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第38話 証明してみせるかね
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「スマフォは生きているようだ。GPSで場所は判明している」
戦闘後、そのまま槇原と共に司令部へと向かったアキは、モニターに映し出されたマップを見た。
場所は都内の建築現場だ。
それを見て、槇原は声を低くする。
「誘われていますね」
「ああ、やり口から見て、裏に支援している組織があるようにも思える」
アキは大木の言葉に黙って同調した。
あのザルトルとセルヴァーンが異世界の人間だということは、使っていた言葉からしておそらく確実だ。
だが、彼らがGPSを理解し、こんな場所を用意できるとは思えない。
死神が出現した時にはすでに、アキは罠に嵌っていたのだろう。
あの時、1人で部屋をでなければ、という後悔がアキの頭を過ぎった。
「敵の狙いはぼくです。ぼくが一人で行きます」
言うと、大木が頭を振る。
「許可できない。最悪の場合、君とマリア君の二人を同時に失うことになる」
「敵は少なくとも8人いるんでしょ? いくらアキくんでも……」
そんな大人たちの制止を、アキは煩わしいと思った。
敵が何人いても、相手が誰であっても、関係ない。
「ぼくがこれで負けるようなら、大木さんにとってぼくはそこまで価値のある存在じゃないと思うんです」
大木のサングラス越しの目を見て言う。
アキがBOUNDに保護されているのは、それがこの組織にとって有益なものだからだ。
だが、新たに現れた敵に、容易に負けるようでは大した意味がない。
アキは自分自身がなぜ生かされているのかを、子供だからという理由以外で理解していた。
すると、横から勢いよく槇原に胸倉を掴まれる。
「いい加減にしろ! なんで君は君自身を大事にしないの!?」
こうやって怒られるのは何度目だろうか。
アキはその怒りが自分を思ってのこととわかりつつも、自分のことを理解してくれていないと感じた。
「槇原さん、それはぼくが……勇者だからです」
「関係あるか!?」
「あります。ぼくは――」
どうしてその在り方に至ったかは思い出せていない。だが、アキは言う。
「ぼくの大事にしたいものを守るために戦う。それだけしかできない人間だから」
大層な呼ばれ方をしても勇者は戦うための存在だ。
だからこそ、こういう生き方しかできない。こういう在り方しか許されない。
「君の価値を証明してみせるかね」
「司令!」
叫ぶ槇原を大木が手を挙げて制する。
「警察に周辺を封鎖するよう要請しろ。アリエス、タウルス隊はバックアップとして待機。もしアキ君が負けた場合――」
大木はサングラスの位置を直してこちらに向き直った。
「当該区域に対して飽和攻撃を実施する」
◇ ◇ ◇
「学生服じゃサマにならないでしょ」
BOUNDの待機室でそう槇原に言われ、アキは身支度をする。
用意されたのは槇原たちが着ていた黒を基調とした隊服に、頑丈そうなブーツ、指出しのグローブ、そして最も目を引くのは外套だ。
なぜ雨も降っていないのに? と不思議そうな顔をすると、槇原が自身の外套を広げながら言う。
「これは境獣の攻撃をある程度防いでくれる素材なの。赤外線も遮断するし、都市迷彩も兼ねてる」
『マスタ。【蜂比礼】に、酷似』
ソフィアが補足してきた。
【蜂比礼】は異世界でアキが纏っていた魔法の布だ。名前に関してはソフィアが考えたので、本当の名前は知らない。魔法をある程度受け流してくれるものであり、それは魔物の攻撃にも有効だった。
確かあれはあの子に渡してしまったなぁ、と思いつつ、アキは槇原へと顔を上げる。
「ありがとうございます。槇原さん」
「もし負けそうならすぐに退きなさい。なんとしてもマリアは助け出してあげる」
「彼らに銃弾が効くかはわかりませんよ」
「それでもなんとかしてみせるのがアタシたちの仕事よ」
槇原は腕組みして毅然とした顔で言った。
その覚悟を受け取り、アキは頷く。
すると、槇原の後ろから2人の男たちが近づいてきた。
「よぉ、今から敵さんの罠に殴り込みにいくんだって?」
「全く無茶苦茶な話だな」
「えっと……」
気さくに話しかけてきた彼らに困惑していると、槇原が鬱陶しそうに紹介する。
「狙撃手の長渕に、こっちの軽いのが観測手の武田よ。前に君の援護をしてくれたの」
「ああ! あの時はどうも」
例のトンネルでの戦闘の際、狙撃してくれていたのはこの2人だったかとアキは思い至った。
律儀にお辞儀をしてみせると、彼らは一瞬呆気にとられた顔して、それから笑う。
「いいや、俺たちは君の邪魔をしないよう的当てを楽しんでいただけだ」
「大半はアキ君がやっちまったっすからね!」
爽やかに笑う長渕と武田に釣られて、アキも思わず頬が緩んだ。
こういった雰囲気がアキは嫌いではない。どこか、異世界での冒険者同士の交流を思い出させる。
だが槇原は気に入らなかったのか、眉間に皺をよせて彼らを一喝した。
「お前たち! この子は今から戦いに行くんだぞ!」
「大丈夫ですって隊長! アキ君の戦いっぷり、見てたでしょ? 余裕っすよ」
「ああ、俺もそう思う。好きなだけ暴れてこい」
長渕にそう肩を叩かれ、アキは「はい!」と勢いよく返事をする。
そして、槇原から逃げるように2人はそそくさと歩き去って行った。
そんな長渕と武田の背中を見送ったあと、槇原は改まったようにこちらを向いて口を開く。
「じゃあ、今回の任務はマリア候補生の奪還。そして――」
きゅっと口元を結んでから、槇原は真っ直ぐに視線を投げてきた。
「ブレイズ。貴官の生存を目的とします。ご武運を」
「はい。必ず僕たちは生きて帰ってきます」
槇原は踵を揃え、指先まで神経の通った見事な敬礼を見せてくる。
それに対して、アキは今見せることのできる最大限の敬礼で応えると、かすかに槇原は口元を緩めるのだった。
戦闘後、そのまま槇原と共に司令部へと向かったアキは、モニターに映し出されたマップを見た。
場所は都内の建築現場だ。
それを見て、槇原は声を低くする。
「誘われていますね」
「ああ、やり口から見て、裏に支援している組織があるようにも思える」
アキは大木の言葉に黙って同調した。
あのザルトルとセルヴァーンが異世界の人間だということは、使っていた言葉からしておそらく確実だ。
だが、彼らがGPSを理解し、こんな場所を用意できるとは思えない。
死神が出現した時にはすでに、アキは罠に嵌っていたのだろう。
あの時、1人で部屋をでなければ、という後悔がアキの頭を過ぎった。
「敵の狙いはぼくです。ぼくが一人で行きます」
言うと、大木が頭を振る。
「許可できない。最悪の場合、君とマリア君の二人を同時に失うことになる」
「敵は少なくとも8人いるんでしょ? いくらアキくんでも……」
そんな大人たちの制止を、アキは煩わしいと思った。
敵が何人いても、相手が誰であっても、関係ない。
「ぼくがこれで負けるようなら、大木さんにとってぼくはそこまで価値のある存在じゃないと思うんです」
大木のサングラス越しの目を見て言う。
アキがBOUNDに保護されているのは、それがこの組織にとって有益なものだからだ。
だが、新たに現れた敵に、容易に負けるようでは大した意味がない。
アキは自分自身がなぜ生かされているのかを、子供だからという理由以外で理解していた。
すると、横から勢いよく槇原に胸倉を掴まれる。
「いい加減にしろ! なんで君は君自身を大事にしないの!?」
こうやって怒られるのは何度目だろうか。
アキはその怒りが自分を思ってのこととわかりつつも、自分のことを理解してくれていないと感じた。
「槇原さん、それはぼくが……勇者だからです」
「関係あるか!?」
「あります。ぼくは――」
どうしてその在り方に至ったかは思い出せていない。だが、アキは言う。
「ぼくの大事にしたいものを守るために戦う。それだけしかできない人間だから」
大層な呼ばれ方をしても勇者は戦うための存在だ。
だからこそ、こういう生き方しかできない。こういう在り方しか許されない。
「君の価値を証明してみせるかね」
「司令!」
叫ぶ槇原を大木が手を挙げて制する。
「警察に周辺を封鎖するよう要請しろ。アリエス、タウルス隊はバックアップとして待機。もしアキ君が負けた場合――」
大木はサングラスの位置を直してこちらに向き直った。
「当該区域に対して飽和攻撃を実施する」
◇ ◇ ◇
「学生服じゃサマにならないでしょ」
BOUNDの待機室でそう槇原に言われ、アキは身支度をする。
用意されたのは槇原たちが着ていた黒を基調とした隊服に、頑丈そうなブーツ、指出しのグローブ、そして最も目を引くのは外套だ。
なぜ雨も降っていないのに? と不思議そうな顔をすると、槇原が自身の外套を広げながら言う。
「これは境獣の攻撃をある程度防いでくれる素材なの。赤外線も遮断するし、都市迷彩も兼ねてる」
『マスタ。【蜂比礼】に、酷似』
ソフィアが補足してきた。
【蜂比礼】は異世界でアキが纏っていた魔法の布だ。名前に関してはソフィアが考えたので、本当の名前は知らない。魔法をある程度受け流してくれるものであり、それは魔物の攻撃にも有効だった。
確かあれはあの子に渡してしまったなぁ、と思いつつ、アキは槇原へと顔を上げる。
「ありがとうございます。槇原さん」
「もし負けそうならすぐに退きなさい。なんとしてもマリアは助け出してあげる」
「彼らに銃弾が効くかはわかりませんよ」
「それでもなんとかしてみせるのがアタシたちの仕事よ」
槇原は腕組みして毅然とした顔で言った。
その覚悟を受け取り、アキは頷く。
すると、槇原の後ろから2人の男たちが近づいてきた。
「よぉ、今から敵さんの罠に殴り込みにいくんだって?」
「全く無茶苦茶な話だな」
「えっと……」
気さくに話しかけてきた彼らに困惑していると、槇原が鬱陶しそうに紹介する。
「狙撃手の長渕に、こっちの軽いのが観測手の武田よ。前に君の援護をしてくれたの」
「ああ! あの時はどうも」
例のトンネルでの戦闘の際、狙撃してくれていたのはこの2人だったかとアキは思い至った。
律儀にお辞儀をしてみせると、彼らは一瞬呆気にとられた顔して、それから笑う。
「いいや、俺たちは君の邪魔をしないよう的当てを楽しんでいただけだ」
「大半はアキ君がやっちまったっすからね!」
爽やかに笑う長渕と武田に釣られて、アキも思わず頬が緩んだ。
こういった雰囲気がアキは嫌いではない。どこか、異世界での冒険者同士の交流を思い出させる。
だが槇原は気に入らなかったのか、眉間に皺をよせて彼らを一喝した。
「お前たち! この子は今から戦いに行くんだぞ!」
「大丈夫ですって隊長! アキ君の戦いっぷり、見てたでしょ? 余裕っすよ」
「ああ、俺もそう思う。好きなだけ暴れてこい」
長渕にそう肩を叩かれ、アキは「はい!」と勢いよく返事をする。
そして、槇原から逃げるように2人はそそくさと歩き去って行った。
そんな長渕と武田の背中を見送ったあと、槇原は改まったようにこちらを向いて口を開く。
「じゃあ、今回の任務はマリア候補生の奪還。そして――」
きゅっと口元を結んでから、槇原は真っ直ぐに視線を投げてきた。
「ブレイズ。貴官の生存を目的とします。ご武運を」
「はい。必ず僕たちは生きて帰ってきます」
槇原は踵を揃え、指先まで神経の通った見事な敬礼を見せてくる。
それに対して、アキは今見せることのできる最大限の敬礼で応えると、かすかに槇原は口元を緩めるのだった。
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