41 / 43
第41話 【天翼】
しおりを挟む
「「「――ッ!」」」
「シルヴィーナァァァッ!」
瞬間、セルヴァーンだけではない。シルヴィーナを除いた7人が一斉に【天翼】に向かって得物を繰り出した。
【天翼】との距離は約20歩。7人がほぼ同時に攻撃を仕掛けた。そのはずが――。
――ダールトンの棘付きの鉄球は両断され、繋がれていた鎖が虚しく空を切る。ブルーナの鞭の先端は剣の柄頭で打ち返され、レイミュールの放った矢は素手で掴まれた。ヴェネリオの細剣の突きは受け流され、ザルドルの戦鎚と接触し砕け散る。そして、ネレーオの炎を纏った2振りの剣を弾き返すその流れで、セルヴァーンの長剣と鍔迫り合いになった。
それが、この一瞬で起きた出来事だ。
なんという速度、剣裁き、膂力。
「こ、これが貴様の――ッ」
セルヴァーンは刃同士が触れて激しく散る火花の奥の【天翼】に叫ぶ。
だが、【天翼】は無表情のまま、セルヴァーンの腹に蹴りを入れてきた。
「お前と話す舌など持っていない」
「ゴハァッ――!?」
だが、セルヴァーンは耐える。口の中に鉄臭い液体がせり上がってくるが、剣を構えた。
見据えた【天翼】のその後ろで、初撃を潰された英傑たちが再び飛びかかるのが見える。
「食らえぇぇぇぇッ!」
得物を失ったダールトンが繰り出す剛腕は、まるで背中に目があるように身を振って避けられた。
そして、振り向きざまに下から上へ一閃された白刃によって、ダールトンの身体は真っ二つに裂ける。
「おのれッ!」
「待てッ! 態勢を整え――っ!?」
セルヴァーンが制止するにも間に合わず、ヴェネリオが砕けた剣の刃だけを持って前に出た。
白い翼を広げての猛烈な勢いの突進。だが、それを【天翼】がコマのように体を回して受け流したあと、ヴェネリオの首から上は無くなっていた。
「ちぃぃぃ! 女だけでも――ッ!」
【天翼】が守っている少女に、苦し紛れにネレーオが斬りかかる。
セルヴァーンも同時に飛び込もうとしたが、あることに気づいた。
少女は目を閉じて、安心しきった顔で薄く笑っていたのだ。
殺気は感じない。だが、その仕草がセルヴァーンの生存本能に警笛を鳴らしている。
そのとき、キンという金属音がした。
見れば、【天翼】は腰に差した曲刀を鞘に納めている。
瞬間、風を切る音と共に、ネレーオの体が不可視の斬撃で切り刻まれ、肉片と化した。
「ありえん……! 我々は人であることを捨ててこの力をッ……!」
「その程度で俺に勝てると思ったか?」
見れば、すでに【天翼】はセルヴァーンの間合いの内にいる。
白い剣を大きく上段に構え、力を溜めた一撃が来ると見た。
恐らく、これを受けきることはできない。
セルヴァーンが死を直感した、そのとき。
「騎士団長殿ぉぉぉッ!」
ザルドルが【天翼】とセルヴァーンの間に戦槌を掲げて割り込んだ。
彼奴ならばあるいは、とセルヴァーンは鉄の骨組みに飛ぶ。
だが【天翼】は相手が変わったと見るや、剣に魔力を込めていた。
そして、繰り出される一撃。魔力を込めた剣が戦槌に叩きつけられ、周囲に強力な衝撃波を放つ。
凄まじい揺れに鉄の骨組みが崩落する中、砂塵の舞う地上に残ったレイミュールとブルーナの叫びが聞こえた。
「セルヴァーン様! ここはお退きくだ――ガッ!?」
「我らの仇を頼み――あぎゃッ!」
セルヴァーンは風の力で骨組みの最上階に上がり、砂塵の収まった地上を見る。
そこではすでに事切れたレイミュールとブルーナの体が無残にも倒れていた。
ザルドルに至っては骸すら残らず、槌頭の割られた戦槌だけが落ちているのみだ。
その傍らで、青く光る瞳をこちらに向ける【天翼】の姿がある。
「くっ……! あの魔の者の策を使う他、止まらんか!」
取り出したのは小さな箱だ。だが正確な四角形ではなく、蓋の空いた木箱のような形をしている。
それをセルヴァーンは言われた通りに、素早く2回握る。
すると、骨組みだけのこの建物の各所から爆発が生じた。
轟音と爆炎の中で、【天翼】の視線に恐怖を感じ、セルヴァーンは歯噛みする。
「【天翼】め! 必ずやこの私が貴様を討ち取ってみせる! 必ずな!」
自分自身に刻むようにセルヴァーンはそう叫ぶと、崩落しつつあるその場から飛び去るのだった。
「シルヴィーナァァァッ!」
瞬間、セルヴァーンだけではない。シルヴィーナを除いた7人が一斉に【天翼】に向かって得物を繰り出した。
【天翼】との距離は約20歩。7人がほぼ同時に攻撃を仕掛けた。そのはずが――。
――ダールトンの棘付きの鉄球は両断され、繋がれていた鎖が虚しく空を切る。ブルーナの鞭の先端は剣の柄頭で打ち返され、レイミュールの放った矢は素手で掴まれた。ヴェネリオの細剣の突きは受け流され、ザルドルの戦鎚と接触し砕け散る。そして、ネレーオの炎を纏った2振りの剣を弾き返すその流れで、セルヴァーンの長剣と鍔迫り合いになった。
それが、この一瞬で起きた出来事だ。
なんという速度、剣裁き、膂力。
「こ、これが貴様の――ッ」
セルヴァーンは刃同士が触れて激しく散る火花の奥の【天翼】に叫ぶ。
だが、【天翼】は無表情のまま、セルヴァーンの腹に蹴りを入れてきた。
「お前と話す舌など持っていない」
「ゴハァッ――!?」
だが、セルヴァーンは耐える。口の中に鉄臭い液体がせり上がってくるが、剣を構えた。
見据えた【天翼】のその後ろで、初撃を潰された英傑たちが再び飛びかかるのが見える。
「食らえぇぇぇぇッ!」
得物を失ったダールトンが繰り出す剛腕は、まるで背中に目があるように身を振って避けられた。
そして、振り向きざまに下から上へ一閃された白刃によって、ダールトンの身体は真っ二つに裂ける。
「おのれッ!」
「待てッ! 態勢を整え――っ!?」
セルヴァーンが制止するにも間に合わず、ヴェネリオが砕けた剣の刃だけを持って前に出た。
白い翼を広げての猛烈な勢いの突進。だが、それを【天翼】がコマのように体を回して受け流したあと、ヴェネリオの首から上は無くなっていた。
「ちぃぃぃ! 女だけでも――ッ!」
【天翼】が守っている少女に、苦し紛れにネレーオが斬りかかる。
セルヴァーンも同時に飛び込もうとしたが、あることに気づいた。
少女は目を閉じて、安心しきった顔で薄く笑っていたのだ。
殺気は感じない。だが、その仕草がセルヴァーンの生存本能に警笛を鳴らしている。
そのとき、キンという金属音がした。
見れば、【天翼】は腰に差した曲刀を鞘に納めている。
瞬間、風を切る音と共に、ネレーオの体が不可視の斬撃で切り刻まれ、肉片と化した。
「ありえん……! 我々は人であることを捨ててこの力をッ……!」
「その程度で俺に勝てると思ったか?」
見れば、すでに【天翼】はセルヴァーンの間合いの内にいる。
白い剣を大きく上段に構え、力を溜めた一撃が来ると見た。
恐らく、これを受けきることはできない。
セルヴァーンが死を直感した、そのとき。
「騎士団長殿ぉぉぉッ!」
ザルドルが【天翼】とセルヴァーンの間に戦槌を掲げて割り込んだ。
彼奴ならばあるいは、とセルヴァーンは鉄の骨組みに飛ぶ。
だが【天翼】は相手が変わったと見るや、剣に魔力を込めていた。
そして、繰り出される一撃。魔力を込めた剣が戦槌に叩きつけられ、周囲に強力な衝撃波を放つ。
凄まじい揺れに鉄の骨組みが崩落する中、砂塵の舞う地上に残ったレイミュールとブルーナの叫びが聞こえた。
「セルヴァーン様! ここはお退きくだ――ガッ!?」
「我らの仇を頼み――あぎゃッ!」
セルヴァーンは風の力で骨組みの最上階に上がり、砂塵の収まった地上を見る。
そこではすでに事切れたレイミュールとブルーナの体が無残にも倒れていた。
ザルドルに至っては骸すら残らず、槌頭の割られた戦槌だけが落ちているのみだ。
その傍らで、青く光る瞳をこちらに向ける【天翼】の姿がある。
「くっ……! あの魔の者の策を使う他、止まらんか!」
取り出したのは小さな箱だ。だが正確な四角形ではなく、蓋の空いた木箱のような形をしている。
それをセルヴァーンは言われた通りに、素早く2回握る。
すると、骨組みだけのこの建物の各所から爆発が生じた。
轟音と爆炎の中で、【天翼】の視線に恐怖を感じ、セルヴァーンは歯噛みする。
「【天翼】め! 必ずやこの私が貴様を討ち取ってみせる! 必ずな!」
自分自身に刻むようにセルヴァーンはそう叫ぶと、崩落しつつあるその場から飛び去るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる