 魔法で形成された土壁を少女の体と共に粉砕する。
 
 咄嗟に銃を掲げて防いだようだが、ダメージはゼロではないだろう。
 土煙の尾を引いて数十メートル吹き飛んだ【B】は地面に手を引っ掛けて制動をかけた。
 
「強っ……。やっぱ本物はちげーわ」
「偽物がいるのか?」
 
 額から垂れた紫の血を拭う【B】に言うと、彼女は「へへっ」と歯を見せて笑う。
 
 答える気はないらしい。
 真ん中で折れた小銃を捨ててナイフを取り出した【B】に、アキは踏み込もうとした――その時。
 
『不明物体接近』
「どっこいしょおおお!」
 
 威勢のいい声と共に、アキと【B】の間に隕石のように何かが割り込んだ。
 
 大きく土煙が上がる中で、ソフィアによりその人影がマークされる。
 それはゆったりとした動きで戦槌をかついだ。

 出てきたのは鎖帷子と兜とという、中世の戦士を思わせる、大柄で筋肉隆々の男だった。
 
「魔の者よ! ここは我が受け持とうぞ!」
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