25年の時を超えた異世界帰りの勇者、奇跡の【具現化】で夢現の境界で再び立ち上がる ⛔帰還勇者の夢現境界侵食戦線⛔

阿澄飛鳥

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第34話 待ってるから

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 汝、夢を見よ。
 結んだ因果は必ずや汝を導かん。
 導かれし先で、何を成すのか。
 契りの先で、何を得るのか。
 我はそれを見届けんために……。
 
 
 …………………………
 ……………………
 ………………
 …………
 ……
 
 
「いいか? これから君を別の世界――俺のいた世界に転移させる。最初は一人で寂しいかもしれない。だが、すぐに俺も追いつく」
 
 太陽の光の入ってこない、薄暗い石造りの地下室で、俺は少女の肩を掴んで言い聞かせた。
 外では兵士たちの怒号や魔法の爆発が起きていて、いつここが露見するかはわからない。
 
 やるなら今しかない。
 
「嫌っ! アキも一緒じゃなきゃ嫌!」
 
 彼女は首をぶんぶんと振って我儘を言う。
 
 しょうがない。

 俺の前ではいつも気丈に振舞っていたが、本当は年相応に我儘で、寂しい思いをさせてしまっていた子だ。
 こんな土壇場で彼女を一人、送り出すのも俺は苦しい。
 しかし、他にこの状況で彼女を守る術がなかった。
 
 魔王を倒し、英雄と称えられ、そして国敵として追われた俺には、彼女を匿えるほどの力はない。
 俺だって、できることならずっと一緒にいたい。彼女は多くの犠牲を出した俺の戦いの中で、唯一救えた小さな命だ。
 
「必ず君を迎えに行く」
「本当に……?」
「本当に。……約束だ」
 
 そう言って俺は彼女の唇に自分の唇を重ねる。
 少しだけ触れ合わせるつもりが、彼女の手が俺の首に回されて、強く体を押し付けられた。
 
 互いの熱が、体の凹凸が、心臓の音がわかる。
 そして、舌を絡み合わせる大人のキスをされて俺は思い直した。
 
 彼女はもう少女ではない。出会ったときから何年も経っていて、もう立派な女性なのかもしれない。
 
 だから、俺も信じよう。
 
 唾液が糸を引いて唇が離れたときの彼女の強い視線を見て、覚悟を決める。
 
 俺は身に纏っていた外套を脱いで、彼女の体を包んだ。
 そして、左手で床に書かれた魔法陣へと触れると、彼女の足元から魔法の光が発せられる。
 
「待ってるから……!」
 
 彼女は泣かない。目端に浮かべた涙が流れまいと必死にこらえていた。
 
 胸が苦しい。こんな思いをさせるはずじゃなかったのに。この子にはもっと幸福な未来を捧げたかったのに。
 
 彼女が光に包まれる。
 
「向こうでも――!」
 
 転移魔法が発動し、その光が消える直前に、俺は胸の内にある多くの言葉の中から1つだけを選んで叫んだ。
 
「向こうでも俺が君を守る! ――だからッ!」

 …… 
 …………
 ………………
 ……………………
 …………………………

 
 ◇   ◇   ◇
 
 
「あっ……」
 
 ……気がつくと、アキは天井に向かって手を伸ばしていた。
 そこはあの石造りの地下室ではない。現代に戻って与えられた自分の部屋だ。
 
 アキは伸ばしていた手で虚空を掴むと、起き上がる。
 ベッドの枕元ではスマフォが大きな音を立ててなっており、そこには文字が記載されていた。
 
 ――【緊急招集命令:202C】
 
 きっとまた魔物が現れたのだろう、とアキは思う。
 すると、暗い部屋に淡い光が灯ってソフィアが現れた。
 
『マスタ。呼ばれてる』
「そうみたい……。そんな頻繁に起こるものなんだね」
 
 時計を見れば、夜の三時だ。BOUNDの司令部で戦闘を見せられてから数時間しか経っていない。
 若干寝不足の頭でアキはパジャマから学校の制服に着替える。
 
「ソフィア。どこに魔物が出てきたかわかる?」
『Yes。ここから、近い。東京都内』
「そこに向かうよ」
 
 アキはそう言って窓を開けた。
 
 恐らく扉から出ればマリアと鉢合わせになってしまう。そうしたらアキは彼女に従わざるを得ない。
 アキは部屋の中で霊翼を広げて、月明かりのさす街へと飛び出した。
 
 窓が開けっぱなしになってしまうが、ここはマンションの最上階。泥棒も入ろうに入れないだろう。
 そうして建物の屋上を飛び移って、アキはソフィアの誘導に従って目的の場所へと急ぐのだった。
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