デモンズ・ゲート

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第1章

肉を切らせて骨を断つ

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  魔法学校の授業で行われる、戦闘訓練ではアンジと当たる場合が多かった。剣術はアンジが上、魔法ならアレンが上。今までの勝敗で言えば互角だろう。
  これから軍に入れば、本気で勝負する事も無くなるだろう。それはお互いに分かっているからこそ、この試合でどちらか強いか、白黒ハッキリさせようと思っていた。


 「始めっ!」


  審判の試合開始の言葉を聞くと、両者共に「魔装」を展開する。
魔装は全身に魔力を纏う技術であり、物理と魔法、両方の防御力を上げる。
  例えば一般人に雷の魔法を放てば、ダメージは勿論だが電気ショックにより、麻痺あるいは気絶するだろう。しかしこの魔装の力が強ければ強いほど軽減される。戦闘に置いては基礎の技術だ。

  アレンは左手に持っていた、木製の短刀を右手に持つと、左の手のひらをアンジに向け雷魔法を放つ。

 「やっぱりな」

  まずは牽制して様子見。アレンの癖をアンジは知っていた。
左腕の魔装を厚くし、防御の体勢を取る。

  防御しても多少の麻痺が残るだろう。そうすれば長刀を扱うアンジは回復するまで前に出てこない。その間に更に距離を取ろうと、アレンは考えていた。だが予想とは違う事が起こる。

  アレンが魔法を放つと同時に、アンジは防御の構えを取ったまま踏み込んで来る。

  魔法が左腕に当たり帯電したのが見える。魔装に防がれ勿論全身麻痺はしないだろうが、左腕は麻痺を起こしたはずだ。いくら力自慢とは言え、片手で長刀を振ればたいして威力は出ない。
  そう考えるアレンを余所に、アンジはがら空きとなっているアレンの左半身を狙い、右腰の辺りに構えた長刀を、右腕のみで力任せに斬り上げる。

  魔法を使う為に左に持っていた短刀は、まだ右手にある。アレンは後ろへ飛びながら、盾状の防御魔法を発動させる。
  アンジの長刀は防御魔法をいとも簡単に砕き、アレンの左脇腹にヒットする。

  苦悶の表情を見せるアレン。バランスを崩しながら後退する。
よろめきながらも構えを取った。
しかし、同期では最もパワーのあるアンジの一撃を、食らってしまったのだ。呼吸が乱れ、嫌な汗が吹き出す。


 「いきなり良いのを貰ったな」

  観客席で見ていたケイムが言う。

 「片手とは言え、遠心力を使う様な大振りだったからね。ダメージは相当だよ。あの一撃で流れは完全にアンジに持っていかれたなぁ」

  傍らのダートンが冷静に見る。

 「しかしアレンは防御系の魔法は下手くそだな。薄いガラス程度の強度しか無いんじゃないか?」

  ため息を付くケイム。

 「アレンは術者から離れた場所に発動させる魔法は苦手だからね」

  医務室から戻って来たマナが答える。


  厄介だ。
アレンはそう感じていた。
雷魔法の長所はダメージと共に、麻痺を起こさせる事にある。
麻痺に対する警戒心があれば、相手も被弾せぬよう慎重に行動するだろう。
  そうなれば、雷魔法をチラつかせ相手をコントロールしやすい。
  学校で戦闘訓練をしていた時のアンジもそうだった。
  だが今は違う。肉を切らせて骨を断つ戦法だ。多少の被弾は意に介さない。
  魔法を撃てばその隙を確実に突いてくる。ならばどうする?

  考えが纏まらぬ内に、アンジが距離を詰めてくる。

  「どうしたアレン! 戦意喪失か!?」

  いちいち声がデカイ。
アレンはアンジの足に向けて、雷魔法を放つ。
  それを見たアンジは前宙返りに飛び、魔法を回避する。
  そして、そのまま上から長刀を振りかぶる。
  アレンは右手の短刀でそれを止めようとするが、押し込まれる。防御も虚しく右の肩に長刀がめり込んだ。

 「ぐっ!」

  アレンは思わず声を漏らす。
  アンジは続けざまに、押し蹴りで闘技場の囲いまでアレンを蹴り飛ばした。

  会場から歓声が上がる。

 「おい、馬鹿力の一方的な展開じゃないか。私の知らない間に、こんなに実力差が付いたのか?」

  どうやらケイムはアレン側の応援の様だ。

  「いやアンジは普段、もっとドッシリと構えて戦うはずだから、アレン対策をしっかりして来たって事だと思う」

  よろめきながら起き上がるアレン、ふと観客席で話をしているケイムとダートンが目に入った。

  短刀が1本無い。蹴り飛ばされた時に落とした様だ。
  しかし、随分と雷魔法の対策して来てるじゃないか。アンジに対し心の中で賛辞を送る。

  想定していたより、大分ボロボロにされたが仕込みは充分だろう。
アレンは短剣を杖の様に使い立ち上がる。

  アンジがこちらに走ってきているのが見える。左手をアンジに向け魔法を打つ構えを取る。「フラッシュ」
  小さな声で唱えた。

  アンジはアレンが魔法を打つ構えを見せた時、複雑な感情になった。
  学校に入学した時から切磋琢磨し、自分とずっと互角で居てくれたアレンが、雷魔法を打てば俺はこう反撃するぞ! と言う事を見せたのに、また魔法を打つ構えをしている。
  打ってこようとも、防御して刀を振り抜くだけだ!
  アレンに対し、怒りとも悲しみとも取れる感情が沸き上がり、ポツリと漏らす。

  「残念だ……」

  左腕の魔装を厚くし、防御の体勢を取る。
  その時、閃光が走る。

  視界を奪われるアンジ。何が起きたかは分からない。分からないがこの状態は悪い。とっさに身を守る。
  左側頭部に衝撃が襲う。恐らく短刀による一撃だろう。
長刀を横に振り、反撃に掛かるが、次は右手を掴まれた感触がすると激痛を感じた。
  長刀がすっぽ抜けそうになるが、左手で踏ん張りそれを阻止する。

  先ほど感じた右手の痛みがない。
いや、感覚が無いのだ。
つまりは麻痺。これは回復するのに数分は掛かるだろう。
  これ以上の追撃はまずいと判断し、アンジは火の魔法で自分の周りに炎を巻く。
  
 アレンは距離を取り、落としていた短刀を拾う。
渦巻いている炎を見つめると、右手に魔力を溜める。

  「カーレント」

  そう唱えると、人間の腕くらいの太さを持つ電気が放たれた。

  電気は炎を貫通し、アンジに直撃する。

  「ぐああああぁぁっ!」

  叫び声を上げるアンジ。
痛みと共に身体の自由が効かず、膝から崩れる。


  「おや? 麻痺したんじゃないか?」
  
  崩れ落ちたアンジを見て、ケイムは緩んだ顔をしている。
  
  「これは、アレンの勝ちかな」

  勝敗を確信したのか、観客席の柵にもたれ掛かるケイム。

  「いやいや、忘れてるでしょ? ケイム」

  マナの言葉が、何の事か分からなかった。

  「あの状態からでも、あの馬鹿力には奥の手があるのか?」

  「アンジは負けず嫌いでしょ。ピンチになればなるほど強くなるの」

  ああ、なるほど。
魔力は感情によっても、威力、精度が増減する。
あの筋肉馬鹿は怒りで魔力が上がりやすいタイプなんだろうと、ケイムは思った。


  「A・エンハンス」

  そう唱えると、アンジの魔装に薄く赤みが現れる。
  筋力を増幅させ、力を上げる魔法だ。

  体の痺れはまだ残るが、長刀を握り直し間合いを詰める。

  それを見たアレンが右手をこちらに向けた。

  さっきの閃光か!
そう思ったアンジは、左腕で目を隠す。
すると左足に衝撃が走り足が止まる。

  「くそっ、攻撃魔法かよ」

  更にアレンが、手に魔力を溜めているのが見える。
  攻撃に備え、腕を身体の前に交差し、魔装を厚くする。


  するとアレンの手からは、閃光が放たれる。

  アンジは再び視界を失う。

  「カーレント」

  そう聞こえたかと思うと、全身に激痛が走る。怒りで魔装が増しているのか麻痺はしなかった。
  


 「同じ構えから、電撃か閃光が放たれ相手の動きを止める。そして動きの止まった所にカーレントを放つ」

  「馬鹿力は自慢の耐久力で耐えてるが、もう勝負は見えただろう」

  手を横に振りながらケイムが言った。
  確かに今のアンジでは、あれは突破出来ない。マナも同意見だった。

  黙って聞いていたダートンが、飛ぶ様に立つ。

  「アンジはまだ何かする見たいだよ」


  アレンは驚いた。
体に纏う魔装を、全て長刀に注ぐアンジ。攻撃力は上がるだろうが、魔法を喰らえばひとたまりもない。馬鹿げていると思えた。

  覚悟を決めた表情をし、アンジが突っ込んで来る。
  すかさず電撃を放つ。
  アンジは長刀で弾いた。

  「フラッシュ」

  閃光が放たれる。

  眩い光が収まってくると、片目を閉じたアンジが見える。

  「そう来たか」

  アレンは後ろへ距離を取り、時間を作るために、電気を拡散させた。
  それを見たアンジが止まる。

  アレンは魔力を溜め、カーレントを放った。

  長刀を下から振り払うと、カーレントは上空へと弾き飛ばされた。

  アレンの鼓動が早くなる。
負ける。頭にそうよぎった時、一つの決断をする。

 アンジは長刀を左から、アレン目掛け振り払う。
右脇腹から体が、くの字に折れ足が宙に浮く。

  アレンの口が動く。
  声は聞こえないが「チェックメイト」と言っている様に見えた。

  アンジに激痛が走る。電撃を受けたようだ。
アレンはアンジの肉を切らせて骨を断つを真似たのだ。

  生身で電激を食らってしまったアンジは、気を失った。

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