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第35話 アキはまだ止まらない
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「昨日の今日で出現とは。今までに例がなかったな。しかも東京とは。住民の避難を急がせろ」
大木は急いでセットした髪を手櫛で直しつつ、オペレーターに言う。
司令部も前例のない数時間という短い間隔の出現に、虚を突かれた形で混乱していた。
『アリエス隊、現着までネクストスリーワン』
「配置完了後、出現と同時に全ての火器の使用を許可する」
まだ境獣はその姿を現していない。出現には数十分前から境界震という次元の揺らぎによる兆候が見られる。
その揺らぎが一定のレベルを超えたとき、境獣は別の次元から姿を現すのだ。
これがなければ今頃、日本は壊滅しているかもしれない、と大木は思う。
相手は本拠地も、目的もわからず、突然ランダムに出現して破壊行為を行う謎の生物群だ。
まず対話が不可能という時点で数十年前の日本にとって想定していなかった相手なのだ。
その時、司令部に警報が鳴る。
「なんだ!?」
「現乖侵食度数急上昇! 境界震クラスⅢを検知!」
「馬鹿なっ……」
大木は言葉を失った。
これまでの出現の流れは緩やかな次元の揺れから始まっていたはずだ。
モニターに映し出された映像を見る。
そこにあったのは巨大な鎌だった。ビル一つを容易に両断できそうな巨大な鎌。そして、それを持つのはローブを纏った黒い影だ。
死神――魂を刈り取る存在を大木はその姿に想起する。
そのローブに隠された足元からはミノタウロスやゴブリンなどの小型境獣がぞろぞろと出現していた。
「想定よりも出現が早い……! アリエス隊を急がせろ!」
「住民の避難の遅れにより足止めを食らっています! 現在、徒歩にて作戦区域に移動中!」
「くっ……!」
都市部に集中した人口を分散させたとはいえ、やはり住宅密集地では対応に遅れが出る。
それに加え、前例のない早さでの出現――これでは市民の犠牲を覚悟しなければならない。
歯噛みした大木がモニターを睨みつけた、そのとき、大きくカメラが揺れ、轟音をマイクが拾った。
「今度はなんだ!?」
「ふ、不明です! 高速で接近した何かが境獣と接触した模様!」
ノイズ交じりだったカメラの映像が復旧し、土煙を映す。
爆撃のような何かが起こったその周辺には小型境獣の腕や足が転がっていた。
そして、土煙が晴れようという時、光る翼がその中心に現れる。
「ま、松里アキ!」
そこには、一本の白い剣を持った少年が立っていた。
◇ ◇ ◇
「こいつも一度戦ったな」
『Affirmative』
数多の魔物の骸の中で、アキは【無銘】を構え直す。
眼前ではこちらの身長の何倍もある大きさの鎌を振り上げる死神がいた。
名前は知らない。
なぜならこの魔物を見たのは異世界の魔王が作り出した1体だけだったからだ。
それをアキが人知れず倒してしまったので、安直に死神と頭の中で呼ぶことにした。
しかし、はて……まただ。前の花の魔物といい、なぜ倒したはずの魔物が再び目の前に現れたのだろう。
それを考えながら、横振りされた鎌を【無銘】で弾き返す。
凄まじい火花が散り、大きくのけぞった隙を見て、アキは死神の頭上へと飛んだ。
「ここで暴れられるのは困る。人もいることだ」
言いながら、死神の深く被ったフードを掴む。
それを軽く引っ張ると、顔を隠すそれが脱げた。
露わになったのは手だ。右手でも左手でもない、六指の手。その手のひらに二つの目がついていて、血走った眼球がこちらを睨んでいる。
アキは憎しみに満ちたその視線を気にすることなく、さらにフードを掴んだまま死神を飛び越えた。
後ろへと引っ張られた死神は、転倒しそうになるのを必死でこらえる叫びが上がる。
「ふっ……!」
だがアキはさらに、そして力任せに死神をぶん投げた。
その際に翻ったローブの中身をアキは見る。
死神はまるで実体のない幽霊のような動きをするが、それは外見からの思い込みに過ぎない。
本体はただの三本の腕だ。鎌を持つ両腕と、恐らく頭に該当する中央の腕。
それが根元に生えた大量の指でぞろりぞろりと歩くのだ。
人の恐怖を刺激する見た目、だがその実体は別物――それが異世界の魔王が直に生み出した魔物の特徴だった。
「ギイエアアァァァ!」
投げられた死神が地面に激突する。
そこは広めの公園だ。子供たちの良い遊び場だっただろう場所を破壊するのには後ろ髪を引かれる。だが、まだ避難していない住民が家ごと潰されるよりはマシだ。
仰向けに倒れた死神はその気味の悪い中央の腕を曲げてこちらを見る。
そして、苦し紛れの抵抗か、持っていた鎌をアキに向かって投げつけてきた。
「おっと」
意外にも正確に投げられたそれを1歩横にずれて避けると、深々と刃が道路に刺さる。
水道管を破壊したのか、亀裂から水しぶきが上がるのを見つつ、アキは駆け出した。
「ガアアァァァァ!」
死神が地面を這いずるように起き上がる。
突進してくるアキを、死神は羽虫を潰すかのように両腕を伸ばしてきた。
その手が体に触れる直前、アキは【無銘】を今可能な最高速で振るう。
すると、死神の手はボロボロと崩れるように切断され、血肉を地面に広げた。
だがアキはまだ止まらない。
狙いは中央の腕だ。
ローブの中に隠れてはいるが、一番太く、そしてグロテスクなそれに向かって跳躍し、今度は複雑な剣術ではなく全力を持った一閃を放つ。
「ギッ……!」
絶叫は上がらなかった。短い声を上げて、死神は上下に真っ二つになる。
そして、切断された腕から噴き出す紫色の血を浴びながら、アキは【無銘】を虚空へと散らしながら着地するのだった。
大木は急いでセットした髪を手櫛で直しつつ、オペレーターに言う。
司令部も前例のない数時間という短い間隔の出現に、虚を突かれた形で混乱していた。
『アリエス隊、現着までネクストスリーワン』
「配置完了後、出現と同時に全ての火器の使用を許可する」
まだ境獣はその姿を現していない。出現には数十分前から境界震という次元の揺らぎによる兆候が見られる。
その揺らぎが一定のレベルを超えたとき、境獣は別の次元から姿を現すのだ。
これがなければ今頃、日本は壊滅しているかもしれない、と大木は思う。
相手は本拠地も、目的もわからず、突然ランダムに出現して破壊行為を行う謎の生物群だ。
まず対話が不可能という時点で数十年前の日本にとって想定していなかった相手なのだ。
その時、司令部に警報が鳴る。
「なんだ!?」
「現乖侵食度数急上昇! 境界震クラスⅢを検知!」
「馬鹿なっ……」
大木は言葉を失った。
これまでの出現の流れは緩やかな次元の揺れから始まっていたはずだ。
モニターに映し出された映像を見る。
そこにあったのは巨大な鎌だった。ビル一つを容易に両断できそうな巨大な鎌。そして、それを持つのはローブを纏った黒い影だ。
死神――魂を刈り取る存在を大木はその姿に想起する。
そのローブに隠された足元からはミノタウロスやゴブリンなどの小型境獣がぞろぞろと出現していた。
「想定よりも出現が早い……! アリエス隊を急がせろ!」
「住民の避難の遅れにより足止めを食らっています! 現在、徒歩にて作戦区域に移動中!」
「くっ……!」
都市部に集中した人口を分散させたとはいえ、やはり住宅密集地では対応に遅れが出る。
それに加え、前例のない早さでの出現――これでは市民の犠牲を覚悟しなければならない。
歯噛みした大木がモニターを睨みつけた、そのとき、大きくカメラが揺れ、轟音をマイクが拾った。
「今度はなんだ!?」
「ふ、不明です! 高速で接近した何かが境獣と接触した模様!」
ノイズ交じりだったカメラの映像が復旧し、土煙を映す。
爆撃のような何かが起こったその周辺には小型境獣の腕や足が転がっていた。
そして、土煙が晴れようという時、光る翼がその中心に現れる。
「ま、松里アキ!」
そこには、一本の白い剣を持った少年が立っていた。
◇ ◇ ◇
「こいつも一度戦ったな」
『Affirmative』
数多の魔物の骸の中で、アキは【無銘】を構え直す。
眼前ではこちらの身長の何倍もある大きさの鎌を振り上げる死神がいた。
名前は知らない。
なぜならこの魔物を見たのは異世界の魔王が作り出した1体だけだったからだ。
それをアキが人知れず倒してしまったので、安直に死神と頭の中で呼ぶことにした。
しかし、はて……まただ。前の花の魔物といい、なぜ倒したはずの魔物が再び目の前に現れたのだろう。
それを考えながら、横振りされた鎌を【無銘】で弾き返す。
凄まじい火花が散り、大きくのけぞった隙を見て、アキは死神の頭上へと飛んだ。
「ここで暴れられるのは困る。人もいることだ」
言いながら、死神の深く被ったフードを掴む。
それを軽く引っ張ると、顔を隠すそれが脱げた。
露わになったのは手だ。右手でも左手でもない、六指の手。その手のひらに二つの目がついていて、血走った眼球がこちらを睨んでいる。
アキは憎しみに満ちたその視線を気にすることなく、さらにフードを掴んだまま死神を飛び越えた。
後ろへと引っ張られた死神は、転倒しそうになるのを必死でこらえる叫びが上がる。
「ふっ……!」
だがアキはさらに、そして力任せに死神をぶん投げた。
その際に翻ったローブの中身をアキは見る。
死神はまるで実体のない幽霊のような動きをするが、それは外見からの思い込みに過ぎない。
本体はただの三本の腕だ。鎌を持つ両腕と、恐らく頭に該当する中央の腕。
それが根元に生えた大量の指でぞろりぞろりと歩くのだ。
人の恐怖を刺激する見た目、だがその実体は別物――それが異世界の魔王が直に生み出した魔物の特徴だった。
「ギイエアアァァァ!」
投げられた死神が地面に激突する。
そこは広めの公園だ。子供たちの良い遊び場だっただろう場所を破壊するのには後ろ髪を引かれる。だが、まだ避難していない住民が家ごと潰されるよりはマシだ。
仰向けに倒れた死神はその気味の悪い中央の腕を曲げてこちらを見る。
そして、苦し紛れの抵抗か、持っていた鎌をアキに向かって投げつけてきた。
「おっと」
意外にも正確に投げられたそれを1歩横にずれて避けると、深々と刃が道路に刺さる。
水道管を破壊したのか、亀裂から水しぶきが上がるのを見つつ、アキは駆け出した。
「ガアアァァァァ!」
死神が地面を這いずるように起き上がる。
突進してくるアキを、死神は羽虫を潰すかのように両腕を伸ばしてきた。
その手が体に触れる直前、アキは【無銘】を今可能な最高速で振るう。
すると、死神の手はボロボロと崩れるように切断され、血肉を地面に広げた。
だがアキはまだ止まらない。
狙いは中央の腕だ。
ローブの中に隠れてはいるが、一番太く、そしてグロテスクなそれに向かって跳躍し、今度は複雑な剣術ではなく全力を持った一閃を放つ。
「ギッ……!」
絶叫は上がらなかった。短い声を上げて、死神は上下に真っ二つになる。
そして、切断された腕から噴き出す紫色の血を浴びながら、アキは【無銘】を虚空へと散らしながら着地するのだった。
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